Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth 作:Ciels
地下鉄のレールの上を辿り、俺たちは難なくVaultの入口へと辿り着くことができた。どうやら噂は本当だったらしい。レールから少し外れれば、どデカイVaultの扉があるのだからたまげる。しかし、111と違って横にスライドするタイプか……懐かしい気もするが、気のせいだろう。
扉の見張りも排除し、俺は扉のコントロールパネルを弄る。前と同じであれば、Pip-boyのプラグを差し込むことで自動にて開くはずだ。
「Pip-boyの本領発揮だな」
相変わらず軽口ばかり叩くマクレディがコントロールパネルを操作する俺を見て、少しばかり不貞腐れたような表情で言う。原因は俺の嫁さんだ。
「軽口叩いてる暇あるなら弾当てなガキ」
ほら早速言われた。スナイパースクールの助教時代はいつもこんな感じだったんだ。俺もデートに誘うのは苦労したんだぞ。あの頃のアルマはキレッキレのナイフみたいだった……そんな強気な女の子が大好きだったから惚れたんだが。
思い出に浸っていると、警告音がけたたましく鳴り響く。どうやら開くようだ。俺は二人に隠れるように指示する。こんだけデカイ扉が開けば相手方も何かしら気付くだろう。
トリガーマンはギャングだ。昔ながらの裏社会に生き、ダーティな仕事を生業としながらも渋さを忘れない紳士なのだ。シチリア譲りのスーツを着込み、コートの下にはトレンチガン。舐めた輩は蜂の巣に、徹底的に殺し回る。
そんなThe 裏社会みたいなトリガーマンは、今現在グッドネイバーをほぼ追いやられてこんな地下に潜んでいる。それがひどく惨めで、彼らの間で不満が高まるのは仕方ない事だった。
この日も搬入される生活資材を点検し、ボスのスキニーマローンに献上する作業をしていたのだが、不意に古参のグールであるトリガーマンが不満を漏らした。
「ケッ、何がトリガーマンだ。これじゃスーツ着てるだけで他のVaultの住民と変わらねえぞ」
グールの寿命は長い。それ故に、過去には様々な修羅場を経験もしているものだ。そんな根っからのワルが、今ではコンビニの店員みたいな事をしているのだ。
「しっかしまぁなんだってこんな地下鉄にVaultを作ったんだろうな」
若いトリガーマンが古参の話を流してそんな呑気な事を言うもんだから、思わず作業の手を止めて頭でも殴ってやろうかと思った。でもそれが何になる?結局は虚しい八つ当たり、それが分からない古参のトリガーマンではなかった。なので仕方なく質問に答えることにする。
「昔はよくあったのさ。公共事業だか何だかでよくわかんねぇもん作るってのはな」
「でもここはすげぇよな。時間感覚が分からなくなるけど、住むには困らない」
「あのな、俺らギャングだぞ。今も昔もそんな事言ってるギャングは見たことがねぇ。いいからさっさと仕事終わらせて……」
不意に、彼らがいる通路の奥から物音がした。乾いたような、そう、炭酸が抜けるようなそんな音。グールのトリガーマンは手を止めて音のした方向を凝視する。
「さっさと終わらせるんじゃなかったのか?」
「おい黙れ、何か音が」
突然、グールの頭が弾ける。若いトリガーマンは仲間の頭がスイカのように割れて脳味噌がぶちまけられる衝撃の瞬間をマジマジと見てしまった。それ故に、思考が停止して動きが完全に止まる。
頭をやられたのが若いトリガーマンで、生き残った者がグールならばこうはならなかった。すぐさま臨戦態勢に入り、腰に下げた拳銃を撃ち込んでいたにちがいない。
次の瞬間には、若いトリガーマンの頭にも穴が空いてしまった。そしてグールの死体にのしかかり、二人の血が混ざり合う。
