Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth   作:Ciels

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第三十二話 トリニティタワー、ストロング

 

 

 

 作業用のエレベーターに乗り込む。元々外壁の作業用として運用されていたもので、最低限の手すりとフレームがあるくらいで、その手すりも腰部分くらいまでしか高さがない。高所恐怖症なわけではないが、連邦で最大級の高さを誇るトリニティタワーの頂上部分から吊り下げられる景色は、絶景を通り越して恐怖でしかなかった。おまけに足場は鉄網となっており、そこから透過して見える下の景色と金網の錆びが恐怖を煽っている。

 

「兄弟が来たぞ」

 

 俺が操作パネルをいじるとストロングが下の階を見下ろして言った。どうやらもうミュータントの増援が来たようだった。これはまずいぞ、隠れられる場所がほとんどない。相手からしてみればいい的だ。

 揺かごのようにちょっとした風に振られながら、エレベーターは地上を目指す。アトラクションとしては最高だろう。

 

「ああ神よ!このエレベーターで本当に地上にいけるのか!?」

 

 震えてしゃがみこんでいるレックスが喚く。気持ちは察するが、今は黙っていてほしいというのが本音だった。

 

「黙れ、気が散る」

 

 俺も思わず辛辣にそう言うと、レックスが何かに気付いてビルの内部を指差した。指差された外壁が剥がれた部分を見てみれば、そこにはミュータントの小規模な部隊が屋上を目指して階段を登っている。

 このまま気づかないでくれ……と祈るも、やはり俺の人生は上手くいかない。ミュータントの一人と目が合ってしまった。そいつが騒ぐ前に、俺はライフルで頭を撃ち抜く。

 

「ぎゃあああ!痛い〜!」

 

 驚異的な生命力を誇るミュータント相手では、頭への一撃も絶命には至らない。正確に言えば、弾丸はミュータントの眼球を破壊した程度に留まってしまった。きっと眼球が邪魔して頭蓋骨に沿う形で弾丸が抜けたのだろう。

 

「クソ、気づかれた!」

 

 悪態をつけば、やはりミュータント達は俺たちエレベーター組に気がつく。粗悪な銃火器を手にした彼らは外壁が無い部分から身を晒してこちらに発砲してきたのだ。

 俺はしゃがむと、エレベーターのフレームの間から銃口を出して迎撃する。どうやらミュータントが手にする武器は鉄パイプなどを改造して作られた銃らしく、使用する弾薬も拳銃などに用いられる.38口径らしい。ライフリングなどが彫られている訳でも無い粗製のライフルは近距離でも命中率が高いわけでもなく、ましてやミュータントの撃ち方は腰だめで撃つような素人丸出しのものだ。至近弾はあるが、直撃させられるわけでもないのが幸いだった。

 

「ストロング、銃がない」

 

 と、後ろで顔面をガードしているストロングが言った。小口径の弾丸は彼の皮膚を削る程度らしく、致命傷には至っていないが結構当てられている。今の今まで捕まっていた彼には武器がない。実質戦えるのは俺だけだった。

 

「身を屈めろッ!攻撃は俺がする!」

 

 そう叫び、見える敵を撃ちまくる。こいつらは揃いも揃って恐怖心がないのか、制圧射撃が通用しないから厄介だ。しかしその分身を丸出しにしているから当てやすい。

 

「これでも喰らえ人間ッ!」

 

 と、その時。一人のミュータントが火炎瓶を手にこちらへ投擲しようとしていた。俺が気付いた時には既に火炎瓶は空中。このままいけば俺たちはエレベーターごと丸焼きになってしまう。

 

「クソッ!」

 

 思わず、あまり使用していないV.A.T.Sを作動させる。脳内薬物の過剰供給により時間が止まっているんじゃないかと思うくらいスローに感じる。俺は急いで素早い意識で鈍い肉体をコントロールすると、空中の火炎瓶を撃ち抜いた。何もない空中で燃え尽きる火炎瓶の火の粉がエレベーター手前まで飛散する。

 俺は腰のポーチから手榴弾を取り出すと、ストロングに渡す。

 

「投げ込めッ!」

 

 ストロングは乱暴に手榴弾を掴み取ると、ピンを抜いて思いっきり振りかぶる。

 

「スマッシュッ!」

 

