Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth 作:Ciels
ここで一つ、俺の職業について改めて紹介させてもらおう。前にも言ったし散々戦闘しているせいで分かっているかとは思うが、俺は軍人である。もっと言えば、アメリカ海軍に所属する尉官である。
士官学校を何とか卒業し、特殊部隊として有名なSEALsの試験を死に物狂いで通過、その後戦場を渡り歩いてからもっと高度な部隊への配置転換を行った。そう考えれば、最後にいたあの部隊は厳密にはSOCOM隷下だったから海軍じゃないんだが。そもそも、海の上よりも陸の上で戦っていた時間の方が遥かに長い。
分隊長や小隊長を経験し、作戦では大体襲撃や防衛が主だったせいで忘れがちだが、俺はもともと斥候だったりする。
斥候をする上で敵に見つからない技術だったり、逆に追跡する技術は必要不可欠だ。そうじゃなけりゃ斥候なんてやってられない。
事実、アンカレッジでは少数で敵陣地の監視や偵察、小規模な威力偵察も行っていた。
「サンフランシスコ・サンライツ……間違いない、奴だな」
俺は高架下に放棄されていた休憩所で拾った葉巻を手に、一人呟いた。
ニックと別れてから数時間、ドッグミートの嗅覚は確実にケロッグの痕跡を追跡している。葉巻をドッグミートに嗅がせると、彼は再び歩き出す。どうやら次の目的地を見つけ出したようだ。
「集合しろ、前進する。警戒方向は先程と同じ」
背後で控える仲間達に言うと、再び前進を開始した。歩きながら、アルマが寄ってきて小声で尋ねてきた。
「ねぇハーディ。重要な事聞いていい?」
「なんだ?」
真剣な声色でアルマが言う。
「私とあなた、どっちが奴を殺す?」
冷酷なスナイパーに戻ったアルマの言葉に、鳥肌が立った。
「同時に殺そう。俺も殺す気だからな」
「へぇ。じゃあ、うっかり私が先に殺しても文句言わないでね」
それだけ言えばアルマは離れてまた後方へと位置する。彼女の怒りは最もだろう。撃たれた挙句、抱いていた息子を攫われたのだ。だが、こればっかりは俺も譲れなかった。できればこの手で奴の手足を捥いで命乞いを聞いてから野晒しにしてデスクローにでも喰われればいいのだが。
「あんたら夫婦相当イっちゃってるね。同情するけどさ」
と、右を警戒していたケイトが言う。ダブルバレルのショットガンを手に、殴り合っても動きを妨げないようなコルセットと服装で身を包んだ女。アルマから事の経緯は聞いている。
「薬物中毒者に言われたくはない」
「っ、気づいてたの?」
バツが悪いという表情でケイトが俺を睨んだ。当たり前だ、コソコソ何かすればバレるってのはありがちな事じゃないか。
「皆気づいてるさ。スナイパーはディテールの差異を見逃さないものだ、手が震え出してどこかに行ったかと思えば、帰って来れば気分爽快になってるんだ……気付くなって方が難しい」
アルマ曰く鈍いマクレディさえもその事に気づいている。先程休憩した際に忠告されたのだ。悪いが、今のこの部隊に素人はいない。ケイトには行軍や戦術の教養は無いが、殴り合いに関してはプロだろう?皆、何かに秀でている。ストロングは……わからない。さっきから無言で左翼を警戒している。
「君が何をしようが自由だ。だが俺の妻に迷惑はかけるなよ」
「わかってる……!うるさい……!」
この反応からして、彼女も好きで薬を嗜んでいる訳では無いようだ。まぁ今は置いておこう。まずはケロッグだ。あいつを炙り出し、息子の居場所を吐いて死んでもらわなくては。
アサルトロンを調べる。正確には、頭だけになったアサルトロンだが。どうやらつい最近に激しい戦闘を行っていたようで、俺たちの経路上には死体や破壊された跡が其処彼処に残っていた。
アルマが簡易的にアサルトロンの頭部を修理すると、アサルトロンは発声しだす。
「エラー。深刻なダメージ、任務失敗」
「見れば分かるぜ。おいカマ野郎、お前が最期に戦った相手について話すことはあるか?」
マクレディが口を挟んだ。すぐさまアルマが睨んで周辺の警戒に戻らせる。アルマ的には、事が済んだら彼をサンクチュアリのミニットメン養成スクールにぶち込んでスナイパーとして育成するらしい。考えただけで恐ろしい。
だがマクレディの言葉を聞いていたのか、アサルトロンが喋り出す。
「ケロッグ。外見、戦闘データ共に一致……抹殺を……」