200年生きたグール。30年ほどしか生きていない人間。計230年ほどの歴史は、そこで潰えた。
Vaultの内部は驚くほど簡単に進むことができた。どうやらVaultの防音性は凄まじいらしく、サイレンサーを付けたライフルの銃声程度ならば壁一枚で隔ててしまうらしい。侵入直後に接敵して暗殺、その後も何度もトリガーマンとかち合っているが、そのどれもが俺たちの存在に驚いていた。どうやら先ほどのプラットフォームでのどんぱちも気づいていないらしい。
「Vaultは居住地だからな、元から防音性が高いんだ」
そう言うのは、自称Vaultの近く出身であるマクレディ。それにしたって音が響かなすぎだろう。好都合だが……
そうして道中の敵すべてを排除して進んでいけば、広場に出た。3階まで吹き抜けになっているということは、元々集会所か何かだったんだろうが、今では人っ子一人いない。トリガーマンは出払っているようだ。
そこで、階段を登るトリガーマンの存在に気がつく。彼は足早に、タバコのパックを持って駆け上がっていく。俺はハンドサインでマクレディに奴の排除を命じる。
「当てろよ」
「わかってるよ……」
アルマが教え子にプレッシャーを与えている微笑ましい光景。マクレディは近くのテーブルにそっと銃を委託すると、慎重に狙いを定めた。
「ようニック!タバコを」
トリガーマンが3階の部屋の扉の前で止まりなにかを言った、その時。
バァン、と7.62mmの破裂音がして、トリガーマンの頭が弾け飛んだ。ヘッドショット、見事なキルだった。
「ナイスキル。行くぞ」
得意げな顔をするマクレディにそれだけ言うと、俺たちは警戒して前進する。一階と二階には部屋らしいものはなかった。正確には一階に扉はあったが、あれは通路へと続く扉だ。なら3階を調べよう。
俺たちは三階へと登ると、トリガーマンの死体を確認する。これは死体撃ちしなくてもいいくらい見事に死んでるな。
「どうだ、見事なもんだろう?」
「50ヤードで何言ってんだか」
調子に乗るマクレディに杭を打つアルマ。そんな二人の会話を背にしながら、俺はふと横の窓へと銃を向けた。
シンスがいる。なぜかトレンチコートにボロボロのフェドーラ帽を被ったシンスが、驚いた様子でこちらを見ていた。
一瞬撃ちかけたが、シンスが両手を挙げて俺を制した。
「待て、待った!あんたらが何者か知らないが、そいつを殺してくれたんだろう?ならそこにあるターミナルを操作して俺を出してくれ、いい加減中年のオヤジが引きこもるのは社会的に辛い」
面白い事を言うな、と思った。どうやら前に遭遇したシンスとは違い、こいつには人格があるようだった。それにトリガーマンとも違うらしい。現にこいつは部屋に閉じ込められてるようだし。
俺はアルマにコンソールを弄るように指示すると、尋ねる。
「出してもいいが、変な気は起こすなよ」
「武装した怖い三人組に立ち向かう度胸があるように見えるか?ああそれとな、あんたの足元にある死体、それが持ってたタバコも持ってきてくれ。ニコチンが恋しい」
「お前シンスだろ?吸うのか?」
「なんだ、人造人間は吸っちゃいけない法律でもできたのか?そりゃいい、俺もそろそろ禁煙しなきゃならないと思ってたんだ。あんたのお陰で辛く長い禁煙ができそうだよ」
物凄い皮肉だ。なんだかそれが気に入ってしまった。俺は死体が持っていたタバコのカートンを拾い上げると、ターミナルに夢中のアルマに隠れて一箱だけポケットに隠す。
「俺にもくれ」
こそっとマクレディが耳打ちしたので、彼にも渡す。嫌煙のアルマの前で吸おうものならマクレディは間違いなく殺される。
「喫煙者どもめ」
だがやっぱりそこは俺の嫁さん、俺たちがタバコをくすねたのを知っていたようだ。俺とマクレディは仕方なくカートンの袋にタバコを戻す。