 まるでコミックの緑の巨人のように叫ぶと、手榴弾を投げる。どうやらストロングは投擲が得意らしい、綺麗な放物線を描いてミュータントの部隊の足元へ転がった。刹那、爆発。外壁の一部を吹き飛ばしながら爆風と破片が彼らを襲った。

 

「いいぞ!」

 

 思わず歓喜の声をあげる。アラスカでも、巨大な敵と対峙して倒した時はこうやって喜んだものだ。ミュータントの死体が空中に投げ出されたり、爆殺されるのを見て心が踊った。こんなんだから戦争ジャンキーなんてマスコミに言われるんだろう。

 

 ミュータントの攻撃はしばらく止んだ。道中皆殺しにしたが、きっとまだ来るはずだ。パイパーが心配だが……彼女は賢い、自分から手を出すような事はしないだろう。この隙に俺はバックパックから予備の弾倉を取り出してマガジンポーチに詰め替える。

 

「人間、お前強いな」

 

 と、ストロングが凶悪そうな純粋な笑みを俺に向けて言い放った。

 

「お前も良い投擲だったぞ、将来は外野手かピッチャーだな」

 

「それは、強いのか?」

 

「野球に必要な存在さ」

 

 会話とパッキングを終えると、再びバックパックを背負う。しかしどうしてか、いきなりエレベーターが止まってしまった。強い衝撃とともに動作を停止させると、俺は操作パネルを弄る。どうやら故障らしい。

 

「なんだ、何が起きたんだ!?」

 

「故障だ。まぁ古いしな……これで良し」

 

 配電盤も弄ってやると、エレベーターに動力が戻る。しかし再出発にはまだ時間がかかるようだ。そして予想通りというか、またミュータントの一団がやってきた。

 

「また来たぞ!」

 

「ストロング、戦うッ!」

 

 俺が身を屈めると、ストロングは手すりを跨ぎだす。止めようとした時にはもう遅い、彼は数メートル先の外壁が崩れた部分へと飛んだ。

 

「無茶だ!クソ、マジかよ!」

 

 ストロングのせいで揺れまくるエレベーターの中から援護する。彼は見事にビル内部へと着地をしてみせ、勇敢にもミュータントへと突撃していく。拾い上げたコンクリートブロックを武器に、彼らへと襲いかかった。

 

「ストロング負けないッ!」

 

「な、ナンダこのミュータント!?」

 

 驚く同胞の頭をカチ割ると、乱暴に殴り合うストロング。エレベーターへの射撃が一切止むくらいの猛攻をチャンスに、俺はストロングに当てないように慎重に狙撃していった。

 ストロングは他のミュータントよりもタフで、戦士だった。ひたすら殴り、撃たれても物ともせずに突っ込んでいく。野蛮人は嫌いだが、どういうわけか俺にはあのストロングの勇猛さに好意があった。なんだか懐かしい気さえもしたのだ。

 

 ようやく二人で敵を全滅させると、恋しかった地上へと辿り着いた。徒歩で降りてきたストロングと合流し、レックスと共に待たせるとパイパーを探しにいく。

 

「パイパー……!」

 

 ミュータントの死体が並ぶフロアに侵入し、小声でパイパーを呼ぶ。すると、ここよ、と気の抜けた声が奥から響いてきた。彼女は壊れかけのソファーに腰掛け、まるで魂が抜かれたように呆けてタバコをふかしていたのだ。怪我はしていないように見える。

 

「パイパー無事か?こいつら全部一人で倒したのか!」

 

 驚くように言うと、彼女は頷いてタバコを投げ捨てた。

 

「死ぬかと思ったわ。もう2度とやらない」

 

「無茶をする、逃げても良かったのに」

 

「スクープを逃すほど落ちぶれちゃいないのよ、あたしゃ」

 

 彼女の手を引っ張って立ち上がらせると、俺は珍しく記者キャップを外している彼女の頭を撫でた。ぎょっとしたような表情で彼女は俺を見る。

 

「ありがとう、頑張ったな」

 

「あんた、奥さんに殺されるわよ」

 

「見られてたらやらないよ」

 

「……ほんと、どっかおかしいんじゃない?」

 

 呆れたように笑うパイパー。それは否定しない。

 二人でトリニティタワーを出ると、レックス、そしてストロングと合流する。一瞬ストロングを見たパイパーが銃を向けたが俺が制した。

 

