Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth   作:Ciels

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第二十五話 グッドネイバー、トリガーマン

 

 夜、レクスフォードホテル。戦前ではそれなりに栄えていたであろう煌びやかなホテル。今となっては核の炎に焼かれたせいでその面影はないが、内装はかなり無事であり、連邦の中でもトップクラスのグレードを誇るホテルだろう。

 そもそも、ホテルなんてもんがもうこの時代存在するのかすら分からないが。

 

 四人で散々呑んだくれた後、女の子二人をマクレディと背負って俺たちはこのホテルへとやってくる。受付でお婆さんから部屋を3つ借りると、カハラ夫妻、マクレディ、パイパーに別れて休むことにした。

 どれだけ呑んだのか覚えていないが泥酔しているアルマを背負って扉を開ける。あの婆さん、気を利かせてダブルベットにしてくれたみたいだ。重い足取りでベッドまで辿り着き、彼女をそっと下ろす。

 

「うーんハーディ〜」

 

 意識がおぼろげなのだろう、薄目で俺の名を呼ぶアルマ。そんな彼女の横に座り、俺は頭を撫でる。

 

「おやすみ、お姫様」

 

「一緒に寝よ〜よ〜」

 

 そう言って彼女は俺の腕を掴む。女性とはいえそれなりに鍛えていた彼女の筋力は強い。なぜかあっという間に俺の腕を押さえ込むと関節技を決めてくる。

 

「いててて!あ、アルマ!決まってる!痛いって!」

 

 あまりの痛さに彼女の腕をタップする。このままだとへし折られる。すると彼女は俺に抱きついてそのまま一緒にベッドへと倒れ込んだ。参ったな、このまま彼女が寝ている間に仕事を終わらせるつもりだったのに。

 だが女性の誘い、それも妻からとあっては答えなければならないのが夫だ。寝転がりながら彼女のプレートキャリアを脱がす。すると、アルマはいたずらっぽい笑みを見せた。

 

「ふふ……久しぶりにしたくなっちゃった」

 

 コンバットシャツの胸元のチャックを開ければ、彼女の大きめの果実達が自己主張してくる。俺は生唾を飲みながら、余裕を醸し出す。

 

「困った子だな。でも俺もたまには火遊びがしたいんだ」

 

 俺も何だかんだ酔っていたんだろう。気がつけば自分の装備を外して彼女に抱きついていた。そうこうしているうちに気がつけばお互い一糸まとわぬ姿となり、まぐわう。もうお互い三十路だというのにその身体は若いまま。

 

「あんハーディしゅきしゅき♡」

 

「あ゛あ゛あ゛あああああああ」

 

 結局その夜は何度も果ててしまう。ショーンよ、もしかしたらお前を取り戻した時には弟か妹ができるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アァァァァァァ……隣の部屋からヤオグアイもびっくりな獣のような声が響いてくる。それも二人分。マクレディはベッドの上に横になりながらも、その声とどったんばったん煩い騒音のせいで眠れずにいた。だが不機嫌ではない。むしろ機嫌は良かった。

 

「どんだけ溜まってたんだよ、はは」

 

 軽く笑いながら呟く。正直に言えば、スナイパーとして各地を転々としていた彼ならばこのくらいの騒音は無視して眠る事ができる。

 スナイパーとは孤独である。スコープを覗き敵を撃つ際、スナイパーはその死に様をはっきりと見ることになる。表情、倒れ方、相手の身体の損壊具合など……それは決して、他職種の兵士とは共有できないものだ。それ故に、スナイパーは他人と一線を引く。人は頼れない、それもマクレディのような一人で動く傭兵ならば尚更。

 だから、自然とどんな状況でも眠る術を身につける。警戒のために片目を開けながら眠る事もあれば、立ちながら寝る事だってできるのだ。

 

 だが、今は別に眠くなんてない。確かにアルコールのせいで身体はおかしな多幸感に包まれているが、それを制御できないマクレディではない。スナイパーとはそういう人種だ。それに、あの雇い主が言うには夜中に何か行動を移すらしい。それも、連れの女二人に黙って。