「開いたよ、ヘビースモーカーども」
機嫌が悪そうにアルマが言うと、部屋の扉が開く。どうやら監督室だったらしく、内装がやや豪華だ。
俺が先導して室内を確認すれば、中には先ほどのシンスが一体だけ……クリアだった。
「とりあえずその物騒なもんを下げちゃくれないか。ついでにタバコをくれたら言う事はない」
渋い声でシンスが言う。
「その前に、あんたは?ここで何してる?」
銃は下げずに尋ねる。
「俺か?家出娘を探しにきてまんまと嵌められた哀れな探偵さ」
俺とアルマは顔を見合わせた。
「名前は?」
「ニック。ニック・バレンタイン。どう呼ぼうが構わないが、シンスだけはやめてくれ」
あまりの現実味のなさに俺とアルマは驚いた。まさか探していた人物がシンスだったなんて。こんなことならあの喧しいパイパーも連れてくるんだった。
俺は銃を下げて、手にしたタバコを投げ渡す。バレンタインはそれをキャッチすると、ニヤッと笑った。
「これだ、これこそ生きがいなんだ」
一箱取り出して封を開けると、一本咥えて火をつける。長年吸っているんだろう、動作を見ればわかる。アルマ、そんな睨むな。
「フゥ〜……2時間ぶりのニコチンがこんなに美味いとはな。さて、喫煙者を目の敵にする美女は置いといて……今度はこっちの質問だ。あんたらはなんだ?見たところ戦前の軍隊のコスプレ集団ってわけじゃなさそうだが」
ある程度の知識はあるらしい。
「あんたを探してたんだ。依頼人さ」
「俺を?よく居場所がわかったな」
「サードレールでちょっとな。あんたが、本当に探偵のニック・バレンタインで間違い無いんだな?」
タバコを美味そうにふかすシンスに尋ねれば、
「少なくとも俺はそう思っているがね。もしかしたらインスティチュートの手先かもしれんぞ」
「いや、その語彙力の高さはあいつらじゃ無理だ」
そう言えばニックはたしかに、と言って笑う。彼は半分ほど残ったタバコを山盛りの灰皿に押し付ける。
「さて、依頼人が来たとあっちゃのんびりタバコを吸ってるわけにもいかないな。スキニーマローンが戻ってくる前にここを出よう」
「スキニーマローン?」
「太っちょのかませ犬さ。こいつらのボスの」
言いながらニックは扉の側の死体から拳銃を取る。古き良き44マグナムを使ったリボルバーだった。なんだか似合うな。
皆で一階まで降りると、道を知っているから先導していたニックが足を止めた。そして物陰に隠れるように言ってくる……なるほど、Pip-boyの生体センサーにも反応がある。トリガーマンが複数やってきたらしい。
「隠れてやり過ごすか派手にやるかは任せる」
隠れながらニックが言ってくる。奴らがやってくるのは進行方向からだから……やるか。
「アルマとマクレディは俺の射撃に合わせて援護しろ」
「了解」
「はいよ」
それぞれの返事を聞いて敵を待つ。ニックは派手に行くのか、と笑ったが気にしない。たまには待ち構えるのもいい。
通路の扉が開いてトリガーマンがやってくる。五人ほどだ、すぐに片付くだろう。
俺は物陰から先頭のトリガーマンを狙う。どうやら奴らはニックに用があるようで、俺たちの侵入には気がついていないようだった。手始めにダブルタップで引き金を引く。
2発のサイレンサーのくぐもった発砲音がして、先頭のトリガーマンが倒れた。同時にアルマとマクレディが連れのトリガーマンに発砲していく。
「なんだ!?」
「敵だ!撃て!」
残ったトリガーマン二人を排除しにかかる。一人は俺が、もう一人はニックが。リボルバーなんて難しいだろうに、彼は一発でトリガーマンを仕留めてみせた。やるじゃないか。
「これで奴らも俺たちの事を知っただろう。長居は無用だ、行こう」
ニックの提案に頷き、俺たちは広場を後にする。