Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth   作:Ciels

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雪山で過ごしたりして遅くなりました。


第四話 Vaultから、夫婦で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴホッ、ゲホッ、あぁクソ、なんだ!?」

 

目が覚めて、また身体を凍えるような冷気が襲う。そんな中で悪態を吐くのも仕方のないことだったと思う。

一体何が起きたのか?確かアルマがあのハゲ野郎に撃たれて、それでショーンが連れてかれて……また冷却された。

相変わらず凍傷になりそうなくらい手足が冷たくて痛い。むき出しになっている顔ならなおさらだった。

 

またここで氷漬けか、と一人苛ついていると、変化が起きた。

 

『冷却アレイに致命的な故障、Vault居住者は退避せよ』

 

忌々しいアナウンスが装置の故障を告げ、なんとハッチが開いたではないか。

俺はすぐさまポッドから飛び降り、凍えるような寒さから解放される。手足や顔の皮膚が温まって行くのが分かった。

体の震えはまだ続いているが、アラスカに比べれば天国にも思える室温だ。

 

「、アルマ!」

 

思い出したように妻の名前を叫び、目の前で未だに閉じたままのポッドへと駆け寄る。

名前を呼びながらポッドを叩くが開く気配がない。どうすれば。

 

「クソ、この、あぁこれか」

 

すぐ横にある操作パネルに目がついた。

いくら特殊部隊出身で数々の戦場へ赴いていても、妻が撃たれて息子が拐われたとなれば落ち着いていられるはずがなかった。

無我夢中で操作パネルを弄り、OPENの文字をタッチする。正確には叩いていた。そのせいか、上手く反応してくれない。

 

「開けコラッ!」

 

口調を荒げて今度は感覚が戻った指先で連打する。昔はそこそこゲーマーだったためか、一秒間で16連打できそうな勢いだった。

三秒目でようやく反応してくれたのか、アナウンスがハッチの解放を告げる。

俺は即座にハッチ正面に回り込み、アルマが出るのを待った。

 

「アルマ、アルマ!」

 

一人慌てていると、ハッチがようやく開く。ちょうどハッチの可動スペースにいたためか、鉄とガラスの塊が俺を弾き飛ばした。

 

「痛ぇ畜生!ふざけんな!」

 

無駄口を叩きながらも後方回転してすぐに立ち上がる。

すると、ぐったりとしたアルマがこちらへ倒れこんできた。急いでダッシュしてアルマが地面に叩きつけられないように支える。

まるで事切れてしまったように動かないアルマの身体を地面に寝かせ、彼女の名前を呼びかけながら銃創とバイタルをチェックする。

 

「アルマ!おいアルマ、頼むから!」

 

冷凍されていたせいか左肩の傷口は真新しい。

意識はないし呼吸は弱いが、脈拍はちゃんとあった。

 

生きている。

だが、大口径の銃に撃たれた事もあって重症だ。幸いにして銃弾は彼女の身体を貫通していたから、摘出等の心配はいらないが、それでも肩に大穴を開けている事実は変わらない。

 

「スティムパックがいる……」

 

呟いて、俺は彼女を背中に担ぐ。

よく救急隊員が緊急患者を運ぶ方法で、だ。

ふと辺りを見回して他の冷却ポッドを確認する。そこにはついさっきまで一緒にVaultへ降りてきた住民たちが、同じように眠らされていた。

だが、彼らを目覚めさせるのは後だ。

 

機能している扉を経由しポッドのフロアを出て、廊下を歩く。

最近妊娠の影響で体重が増えたことに悩んでいたアルマはダイエットしていたおかげで担いでいてもなんともない。

背中には相変わらず柔らかい感触があるが、今は気にしている余裕はなかった。

 

不意に、廊下の窓ガラスを何かが横切る。

驚いて身をかがめ、その正体を見て俺は驚愕した。

 

ローチだ。

あの、不快で見ただけで逃げたくなる虫が、窓ガラスの向こうにへばりついている。

しかも、尋常じゃなくデカかった。犬と同じくらいのサイズだ。

 

「うっわ!」

 

気持ち悪さに身が震えた。

幸いなことにローチはこちらに気付かずに何処かへ行ってしまったので、安心だ。いや、あんな化け物がいるんだから安心ではない。

 

「マジかよ……クソ」

 