 マクレディは下着姿のまま立ち上がると、立て掛けてあったライフルを手に化粧台として使われていたであろう机へと向かう。椅子に腰掛けると、バッグからメンテナンスキットを取り出してライフルを簡易的に分解する。

 これはマクレディの、傭兵として欠かせない日課でもある。

 銃とは頑丈に見えて繊細だ。いくらメーカーが努力しようとも、メンテいらずの銃など存在しない。いくら技術が向上しようとも、メンテをしてやらなければ動作不良が起きる。そして戦闘中の動作不良はそのまま自身の生死に関わる。

 

「そろそろ替え時かな」

 

 そう呟きながら、マクレディはボルトアッセンブリーを取り外したライフルを構えて銃身の中を覗く。大分ライフリングがすり減っている。無理もない、連邦で手に入る弾薬は粗悪な物が多い。中には通常の鉛ではなく、鉄芯を用いたものもある。スチールコアなんて呼ばれているが、あれを使うとライフリングが削れて銃身寿命が減るのだ。

 最近使う機会がないせいで綺麗な銃身内にクリーニングロッドを突っ込んで洗浄する。スナイパーは特に狙撃銃のコンディションに気を遣うものだ。

 

 ライフルのボルトアッセンブリーに適量のオイルを塗り、組み込んでいくとまた元通りの狙撃銃が生まれる。次に拳銃をいじる。

 彼の持つ拳銃は、東海岸でよく使われているN99ピストルだ。戦いは遠距離から制するマクレディにとってこのピストルはあまり使う頻度は高くはないが、敵に気付かれて詰め寄られた時や近接戦闘では頼らなくてはならない。

 ピストルは得意ではないけれども、彼はそれも丹念にクリーニングする。頑丈なスライドを外し、洗浄液を吹きかけ汚れを除いたらオイルを塗って動作性を向上させ。銃身内をまた磨き。フレーム内のメカ部分に損耗はないか調べる。無い。

 彼のピストルは通常のセミオートピストルではない。いつだったかガンスミスに依頼してカスタムしてもらった、フルオートオンリーのものだ。ディスコネクターと呼ばれる部分が加工されており、トリガーを引けばその分弾が出る。使う機会は少ないが、近接火力に劣るスナイパーが持ち歩くには十分だと思える武器だ。それも彼の雇い主が見ればあーだこーだ改善点を挙げてくるだろうが。

 

 銃のメンテナンスが終わり、再びマクレディはベッドに寝転ぶ。思えばベッドの上で眠るのは久しぶりだ。最近はソファーの上で飲みながら寝ていた。

 何も彼は金があるからサードレールのVIPルームで酒を呑みながら寝泊まりできていたわけではない。あの凄腕市長、ハンコックとのコネがあり、彼がガンナーから匿っていたのだ。

 いくら無法者のガンナーと言えどもこの街で禁忌を犯すほど馬鹿では無い。

 

 マクレディはハンガーにかけていた上着のポケットから何かを取り出す。ボロボロで、塗装が剥がれかけているそれはおもちゃの兵隊。彼はそれをしばらく眺めると、握りしめた手を胸に置いた。

 ようやくそれで、彼は眠る。良い夢は見たいと思って見れるものではない。その日もまた、いつもと同じように悪夢に魘されるだろうと思いながら。

 でも、今日は何か違う。悪夢なのは間違いないが、いつも見ていたものではない。それはかつて、キャピタル・ウェイストランドにいた頃の記憶。彼は本当に久しぶりに、その頃を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーまるで尻みたいな顔だな。

 

 ムンゴである男が自分を形容する。それが自分の笑いのツボに入ったのだろう。珍しく、彼は自分達子供と同じような感性を持っている男だった。だから入れてやる。だがその間自分はお前を見ているぞ。何かしでかそうものならその頭をライフルで弾いてやるぞ。

 

ーー俺たちはもう友達だ。そんな事しないさ。

 

 男はそう言うと、友達になった証に指切りげんまんという誓いを教えてくれた。初めて見た誓いの儀式だったが、嘘ついたら針を千本飲ますというおぞましい報復方法が気に入った。しばらくは自分がいた場所で流行ったのを覚えている。もちろん誰もそんな報復はしないだろうが、それでもこの口約束に効力があったのは間違いなかった。

