Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth   作:Ciels

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第三十三話 バレンタイン探偵事務所、調査

 

 

 ダイアモンドシティにたどり着く頃には日が暮れかけていた。Pip-boyで時刻を確認すれば、もう夜の7時であり納得もできる。しかし平和だった頃よりも随分と日が長い気がするが……200年という年月は太陽の長さまで変えるということか。

 俺とパイパー、そして……新たに加わったストロングは、一度セキュリティに全力で止められながらもなんとか街に入ることができた。きっとパイパーが上手いことセキュリティを言いくるめなければ無理だっただろう。ゲートを通り越すと、あの気弱なサリバンがストロングを見て呆れたように笑っていた。

 

「ドウモ」

 

 人の街では紳士的に振る舞え。そうすれば、ミルクに近づける。俺がストロングに言いつけた言葉。彼は素直にそれを実行し、どこで覚えたのか軽い会釈をサリバンにしてみせた。彼は大分怯えた様子で軽く手を振っていただけだが。

 

「ニンゲン、奴は怯えているぞ」

 

「スーパーミュータントが珍しいだけだ。あと、ハーディと呼べって言ったろ。人間じゃ紛らわしい」

 

 チグハグな会話をしながらニックの事務所に向かう。もしかすれば、先にアルマ達が到着しているかもしれないという希望を抱いて。きっと道中ずっとそわそわしていたんだろう、パイパーが気持ち悪いからやめてくれとせがんできた事もあった。

 ストロングを見て固まるアルトゥーロに挨拶し、裏路地に入る。しかしスーパーミュータントを引き連れた人間ってのはこうも注目を浴びるものなのか。人々の驚愕の視線が痛い。その度にストロングが挨拶するものだから尚更おかしな気分になる。シュールなのだ。今度紳士ハットを被らせるのも面白いかもしれない。

 

 ニックの探偵事務所の扉を開ける。ストロングには室内が狭いから外でお留守番させて……パイパーは妹の所に向かった。結構なシスコンぶりだ、感心する。

 

「エリー、戻ったよ」

 

 扉を潜ってそう言うと、エリーの姿は無かった。代わりに椅子にどかっと座りながら、草臥れたフェドーラ帽とハードボイルドなコート、そして無機質なボディに身を包み、煙草を咥えて新聞を広げるニックがそこにはいたのだ。俺は心の底から喜んだ。

 

「よう、一日ぶりくらいだな」

 

「アルマは?」

 

「二階の控え室さ。スナイパーの兄ちゃんは飲みに行ってる。あんたも二階で休むといい。なぁに、多少の騒音は守秘義務でしっかりと守るさ」

 

 渋い笑顔で歓迎するニックに礼を告げると、俺は足早に二階へ続く階段を登る。いても立ってもいられなかった。早く彼女に会って満たされたいという気持ちで一杯だった。

 バタンと勢い良く扉を開け、彼女の名前を口にする。

 

「アルマっ!」

 

 笑みを抱く俺の目に飛び込んできたのは、愛しの奥様……だけではなく、赤毛の、いかにも不良娘みたいな女の子もセットだった。彼女達は今の今まで着替えをしていたらしく、下着でキュートな姿だった。二人とも……ていうか俺も、目を点にしてしばらく時間が止まった。

 ようやく口を開いたのは、アルマでも俺でもなく、赤毛の女の子だった。

 

「出て行けこの変態ッ!」

 

 アイルランド訛りの英語でまくし立てると、白い肌を赤くさせて手当たり次第に物を投げてくる。俺は急いで扉を締めると謝った。

 

「す、すみません!まさか他に人がいるとは……」

 

「ちょっとケイト!あれ私の旦那よ!」

 

「あんな世間知らずそうな若造が!?」

 

 悪かったな世間知らずで。確かに戦場の事は人一倍知っているが、一般的に見れば軍人の大半は世間知らずだ。今となってはその世間すらも形を大きく変えて野蛮になっているが……

 

 