「ストロングは味方だ」

 

「へぇ?私には他のミュータントと変わらないように見えるけど?」

 

 皮肉交じりにそう言うパイパーを宥めると、俺はレックスに尋ねた。

 

「それで、あんたはどうするんだ?約束したんだろう、ストロングと」

 

 俺がそう尋ねると、彼は分が悪そうにしどろもどろして言う。

 

「それなんだがな、きっと私より君に預けた方が彼の為になるだろう」

 

「なに?」

 

 強めに尋ねる。

 

「そうとも。君ほど献身と強さに溢れた者もそういない、きっと君ならばストロングが求める優しさのミルクを探し当てることができるはずだ!」

 

 なんとも無責任な発言だった。パイパーが口を挟まないのは、事情を知らないからだろう。

 

「おいお前……」

 

「ストロング、思った」

 

 俺が言いかけた時、ストロングが口を開いた。

 

「お前、強い。それだけじゃない、フィストが持っていた知識もある。お前なら、ストロングに優しさのミルクを与えてくれる。だからストロング、お前に着いていきたい」

 

 緑色の巨人までこう言いだす始末。

 

「えーっと、ブルー?優しさのミルクって、その……卑猥なもの?」

 

 後ずさりするパイパーの言葉を否定する。そんな邪なものじゃないだろうが。仕方がない、ここで断ればきっとストロングは他のミュータントと合流し、人を殺すことになるだろうからな。面倒を見るくらいは……いいのか?

 

「いいだろう、面倒見てやる。だがなストロング、人間の優しさのミルクを得るということは難しいぞ。時にお前の気持ちを無視することもしなきゃならない。それでも俺と来るか?」

 

 最後に、この緑の巨人の意思を確かめる。だが彼の決意は固いものだった。

 

「ストロング、覚悟は曲げない。それがスーパーミュータントとして間違っていても、後悔しない」

 

 まるで純粋無垢な子供のようだった。もしかすれば、彼のミュータントとしての意識を改革できるかもしれない。それこそレックスがしようとしたように。

 

「ならば来い。おいあんた、あんたは自力で帰れるのか?」

 

「ああ、大丈夫だ。私は偉大な俳優だからな。ああそうだ、今度ぜひうちの放送局に来てくれ、歓迎しよう!」

 

 それだけ言うと、彼は逃げるように走り去る。あの野郎、問題ばっかり押し付けやがって。

 

「ちょっと、本気?」

 

「少なくとも今はな……行くぞ、ダイヤモンドシティでアルマと合流しなければ」

 

 きっとあの街はストロングを歓迎しないだろうから、どこかで待機させなければ……ああ、どうしてこうもおかしな出来事に巻き込まれやすいんだ俺は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球なんて目ではない、広大に広がる宇宙。漆黒の闇の中に煌めく星は、夜空よりもハッキリと輝きその美しさを示している。きっとどんなに金を払ってもこの景色は手に入れられない。

 そんな、誰もが一度は夢見る宇宙にとある「船」がある。船……というのは正確には正しくないのかもしれないが、地球ではそう呼んでいるのだから仕方がない。正しくは母船から切り離された部分なのだが、今でも正しく機能している。

 

 この船は、人間のものではない。遥か古来より地球の征服を目論む宇宙人が派遣したものである。人類の技術を遥かに上回ったその船は、多数の武器を保有し、簡単には破られないシールドによって保護されている。

 もっとも、今となっては元の持ち主達はとある人間達によってすべからく虐殺され、主導権も取られているのだが。

 

「星が輝いているわ」

 

 その船のブリッジに、とある少女がいる。ウェイストランドではもう見ることが無いような、まるで古風の貴族やお姫様のような真っ赤なゴシックロリータ調のドレスに身を包んだ金髪の白人少女。艦長席に座り、地球を眺める彼女は言った。

 

「へぇ、俺にはいつも通りに見えるぜ」

 

 操作席に腰掛け、愛用する古いリボルバーをくるくると回す、これまた古風なカウボーイ。もし俺がそのガンプレイを見たのであれば即座にやめろと言うだろう。暴発が怖い。

 

「トシローとエリオットは?」

 

「地上の探索に出てる。もうすぐ帰ってくるだろうな」

 

「ふぅん。今度は何を見つけてくるのかしら」

 

