Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth 作:Ciels
最後まで苦しみ、八つ裂きにされたであろう女。これでもかというくらいに口を開き、吐いた血は固まっている。きっととても痛かったのだろう。生きたまま腹をドリルクローで切り裂かれれば苦しまないはずはない。
山積みになった灰を見る。こっちは逆に、一瞬で死ねたんだろう。頭部、胴体、右腕部が連続的なレーザーによる高熱に耐えられずに灰と化したのだから。尋常ではない熱さはあっただろうが、それよりも先に死ねたに違いない。
「ジャクソン達は……友人達は皆様の援護まで持ちこたえられませんでした」
その亡骸達を見下ろす青い混合型のロボットが、身体に似合わない淑やかな声で発声する。その声から、やはりコズワースのように高度なAIから齎される感情が伝わってくる。俺とアルマは黙って彼女の紡ぐ言葉を聞いていた。
「私もここまでかと思いました。あなた方の救援に感謝します」
後ろで破壊したロボットの廃品を漁るケイトとマクレディを無視し、俺は思わず尋ねた。
「その、大丈夫か?」
初対面のロボット相手にここまで心配りをする自分の心理に少しばかり驚いたが、なんて事はない。彼女もまた、大切な誰かを奪われた被害者の一人なのだ。そこにロボットとか、人間とかと言った種族は関係無い。コズワースだって200年も家族である俺たちを待ってくれていたのだから。
ロボットはしばし狼狽えるように口を吃らせた。言葉を選んでいるようにも見えた。
「物質的なダメージはわずかですが、友人を殺された事に対する怒りと悲しみを感じます」
「そうか。そうだな」
俺は共感するように頷いた。彼女は骸になった友人達を眺めながら、さらに紡ぐ。論理的で理性的なロボットとは思えないほどに、今の彼女が感情的である証拠なのだろうか。
「彼らは……家族でした。ロボットの発言としては奇妙かもしれませんが」
「それは……いや、ニックもいるし」
パイパーが否定する。ロボットは、どこか自分の発言に疑念を抱いているのだろうか。だが、分かるよ。家族を失う事は何よりも辛い。自分が死ぬよりも。ストロングも何か思う所があるのか、家族と呼ばれた亡骸を強い眼差しで眺めた。
「改めて、あなた方の尽力に感謝します。友人達も、感謝しているはずです」
そう言われて、物言わぬゴミとなってしまった彼女の家族達を見た。感謝しているのならこんな顔で死ぬはずがない。きっと到着が遅れた事に対して怨んでいるだろう。ミニットメンのリーダーとして、いや人を生きる者として申し訳ない気持ちで一杯だった。
そんな時、廃品を粗方バックパックに詰め終わったマクレディが耳打ちしてきた。目から兵士特有の冷酷な感情が読み取れる。
「ボス、戦闘を嗅ぎつけてレイダーやミュータントが来る可能性が高い。離れよう」
彼の言う通りだ。立地的にこの場所はレイダーはもちろん野生の動物にすら狙われる可能性は否めない。俺は会話を一時中止し、ハンドサインで全員を集合させると命令を下達する。
「全身順序先ほどと同じ。前方警戒ストロングとドッグ。右方警戒マクレディ、左方警戒ケイト、後方警戒パイパーとアルマ」
そう指示すれば全員が頷く。あの頭が悪い事で有名なミュータントですら、優しさのミルクを追い求めるために命令に従順だ。ちなみにストロングとドッグミートは相性が良いらしい。二人とも無言で警戒に着いてくれる。
俺はロボットに再び向き直り、質問した。
「復讐したいか?」
その質問に、ロボットは少し戸惑ったようだった。だがAIの出す結論は人間のそれよりも遥かに早い。ものの数秒で彼女は答える。
「彼らのためにも、それを望みます」
女性的で穏やかなロボットの声色は、その時ばかりは感情がこもっているように思えた。