 数分して、アルマのお許しが出て室内に入室する。そこにはウェイストランドでは割と小綺麗な服に身を包んだアイリッシュの女の子と、新品の戦闘服に着替えたアルマがいた。そろそろアルマに普通の服をプレゼントしなければ……確か服屋がここにはあったはずだ。手先は器用だから自分で作っても……

 と、二人に見とれているとアルマが言った。

 

「ちょっと、そんなに見つめちゃってどうしたの?一日会えなかっただけで恋しくなっちゃった?」

 

 いたずらっ子のように笑うアルマの言葉に、俺は頷く。

 

「めっちゃ会いたかった。無事でよかったよ……ハグしていい?」

 

「んふ、いいよ。ほら、おいで?」

 

 まるでそういうプレイのように俺はアルマに抱きつく。ああ、すごくいい匂いだ。落ち着いて、それでいて興奮する。俺の性癖は普通だが(俺はそう思っているが、特殊部隊にいた時はお前はやばいと言われていた)、奥さんにこうする事くらい許してほしい。誰も損しないだろう?

 だが真横のケイトとかいう子はそんな俺をゴミを見るような目で見ていた。羨ましいか?ここは俺の場所だ。

 

「あー……あたし、下にいるから。あとはお好きにどうぞ」

 

 気を利かせて……いや辟易して部屋から出て行くケイト。俺は存分に彼女の匂いと感触を確かめると、再びしっかりと向き直る。

 

「心配したんだよ。でも本当……無事でよかったよ」

 

「こっちも同じ。お疲れ様、ハーディ。ね、誰もいないからさ。キス、して?」

 

 多分この時の俺は心底気持ち悪い顔をしていたに違いない。満面の、スーパーミュータントにも劣らない破壊力の笑みで彼女の口を貪った。碌に歯も磨けていないからきっと臭いが、それでも彼女は嫌味の一つも言わない。でもなんでだろう、彼女の口はいつでもミントのようないい匂いがする。

 

「ぷはっ……もう、甘えん坊だね」

 

「なぁアルマ、いいだろ?しよ?ね、しよ?」

 

 きっと部隊の奴らに見られたら今後の付き合いについて考えられるくらい気持ち悪いが、カハラ家では普通の光景だ。醜い欲求にもアルマは肯定してくれる。それどころか、私もしたいと言ってくれて……

 きっと、本当に醜い獣はミュータントでも放射能でもない。人間なんだろう。この日、俺は一晩中探偵事務所の建物を軋ませた。ニックは笑い、ケイトは騒音のせいで寝れず、俺たちは満足して勝手に寝付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だぁから!この中にボスがいるんだって!」

 

「ドウモ」

 

 早朝、バレンタイン事務所前。流石のダイアモンドシティも朝だけは静かだが、今日ばかりは男の怒るような声が響いている。マクレディだ。

 バーで飲んで朝帰りした彼が事務所に戻ると、扉の前には門番のようにミュータントが立ちはだかっていたのだ。夜に妹とヌードルを食べるパイパーを見たから自分のボスが帰還したのだと分かっていたし、彼女からヤバイのが仲間になったと聞いてはいた。だがまさかミュータントだとは。おまけにさっきからドウモしか言わない。一体自分のボスはこのデカブツに何を仕込んだんだ。

 

「そもそも!お前なんでドウモしか言わないんだ!」

 

「ドウモ」

 

「ヌードル出すタカハシの方がよっぽど使えるぞ!」

 

「ドウモ」

 

「あああああああ!ぶっ殺すぞ!」

 

「やってみろ、ニンゲン」

 

「喋れんのかよ」

 

 と、そんな朝からエネルギーを使うマクレディの前にパイパーが姿を現わす。彼女はあくびをしながら二人のやり取りを呆れた目で見ると、言った。

 

「ストロングおはよう。あんたもね、呑んだくれ」

 

「そんなに呑んでない。それよりも、こいつをどうにかしてくれ。今にも頭を吹き飛ばしてやりたい」

 

 そう言うと、パイパーが仲裁に入る。と言うよりも、頼んだ。

 

「ストロング、ブルーは中?あんたはお留守番なのかな?」

 

「ニンゲン……ハーディは中だ。オレは狭くて入ると邪魔になるらしい」

 