 あの場所では今でもこの誓いをしているのだろうか。暗くジメジメした、子供しかいないあの洞窟で。

 

 

 

 

「マクレディ、起きろ」

 

 唐突に寝ていたマクレディに声が投げかけられる。彼は飛び起きると、隠し持っていた拳銃を声の主に向けようとしてーー

 逆に奪われた。見事な防衛術だった。あっという間に自分の手から拳銃をもぎ取られ。それを奪った男、ハーディはその拳銃を観察しだす。

 弾倉を外してスライドを引けば装填されている弾薬が飛び出て宙を舞う。それをハーディがキャッチすると、その一発を外した弾倉に込め直し、安全な方向へ銃を向けながら空撃ち。そしてトリガーを引きながらまたスライドを引いた。スライドが戻ると同時に撃鉄がまた降りる。

 

「フルオートに加工してあるのか」

 

 銃が好きなんだろう。ちょっと操作しただけで銃の特性を当ててくる。

 

「必要だろう?スナイパーは近寄られたら弱いからな」

 

「あまりこの手の改造は勧めないぞ。元々単発用に作られたものは無理にフルオート運用すると大幅に寿命を削ることになる」

 

 これは話が長くなりそうだ。マクレディは適当に肯定するとハンガーにかけてあった軍用作業服に袖を通す。

 

「お楽しみだったじゃないか」

 

 おちょくるようにそう言うと、ハーディは拳銃を扱う手を止めた。

 

「全く休めなかった。満足はしたけど」

 

 そう言う男の姿はどこか疲れている。マクレディは苦笑し、

 

「あんたが来たってことは仕事だろう?大丈夫なのか、それで」

 

 装備を着込み、最後にダスターを羽織る。

 

「問題ない。もっとヤバい時もあったからな」

 

 ニヤッと彼は笑うと、銃口側を掴んで拳銃をマクレディに差し出す。それを受け取ると、マクレディはスライドを左手で掴みながら銃を前後させるように装填した。それを見たハーディがやや驚いた顔で尋ねてきた。

 

「その技術はどこで教わった?」

 

 突拍子もなくそんな事を聞いてくる。

 

「ガキの頃に会った奴に。あんたみたいな東洋人だ」

 

「ふむ。久しぶりにその装填方法を見たぞ」

 

「そんなに珍しいのか?確かに俺以外にやってるやつは見ないが」

 

 ああ、と言ってハーディはまた薀蓄を語り出す。

 

「そいつはイスラエルとか、中東の方でやってる装填方法だ。厳密にはちょっと違うんだが……多分、それを教わった時に言われなかったか?それをやるんなら拳銃は抜くときに装填しろって」

 

 マクレディは思い返す。

 

「言ってたな。俺はこっちの方が力が込めやすくてやってるが」

 

 ふむ、とハーディは納得する。それを見てマクレディは安全装置をかけて腰ベルトに拳銃を突っ込んだ。

 

「今度ホルスターを買ってやる」

 

「そいつはどうも。さ、話してても時間は過ぎてくんだ。さっさと仕事に取り掛かろう。女どもが起きる前にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリガーマンというギャング集団がいる。彼らは戦前のボストンマフィアを前身に持ち、200年経った現在でもその姿は大して変わらない。

 ギャング特有の黄色いスーツにハット、手にはトンプソンやショットガンでタバコか葉巻を咥えている。唯一戦前と変わったのはその勢力と、メンバーにグールがいる事だろう。

 かつては市民に恐れられ、警察に厄介者として扱われた威厳ある彼等も、それ以上の脅威がポンポン現れる今の連邦ではただのチンピラ程度にしか思われていない。悲しいが、そういう現状だ。

 グッドネイバーは彼等からしてみれば良い隠れ蓑だ。なぜなら無法者が多い。その中にいれば自分達は身を隠しやすい。そう思っている。

 現実は。あのハンコックに監視され、何かしでかす前に鎮圧される。生き残った者は潜伏し、またなにかをしでかそうとして鎮圧される。その繰り返しだ。それでも根絶やしにされないのは、その方が都合が良いのだろう。

 