襲撃地点からサンクチュアリ・シティまでの道のりは遠くない。徒歩で移動しても二日はかからない程度だ。軍で鍛えた俺とアルマはもちろん、ウェイストランドという過酷な土地で生き延びてきた他の皆にとっても苦ではなかった。
道中の戦闘はできるだけ回避した。レイダーはミニットメンを警戒しているのか姿をあまり見せず、ヤオグアイという攻撃的な熊のミュータントを除けば野生動物も刺激しなければ脅威にならない。そもそも、こんな屈強な集団に攻撃しようとする奴がいない。本能で感じ取っているはずだ。
青いロボット……エイダは、道中彼女達キャラバンの事や、攻撃された理由を推理ながら語ってくれた。ジャクソンという技術者が率いていたキャラバンは、戦前の遺品を回収し、修復していたスカベンジャーらしく、それを生業として商売していたそうだ。連邦に来た理由も、手付かずの技術が野放しになっていたからだそうで。攻撃の危険がありながらも留まってしまった理由もまた同じ。
エイダ曰く、メカニストと名乗る正体不明の輩がこの襲撃をもたらしているらしい。彼らはロボットを襲い、それらをサルベージし、自らの軍勢に加えるのだ。道中、人間を皆殺しにして。出てきたのは最近らしく、そのせいか俺たちはメカニストの存在を知らなかった。唯一マクレディがキャピタル・ウェイストランドに同名の変態が居たと言っていたが、彼自身同一人物じゃないだろうと語っていた。
コンコードを過ぎ、レッドロケットに向けて坂を登る。
「連邦からの撤退を強制すべきでした。彼らにアップグレードしてもらったのにも関わらず、私は襲撃まで攻撃に気がつけませんでした」
淡々とした口調で、しかし明確な後悔を感じさせながらエイダは言う。
「あんたが悪いわけじゃないよ、あまり自分を責めると心を壊すよ」
アルマが彼女を慰めるように言った。だがエイダはそうとわかっても自分を責めずにはいられないだろう。俺も、アルマもそうだからだ。
ジャクソンは技術者として秀でていたらしく、エイダをガラクタのアサルトロンからここまで改修していたらしい。そして彼女によれば、ロボット作業台の設計図があるから材料と設計図さえあれば俺たちにもそれができるとのこと。彼女の気持ちを考えれば申し訳ないが、その事を聞いてから俺の中では分隊の攻撃力の強化案が湧いて出てきてしまっていた。
「まぁもっと詳しい事や決断はサンクチュアリに着いてからでも遅くない。そこでじっくり話し合って決めよう……と。ストロング、俺の後ろに」
前方を警戒するストロングに支持する。もうすぐレッドロケットが近い。ミュータントが来たとなれば、彼らも慌ててしまうだろう。ストロングは素直に後方へと移動した。
「おいおい、ありゃ要塞じゃないか。ボス、あんた一体何者だ?」
「ああ、あんたら知らなかったね……でもほんと、ブルー。こりゃ想定してたよりも凄いね」
見えてきたレッドロケットを見てマクレディとパイパーが驚く。無理もないだろう、今のレッドロケットはドッグと会った時とは別物だ。ガービーめ、ジュンのやりたい放題やったな……武装が異常に増えてる。前はあんなにタレットが無かった。
レッドロケット・トラックステーション。かつてはただの給油所だったその場所は、今ではミニットメンの旗が聳え立つ基地と化していた。
コンクリート製のフェンス、ゲートは自動で開き、その両脇には警戒用のタワー。フェンスの所々にはサーチライトと小型の実弾タレットが侵入者を待ち構えており、防御面に不備はない。夜だと言うのにこちらを照らすライトで眩しい。
「合言葉、アンカレッジっ!」
不意にゲートの歩哨が銃を構えて叫ぶ。
「空挺降下及び陸路潜入!ガービーに将軍が戻ったと伝えろ!」
そう言うと歩哨は俺とアルマの姿をようやく確認したようで、慌てたようにゲートを開けて電話機で通信し出す。それを見て呆れたようにケイトが言った。
「なにこれ?軍隊ごっこ?」
「いや……ミニットメンだ。再編されたって聞いたが、まさかボス……あんたがリーダーか?」