「そ。じゃあ入れて。この口の悪いスナイパーさんもね。ブルーのお友達だから」

 

 そう言うと、ストロングは横に逸れて扉を開けた。まるでボディガードだ。マクレディは心底疲れた様子でパイパーに続いて中へと入る。と、真横を通り抜ける時にストロングが言った。

 

「おい、スナイパー」

 

「ああ?」

 

 先ほどまでとは違う。ストロングの目つきが戦士の物になっていた。彼は見下ろすようにマクレディを睨む。

 

「見覚えがある。キャピタルにいただろう」

 

「……へぇ。お前もあそこにいたのか」

 

「ストロング、一度見た敵を忘れない。お前、ストロングの兄弟を撃ったな」

 

 いつでも腰のピストルにアクセスできるように身構えるマクレディ。彼は獰猛に笑った。

 

「さぁな。ミュータントなんて殺しすぎて忘れちまったよ」

 

 しばしの沈黙。ストロングは鼻で笑うと言った。

 

「良い腕だった。いつか狙撃を教えろ」

 

 思わぬ回答にマクレディは腰の力が抜ける。まさかミュータントに賞賛されるとは。マクレディは力を抜き、

 

「生憎、オレも教えて貰ってる最中さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝、バレンタイン探偵事務所。ストロングを除いた俺のパーティが全員集まって、ニックを中心に会議のようなものを開いていた。実際には、ニックの聴取なのだが。

 エリーがニックの隣で事務仕事をこなし、長であるニック本人はパブリック・オカレンシズの朝刊を読む。しかもコーヒー片手に。刑事みたいだなぁなんて考えながら、俺は痛む腰(察して)を他所に会話を始めた。

 

「ニック、早速で悪いが……」

 

 そう尋ねると、ニックは理解したように頷いた。きっと事情はアルマが話していたのだろう、手間が省ける。

 

「要件は奥さんから聞いてる。息子さんに起こった悲劇に関して気持ちは察するよ。お代はいらん、助けて貰った礼さ」

 

 俺は感謝の言葉を述べる。金にガメツイウェイストランダーとは違い、機械の身体の探偵には情があるようだ。

 

「さて、まずは情報を整理しよう。あんたらの見聞きした事すべてを、順序を立てて話してくれ」

 

 そうして、俺はあの忌々しいVaultで起きた体験を語る。もちろんアルマと共に……できれば思い出したくない嫌な経験だが、情報を整理する上で必要だった。

 ニックはエリーにメモを取らせながら、内容を整理した。パイパー以外、俺たち夫婦が200年前の遺物であることを驚いたが。隠しても仕方ないからな。どうせパイパーの記事でバレるだろう。

 

「ふむ、襲撃者の姿は覚えているか?」

 

 忘れるはずがなかった。ハザードスーツにハゲヅラの男。

 

「対放射能用の除染スーツを身につけた人間が複数。それの用心棒かは知らないが、利便性の高い傭兵服に身を包んだハゲ頭の……顔に傷がある男がいた。武器はスミス&ウェッソンのモデル629のパフォーマンスセンタータイプ。6連発、 .44口径で6インチバレル。木製グリップでレイルは無かったが、よく手入れされてた」

 

 それを聞いて、ニックとエリーが顔を見合わせる。最初は銃に関して喋りすぎたとも思ったが、どうやら違うらしい。

 

「あんた達はこの件にインスティチュートが関わってると思うか?」

 

 随分と率直な内容だった。俺たち夫婦は目覚めて日が浅い。もう年越しが近いが……まだ知らない事ばかりだ。

 

「分からないが、技術力は高いだろう。あのハザードスーツはどう考えても真新しいし統制が取れていた」

 

 ニックはエリーになにかの照合を取らせる。エリーはしばらく何かの書類を眺め、頷いた。なんだと言うのだろうか。

 

「なぁ、ケロッグって傭兵に心当たりはあるか?」

 

 なんだそのシリアルみたいな名前の奴は。俺はアルマと顔を見合わせる。どうやら彼女も知らないようだ。続いて仲間達にも確認を取ったが、マクレディだけは名前は聞いたことがあるようだった。