 道中そんな説明をマクレディから受ける。戦争は変わらない、人は過ちを繰り返す……それは俺が戦争から学んだ事だが、こんなしょうもない奴らも同じみたいだ。いや、しょうもないから過ちを繰り返すのだろうか。

 

「あの建物だ」

 

 横のマクレディが顎で煉瓦造りの建物を指す。なるほど、裏路地に近い建物だ。隠れ家としては良いのかもしれない。俺なら絶対そんな所にしないが。

 入り口を確かめる。全部で2箇所。表通りに面するメインエントランスと、裏路地にある非常口。搬入口がないのは元々事務系のオフィスだからだろう。

 

「メインエントランスは避けよう。裏路地から侵入する」

 

 そう告げると、建物から50メートルほど手前の道から裏路地へと入る。入って、そこで銃を構え出す。表通りで目立った動きは避けたかった。

 

「雇い主はあんただ。俺は指示に従うぜ」

 

 マクレディが後ろでそう言う。彼はライフルを背負ってピストルを構えていた。俺は頷いて、2メートル間隔で追従するようにハンドサインを出す。だが、マクレディは頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

 

「2メートル間隔で追従」

 

「ああ、了解」

 

 これは一から色々教える必要があるな。傭兵だから仕方ないが、もっと基礎的な軍事知識を授けなくては。

 俺としては、マクレディを連れまわす気でいる。このままアルマと一緒に旅をする気はない。それは夫として当然の気持ちだった。ただでさえ危険な連邦で、妻を戦場に立たせたい奴がどこにいる?

 

 裏路地へと侵入し、角をクリアリングしながら曲がろうとする。と、例の建物の裏手に黄色いスーツの二人組が。手には懐かしのM1928が。ドラムマガジンに木製のハンドガードグリップ……まるでギャングスタだ。

 俺はしゃがんで奴らにライフルを向けながらマクレディに指示する。

 

「右の奴を狙え」

 

 言えばマクレディはすぐに俺の真上で立ちながらライフルを取り出し、射撃姿勢を保つ。ハイローという、CQBにおけるテクニックの一つだ。

 

「あんたの号令で撃つ」

 

「いや、お前の射撃に合わせる」

 

 一応、こんなんでも元々特殊部隊のチームリーダーだった。隠密作戦なんてものを数え切れないくらい経験したせいで、こうやって仲間と同時に敵を射撃する事も多い。その上指揮官である事も手伝って、入れ替わりの激しい部下の練度を十分に把握できないまま戦線に投入される事なんてザラだから、こうやって誰かの射撃に合わせて撃つ事も覚えたのだ。

 マクレディは了解とだけ言って、壁にライフルの側面を委託させ、安定した状態で狙う。距離は近いから外さないだろう。彼がしっかりとした腕を持っていれば、だが。

 俺も同時に左側の男を狙う。ドットサイトの赤い光点が男の顔を捉えていた。

 

 大きめの銃声が響く。それと同時に引き金を引けば、くぐもった音の破裂音がしてギャング達は倒れた。

 

「すげぇなあんた、一発かよ」

 

 マクレディが賞賛する。当たり前だ、気づかれていない相手で一発でやれなかったら意味がない。

 しかしマクレディの銃にサプレッサーが無いのは痛いな。幸いここは激戦区であるボストンコモン、さっきから町の外では銃声が引っ切り無しに鳴り響いているから大して警戒されないだろうが……夜は昼間よりも聴覚が過敏になるからな。見たところ、拳銃用のサプレッサーも無いようだし。

 

「移動するぞ」

 

 とにかく前進する。建物の窓にも注意しながら先ほど撃ち殺した二人の所へと向かう。仕事内容は敵の全滅だ、いくら下っ端の見張りといえども殺さなくてはならない。

 マクレディに警戒させながら倒れた二人を調べる。俺が撃った男は頭に穴を開けて血を垂れ流し、マクレディが撃ち抜いた男は脳味噌をぶちまけている。念入りに二発ずつ男達の胴体に撃ち込む。

 

「何やってんだ?死んでるだろ」

 

「確認だ。実は生きてて撃たれましたなんてゴメンだからな」

 

 実際、当時の任務中ではよくやっていた。頭を撃てばほぼ死ぬが、稀にヘルメットや頭蓋骨で死を逃れている奴がいるのだ。そう言う奴を逃さないために撃ち込む。HVT殺害時は特に念入りに。

