Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth   作:Ciels

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第二十五話 レクスフォードホテル、教官

 

 

 早朝、レクスフォードホテル。任務を達成した俺はあの激戦からの生還を喜ぶことなく彼女に謝罪をするために駆け回る。

 

「待ってくれ!俺が悪かった!アルマ!頼む聞いてくれ!」

 

 ようやく追い付いたアルマの背中に悲痛な声をかける。だが彼女は無視して借りてる部屋へと足早に去ってしまう。だが亭主として、彼女の夫として諦めるわけにもいかない。俺は部屋の扉に手をかけているアルマの腕を取る。

 

「頼む話を聞いてくれ!」

 

 周りの部屋からうるさいと怒号が響くが構うもんか。とにかく話を聞いてもらわなければ進展しないのだ。

 

 アルマは動きを止めて俺と顔を合わせる。その表情は、昔教官と教え子として出会った時のような冷酷な無表情。いつもの優しいおっとりスナイパー系奥さんは引っ込んでいた。

 ゴクリと息を呑む。一度大ゲンカした時もこの顔をされたからある意味トラウマだ。

 

「それじゃあボス、ごゆっくり」

 

 俺に追従してきたマクレディが楽しげに手を振って自室に戻っていく。クソ、他人事だと思いやがってあの傭兵め。

 そんなマクレディは御構い無しに、アルマは口を開いた。

 

「部屋で話しましょう、大尉」

 

 彼女の階級呼びは基本怒っている時に使うものだ。俺は肯定し、まるで将軍の御付きの人のようにドアを開け、彼女が入るのを見送ってから自分も入る。

 中では泥酔していたパイパーが下着姿で寝ていた。こんな状況じゃなきゃ鼻の下を伸ばしていたのかもしれないが、今はそんな事どうでも良かった。頼む、空気読んで早くどっか言ってくれ。

 

「ほら、大尉殿の大好きな下着の美女だよ。襲えば?」

 

「アルマ……」

 

 困ったように俺は返す。その間にも彼女は装備を脱いで新しくなった野戦服だけになると、ライフルを壁に掛けて椅子に座った。俺は彼女から2メートルほど手前に気をつけの姿勢で立つ。しばし沈黙(パイパーのいびきを除く)が流れる。苦痛でしかない。

 

 不意にじっとこちらを見つめていたアルマが口を開いた。

 

「傭兵を、しかもスナイパーを雇ったのは私の代わりってわけ」

 

 予想はしていた。彼女は置いていかれた不満と自分に取って代わるようにして現れたマクレディに嫉妬している。もちろんマクレディ本人には何も言わないし言うつもりもないはずだ。彼女はその辺を割り切っている。

 だが、俺に対しては違う。俺の前では彼女も女の子になるし、嫉妬もする。それが可愛いところでもあるのだが、今は心底怖い。

 

「いや、違うよ。なぁ聞いてくれ……」

 

「よくもまぁあんな我流の下手くそ私の代わりにしようと思ったね。DEVGRU出身だから自信あるんだ」

 

 ダメだ、聞いてくれない。こりゃもう本当に怒りに怒ってる時の対応だ。こうやって軍人目線で指摘してくるからタチが悪いんだ彼女は。

 俺は必死に弁解の言葉を探す。

 

「君を汚い仕事に巻き込みたくなかったし、危険な目にも合わせたくなかったんだ」

 

「あんた今それ言う?汚いかはともかくとしてVaultで目覚めてから危険じゃなかった事なんてないよね?バカじゃないの?」

 

「はいすみません」

 

 理由が弱い。あまりにも陳腐な言い訳で彼女は納得するはずがないのだ。ここは彼女に吐き出させるだけ吐き出させて落ち着いてもらうしかないだろう。

 

「だいたいさ、あんた何?私と結婚して夫なんだよね?だったらなんで相談とかしないわけ?昨日は酔ってたからあの下手くその事は何も言わなかったけどさぁ。そう言うの含めてなんかないの?相談するとかそういうのさ」

 