 どこで見つけたのか、綺麗なティーカップで紅茶を啜る少女。その姿を見てカウボーイは訝しんだ目で質問した。訝しむと言うよりも、呆れたと言う方がしっくりくるかもしれない。

 

「今度は何にハマったんだ?」

 

 そう問われ、少女の手がぎくりと止まる。

 

「バレちゃった?なんかね、宇宙人達のコレクションの中に可愛いお人形さんが戦うコミックがあったの」

 

「はっ、ほどほどにな」

 

 少女のミーハーっぷりは凄まじい。それを知らないカウボーイではなかった。つい最近まで違うコミックに影響されておかしな格好をしていたと言うのに。

 ふと、カウボーイはあることを思い出した。スピンするリボルバーを止め、その事を口にする。

 

「そういやあの堅物巨人が来てるぜ」

 

「フォークスが?なんで言わないのよ!」

 

 立ち上がって抗議する少女の非難を悪かったよ、と受け流す。それと同時だった。ブリッジのドアが開き、巨体な影が一つ、やって来た。

 緑の肌に、ボロボロのVaultスーツ。背中には87の数字を携え、手にはその手に似合わぬ小さなタブレット。俺たちで言う、スーパーミュータントだった。

 

「邪魔するよ」

 

 にこやかな顔でそう言う巨人。およそウェイストランドでは想像できないような紳士的な態度でやって来た彼を、少女は祝った。

 

「フォークス!久しぶりね!」

 

 抱きつく少女の頭を撫で、フォークスと呼ばれたミュータントは答える。

 

「ああ、サリー。今度はゴスロリか、飽きないな君は」

 

 野太い声はまさしくミュータントのそれだが、声色はどんなものよりも優しい。サリーと呼ばれた少女の歓迎もそこそこに、フォークスは腰のポーチから本の束を取り出す。それは戦前のコミック。

 

「ほら、また見つけたぞ。私も楽しませてもらった」

 

 そう言って本の束を手渡されると、少女は笑みを輝かせた。

 

「ありがとう!えーっと……ジョジョって言うのね、このコミック」

 

 日本語で書かれたコミックを受け取る少女。宇宙で暇を持て余していた少女にとって、言語は壁ではなかった。

 コミックに歓喜している少女を他所に、カウボーイの元へと歩くフォークス。

 

「お前にも土産だ、カウボーイ」

 

 またもやポーチから紙袋を取り出し、それをカウボーイへ投げ渡す。彼はそれを受けとると、中身を見て口笛を吹いた。

 

「いいね、リボルバーか」

 

 中に入っていたのは、コルト社の傑作と言われる程に人気があるリボルバー、コルトパイソン。経年劣化によって表面は少しばかり荒いが、復活させられるほどには状態が良い。

 

「どこで見つけた?」

 

「キャピタルの博物館の金庫だ。道中苦労したぞ」

 

 どっしりとフォークスは椅子に腰掛ける。椅子が軋むが、それを無視してフォークスは目の前に広がる宇宙を眺めた。

 

「それで、本筋は?」

 

「成果なし、だ」

 

ため息を零してそう項垂れるフォークス。対してカウボーイはふぅん、とだけ言ってパイソンをいじる。

 

「もう10年近くになる。痕跡は一切無い、彼が歩けば嫌でも戦いになるというのに、その痕跡すらもない」

 

「西海岸にも行ったんだろう?そこで収穫はあったって話じゃ無いか」

 

「ああ。だが、時系列が合わない。もう100年も前だったりもする。彼のわけがない」

 

 彼。それはフォークスの戦友であり、カウボーイやサリー達と宇宙人からの侵略による攻撃から地球を救い、船を制圧した英雄。とある時期以降姿を消した彼を、フォークスは追っていた。

 フォークスはヌカコーラを取り出すと、栓を開けて中身を飲み干す。

 

「ウェストバージニアにも痕跡は無かった。あとは噂に聞く連邦くらいだろう」

 

「へぇ」

 

 会話は終わる。二人はしばし、自分の時間を過ごすことにした。一人は新しいおもちゃに真剣になり、もう一人の心優しき巨人は地球の青さに想いを馳せる。

 

 2287年の、年末の事だ。

 

 




サリーのドレスはローゼンメイデンの真紅を想像してください。
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