まるで遺言のように情報を開示すると、頭部だけのアサルトロンは壊れてしまった。だがこれで俺たちの進むべき道はよりはっきりしたし、間違っていない事が証明されたのだ。そしてなによりも。
「ワンっ!」
ドッグミートが何かを咥えて運んできた。どうやら葉巻らしい……どこかに転がっていたのか。
彼を撫でて葉巻を回収する。まだ灰が新しい。朽ちていないということは、つい最近吸ったに違いない。奴が近い証拠だ。
「夕方には着くだろうね」
「ああ……行こう」
俺たちは先を急ぐ。気持ちばかりが先走りしていた。
連邦という土地は……何というか、キャピタルには無い特性を持っている。キャピタル・ウェイストランドという土地は、あの最終戦争で徹底的に破壊し尽くされた場所だ。そのせいでワシントンと言えども中心街以外にまともな建物が残っていない。運良く原型が残っていても、ならず者やミュータント化した動物によって支配されているものだ。
それも、BoSの働きで大分改善されたが。
対して連邦は不思議だ。色々な建物が残っているのにも関わらず、協力しないで様々な拠点を街に作り変え、お互いが干渉しない。レイダーやミュータントは相変わらずだが、雰囲気が違うように思える。そう考えれば、西海岸もNCRなんかの大組織のせいでガラリと東海岸とは景色が変わっているものだ。
「さて……ミュータントすらも受け入れてくれる街があればいいが」
野太い声で、そして緑色の大きな指先が地図を広げる。姿を消した同志を探すために。ミュータントでありながらそこらの人間よりも高い知性と良心を持った存在。どこかのギャングチームのマークが描かれた専用の革ジャンに身を包み、左肩には空飛ぶ円盤のパッチ。右肩には87と描かれたパッチを携え。
心優しき、それでいて勇猛なフォークスが連邦に降り立つ。
心の底から後悔した。後悔というよりも、憎しみというべきか。もどかしい気持ちに苛まれながら俺は顔を歪める。
夕暮れの連邦。俺たちはケロッグの痕跡を辿り、ようやくそれらしい場所までたどり着いた。たどり着いたのだ。
問題は、その場所だった。
「クソ……セントリーボットにアサルトロンが複数……それに実弾系タレット……」
へーゲン砦。戦前は陸軍の管轄で、近くのレーダーアレイと連動していた要所の一つ。そこがケロッグがいると思われる場所だった。それはいい。隠れ家として信憑性があるし、何よりあの砦には行った事があるから土地勘もある。
問題は、その防御の硬さだ。あそこは最終戦争前に防御の再構築を行なっていた記憶がある。そしてそれは完成したのだろう。でなければ、あんなに多くの無人兵器を揃えられるわけがない。ケロッグはどうしてかあそこのコントロールを掌握し、自身の防御に転用したのだ。
「ハーディ、狙長距離撃なら一匹ずつ倒せるかもしれないよ」
「ダメだ、コントロールネットワークで繋がっている以上一体に攻撃すれば連動して対処してくる。それに、奴らを掌握しているケロッグにも気づかれて逃げられるぞ……!」
俺たちは現状、街の外れから監視している事しかできなかった。完全に想定外だった。文明崩壊後の傭兵だからどうにかなると思っていたのだろうか。それとも、今まで何とかなっていたから過信したのだろうか。どちらにせよ、これは俺の失態だった。このまま攻撃すれば全滅するのは目に見えている。だがもう目と鼻の先にいる奴を見逃すべきでもないとも思う。
双眼鏡に込める力が強くなる。皆の命を預かっている以上、無茶はできない。それはアルマも同じだった。
「ハーディ」
突然。無言だったストロングが口を開いた。思わず全員が彼に目を向ける。
「お前から、憎しみと焦りを感じる。ストロング、ハムレットで知った。恐怖、憎しみ……それで動けば、人間がどうなるのか。ストロングはスーパーミュータントだ。人間じゃない。でもお前は違う。今お前が無茶な事をすれば、ストロングがミルクを飲めなくなる。それは望まない」
冷静になって撤退しろ。そう言っているのだろうか。
俺はアルマと顔を見合わせた。彼女も気持ちを取るか現実を取るかで悩んでいた……なぁ俺よ、焦りに焦った兵士がどうなるかなんて、俺が一番よく知っているじゃないか。
「サンクチュアリに、戻ろう。そこで戦力を増強し、再度侵攻する」
一児の親としてではなく、部隊の長として決断した。悔しいが、今行ってもショーンはおろかケロッグにも会えない。