「その通りです」

 

 ソファーにどっかり座りながらはぁ〜っと大きなため息を吐くアルマ。

 

「なに、そんなに私頼りない?」

 

「いや違う、だが君は大切な妻なんだ!危険な目に合わせたくないって思うのが夫だろう?」

 

「じゃあ私はそう思わないって?旦那が危険な橋渡ってるの黙って見てろって?アンカレッジの時もそうだけどさ、私も心配で仕方なかったんだよ。それでもあんたは軍人で私は身籠ってたし、待ってたよ。でもさぁ、これは違くない?違うよね?こっちの気も知らないで勝手にあれこれ決めて黙ってればいい気になって、挙げ句の果てには置いてかれて。私来なかったらあんた死んでたよ?無理だもんあいつじゃ、脳幹破壊して運動機能止めるなんて知らないよきっと?」

 

 何も言えない。危険な目に合わせたくないとはいえ、相談はすべきだった。待たせておけないなら、後方のバックアップとして配置すれば良かっただけだ。

 完全に自惚れていた。自分が特殊部隊の一員だからって、敵を舐めていた。だからああいう目にあったのだ。彼女を批判する権利はどこにもない。

 

 俺はしょんぼりして頷く。反論できるような立場ではないことは自分が一番わかっている。今の光景を当時の部下達が見たら驚くだろうなぁ。

 

「まぁまぁお嬢さん、その辺にしておきなよ」

 

 不意に、後ろのベッドから仲裁の声がかかる。振り返れば、実家のように寛いで寝転がっているパイパーが苦笑いしていたのだ。起こしてしまったようだ。

 アルマはそれに答えず、ため息を吐く。

 

「旦那さんだって悪気があってやったんじゃないんだし。それに、家族を大切に思ってたからこうなったんじゃないの?」

 

「それは……分かるけど」

 

「私が言えた義理じゃないけどさ。守りたい人がいると、どうしてもそうなっちゃうんだよ。ね、旦那さん?」

 

 俺は慌てて頷く。それを見たアルマは不服そうにしていたが、

 

「もう、分かったよ。私も怒りすぎたかも。でもねハーディ」

 

 アルマの姿が一瞬消える。気がつけば、ファイティングポーズを取った彼女が目の前にいて。俺の脇腹にフックを決めようとしていた。

 反射的に回避しかけるが、俺は理性でそれを止める。されるがままに、彼女に殴られた。

 

「うごぉっ!?」

 

 あまりの衝撃に俺の身体が横にくの字に曲がる。ミシミシと骨が軋む音が体内を通じて響く……骨が折れたかもしれない。きっとV.A.T.Sを起動したんだろう、でなければあの動きは無理だ。

 膝をついて苦しむ俺をアルマは見下ろす。そしてしゃがみこみ、咳き込む俺の顔を無理矢理そちらへ向かせた。

 

「次やったら許さないから」

 

 涙を目に浮かべた女の子が、そこにいた。彼女は俺にたっぷり口づけすると、Pip-boyからスティムパックを取り出し俺の首筋に打ち込む。

 

「ちょ、待」

 

 直後、急激に脇腹が痛む。スティムパックは急速に外傷を治す代わりに、激痛が走る事で有名だ。俺はその痛みに悶えてしまった。後ろではパイパーが引いているらしいが、それすらも耳に入らない。

 

 アルマはそんな情けない夫を放って立ち上がると、背伸びして背筋を伸ばす。

 

「うーん!お酒も飲んだしたっぷり寝たし、夫に制裁できたしでいい一日になりそうだね!」

 

「ハハ、そうだね」

 

 引きつった笑いを見せるパイパー。こうしてカハラ家の一悶着は解決した。だが問題はそれで終わらない。今度はマクレディに対しての文句をぶつけに行くらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクレディは使用したライフルを分解すると、整備する。それは長い放浪生活と傭兵の仕事で得た経験からもたらされた良い行いである。