 

「確か、腕利きの傭兵だって風の噂で聞いたぜ。だが、奴は噂の類に過ぎないんじゃなかったのか?この噂だって随分古いもんらしいし」

 

 ニックは頷いた。

 

「その通りだ。エリー、詳細を」

 

「はい。ケロッグはここダイアモンドシティに家を借りているとの情報があるの。たまにしか姿を現さないらしいけど……でも、そこに住んでいるのは彼だけじゃない。10歳程度の男の子も一緒よ。顔が似ていないから親子ではないらしいけど」

 

 ショーンだ!俺とアルマの声が重なった。そんな夫婦をニックが宥める。いつのまにか鬼の形相になっていたらしい。

 

「まあ待て、仮にそうだとしても年齢が合わない。誘拐されたのは赤ん坊だ」

 

「私たちはコールドスリープされてたんだよ、もしかすればズレがあるかも」

 

 アルマの言葉には信憑性があった。そうだとすれば、奴は俺たち家族から10年の思い出を奪い取ったと言う事だ。許せなかった。妻を撃って息子を奪っただけでは飽き足らず、年月までも奪うとは。

 

「とにかく、調査が必要だ。エリー、奴の家の場所は?」

 

「ダイアモンドシティの外れにあります」

 

 俺とアルマは立ち上がると、部屋を出ようとする。ニックがそんな俺たちを止めた。振り返れば、タバコをポケットに突っ込んでリボルバーをホルスターに収めている。同行するようだった。

 

「まぁ待て。余所者が単体で部屋を物色したとあっちゃあ事だ。俺も行けば怪しまれる事は……あんまりないだろう」

 

「すまない」

 

 いいんだ、とだけ言ってニックが先導する。俺はマクレディとケイト、そしてパイパーにここで待てとだけ言う。だがパイパーだけはじっとしていられないようで、勝手について来るようだ。

 

「記者として見過ごせないだろう?」

 

 そう安心させるように笑い、彼女はウィンクする。本心では違うはずだ。彼女は口こそ悪いが、善人だ。きっと俺たちを放って置けないんだろう。

 俺たちはケロッグの家へと急ぐ。手段を選んでいられるほど、今の俺たちは冷静では無かった。必要ならば無断で立ち入るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハーディ、出かけるのか?」

 

 外へ出れば、ずっと立ちっぱなしで待っていたストロングが急ぐ俺たちに話しかけて来た。アルマとニックはうわっと驚いていたが、事前に彼の事について話していたので事なきを得る。下手すればうちの奥さんが撃ちかねないだろう。

 俺は頷き、立ち去ろうとしたがそれを意に介さず続けて彼は言った。

 

「本当に優しさのミルクを……オマエは見つけられるのか?」

 

 と。俺は立ち止まり、振り返って真剣な眼差しで言った。

 

「それはお前次第だ。簡単に手に入るものじゃないのは分かってるんだろう?」

 

 ストロングは何も言わない。また元どおり、立ち尽くすだけだ。

 予想だが。ストロングはもう分かっているのだと思う。人間の優しさのミルクなんてものは無いのだと。そんな魔法のような物はハナっから存在しないのだと。それでも俺について来たのは……なんだろうか。

 あいつはスーパーミュータントだ。だがなぜだろう、ストロングには知性が感じられる。他のミュータントには見られないような何かを、俺は感じるのだ。

 

「まぁた変な奴に目をつけられたね」

 

 呆れたようにアルマが言う。

 

「いつも通りさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケロッグの家は遠くない。そもそも野球場程度の規模しかないダイアモンドシティには遠い場所はないというのが感想だが。歩いて5分もかからない、少しだけ高台の場所にそこはあった。

 行き止まりにあるから人気も無い。ここに用がなければわざわざ来ないような場所は、隠れ家には向いているのだろう。外と異なってレイダーもいないし。

 

「鍵は……掛かってるな。それもキツめの奴が」

 