 

 壁に隠れながら裏口をそっと開ける。夜の闇に紛れながら、静かに俺たちは進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めて、まだ冷めない高揚感が身体を支配する中で愛する人を探す。でもすぐそばにいたはずのあの人はいない。私は思い瞼をこじ開けながら、ベッドの周りを見回す。

 やっぱり、あの人はいないのだ。銃や装備も無い。長距離移動用のバックパックだけ残し、彼はどこかへ行ってしまったようだ。

 どこへ行ったかは分からないが、何をしに行ったかは分かる。きっと、あのバーテンとこそこそ話していた事だろう。

 これでも元軍人だ。いくら酔っていても、何やら隣で夫が不穏な事を話していれば気がつかない訳がない。それを態度や言葉に出さなかったのは、こうなると分かっていたからだ。

 

 身体に掛けていたシーツを脱ぎ、自分のバックパックから新しい下着とコンバットウェアを取り出すと、それを着た。出来るだけ着ろと過保護な夫がうるさいから、プレートキャリアも装着する。そして風呂場に設置されていた、この時代では珍しい稼働する洗濯機を回すと汚れた服を全て突っ込んだ。

 音を発てる洗濯機を他所に、私は窓の近くに置かれた椅子に腰掛けた。その側にある改造されたライフルを手にすると、膝の上に置く。

 

「……そうやって、また置いてくんだね」

 

 仕方のない事だとは分かっている。あの人は秘密の多い人だ。DEVGRUなんて海軍の闇みたいな部隊に所属してたから、行き先も告げずに派兵されるなんてことは付き合ってた頃から何度もある。

 その度に私はあの人の帰りを待っている。安全な内地から、あの人が安心して帰ってこれるように。覚悟はしていたし、私は妻としてしっかりとその役割を全うしてきたと思う。古い考え方かもしれないが、私とあの人の間ではこれでいいのだ。

 

 でも今は。文明が崩壊し、そんな中息子が誘拐され、私は再びスナイパーとして、戦士として舞い戻ってきた。なのにあの人はそんな私を傷付けるのが怖くて置いていこうとする。

 大切にされているのは痛いほど分かってる。それがあの人の優しさ。そんなところに惚れた自分がいる。

 

 でもね、ハーディ。それだけじゃダメなんだよ。きっと今のままショーンを取り戻せば、貴方はきっとあの子を束縛する。箱入りにはしたくない。そうなっては、あの子に自由がない。貴方が戦争で戦ってたのは皆の自由のためでしょう?それを自分から否定しちゃダメさ。

 

 私は立ち上がると、バックパック以外の装備を全て装着して部屋から出ようとする。ふと、化粧台の上にメモが置かれていた。

 

ーーちょっと出かけてくる。朝には戻るよ。 夫。

 

 知ってるっての。私は不器用な夫を笑い、ライフルを手に今度こそ部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一軒目は難なく終わった。俺の後方に警戒させていたとはいえマクレディは一発も撃つ事がなく、建物内にいた10名程度のギャングは死体と化している。使った弾薬は20発ほど、つまり一人あたり2発で済ましている事になる。

 胸と頭に正確に撃ち込まれた死体を見てマクレディは上機嫌になっていた。やるだろうなとは思っていたが、まさかこれほどとは思わなかったといった表情だ。マクレディは死体から金目のものを剥ぎ取ってはバックに詰めると言う盗賊まがいの事をしている。

 

「おい、何してんだ。行くぞ」

 

 呆れたようにそう声をかけるとマクレディは急いで手に入れた品物をバックに突っ込む。

 

「金は大事だぜボス」

 

「俺らの仕事じゃない」

 

「いいや。これも仕事さ」

 

 どうやらこいつはとんでもない守銭奴のようだ。確かに金は大事だが、今はそんな事をしている余裕はない。はやく帰らなければアルマが起きてしまう。

 俺は仕方なく夢中になっているマクレディを置いて建物を出る。そんな背中をマクレディは追いかけてきた。

 

「おい待てよ!待てって!」

 

 怒り気味にそういうマクレディに向き直る。

 