すっかり口癖になった汚らしい言葉を吐き捨てながら、俺は廊下を進む。

するとスタッフの作業室であろうへやへとたどり着いた。

一度彼女を降ろし、手頃な椅子へ座らせる。意識はやはり無い。

とにかく衣料品がないか、机や棚を探る。まるで泥棒のように棚を開けっ放しにしてめちゃくちゃにしていると、それはあった。

 

スティムパックだった。

 

「よし!よし……」

 

目的のものを見つけ、希望が湧いてくる。

まだ未使用なようで、その注射器型の医療器具は真空パックされている。

 

スティムパックというのは、割と身近な医療用注射器である。形は金属の注射器に空気入れのようなメーターが付いていて、対象に刺してボタンを押すと中身の薬とナノマシンが身体に流れ込む。

このナノマシンはもちろん医療用で、最新の科学が詰め込まれており、数秒で大抵の傷は跡も残らずに完治させる。

さすがに死人や取れた手足は元には戻らないが、指くらいなら時間をかけて再生可能らしい。俺も軍用のやつ(スーパースティムパック)にお世話になった。

 

封を切って、注射器本体を取り出して針を覆うチューブを外す。

メーターを確認して中の注入圧力が問題ないことを確認すると、スーツの上からアルマの左腕に突き刺した。

 

「あ、ぐ、うぅ」

 

一瞬アルマの顔が苦痛に歪むが、それもすぐに収まった。

そして、温まった事によって血を流していた傷口が塞がり、跡もなくなる。

これで良し。良しなのだが、問題もあった。

 

スティムパックは、身体のエネルギーや血液を燃料にして傷を治す。

すると、体内のエネルギーや血液が急速に奪われ、貧血などを起こすのだ。

だからスティムパックには輸血パックが欠かせない。

まだアルマは目を覚ましていないが、むしろ都合が良かった。経験上、撃たれたりして意識を失った後に起きると、そのショックのせいかパニックを招く。俺もなったことがあるし、なってるやつもたくさん見てきた。

大の男でこうなるのだから、いくら女性がストレスに強いからと行って戦場から離れて一主婦になったアルマもおそらくそうなるだろう。

 

「……アルマ、ちょっと待っててな」

 

目を瞑る彼女にそう言い残すと、俺は半分壊れた拳銃(グロック)を手に部屋を離れる。

化け物が徘徊している以上、下手に連れて歩けない。

 

部屋を出て、拳銃(グロック)のスライドを引く。弾丸を発射する主要な部分は壊れていないようで、弾薬はすんなりと薬室(チェンバー)に装填された。

この拳銃はコンシールドキャリー(隠し持つタイプ)用で小型なので、その分装弾数と弾薬の威力は9mm弾や10mm弾に比べて劣る。

それでも人体に対しては猛威を振るうが、あんな気色の悪い化け物に通じるかは分からなかった。

 

また廊下を進むと、あの化け物はいた。

当然のように廊下を闊歩し、黒塗りのボディが怪しく光る。

十メートルもない距離なのにこちらに気づいている様子はなかった。

大型化したことで、一部の感覚やらが退化しているのかもしれない。

 

俺は慎重に化け物を狙う。

備え付けのサイトに、その体が重なると、人差し指をトリガーガード内に入れて引き金を絞った。

 

パンッ!という軽快な音と共に、.380ACP弾がローチの頭にぶち当たる。

弾け飛ぶ頭。だが、ローチはそれだけでは死なず、もがいて金切り声をあげていた。

発射音で痛む耳を無視してすぐに次弾を叩き込もうとするが、拳銃(グロック)のスライドが完全に閉じていない事に気がついた。閉鎖不良だった。

 

「クソ……」

 

スライドの後ろを叩き、完全閉鎖させる。銃というのは殆どが、こうして完全閉鎖しないと撃てない仕組みになっている。もし閉鎖しきらないで弾薬のパウダーが弾ければ、発射ガスなどが薬室(チェンバー)から射手の顔に飛んで来て危険だからだ。

 

今度こそ撃てるようになった拳銃(グロック)の引き金をまた引く。

今度こそ軽快な音を乗せて飛び立った弾丸は、化け物を仕留めた。

それでも気を抜かずに、銃を構えたまま近寄る。

 

「……死んだか?」

 

試しにそばにあったドライバーで突いてみる。

完全に動かない。とうとう銃を降ろした。

 

「なんなんだよ……」

 

いやマジで、と付け加える。

誰がこんな悪趣味な事を考えるのだ?