 早速扉を開けようとするニックが鍵を調べる。彼は得意のピッキングを試しているが……どうやらかなり強固なロックらしい。Vaultで見せたようなキレッキレの解錠はできないでいた。

 やはりと言うべきか、ここで痺れを切らしたのはアルマ。手先が器用な彼女は自前のピッキングツールを取り出すと、細かい作業に苦戦する老兵を制した。

 

「私に任せなさい」

 

 こういう時、彼女ほど心強い人間はいないと思っている。ニックと一緒に周辺を警戒しながら彼女が鍵を開けるのを待つ。しばらくして……というか1分も経たずに、彼女は喜んだように俺たちを呼んだ。

 

「開いたよ。ヘアピンとドライバーだけがピッキングじゃないってこと」

 

「なら今度教えてもらおうか」

 

 自信満々に言うアルマにニックは大人の対応をする。うちの嫁さんは意外に子供なところがあるから。

 ともあれ、鍵を開けてしまえばこっちのもの。念のためにアルマとニックに扉から離れてもらう。奴は傭兵だ。なら、何かしらトラップがあっても不思議ではない。

 慎重に、少しずつ扉を開けていく。赤外線タイプのトラップなら無理だが、ワイヤートラップ程度ならばこうすれば気が付ける。ゆっくりと、扉の重さを確かめるように。

 だが、俺の考えとは裏腹に扉に罠らしいものはなかった。念のためにサーマルスコープを取り出して室内を見てみるが、それらしいワイヤーや赤外線は見えない。本当に何もないのか……?

 

「クリア。中に入ろう」

 

 俺を先頭に、一団は中へと侵入する。銃を構え、いつ何時襲撃されてもいいように。しかし本当に何も無かった。まるでこれじゃあただの家だ。隠れ家らしくない。

 

「ふむ。しばらく誰も使っていないようだな。汚れ好きの割には整頓されている」

 

 埃の蓄積具合を調べるニックが言う。確かに彼の言う通りで、埃は溜まっているが部屋の中の物品は綺麗に整頓されていた。もっとこう、汚いのをイメージしたんだが。

 

「さて、ケロッグについての痕跡が無いか確かめよう。奴が容易に足を残すとは思えないが」

 

 彼の指示通りに俺たちは室内を隈なく調べる。本当に、あんな汚い誘拐犯とは思えないような部屋だった。

 基本的な内装や本はすべて男性向けだ。だが、本はすべて戦前の学術書や軍事本であり、中には俺の家にもある銃の解説本まである。奴にはかなりの知識があると見ていいだろう。

 

「銃と弾丸……懐かしい、2069年のか」

 

 痕跡を探しつつも思わず本を探ってしまう。こりゃいかんととりあえずは本をPip-boyにしまう。押収だ。

 

「ハーディ!なんかあるよ!」

 

 と、その時だった。アルマが机付近で何か見つけたらしい。俺とニックがそこへ行くと、確かに机の下にデカデカとスイッチがある……見るからに怪しいが。

 

「自爆スイッチじゃないよな?」

 

 皮肉交じりにニックが言う。俺もちょっとそうじゃないかと疑っている……赤くて丸いボタンだ。むしろ自爆以外になんかあるのか。

 

「情けない男どもね」

 

 だがそこは我が家のカミさん。臆せずボタンを押す。するとどうだろう、先ほどまで俺が探っていた本棚が自動でスライドするではないか!

 俺とニックは思わず感嘆の声をあげた。ちょっとばかり男心をくすぐるものだったからだ。俺の工房もあんな感じにしたいな。

 

「感心してないで調べるよ」

 

 呆れるアルマに促されて俺たちは部屋に向かう。隠し部屋はシンプルな、武器庫兼工房を兼ねたものだった。壁には少量のライフルが飾られており、よく手入れされているのが一目で分かる。エナジーウェポンは使わない主義らしいことも。

 

「これは……」

 

 そんな中で俺は、あるものに目が行く。それはデスクの上に置かれている葉巻だった。それを拾い上げると、俺は匂いを嗅いで巻かれた銘柄も確認した。間違いない。

 

「サンフランシスコサンライツ……西海岸の葉巻だ」

 