「時間がねぇって言わなかったか?」

 

「そんなに奥さんに銃を握らせたくないか?ならなんで連れてきたんだ」

 

 あ?とマクレディの質問に腹を立て威圧する。だがマクレディはそれに臆する事もなく刃向かった。

 

「おいボス、あんたは俺の雇い主だが、なんでも言う事を聞く犬だと思ってたら大間違いだぜ」

 

 意見を主張するマクレディ。

 

「金は大事だって言っただろ。ここはウェイストランドだ、銃がなけりゃ命が無い。飯が無けりゃ腹が減る。じゃあそいつらをどうやって調達する?その辺の商人を襲って奪うのか?いいやあんたはそんな事出来ない人種だね。ならどうすんだ、レイダーやガンナーズに目をつけられながら商業でもしてみるか?農業だっていいさ」

 

 説得という感じではなかった。きっとこれがマクレディという人物なのだろう。傭兵の割には意見がはっきりとしている。

 

「でもあんたには向いてないね。あんたは兵士だ。戦場でしか生きられない」

 

「知ったような事を」

 

「いいや知ってる。俺がそうだ。戦いってのが大嫌いで大好きな最低の人種だぜ。だからそれで飯を食ってる」

 

 だがな、とマクレディは前置きに。

 

「それだけで生きてはいけねぇ。そんな甘い世界じゃないんだ。いくら強かろうがキャップがなけりゃ水も飲めやしない、そんな世界さ。今は良くても、使えばキャップは減っていく。なら蓄えるのが常識ってもんだろう?Vault出身者には分からないか?」

 

 ピクッと俺の腕が動く。

 

「佇まいを見てりゃ分かる。俺も散々見てきたからな。そんでこの世界じゃVault出身者は舐められる。ならよ、そうさせないためにも金は持っとかないとダメさ」

 

 少しだが、俺はマクレディに対する考えが変わった。こいつは刹那的な傭兵の考え方とは違う。戦場に取り憑かれているのは変わらないが、それでもこいつには未来を描こうとする意思が感じられたのだ。それがどうも気になる。

 俺はため息を一つついて手を差し出した。

 

「そのバック、重いだろ。Pip-boyに入れとくから貸せ」

 

 そう言うとマクレディは驚いていたがすぐにニヤッと笑みを見せ、バックを差し出してきた。

 

「そうこなくちゃな」

 

 それでもアルマは。できれば戦いから離しておきたいのだ。それが夫として、愛する人としての義務だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二軒目も終わり、残すはあと一軒。だがよりにもよって最後の一軒で問題が起きた。どうやら他の隠れ家が壊滅した事を知ったようで、かなり警戒している。先程から引っ切り無しにギャングどもが建物の中や周囲を巡回している。

 それをメインストリートを挟んで向かいの無人の建物から監視していた。もうすぐ日が昇る。俺は急いでいた。

 

「どうするボス?見つからないで全員倒すのは厳しいぞ」

 

 分かっている。それに数も今までよりも多い、きっと本陣なのだろう。

 

「ここから出来る限り援護しろ」

 

「あんた一人で乗り込むのか?正気かよ」

 

 建物から出て行く俺にマクレディがおい!と叫ぶ。それらを無視して俺はこっそりとストリートを渡り出した。

 

「どうなっても知らないからな!」

 

 言いながらマクレディはライフルに弾薬を装填してスコープを覗く。彼は仕事を全うしようと尽力した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりの激戦だった。正面玄関ではなく裏路地から侵入しようとしたが、そこにもギャングが数名防御を固めていたのだ。

 一対多数は経験が無い訳じゃ無いが、いくら俺でも分が悪い。だがやらなければならないことでもある。それにここからではマクレディの支援は受けられそうに無い。元から期待はしていなかったが。

 

「撃て撃て!」

 

「死ねぃ!」

 

 ゴミ箱に隠れた俺に数名が射撃してくる。M1928が使う弾薬は.45ACP、つまり拳銃弾。無駄に重いスチール製のゴミ箱である上に中に土砂が溜まっていて良かった、貫通はしないだろう。