虫は大嫌いだ。

とにかく、倒したそれを置いて先へ進む。

 

次に入った部屋は発電室だった。

巨大なリアクターは故障しているのか、バチバチと放電している。

そこでもあの化け物が、今度は数匹いた。

 

「勘弁してくれ……」

 

何度も言うが虫は嫌いだ。

だが、ここで倒さなければアルマを連れ出せない。

腹をくくりつつ、拳銃の状態を確認する。

 

先程ガラスを何度も叩いたせいか、フレームは少し歪んでいた。恐らくこれが先ほどの閉鎖不良の原因だろう。

マガジンキャッチを押して弾倉を取り出そうとする。

固い。スムーズに取り出せなかった。

弾倉底部には傷がある。

弾倉は金属製のインサートをポリマーが覆う構造で、簡単には壊れないが、それでも歪んでしまっている可能性もあった。

先程の閉鎖不良は、フレームが歪んだせいでスライドとの噛み合わせが悪くなった事に起因するものだ。それに加えて、装弾不良(Failure To Feed)もあり得ると言う事だ。

最悪だった。

 

「1911を持ってくるべきだったな……」

 

家にある、仕事でも使っていたフル金属の拳銃に想いを馳せる。

無い物ねだりしても仕方ない。行くとするか。

 

 

 

 

 

 

 

「……う、ううん」

 

ひどくふらつく頭を押さえながら、目を醒ます。

まるで二日酔いのような気分の目覚めは、言うまでもなく最悪だ。

私は今、椅子に座っている。

記憶だと、確かあの除染ポッドに見せかけた何かにいた筈だ。それで、あのハゲ頭に撃たれて……

 

「そうだ、ショーン!」

 

そう。奴らにショーンを奪われた。

旦那は今にも泣きそうな顔でこちらを見ていて、一緒になって罵倒して……

それで撃たれたのだ。

瞬間的に判断して即死を免れたのは、やはり経験が役に立ったのだろう。

これでも昔は若くしてスナイパーをしていたし、それ以外の任務にも付いていた。

ハッとして、左肩の傷を確認する。

しかしそこには、.44口径の傷はない。

服はぽっかりと穴が開いているが、それでも傷は綺麗さっぱり残っていなかった。

 

 

「ハーディ……どこ?」

 

旦那の名前を呼ぶが答えは返ってこない。

何かないか辺りを見回す。机や棚は荒れていて、何かを探していたことが見て取れる。

そして、足元にスティムパックとその外袋が散乱していた。

 

ハーディだ。

彼が私をここに連れ出して治療してくれたのだ。そう確信した。

だが、それならなぜ今ここにいないのだろうか。

はっきり言って彼は過保護で、こんな場所に妻一人残すような人間ではない。

前だって、町に買い物に出た時に後ろからこっそり付いてきて、ナンパしてきた男を裏で締めていた。ちなみにナンパは簡単にいなしてみせた。

 

「血が……足りてないんだね。それとカロリーも」

 

立ち上がり、ふらつく自分を分析する。

というか、スティムパックを使ったんだから当然か。

深呼吸してリラックスして、顔を叩いて気合を入れる。

よし、動ける。

 

決心して、何か武器になるものはないかと辺りを見回す。

あった、工具箱。

鍵がかかっているが、関係ない。

髪に差していたヘアピンを取り、鍵穴に突っ込む。そしてスティムパックの針も一緒に突っ込んでガチャガチャと探った。

カチ。

心地よい音と共に、ロックは簡単に開いた。良い子は真似しちゃダメだぞっ。

 

「ドライバーにモンキーレンチ、それとラチェットスパナ。うん、無いよりマシだね」

 

拾い上げて、ドライバーとラチェットスパナを腰のベルトに挟む。

もしかしたら、さっき自分を撃ったハゲ頭やその仲間がいるかもしれない。

ハーディはグロックを持っていたけど、守れられてばかりの女じゃないことは彼が一番わかっている筈だ。

 

行かなきゃ。

昔の感覚が少し蘇り、心なしか心拍数が下がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもうキメェ!」

 

俺は俺で、大変だった。

一匹目はリアクターの放電で勝手に死んで、二匹目は射殺。

だが、三匹目からこちらを完全に捉えて攻撃してきたのだ。

避けて反撃に移るも、あの野郎壁を這ったりちょこっと飛んだりしてすぐに距離を取る。

こちらも無駄に弾薬を消費してしまって、慎重になりすぎていた。

こいつら早いから照準が付け辛い。

 

