Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth   作:Ciels

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第三十一話 トリニティタワー、フィスト

 

 ミニガン。ミニとは言うものの、名前の可愛らしさとは裏腹に現実ではかなりエグい銃火器だったりする。

 ミニガンの説明に移る前に……というか前提の知識として、ガトリングガンというものがある。古くは南北戦争などに用いられた、銃身が環状に並んだ機関銃のことである。環状に配置される事によるメリットは、やはり銃身の冷却が大きい。また当初は手動で銃身を回していたガトリングも、技術の発展により電動という素晴らしいものが開発されると、その発射速度も尋常ではなくなった。空軍が過去に保有していたA-10攻撃機に搭載されている30ミリガトリング砲は、毎分3000発以上もの発射速度を誇り、文字通り敵を粉砕する。

 さて、ここでミニガンの解説に戻ろう。ミニガンとは、それらの車両や航空機に搭載するガトリングガンを最大限縮小し、個人で携行できるようにしたものだ。携行と言っても、重さは並みの機関銃よりも重く、パワーアーマーによる筋力アシストを前提とした運用を想定している。なお小型化に伴い、弾薬も小口径高速弾を使用している。具体的には、5ミリ弾と呼ばれる……ライフル弾を更に縮小したものだ。砲身と給弾システムの駆動にはマイクロフュージョンセルを使用する。戦車や装甲車などのハードターゲットには効果が薄過ぎるが、対人に使用すれば毎分2000発の弾丸の雨が降り注ぎ、敵をミンチにする。アンカレッジでは味方のパワーアーマー部隊が運用し、助けられた。

 

 唐突な解説だが、己を知り、更に敵の情報を得る事は戦いにおいて重要だ。なぜなら今、俺はミニガンを持った怪力の化け物相手に追いかけられているのだから。

 

 

 

 

 特徴的なモーターの駆動音が鳴り響き、弾丸の雨が迫る。俺はひたすらに廃ビルの中を駆け巡って死の危険から逃げている。

 フィストとかいうミュータントのボス。俺とパイパーが対峙した彼は、俺の予想を遥かに上回っていた。まさか自身の怪力に身を任せてミニガンを扱うような奴が敵にいると、なぜ思うだろうか。

 

「パイパー隠れろ!俺が相手するッ!」

 

 全力疾走しながら角を曲がり、隣を根気よく並走するパイパーに指示を出す。バックパックを下の階に残置しておいてよかった、背負っていたら重さで走ってなどいられない。

 

「あんた一人でやるつもりッ!?」

 

「大丈夫だ!慣れてる!」

 

 パイパーの心配を軽口で返す。その通り、俺はこう言う状況に慣れている。中東では現地民が入り混じった中での三つ巴の戦闘はしょっちゅうだったし、アンカレッジではステルス迷彩を使う部隊ともやり合った。それどころか、キメラ戦車なんていう最新技術の塊とも戦ったのだ。挙げ句の果てには人間離れしたジンウェイ将軍。あれには驚かされたが、今は感傷に浸るよりもあのフィストをどうにかしなければならない。

 

「ハハハーッ!逃げろ人間!追い詰められた時がお前の最後だ!」

 

 律儀にコミックの悪役並みの台詞を交えながら銃撃してくるフィスト。部下は下がらせているらしく、変に騎士道っぽいところがリーダーたる所以なのかもしれない。

 そんな事はどうでもいい。俺達はエレベーターまでやってくると、古びた扉をこじ開けてパイパーを押し込む。

 

「下の階を見張っててくれ!」

 

「正気!?いくらお前でもあのミュータント相手じゃ……」

 

 パイパーが言い終える前にボタンを押してエレベーターを起動させる。むしろこう言う状況では、一対一の方がやりやすい。俺は辺りを見回し、何か使えそうな物が無いか探す。こう言う時こそ環境を存分に使わなければ生き残れない。それが特殊部隊の素質だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィストはここら一帯のミュータントのリーダーである。彼がミュータントとして生まれ落ち、彼らを束ねるまでに至った経緯は書き連ねるととんでもない量になるので割愛するが、それはそれでよろしくないので少し書き記すと。

 彼は、単に武力だけで荒くれ者のスーパーミュータントのボスになったのではない。知能、技術、武力。それらを兼ね備えてこそ王たる器があったと言えよう。

 そもそも彼はここ、コモンウェルスで生まれた……所謂連邦製ミュータントではない。遠く離れたキャピタル・ウェイストランド、そこで生まれ、育ち、逃げ延びてきたベテランである。当時のキャピタルで残虐非道の自由生活を送っていた彼は、とある集団に故郷を追い出されてここまでやってきたのだ。道中では危険な野生生物、即ちデスクローや真っ白なラッドスコルピオンと死闘を繰り広げた。しかしいくら彼ら野生生物が強かろうと、フィストは知っている。一番危険なのは、人間であることを。

