Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth 作:Ciels
夢の中であの男は笑う。ガラス越しに息子を連れ去り、妻を傷つけていく姿をただ見ていることしかできない俺を嘲笑うかのように。心の奥底には戦争の時にはなかったものが芽生えてしまっている。まるで乾燥した大地に放たれた炎のように。ゆっくりと、めらめらと、燃え広がるように俺の心を支配していく。
だが俺はまだ気付いていない。30年かけて培ってきた理性が、それを抑えようとしている。それは壁となり、防波堤となり、押し寄せる報復心を留まらせる。
でも。逃げ場を知らない報復心はいつか、理性という名の防波堤をも飲み込んでいく。そうなった時、俺の中の薄暗い炎も、飲み込んでくれるのだろうか。
サードレールと呼ばれる酒場は地下鉄の駅を再利用した場所にある。ゲートを潜り、階段を降りれば賑やかな風景が広がっている。バーテンダー役のハンディタイプ、酔っ払って騒ぐ客、美声を響かせる歌姫。
いつだったか、部隊の同僚と来た酒場に似ていてなんだか懐かしかった。思ってもみなかったが、あの古き良きアメリカの空気がこんな所で味わえるとは。
長い時間を移動に費やしてきた事もあり、パイパーの提案で一先ずは飲もうという話になる。俺たちはカウンターに座り、目の前のハンディに話しかける。
「おすすめは?」
そう尋ねると、表情の無いハンディから思いもよらぬ回答が。
「あったかい搾りたてのミルクでもあると思うか?」
「ビール三つで」
あまりの口の悪さに返答すらもままならず注文する。どうやら古き良きアメリカというものはここには無かったようだ。いくらなんでもこんなバーテンを見たことがない。
だが仕事はしっかりするようで、まだ1分も経っていないのにそれぞれにビールがくる辺り、このバーテンは意外にも出来たロボットのようだ。三人分のキャップをカウンターの上に置くと、グラスを持つ。
「乾杯」
パイパーの合図で俺たちは飲み物を口にする。クソマズい。直球な感想だが、何かに例える気にならないほどにマズい。それでも身体は正直で、久しぶりの酒に喜んだのかあっという間に飲み干してしまった。よく見れば、棚には色々と他の種類の酒がある。俺はおかわりと言わんばかりにウィスキーのロックを頼む。
「それでパイパー?新聞屋さんとしては、どうやってここで情報収集すればいいのかな?」
マズいビールを半分ほど残し、アルマが尋ねる。
「お!ここに来てようやっと私の本領発揮だね!」
そう言うとパイパーはおもむろに立ち上がり、新聞記者の命とも言えるメモ帳とペンを取り出した。
「マスター!ちょっとよろしいでしょうか?」
珍しく敬語なパイパーを、グラスを片手に眺める。
「おかわりか嬢ちゃん」
「いえ、ちょっとお尋ねしたい事がありまして」
「こっちはねぇな」
「そう言わずに。ここ最近でニック・バレンタインという探偵を見かけませんでしたか?」
「だから情報屋じゃねぇって言ってんだろ。飲まねぇなら帰りな」
バーテンロボの言う事はもっともだった。基本的にこのウェイストランドでは利益にならない事は引き受けないものだ。それはここグッドネイバーでは更に色濃く出ているようで。
つっけんどんに言い返されるとパイパーは気まずそうな顔をして座る。
「これが記者のやり方?当たって砕けろじゃん」
少しばかり酒が回ってきたのかアルマがおちょくるように言った。その物言いに火がついたのか、パイパーは再度立ち上がると、
「ケッ!いいもんね、他の呑んだくれに聞いてくるから!」
べっー、と子供染みた真似をすると彼女は他の席で飲んでいる奴らに向かって突撃していく。そんなパイパーを、アルマは楽しそうに眺めて笑う。二人が気を取られている隙に、俺は再度小声でバーテンに話しかけた。バー特有の騒音が、多少の会話であればかき消してくれる。
「聞きたい事がある」
「おい、だから俺は」
「仕事の話がしたい」
バーテンがなにかを言う前に続けて言う。するとバーテンはなにかを感心したように、三つあるアイカメラで俺を観察してきた。
「お前、ただの傭兵じゃないな」
「どうかな。少なくともあいつらとは違うぜ」
そう言って、奥の部屋から出てくる武装した二人組を顎で指す。それをどう受け取ったのかは知らないが、バーテンは笑って浮遊するボディを上下に揺らした。
「面白いな。良いだろう、こっちも困り事があるんだ」
そう言うと、ハンディのボディがわずかにこちらへ寄ってその装甲の一部が開いた。どうやら指向性スピーカーを展開してようだった。
「最近うちのシマの建物にネズミが住み着いてな。それならまだ良いんだが、何かコソコソやってんだ。あんた掃除は得意か?」
「大好きだ」
「なら良い。300キャップで手を打とう、どうだ?」
バーテンがマニピュレータを作動させ、キャップが入った袋を目の前に差し出す。前払いとは気前が良い。
「金は良い。あの新聞記者の取材に答えてやればな」