 基本、道具と暇があれば銃は整備するものだ。それも使用した後なら必ずと言っていいほど整備しなければならない。使用前に完璧な状態を保っていても、使用した後はどこか破損しているかもしれないし、何より物は磨耗するものだ。気を遣っていても、いつもより装薬量がわずかに多いだけで耐久というものは下がる。

 

「問題ないな」

 

 綺麗な布を巻きつけたクリーニングロッドを銃口側から銃身に突っ込み、汚れを確認する。カーボンのカスやホコリがあっても狙撃銃というのは弾道に影響を及ぼしやすい。正確に言えば銃全般がそうなのだが、精密射撃を主とする狙撃銃となればさらに気を遣うものだ。

 

 ある程度のクリーニングが終われば、組み立てる。さて、あの依頼人は無事奥さんからお許しを貰えただろうか。

 バカな人間だ。ああやって自分に負担をかけるように人を守る事なんて損でしか無いのに、いい人ぶってるから。腕は悪く無いどころか一流なのに、弱みがあればそれが綻びとなり一気に崩れる。マクレディは知っていた。そして大切なモノを守れなかった時の苦しみも。

 

 テーブルの上に置いたおもちゃの人形を眺める。そこにいつもの皮肉屋のスナイパーはいない。ただ物憂げに、一人の人間として複雑な想いを抱くマクレディがいるだけだ。

 

 しばらくそうしていると、制御できなさそうな感情が湧いてくる。やめだ、こういうのは表に出さないに限る。

 おもちゃの人形を懐にしまうと、マクレディは寝ようかどうか迷って背後から聞こえたデカイ音に驚いた。

 

「邪魔するよ」

 

 振り返れば、あの雇い主の妻がズカズカと部屋に踏み入ってきた。しかも彼女の使っていたカスタムライフルを携えて。

 

「なんだ、旦那さんと仲直りはできたのか?」

 

「うるさい黙れ殺すぞ」

 

 ずいぶん機嫌が悪い。よく見てみれば、部屋の外では雇い主がそっと部屋を覗いていた。どうやら彼の家庭では妻の力が強いらしい。

 

「ハーディ入ってきな」

 

「はい」

 

 まるでギャングの親玉みたいに支持すると、雇い主が低姿勢で入ってくる。それを愉快に思って笑っていたマクレディだが、彼女が次に言った言葉のせいで真顔にならざるを得なくなった。

 

「おい下手くそ、お前のライフルを見せてみな」

 

 カチンと来た。たしかに自分は我流だが、それでもキャピタルでは上位を争うほどの腕だと自負していたし、それは連邦に来てからも変わらない。彼女が最後に見せたワンショットキルは見事だが、それでもそんな風に言われる事は彼のプライドに賭けて許されないものなのだ。

 

「おい、誰が下手くそだって?」

 

「お前だよクソガキ。早くライフルを見せろ」

 

 昨日会った時はこんなにヤクザ染みていなかったはずだ。マクレディは雇い主を睨む。しかし雇い主はジェスチャーと口パクで早く見せろと表現していた。仕方なく雇い主からの命令だからライフルを彼女に渡す。

 自分を無碍に扱う彼女は、ボルトを開くと使い込まれたライフルをまじまじと観察した。チャンバーの中、銃口内、ストックの歪み、銃身の取り付け具合、引き金の引き具合、スコープの位置、そして取り付け具合に至るまで、すべてだ。

 

 そうして納得したのか、彼女はライフルをマクレディに返す。

 

「窓の外を狙ってみな。本気で撃つ時と同じようにね。引き金も引け。椅子でもなんでも使っていいからやれ」

 

 なんだこのアマと思いながらも渋々従う。窓を開け、椅子に座りながら窓枠にライフルを委託して狙う。

 外にある適当な目標に照準を合わせ、息を吐き出し、止める。そして絶妙のタイミングで引き金を引いた。カチンと、撃針が落ちてから撃ちする。

 

 マクレディの射撃を見ていたアルマは真顔で精査する。

 

「どうだ?見惚れただろ」

 

 軽口を叩くマクレディ。だがアルマは言ってみせた。

 