 この銘柄はよく知っている。同僚がたまに吸っていた。生憎俺はタバコ派だったから吸う機会は無かったが。

 しかし、こいつは結構高級な部類の葉巻だ。核戦争で工場も稼働していないだろうに。奴は拘りを重んじる男らしい。

 

「葉巻か……ふむ」

 

 何か思い当たるのか、ニックは考え込む。

 

「どうしたの?」

 

「ああ、いや。もしかすれば、この葉巻は奴を追いかけられるかもしれん」

 

 なに?と俺はニックに尋ねる。

 

「訓練された軍用犬なんかは臭いに敏感だ。それを頼りに長い距離を追跡することもできる」

 

 なるほど、と俺は頷いた。確かに軍や警察なんかでも森林内での捜索にはK9と呼ばれる軍用犬を利用する。下手にテクノロジーを使うよりもよっぽど信頼できる昔ながらの方法だった。

 

「問題は犬をどうするか、だ。そこらの犬じゃ腹を空かせて襲ってくるだろう」

 

 それには心当たりがあった。アルマと顔を見合わせて、シンクロする。

 

「「ドッグミート!」」

 

 しばらくパイパーの家に預けていた愛犬の名前を、俺たちは叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケロッグの家を調べ終え、皆と合流してからパブリックオカレンシズの建物……つまるところ、パイパーの家へと向かう。そこではいつも通り、彼女の妹であるナットが新聞の販売を告知している。そしてその横には、なんだか懐かしいドッグミートが不貞腐れたような顔でこちらを見ていた。

 よく戻ってこれたな、というような顔で俺を見つめるドッグだが、アルマが彼を撫でると嬉しそうに鳴いた。どうやらアルマだけは許すようだ……この変態犬め。

 

「へぇ、シェパードか!こいつは可愛いな!」

 

 マクレディがドッグミートを見て喜び、彼を撫でようとするが……

 

「ギャンギャン!」

 

「うわ!なんだこの犬!」

 

 噛みつきはしないものの、体当たりをマクレディにかます。おまけにそれを見て笑っていたケイトにも吠えている……野蛮人は好きじゃないのかな?それ俺も当てはまるって事じゃねぇか。

 

「あらミスター、久しぶりね。新聞はいかが?」

 

「ああ、ナット。また今度な。すまないがドッグを借りるぞ……ていうか返してもらうぞ」

 

「いいわよ。ほら、ドッグミート。飼い主のところへお戻り」

 

 台から降りたナットはドッグミートを優しく撫でると、名残惜しそうにしている彼の尻を軽く叩いた。どうやら完璧に躾けていたようだ。

 彼女からドッグミートを返却してもらうと、アルマが葉巻を俺から取り上げてドッグミートに嗅がせる。なんだか納得がいかないが……まぁいい。

 

「ほらドッグ、私たちを導いて」

 

 ドッグミートはしばらく葉巻の匂いを堪能していたが、急に吠えると出口のゲートに向けて歩き出す。どうやら行き先を見つけたようだった。

 

「無駄足にならなきゃいいが」

 

「なぁにあんた、体当たりされた事根に持ってるの?」

 

「うるせぇ、お前だって吠えられてただろ!」

 

 後ろで喧嘩を始める二人を無視し、俺たちはドッグについていく……その前に。

 俺はニックに向き直り、この件についての感謝を述べることにした。彼とは一先ずここまでだろうと判断したからだ。

 

「ニック、感謝する」

 

「いいのさ。それより、ついていかなくていいのか?まぁ年寄りアンドロイドがいても戦力にはならんだろうが」

 

「そんなことないさ。ただ、あんたにも仕事はあるだろう?ここまでで十分だ、行き詰まったらまた来るよ」

 

 話していると、アルマとドッグミートに呼ばれる。いつのまにか俺が列の一番後ろになってしまっていた。

 ニックはウィンクすると、俺を促す。頷いて、もう一度だけ礼を言って俺は走り出した。きっと彼とはこの先でも世話になるに違いない。

 

 まずは、ケロッグを見つけるのが先決だ。

 

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