 だが身動きが取れない。一瞬だけ顔を出して相手を確認し、少しズレた場所から上半身の半分だけ出して射撃するが、ちゃんと狙う前に撃たれるもんだから当たらない。建物内でなければ破片がどこに行くかわからないからグレネードは使えない。最悪だった。

 

「いけいけ!」

 

 ギャングの一人がこっちへ詰め寄ってくる。俺は寝転びながらそれを待ち構え、姿が見えた瞬間に胸と頭を撃ち抜いた。

 

「クソ、やられた!」

 

「グレネードだぜ!喰らえ!」

 

 ギャングの一人がグレネードを投げてくる。コロコロと金属の球が俺の目の前に転がってきたのを見てすぐに投げ返した。

 とんでもない炸裂音が響く。どうやら空中で爆発したらしい。

 

「ぐぉおあああ!」

 

 叫び声が聞こえて銃撃が軽くなる。どうやら破片に当たったようだ。これを機に俺はまた身を乗り出して射撃する。今度は射撃が弱いせいかしっかりと狙えた。

 

 路地裏の敵を排除すると、建物へと侵入することになる。ここでも俺は苦戦することになる。相手が通路で待ち伏せていたからだ。

 すぐにフラッシュバンを取り出して室内へ投げ込む。グレネードだ、という注意喚起がしたと思いきや炸裂音。同時に叫び声が響いた。

 フラッシュバン、閃光手榴弾は非殺傷武器だ。だがそこから発せられる音と光は尋常では無い。直視したりもろに聞いてしまえば視界は真っ白、耳は当分使い物にならなくなる。

 俺が突入すると、案の定ぶっ倒れているギャングが数名いた。それらを丁寧に素早く屠って行く。中へ入れば騒音と被害は気にしなくていいだろう。

 

「入ってきた!」

 

「数は!?」

 

「一人だ!」

 

 一階を制圧し終わると二階から数名の声が響く。慎重に二階へと上がろうとして、変化があった。

 

「ぐわっ!」

 

「狙撃だ!窓の外だ!」

 

 どうやらマクレディが仕事をしているらしい。窓際の敵を処理してくれている。

 俺は階段下からグレネードを投げ入れると、爆発から一拍置いてから突入する。階段上にいた奴は死んだらしい。投げ返されたり逃げられないようにタイミングは図っていたから上手くいった。

 

「奴を止めろ!」

 

 と、ドアの奥から声が響く。俺は殺気と危険を察知してすぐにドアの直線上から飛び退いた。刹那、ドアを銃弾が引き裂いた。中からドア越しに撃たれたのだ。

 すぐに起き上がり、ドアの横にしゃがんで張り付く。そしてグレネードを取り出そうとして……無い。使い切ったらしい。

 

「クソ……」

 

 悪態をつく。室内ではやったか?なんて会話が流れている。さて、どうするか。

 

 

 ギャングは数名で部屋に立て籠もっていた。外には狙撃手がいるから窓から身を晒すのは危険だ。

 映画のように長机を盾にし、謎の襲撃者に向け備える。その時だった。

 

 ちらっ。仲間が一人、力無くドアのそばに姿を表したのだ。反射的にギャングの一人が発砲すると、釣られたように撃ちまくる。それを慌ててリーダー格の男が止めた。

 

「馬鹿野郎、味方だ!撃つな!」

 

 言われて、全員が銃撃をやめると。穴だらけになった味方は倒れる。全員がそれに注視した。それが作戦だとも知らずに。

 いきなり男がドアから上半身のわずかだけ身を乗り出し、ギャング達を正確に撃ち抜いた。リーダー格の男も左手を撃ち抜かれる。

 

「うおっ!」

 

 倒れる男は愕然とする。なぜならあの一瞬で一緒に隠れていた仲間が全員撃ち殺されていたからだ。こうなっては奥の手を使うしか無い。男は決意し、窓の外からも見えるように立ち上がってテーブルから身を出した。

 

 

 

 

 室内にいた見える奴らに弾を叩き込んだ。一人は腕に当たったようだが、その周りで撃っていた奴は頭に食らっていたのが見えたから死んだはずだ。

 俺は弾倉を交換すると、少しずつクリアリングして室内へ入って行く。と、角から待ち伏せていたギャングがナイフを手に襲ってきた。俺は冷静に攻撃を回避すると、ライフルで関節技をきめて床に倒す。そして胸と頭に1発ずつ。