そうしている間にも、またローチは飛びかかってくる。

 

「うおうおうお!?」

 

サッと避け、距離を取る。

残弾は残り2発。ギリギリ倒せるかどうかだった。

 

振り向きざまに拳銃(グロック)を構え、ローチを狙う。

奴も再度こちらに向かってきていた。

 

「クソッ!」

 

射撃する。

弾薬は足に当たって奴の動きを止めた。

 

「危ねぇ……」

 

足がもがれて金切り声をあげるローチ。

トドメを刺そうと化け物を狙う。

が、引き金を引いても弾が出てこない。

薬莢はしっかりと排出できていて、スライドもしっかり閉まってる。おそらく装弾不良だ。

 

「ッ!」

 

身体が反射的に弾倉の底部を叩きスライドを引いた。

そしてまた狙う。

 

その時にはもうローチはこちらに飛びかかろうとしていた。

外せない弾のせいで慎重になりすぎる。

飛びかかるローチ、身体が強張る。

 

 

「ふんらぁッ!!!!!!」

 

 

刹那、横から何かが飛んできてローチの頭に直撃した。

落下するローチに、また何かが飛んできてぶち当たる。……ドライバーかこれ?

 

頭にドライバーが突き刺さり、金切り声をあげるローチ。

 

「フンッ!」

 

と、横から急に見知った金髪美女が現れてローチの頭を踏み潰した。

 

「相手が悪かったね、ゴキちゃん」

 

「……アルマ、起きたのか」

 

それは、紛れもなく妻のアルマだった。

動かなくなったローチから足を離すと、地面にかかとを擦り付けて嫌そうな顔をする。

 

「さすがにこれだけデカイと気持ち悪いわね」

 

そう言い捨てる嫁。

かっこいい〜、しびれるぅ〜と賞賛せざるを得ない。

 

「情けないねハーディ、虫ごとき素手で挑まないと」

 

「虫嫌いなの知ってるでしょ。……大丈夫なのか?」

 

真面目に彼女の状態を気にする。

 

「まぁ、少しふらつくけど、訓練はもっときつかったし、大丈夫。……ゴメンね、ハーディ」

 

不意に、クールな笑顔を崩して謝るアルマ。

理由はなんとなく分かった。

 

「ショーン、取られちゃった」

 

涙ぐむ妻の肩を抱く。

そして優しく頭を撫でた。

 

「お互い生きてる。ショーンも、死んだわけじゃない。だから大丈夫さ」

 

「うん……ゴメン」

 

そうだ、まだ二人とも生きてる。

ショーンは取り返せばいい。そして、こんな事をしたハゲ頭に報いを受けさせればいいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、本当にここはただの避難シェルターじゃなかったんだね……」

 

 

監督室に辿り着き、休憩をしている最中にアルマが言った。

監督室のターミナル(コンピューター)はパスワードがかけられておらず、簡単に侵入して情報を読むことができた。

このVaultは、大雑把に言うと住民を冷凍してどうなるか観察する施設だったらしい。しかも政府も絡んでるときた。

長年この国に尽くしてきたが、こんな形で裏切られるとは。

そして最悪なのは、自分たち以外の住民は、冷却ポッドの故障のせいで窒息死してしまっていることだ。

 

俺たちは、唯一の生き残りだ。

 

「前々から政府の怪しい噂はあった。俺も知らないけどな」

 

監督室の机に置いてあったN99ピストルを軽く整備しながら言う。

最初に使っていた拳銃(グロック)はゴミ箱行きだ。

 

「酷いね……控えめに言ってもクソだよ」

 

「コラ、口が悪いぞ」

 

Vaultの実験に嫌悪感を示すアルマを注意する。口が悪いのはお互い様だけども。

新しい拳銃を組み立て、動作に問題がないことを確認する。よし、これならローチが来ても対処できる。

 

N99は10mm弾(正確に呼称するならば.40S&W弾)を使用するアメリカ軍正式採用の汎用拳銃だ。

ユニークなスライドを備えるこの拳銃は、数年前の資源不足のせいで生まれた。重要な資源であるポリマーなどは使用せず、金属とウッドで構成されたこの拳銃は、なかなかタフで実用的だった。