そう言うとバーテンは鼻で笑う。続いて、マニピュレータが袋をしまいメモの切れ端を差し出してきた。受け取って確認してみれば、そこには建物の名前が書いてある。どうやらネズミは複数の建物に住み着いてしまったらしい。
会話が終われば俺たちは客と店主。先ほどまでと変わらぬように酒を煽り、注いでいくのだ。
「アルマ、ちょっとトイレ行ってくる」
笑う彼女の耳元で告げると、いってらっしゃいと手を振ってくれた。そんな彼女の頭を撫でると、俺は席を立つ。
意味も無く飲んだくれる。今はこれしかやる事がない。
邪魔者のウィンロックとバーンズは去った。散々あーでもないこーでもないと喚き散らしていたので反論してやったらあっさりだ。奴らは泣く子も黙る傭兵集団ガンナーズだが、わざわざ俺みたいな一匹狼が勝手にやめたぐらいで暗殺部隊を出すほど暇じゃないだろう。あの二人にしたって、何かここに用件があったから寄ったに違いない。
俺はただウィスキーの瓶を片手に酔っ払う。顔は真っ赤でとても眠たいが、今すぐ誰かを狙撃しろと言われれば見事にやってみせるくらいの腕はある。問題は、今この町ではその腕を必要とする奴がいない事だった。
「おい」
だから、いきなりやってきたこの男には驚いた。いつの間にかこのVIPルームの入り口に男が立っている。気配が無かったせいで心底驚いた俺はベルトに乱雑に刺さった拳銃を抜くか迷ったが、相手の佇まいを見て敵意が無いことを悟り止める。
東洋人だった。茶髪で、身長は小さめで、それでも装備の下には鍛えられた肉体があるのだろうと想像するには難くない、傭兵のような男。
えらく高そうなスリングにこれまた高級そうで無骨なライフルを付け、身体の前に垂らしている。その垂らし方も、すぐに構えられるように無駄がない。
腰回りのパッドには弾倉や手榴弾が入ったポーチやダンプポーチ。右手側には拳銃用のホルスター。
着ているベストは他の傭兵とは違って簡素なものではなく、戦前のものと思われるプレートキャリア。そして背中には、少し大きめのバックパック。
「誰だ?」
その豪華な装備を身につけた若造に対し、俺は威圧するように問いかけた。
「あんた傭兵か」
「そうだ。もっとも、開店休業中だがな」
そう言って俺は酒を飲む。
「さっきの男達のせいか?」
いきなり理由を当てられて酒瓶をあげる手が止まる。俺は酒瓶を置く。
「聞いてたのか」
「いや。ただあの二人の表情を見てそう思っただけだ」
なるほど、と頷いて、
「そんなところさ。ガンナーズって言えば分かるか?」
「あの軍人気取った雑魚レイダー共か」
男のガンナーズへの評価に俺は噴き出した。なるほど、それはいい。確かにあいつらは自分達を何か崇高な存在だと勘違いしているレイダーだ。
「ガンナーズを抜けたことが気に入らないらしくてな。今もこうして嫌がらせ受けて客が来ない」
「ならやっと客が来たな」
えっ、と。俺は思わず声が出た。同時にそんな馬鹿げたことを言ってくる男に笑いがこみ上げる。
「冗談だろ?あんたガンナーズが怖くないのか?」
そう言うと、男は左腕に取り付けたPip-boyからなにかを取り出して机の上に投げた。それは血のついた認識票。ガンナーズが携行するものだ。
「道中絡まれたから全員殺したぞ」
さも当然のように言う男を前に、流石の俺も黙った。黙って、男の仕出かした事の大きさに笑う。
「ハハハ!こいつは面白い!あんたガンナーズに喧嘩を売ったな!傑作だ!」
笑い転げる俺に男は告げる。
「それで、どうする?このままここでアホどもに嫌がらせを続けられるか、俺とアホどもを黙らせるか」
そんなものは決まってる。ちょうどここで飲み続けるのには退屈していたところなんだ。
俺は立ち上がり、傍らに立て掛けてあったライフルを手にすると男に詰め寄る。
「良いだろう。だが俺も傭兵だ、キャップは持ってるんだろうな」
「いくら欲しい?」
そう言われ、俺は悩む。せっかくだからふっかけてやりたい気もするが、久しぶりの客だ。なら少しくらいまけてやってもいいだろう。
「250。飯付きで」
「いや、前金で200、飯付きで。あんたの腕前を見てこっちが納得すれば追加で300出そう」
驚いた。分割はされるが、まさかこっちが提示してきた額を越えるとは。
ウェイストランドでは通常、こういう分割方式は好まれない。ここは地獄、約束なんて破る奴が多数だ。それに働きぶりなんて曖昧なもんはいくらでもいちゃもんつけられるから、結局払われないなんて事もある。
だが不思議と、この男には説得力があった。なぜだろうか。この感じ、前にもどこかで……
「良いね、乗った。俺はマクレディだ。見ての通り、スナイパーが専門」
考えても仕方ないので答える。
「俺はハーディ。ポジションなら色々やってた。さ、マクレディ。せっかく雇ったんだ、こっちに来て飲み直そうぜ」
ハーディとかいう男の雰囲気が急に変わる。まるで仕事から解放されたかのように。
正直酒には飽きていたが、奢ってもらえるならなんだって良い。俺は素直にハーディとその妻、そしてテンションの高い新聞記者の下へと向かった。