情報通のマクレディが訝しむような目で俺を見た。アウトローすれすれのマクレディとしてはミニットメンという存在は好まないんだろう。
「そう言う事。そしてあんたはこれからスナイパースクールにブチ込まれてあたしにみっちり扱かれるんだよッ!」
「ああくそ!そう言うことかよ!」
アルマの怒号に絶望したような表情で絶叫するマクレディ。哀れだな、彼女の教育は死ぬほど辛いぞ。
その横でストロングは何かに感心したようにほくそ笑んだ。
「ストロング、間違ってなかった」
「何がだ?」
「お前なら、ミルクを見つけられる」
こいつはそればっかりだな本当。
増えたパーティを引き連れて、俺は市長兼将軍の家へと帰宅する。俺とアルマは荷物を適当に置くと、疲れたようにソファへとどっかり座った。いや本当に疲れた。まさかの遠征になってしまったな。
未だに困惑しているマクレディとケイトに荷物を降ろして適当に座るように言う。
「その辺に荷物置いて、お前達も休んで」
「ああ……ボスが言うなら」
ストロングがソファに座っている姿は予想以上にシュールだった。しばらくすると、家族がやってくる。コズワースだ。
「旦那様、奥様!それにわんちゃんも!よくぞご無事で!すぐに暖かいコーヒーを淹れます!おや、お客様にもお淹れいたしますね!」
「頼むコズ」
自宅のソファは格別だ。パイパーは記者キャップと赤いコートを脱いで勝手にハンガーにかけると、ソファの感触を確かめた。
「すっご。こりゃマクドナゥの私物よりも高価そうだね」
「コズワースが設計してくれたんだ。あのハンディさ」
ちなみにコズワースが作る家具はこだわりと情熱のせいでコストがかさむ。そのおかげで俺たちは良い思いをしているのだが。
そんなこんなで、コズワースが淹れてくれたコーヒーを楽しみながら俺たちはしばしの休息を取った。しかしいつも思うんだが、戦場から帰ってきた後のコーヒーは最高だ。できればタバコも吸いたいが……家で吸うとアルマが怒る。あとでマクレディとパイパーを誘って吸いに行こう。
「将軍!遅かったじゃないか!」
と、そんな時。なんだか懐かしい友人が玄関の扉を開けてやってきた。将軍補佐兼副市長ことプレストン・ガービーだ。彼は記憶通りの格好で、いかした帽子を被りながら笑顔で俺とアルマと握手する。
「よう、留守番悪かったな。調子はどうだ?」
「見ての通り順調だ。カーラがダイアモンドシティと仲介してくれてな、経済も大分回ってる。もちろんミニットメンとしても手を抜いていない。近隣の住民と協力して一帯の防衛網も構築中だ。ああ、養成所も今敷地を広げてる」
どうやら俺抜きでも彼は上手くやってくれていたようだ。これ、別に俺が将軍をやらなくてもいいんじゃないか?
「だが将軍、あんたが居なかったのが少し響いてな、レイダーやミュータントの襲撃対処で自信をつけたのか、一部のミニットメンがたるみ出した。そろそろあんたが現場に戻って活を入れる番だよ」
「ああ、世の中そう上手くはいかないか」
どうやら現役引退はまだまだらしい。この調子だと次から次へとガービーは俺に仕事を振るだろうな。
「まぁ、あんた達も疲れてるだろう。色々話したい事はあるが今は……おい、こいつらはなんだ?」
と、ようやく興奮していたガービーが新たな仲間達に気がついた。特にソファに我が物顔で座るストロングに引いている。
「ああ、新しいメンバーだ。本業とは別口のな」
「それはつまり、私有部隊と?」
俺は頷いた。まぁマクレディに関してはアルマによって強制入隊させられるんだろうが。この際だ、ケイトも入れさせるか?……いや、荒れそうだな。
「この、ミュータントも?」
「ああ……まぁそうだ」
「ドウモ」
ストロングがお辞儀する。シュールな光景だ。ガービーは咳払いした後、
「まぁ、いい。不利益を被らない限りは、だが。とにかく将軍、休んだら俺のところに来てくれ。話したいことがある」
分かったと了承すると、彼は笑顔で家から出て行った。とにかく今は休もう。エイダの件もそれからだ。