しかしフルメタルの大型拳銃特有の重さはデメリットで、携帯していると疲れるから俺はあまり使わない。

それに、アラスカなんかだと寒さのせいで金属と皮膚が張り付く。

だから俺はフレームがポリマー製の拳銃(グロック)を使っていた。もっとも、拳銃(サイドアーム)が使われるケースは少ないのだが。

このモデルは民生品で、4.3インチの銃身を備えている。レーザーモジュールやトリチウム入りのサイトも無ければ、グリップも簡素なものだ。おそらくVault-tecの支給品だったんだろう。一番安いモデルだが、アフターパーツがそれなりに豊富で色々な用途に使用できる。だから汎用なのだ。

確か頑丈だけどクッソ重いドットサイトもあったな。

構造をシンプルにしたためにシングルアクション、しかも民生品だから弾倉はシングルカラム対応で装弾数は薬室(チェンバー)含めて9発だ。

 

「ハーディ、めちゃくちゃ説明したそうな顔してる」

 

「……そうか?」

 

ふと、アルマに心を察せられた。

ガンマニアでもある俺は、銃を見ると心の中で解説してしまう癖がある。

口を開けばオタク(ナード)特有の早口で説明するもんだから、チームメイトから皮肉でプロフェッサーなんて呼ばれる事もあったなぁ。

 

さて、銃のチェックが終わった俺は他に弾薬がないか棚を調べる。

調べようとして、足元に転がる骸骨に目がいった。

 

恐らく、ここの監督官の骸だ。

複雑な感情が巡る。

こんな実験をしやがってとか、こんなに白骨化してると言うことは、何年経ったのだろうか、とか。

きっとアルマも同じだろう。

 

Who knows(知ったこっちゃないよな)……」

 

自嘲気味に笑いながら、棚を漁ると弾薬とスティムパックを見つける。

残念ながら、アルマの分の拳銃は無い。

その分俺が守らなければならない。

 

「さて、そろそろ墓荒らしもやめてここを出ない?スティムパックの副作用でお腹空いちゃった」

 

アルマが提案する。

確かに、彼女の事を考えると食料を調達しなければならない。あのローチどもは何がなんでも食わせたく無いし。

 

「扉をあけてくれ。先に見て来る」

 

ロックされている扉の前でそう言うと、アルマはターミナルを弄る。

数秒後、扉は開いた。ちらりと廊下を見ると、奥にはそれなりに多い数のローチが。

 

「中国人よりも厄介だな」

 

「ふふ。気をつけてね」

 

「十分気をつけてるさ」

 

お互い言葉を交わすと、俺は廊下に侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関ホールに着いた頃には、すっかりローチにも慣れていた。

淡々とローチの頭を撃ち抜き、障害を排除する。.40口径の弾丸ならば弱点を撃ち抜けばローチを一撃で葬れる。

今、俺たちはちょうどVaultスーツを受領した場所にいる。このフェンスさえどうにかすればエレベーターを動かして外へ出られる。

 

「そっちはどうだ?」

 

エレベーターの操作パネルを弄るアルマに問いかける。

 

「ダメ。腹立つ」

 

問題が発生していた。

肝心のフェンスが動かせないし、エレベーターも同じだ。

 

「アクセスは出来そうか?」

 

「それもダメ。普通のパスワード式じゃなさそうだね」

 

それを聞いて考える。

通常のロックされたターミナルなどのコンピューターは、パスワードさえ入れれば突破出来る。パスワードが分からなくても、頭を使えば何とか突破出来るのだが、それができないから困っているのだ。

 

「なんかプラグが刺せそうな穴があるんだよね……きっとそれが鍵なんだよ」

 

「ふむ……」

 

と、すればそれを見つける必要があるな。

 

「……あー、あー!これだ!」

 

急にアルマが叫び、転がっている骸骨に駆け寄る。

どうしたのかと俺も駆け寄れば、アルマは骸骨の手から何かをぶんどっていた。

 

「おい、あんまり死体を無碍に扱うなよ」

 

「言ってる場合?それよりも、ほらコレ!この端末!」

 

アルマが手にしているそれは、Vaultのスタッフが付けていたコンピューターだった。

 

「あー、Pip-boy?」

 

見覚えのある機械だった。

確かロブコ社製のウェアラブルコンピュータだったか。一度うちの部隊で試験運用していたからしっている。と言っても、俺が使ったのはこれの試作型でもっと大きくて、改善の余地ありと評価したが。

 