 

 

「あんたスナイパー向いてないよ」

 

 

 

 は?と、マクレディは口に出した。そして一気に怒りが湧いてくる。その間、慌てたように雇い主は挙動不審だった。

 

「なんだと!?一体何が……」

 

「挙げればきりが無いけど、まずその姿勢。ライフルに力が入りすぎ。フリーフローティングじゃないタイプのライフルにそんなに圧かけたら銃身がわずかに歪むっての」

 

 それに、と。

 

「引き金を引く時に真っ直ぐ正確に指が動くのは筋が良い。でもね、それだけ。不必要な力まで入れるから長距離を狙う時にわずかにガク引きが起きる。あんた700メートルくらいから先のターゲットの頭を狙うのは苦手だろ」

 

 うっ、とマクレディは図星。確かにそんなに離れた所のターゲットの頭を狙う事は避けていた。昔に行った事もあったが、どうしてか僅かにずれて致命傷にならないのだ。当たっても、それはラッキーだと思っていた。

 

「今までのお前はセンスだけでやってたんだよ。でもそれに甘んじて成長がない。事実でしょ、きっと狙撃手になった時から上達してないはずだよ。上手くなったと思っててもそれは経験だけ。だから下手くそだって言ってんだよマヌケ」

 

 更に図星。マクレディは昔から腕が良かった。放浪し、傭兵になってからはそれに経験が加わったから外す事はめっきり減ったが。確かに、純粋に射撃の技術だけ見れば数年前と変わらないのかもしれない。

 

「あとそのライフル。引きつけが強過ぎるからストックがどんどん歪んでってる。それにしっかりと整備ができてないから水を吸ったり乾いたりして劣化もしてる。あんたそれずっと使ってるでしょ。ボルト周りも同じ、装薬量には気をつけてるみたいだけど、それ何回かホットロードで撃ってるでしょ。使うのは良いけど、違う弾を使ったんならいつも以上に整備しなきゃダメ。それと銃身、あんた銃口側からロッド刺してるよね?チャンバー側から突っ込まないとわずかな汚れがチャンバーに付着してマルファンクションの原因になるんだよ」

 

 スナイパーとしてのプライドが折れそうだった。間違いない、この女は自分よりも腕が遥かに上だろう。少し見ただけでこれだけ指摘を食らうんだ、この女はヤバイ。そりゃあの雇い主がビビるはずだ。

 落ち込むマクレディ。雇い主は懐かしむように遠くを見つめている。きっと彼も言われた経験があるに違いない。

 

「受け取りな」

 

 不意に奥さんが袋詰めのキャップをマクレディに投げ渡す。慌ててそれを受け取ると、マクレディは頭にはてなを浮かべた。

 

「これは?」

 

「金はやる。私は出来の悪いスナイパーを雇うつもりは無いわ」

 

 手切れ金。マクレディはそう考えた。それも仕方ないが、それならなぜ雇い主は自分を雇ったんだろうか。それなら多少危険でも妻にバックアップさせればいいのに。

 

「だから私があんたを育てる」

 

「な、なに!?」

 

「金は受け取ったんだ、なら従いな。私がみっちり仕込んで最高のスナイパーにしてやるの。嬉しいでしょ」

 

 冗談じゃないとも思ったが、同時に自分の技術を磨けるという戦士としての向上心も芽生えた。マクレディは迷う。普段なら絶対にこんな面倒な誘いは受けない。だが、金は受け取ってしまった。返すのも惜しい。そんな言い訳を自分の中で考え、

 

「そうかい。なら頼もうかな、お嬢さ」

 

「教官だろボケェ!」

 

 呼び名に激怒したアルマのミドルキックがマクレディの腹に突き刺さった。ハーディは目を閉じている。

 倒れこむマクレディにアルマは出かける支度を命じると、さっさと退出する。その背中を追従する雇い主。

 

 残されたマクレディは痛みにうなされながらもその二人の姿を目に焼き付ける。そして恨み言を吐いて、渋々支度をし出した。

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