 コモンウェルスのスーパーミュータントは人間を舐めている。それはそうだ、ここではキャピタルのようにガチガチに武装した集団はいないし、いてもせいぜいがアーマーを着込んで街を防衛する警備隊くらい。レイダーなんてちょっと襲えばすぐに逃げ出す。だから舐められる。

 しかしだ。そんな弱者たる人間だが、それならどうして彼らは絶滅しないでこの厳しい連邦を生きられるのだろうか。それはここのミュータント達が知り得ない、人間の底力によるものだとフィストは考える。

 

(あの人間の男、普通の餌どもとは違う。武器、装備、動き。狩に慣れている。俺たちと同じ、強者だ)

 

 だからこそフィストは部下を下がらせる。あの人間は……あの男は、腑抜けた部下達でどうにかできるものではない。唯一対抗できるのは、あの頭のイカれた人間に洗脳されて捕らえているストロングくらいだろう。人間の強さを知っている彼だからこそ、手を抜くことをしない。一対一で、持てる限りの力を使うのだ。こうして普段は使わないミニガンも用意した。そしてここは自分の縄張り。舞台も完璧だ。

 

「出てこい人間!このフィストがお前に引導を渡してやる!」

 

 勇ましくフィストは叫ぶ。すぐにミニガンを発射できるように砲身を回転させ、周囲を見回す。しかし彼が期待するような事は起きない。静まり返るフロア。彼はじっと待った。待って、痺れを切らして前へ進む。

 コーナーに行き着いた時だった。奥から物音が響いたのだ。フィストはハリウッドよろしく一気に身を出して角の奥を狙う。

 

「なにぃ!?」

 

 即座に驚愕した。すぐ目の前の腰くらいの位置に、爆薬がセットされていたのだ。瞬間、爆発。咄嗟にフィストはミニガンを守るように背中で爆風を受けた。焼けるような熱さと破片が彼の背中を傷つける……が、思っていたよりも爆発は大きくなく、ミュータントの彼を死に至らしめるようなものではない。しかし重要なのはそこではない。

 

(ミニガンを狙ってきた……!)

 

 ミニガンを運用する上で、細かい狙いなどはつけることはない。その圧倒的な火力を用いて相手を手当たり次第攻撃するのだから、腰だめで使用するのが常だ。そして先ほどの爆薬と破片。どれも丁度ミニガンの高さに設置されていた。この状況で冷静に対処しようとする相手の力量を感じる。

 

「ッ!」

 

 そしてもう一つ。フィストは今、ビルの外を眺めるように位置している。タワーは核爆発の衝撃と経年劣化によって、壁や床の一部は剥がれてしまっている。雨や風はフロアに入り込む形だ。

 その壁があった位置……つまり正確にはビルの外側に、奴がいた。上下逆さまで、上半身だけでこちらを見ていた。その手には銃が握られ……

 

 ドシュッというくぐもった銃声が響く。それを防いだ。防いでしまったのだ。彼の手にするミニガンで。

 

 ミニガンから火花が散る。たった一発の銃弾が、ミニガンの電子制御部にヒットして使い物にならなくしてしまったのだ。すぐさまミニガンを投げ捨てると、フィストはビルの外にいる男めがけて突進する。

 しかし男はそのまま下へと落下していった。ワイヤーで宙吊りになっていたのだ。フィストがワイヤーを掴み取って引きちぎる頃には、男はもう階下のフロアに着地していたのだ。

 

「ぐぬぬぬッ……!」

 

 してやられた。悔しかった。まんまと奴の術中にはまった自分が情け無い。仕方なくフィストは素手のまま、階段を伝って下の階へ降りる事にする。

 全力で走り、階段を降りようとした時だった。なにかを足で引っ掛けた。背筋が凍るとは、まさにこの事だろう。フィストはすぐに前方へ飛ぶ。高さなど御構い無しに階段を転げ落ちると、すぐ後ろで手榴弾が爆発した。そう、先ほど踏んだもの。それはワイヤートラップ。この短時間で、あの男はこちらの行動を先読みして罠を設置してみせたのだ。

 

「ぐ、ぐぅ」

 

 爆風の直撃は免れたが、衝撃波はしっかりとフィストの脳と内臓を揺さぶった。クラクラとする視界と意識を無理矢理叩き起こし、立ち上がる。

 

「ぬっ!」

 

 突如、横から気配がした。振り向きざまに拳を振るうと、それを屈んで避けるあの男がいた。男はライフルを背負い、拳銃とナイフでこちらに突っ込んできていたのだ。

 

「このォ!」

 