俺の決断をアルマも受け入れたようだった。マクレディも何か言いたげだが、仕方なしと言わんばかりに頷く……息子の話をしてからマクレディの様子が少しおかしい気がする。
「サンクチュアリ?なんか最近栄えてるって言うじゃない。あそこから来たのね」
事情を知らないケイトが口を出す。そういえば、マクレディにもまだ言っていなかった。向こうに着いたら話すべきだろう、どうせいつかはバレるのだから。
俺たちはへーゲン砦を後にする。悔しさを胸に、しかし必ず殺しにくると誓い。今はその時ではない。ショーンは必ず返してもらう。
レーザーと爆発が飛び交い、それに当たってしまった不運な物体が転がる。ウェイストランドでは珍しくもない光景だが、今ばかりは規模が違った。
それは突然の事だった。いつものようにキャラバンを率いて連邦を旅していただけ。なのに、奴らはそこらのミュータントを無視して自分たちを襲ってきたのだ。
「ゾーイ救難信号は!?」
レーザーライフルを撃ちながら後ろの女性に声をかける。ゾーイと呼ばれた女性は震えながらもジャンクから作り上げた無線機を作動させ、メッセージを送信していた。
「流してるわよ!ああ神様……」
ひどい錯乱状態なのは見てわかるが、それに構っていられるほど余裕はなかった。なにせ、相手は生き物ではない。人を殺すことに特化したロボット達なのだから。黄色に塗装されたロボット達は、レーザーや火炎放射器で武装している。装甲は分厚く、手にするレーザーライフルでは傷もつかないだろう。良くて貧弱なアイボットを壊せるくらいだが、空中を浮遊する上に的が小さいせいで弾が当たらない。
「ジャクソン、後退を。私が殿を務めます」
傷ついた青いアサルトロンヘッドのロボットが言う。だが無理だ、この集中砲火の中、逃げる事はできっこない。
「エイダ……エイダ!増援が来る!どうにか」
不意に口を開いていたジャクソンの言葉が途切れる。エイダ……ロボットが振り返れば、彼は身体中にレーザーを受けて灰と化していた。その光景が、彼女の心理モジュールにどう影響したのかは分からない。
「ああジャクソン!いや!来ないで!」
ロボットが我に帰るとはおかしな話だが、一瞬だけ仲間の死に気を取られていた時だった。もう一人の仲間である女性にアサルトロンが接近していたのだ。
エイダは手のレーザーピストルを撃ち込むが、戦闘用にさらなる改造を施されたアサルトロンには効果が無い。
「あああああああご、おおお……」
アサルトロンが女性に馬乗りになり、ドリルクローを彼女の腹部に何度も突き刺す。助からないとわかってしまった。エイダはそれでも突進して彼女を救助を試みたが。
あっさり返り討ちにあって今度は自分が馬乗りにされてしまった。抵抗するも、相手は近接戦のために重量を上げ、装甲も硬い。どうにもならない。
ロボットが死を直感する事があるのだろうか。だが、今エイダが感じ取ったものは明らかに死というものだろう。
アイセンサーはしっかりと、アサルトロンのドリルクローが自分の顔面に迫るのを見逃さなかった。
カンッ。
だが、クローがエイダの顔面に触れる直前にアサルトロンの動きが止まった。何かが頭にぶつかったようだった。それっきり、アサルトロンは動かない。エイダはガラクタとなったアサルトロンを退かすと、周辺を観察した。
あれほどまでに自分たちを攻撃していたロボット達が、慌てるように手を止めている。そのうち、セントリーボットが爆発した。その瞬間、エイダは確かに見たのだ。
ロボット達の背後、数百メートルの発砲炎を。
結果的に言えば、ロボット達はあっさりと片付けられた。アイボットは数度の射撃で、セントリーボットは背中のフュージョンコアを、アサルトロンは頭部を。的確に撃ち抜かれた。全て実弾。
残骸と化したロボットの背後から誰かが向かってくる……数人の、訓練を受けているであろう人間と、犬、そしてミュータント。おかしなパーティだった。
「生き残りは?」
先頭にいた東洋人が話しかけてきた。
「いえ。ジャクソン達は、あなた方の救助まで生き延びられませんでした」
そう言って、エイダは隣の灰の山と女性の死体を見る。
ロボットの感情は所詮プログラムだと笑う者もいる。だが、この時彼女は確かに感じた。
悲しみ。困惑。そして何より、憎しみ。暗い闇を得た無機物が目の前の男達に希望を見出したのもこの時だろう。
復讐という甘くて苦い、人生のスパイスをロボットが得た。奇しくも同じ感情を抱く者たちと出会って。