 

「見事だな!だがそれで勝ったつもりか!?」

 

 すぐさま声がした方向へと銃を向けると、先ほど殺し損ねた男が立っていた。まるで狙撃も気にしないというような佇まい……殺そうとして、手に持っていた何かを見て躊躇った。

 爆弾だ、爆弾のスイッチだ。よく見れば、男の腹回りにプラスチック爆薬が大量に巻かれている。

 

「バカな真似はよせ」

 

「それはどうかな?概ねハンコックの野郎が寄越したんだろうが、いつでも計画通りに行くと思うなよ!」

 

 マズい状況になった。胴体に当たれば爆発、即死させなくてもスイッチを押されて爆発、即死させても倒れた拍子にスイッチが押されて爆発。狙撃支援がないということは、マクレディもその事に気がついているんだろう。迂闊に手が出せない。

 

「仲間を殺しやがって。ここで俺もろとも死にやがれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 マクレディも緊迫していた。最後に残ったギャングが持っているのはどう見ても爆弾の起爆装置。どうやら雇い主もそのせいで銃撃できないようだ。

 よく映画やドラマでこういうシーンは見られるが、ただ頭を撃てば終わりでは無い。運動機能に連携しない脳を破壊しても、運動命令が手に来るかもしれないし、もし外せばその時点で起爆。

 おそらくライフル弾ならば見えている後頭部に直撃させれば絶命できるだろう。それも頭を破裂させて。

 だが問題もあった。それは窓。あの窓のせいで弾丸の威力が削がれたら?軌道がわずかにズレてしまったら?

 マクレディはスナイパースクールなんてものは出ていない。窓ガラスがどれだけ弾道に影響するなんて知らない。そもそもこんな刑事ドラマじみた状況は経験が無い。

 撃てなかった。目標との距離は150メートルほど、難しい距離では無い。だが、わずかに外れれば終わり。あの雇用主は死ぬ。べつに昨日会ったばかりの奴が死のうが関係ないが、何故だかあの男を死なせる気はマクレディにはなかった。それに面子もある。狙撃に失敗したスナイパーなんて誰も欲しがらない。

 

 汗が滴り落ちる。どうする、マクレディ。落ち着け、と何度も復唱する。

 

 

 が。

 

 

 

 

 

 

 突然、スイッチを持つ男の頭が破裂した。同時にわずかな発砲音。マクレディか?

 脳幹をごっそりとそぎ落とされたギャングは膝をつく。同時に俺は走り出した。全力で倒れかけるギャングの手を掴み、スイッチを押そうとしていた指を反対へと折る。次いでスイッチを取り上げた。

 

「クソ、クソ……」

 

 起爆スイッチのバッテリーを取り出し、使い物にならなくする。危なかった、きっと脳幹を破壊された時点で押されることは無かったろうが、倒れた衝撃で……っということはあり得る。ゆっくり倒れてくれたのは計算してのことか。マクレディめ、やるな。

 

 ふと、俺は男の頭の弾痕を確かめる。どうやら衝撃で脳は破壊されているようだ。頭蓋骨も粉砕している。

 そこで気がついてしまった。これはマクレディではない。マクレディのライフルは、.308口径……つまりよく軍でも使われる7.62mm弾だ。これはそれよりももっと強いライフルで撃たれた跡。

 

 男を放置し窓の外を見渡す。マクレディは窓から身を乗り出し、何かを確かめるように自身がいた建物のより上の階を確かめようとしている。

 俺は単眼鏡を取り出し、マクレディが見ようとしているものを見つけた。

 

 

 アルマだ。アルマが.338口径のライフルを手に、こちらに投げキッスしている。肝が冷えた。

 彼女が何かを言っている。大きく口を開け、口の動きで分かるように。

 

 お し お き す る か ら。

 

 たしかにそう言っていた。俺は真顔で単眼鏡をしまう。どうやら彼女は勝手に出て行ってしまった事が気に入らないらしい。

 俺は放心して笑う。笑って、現実逃避しようとしたが。

 

「殺されるなぁ」

 

 無理だ。どうやってもやられる。

 

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