 すぐに前蹴りを入れるが、それをいなすように避けると男はフィストの軸足の膝を拳銃で撃ち抜いた。いかに耐久力があるフィストでも、関節をやられれば立てなくなる。ましてや片足で立っている状態だ。フィストが前向きに倒れると、男は足で彼の後ろ首を押さえて後頭部に拳銃を二発撃ち込む。

 

「グギィ!?」

 

 とてつもない衝撃と痛みがフィストを襲うが、まだ死んではいない。ジタバタともがくと、男はすぐに後ろへ離れてライフルを取り出した。

 

「認めよう、お前は強かったよ」

 

 男はそれだけ言うとライフルを頭目掛けて発砲する。フィストの脳みそが床にぶちまけられた。結局、フィストは今回ばかりは狩人にはなれなかった。今まで狩ってきた相手と同じ、餌側になってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 焦った。即興とはいえ、張り巡らせた罠をあんなに防ぐとは思っていなかった。さすがはスーパーミュータントのボス、知識も経験もかなりのものだ。自分の身体の頑丈さを生かしてミニガンを守りに来るとは。まぁ俺の方が一枚上手だったが。

 

「ふぅ……」

 

 思わずタバコを取り出して吸ってしまう。パワーアーマー並みの力強さにあの軽快さは脅威だった。やはり最初にミニガンを潰したのは正解だろう。少量だが爆薬があってよかったし、何より破片に使える釘やブロックが大量にあったのも救いだ。

 一服し終えると、俺は最上階に向かう。捕らえられている人間を救助しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パイパーは急に静まり返ったタワー内を不気味がっていた。爆発音がしたのと同時くらいに、あのけたたましいミニガンの発砲音が止んだのだ。あの旧世界の男が勝ったのだろうか。それとも。

 その時だった。大勢の足音が外から聞こえてきたのだ。急いでカウンターの裏に身を隠し、こっそりと外を覗く。

 

「コッチだ!人間が、攻めてきた!」

 

 スーパーミュータントの群れが、大量にタワーへとやってきたのだ。恐らく援軍だろう。これはヤバイことになった。

 彼らの多くは崩れた階段から上へと向かったが、いくらかは見張りのために残されている。

 

(ちょっと〜!こんなの聞いてないっての!)

 

 パイパーはその美貌を歪めながら拳銃に装填された弾薬を確認した。あの男に頼まれたからには逃げるわけにはいかない。あの夫婦はネタを自ら引き寄せる運命を感じる。こんな仕事の種を見逃せるほど、パイパーは甘くないのだ。そしてそんな自分が、時折嫌になるもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急いでくれ!奴らが来てしまう!」

 

 檻に閉じ込められた男、レックスが急かす。俺は適当に返事をすると、檻の鍵を解錠しにかかる。中々強固なロックで、骨が折れそうだ。

 

「兄弟達は、人間がここを攻めてきたことに気づいている。戦いになる」

 

 胡散臭いスーツ姿の中年男性レックスの後ろでは、緑色の肌の巨人がさも当然のように呟いた。そう、閉じ込められていたのはレックス1人ではない。このスーパーミュータント、ストロングもまた囚われの身だったのだ。

 

 事の経緯はこうだ。小さな放送局にて朗読劇をしている自称クリエイターのレックスが、緑の哀れな巨人達に知性を与えるためにシェイクスピアのマクベスを聞かせに来た。(このご時世でそういう考えになる辺り、コモンウェルスにも世間知らずがいるのだろうか)もちろんミュータント達は相手にせず、彼をおもちゃにしていたらしいが……彼の処刑を止めた者がいたのだ。それが今、同じく牢にぶち込まれているストロング。どういうわけかマクベスの一文にある、The Milk of human kindnessを直訳しすぎて信じ込み、その優しさのミルクを飲めば強くなれると思っているらしい。おまけにレックスが保身のために、ここから出られればそれを探す手伝いをするなんて言っちゃったから……

 

「人間の優しさのミルク……それを飲めば、ストロングはもっと強くなれる」

 

 取り憑かれたように言うストロング。俺は呆れたように首を横に降ると、最後のロックを解除した。

 

「開いたぞ」

 

 扉を開ければ二人が牢屋から出てくる。慌てるレックスとは対照的に、ストロングは冷静に状況を掌握しにかかっている。

 

「さぁストロングについて行こう!彼は下に降りる一番の近道を知っている!」

 

 レックスが興奮気味にそう言うと、ストロングが外壁作業用のエレベーターを指差した。あれに乗れと言うことか。良い的だな。

 

「あれに乗るのが一番早い。行くぞ人間達」

 

 先導するストロングに並走する傍ら、耳を澄ませる。下の階から足音と声が響いてきている。一難去ってまた一難とはこの事だろう。

 




ストロング関連のイベントはかなり変わってきます
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