「ここ、プラグになってる」

 

アルマがPip-boyの側面から白いプラグを伸ばす。

確かに形状がパネルの穴と一致していた。

 

「試して見るね」

 

「いや、危ないから俺が」

 

Shut up, Hardy.(お黙りハーディ)

 

マイペースな嫁に制される夫。

アルマが左腕にPip-boyを装着する。

止め金具をパチリと締めるが、動かない。

 

「電源はっと……」

 

そうやって電源らしいボタンを探しているアルマ。前に俺が付けた時は……もう電源ついてたな。

 

「痛っ!」

 

「おい!」

 

突然アルマが左腕を庇うように痛がる。

慌てて駆け寄るが、彼女はもう痛くないようで首を傾げていた。

 

「なんだろ、チクっとした。注射みたいな……」

 

と、その時。

Pip-boyのディスプレイに変化があった。

プログラムなのだろうか、訳の分からない文字列が下から上へと流れていく。

数秒すると、何やらVaultスーツを着た男のアニメーションが表示され、テクテク歩いている。

あ、これマスコットのVault-boyだ。

 

「ロード中なのかな」

 

「さぁ。俺が使ったのはもっとシンプルだったよ。試験用だし」

 

しばらく歩く様を見ていると、Vault-boyがサムズアップする。しっかしいつ見ても腹たつ顔してるなこのキャラ。

 

「あ、画面変わった!」

 

はしゃぐアルマ。

意外とこういうのに目が無い一面もある。コズワースも彼女が欲しいと言って買ったし。

 

画面には、先ほどのマスコットが歩いているのに加え、各種の健康状態などが事細かに表示されていた。

前に使用した時は残弾管理と、もっと大雑把なバイタルチェックしかなかったな……もしや、さっきの腕の痛みは神経接続か?だとしたら、この情報量にも納得できる。

 

「おーすごい、色々載ってるね」

 

「技術はすごいなぁ。このINVENTORYってのは?」

 

俺も興味津々になって彼女の腕の画面にかじりつく。

気になった表示を指差して、彼女に選択させる。すると画面が切り替わり、工具の名前が表示されていた。

 

「あ、これ私が今持ってるものだよ!」

 

確かに彼女が言っている通りだった。

だとすれば、持ち物を把握してくれるってことか。

 

「あれ、セキュリティバトンって書いてあるけど持ってたっけ?」

 

ふと、持っていない筈のものがWEAPONのリストにある。

 

「なんだろ、ちょっと選択してみよっか」

 

アルマがボタンを操作し、セキュリティバトンを選択する。

 

刹那、

 

ポンッ!

 

目の前に、警備員などが持っている伸縮式の警棒が現れた。

驚いて後ずさる。空中にいきなり出てきたのだから驚きだ。

 

「うお!なんだ!?」

 

「え、もしかしてこれ……四次元ポケット!?」

 

二人して驚く。

漫画オタク(ナード)のアルマが昔の漫画の道具を連想するが、確かにそれに似ている。

 

「そういやテスラサイエンスに載ってたな。四次元空間に物をしまっておけるものを開発中だとか……」

 

結構そういうオカルトや夢の科学が好きだから、よく覚えている。

チームメイトにも、四次元ポケットがあれば重いバックパックを背負わなくて済むなんて言った記憶があるし。

 

「しかしすごいなこれは。……俺のもあるかな」

 

人が持っている物は欲しくなるのが人間の性。俺はそこらに横たわる骸骨の腕に注目する。

あった、Pip-boyだ。

 

しばらく新しいオモチャに熱中する夫婦。しかし、不意にショーンにも取っておこうと俺が言ったのをキッカケに、本来の目的を思い出してフェンスとエレベーターを起動させることにした。

 

 

そして、ついに。

 

耳が痛くなるくらいの警告音が響き、フェンスが開いて通路が伸びる。

そこを二人で通り、エレベーターに乗ると、上を見上げた。

 

「……サンクチュアリは、無事かな」

 

アルマが呟く。

 

「分からない。それを見にいくんだ」

 

彼女の手を握る。

反対側の手には銃を。

 

エレベーターが上がり、アナウンスが地上への歓迎とまたの利用を促すが、もう二度とここへ来ることはないだろう。

 

先に待つのは地獄か。あるいは。

 

ハッチが開き、光が漏れる。

 

眩い光の中で、俺は新たな生(New Game)を感じたような気がした。

 

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