Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth 作:Ciels
朝の陽気な日差しを浴び、俺達市長夫婦が不在の間に多少発展したサンクチュアリシティを、自宅の三階から見下ろす。発展といっても、俺たちが当初手がけたような街の大規模な改革ではなく、主に防衛力や商業、そして工業面においての発展だ……いやまぁ大規模っちゃ大規模だが、それでも当初の大工事から比べれば見劣りする。
まずは防衛面。これは防衛部長であるジュンの提案で、シティの周辺を防御するタレットの数が増えた。更に警備員であるミニットメンと民兵両方に配備される武器装具の質が大幅に向上したのだ。
これは直接的に、工業力の向上も意味していた。
スタージェスが技術部長を務めるサンクチュアリ工業(仮名)。どうやら数日前にミニットメン主導でレキシントンに対する大規模な残党狩りが行われたらしく、もはやコルベガに陣取る強力なボスが居ないレイダー達は最初の数回の戦闘で散り散りとなり、あの場所に秩序が戻ったそうな。
人員が足りなかったために完全制圧とまではいかなかったが、その過程で無人のコルベガ組立工場を制圧、現在では余剰のミニットメン人員が警備に着き、スタージェス監督の下流れて来た者達が工場を稼働させて工業製品や武器弾薬を作成しているらしい……あそこ車の工場だったよな?
その恩恵もあり、カーラやその周辺のトレーダーと連携してサンクチュアリ製の製品をダイアモンドシティに売り出そうとしているのだとか。うまくいけば、サンクチュアリはあっという間にダイアモンドシティを抜くだろう……立地はまぁ、多少悪いが。そうなれば道の整備や警備の強化もしなければならない。問題も一緒について来やがった。
ちなみにサンクチュアリ内にある工場は今や武器職人達が住み着き、日夜新型の武器を研究作成するための……なんだろう。ミニットメンの軍事研究所?と、なっている。俺も後々顔を出すつもりだ。
もちろんミニットメン関連についても進歩があった。
南はサンシャインタンディングスと呼ばれる元農場を制圧、技術者を送り居住地化。しかしあの辺りは野生動物やガンナーの拠点も近いため、現状ではミニットメンの前哨基地も兼ねようと計画中。北と西は山岳地帯なので何も無し、東はスロッグと呼ばれるグールが経営しているタールベリー畑とコンタクトが取れているらしく、もうすぐ派兵して彼らの問題解決に当たるらしい。ミニットメンの総員も100名まで増えた。
ガービーは俺がいなくとも、順調にミニットメンの信頼回復と領土拡大、そして民兵の充足を行なっていて安心だ。さすが副官。
装備面でも、新型のライフルや機関銃、そして装備の供給が確立されればすぐに支給して生存率と攻撃力を上げる所存だ。やっと軍隊らしくなってきたな。
そして今現在、俺はその副官を自室で待っている状況だ。昨日はてんやわんやしてて碌に話を聞ける状況ではなかったからだ。他の私兵メンバーについてはサンクチュアリ内だったら好きにしていいと言って休暇を出した。マクレディは……案の定アルマにミニットメンへと強制入隊させられた。かなり抵抗したが、キャップをチラつかせたら渋々頷く辺りマクレディだ。
「将軍、入るぞ」
ドアのノックと共にガービーが入ってくる。俺は笑顔で彼を迎えると、ソファにかけるように言って出来立てのコーヒーを彼に差し出す。コズワースが淹れるコーヒーよりも味は劣るが、連邦の中では最高級だろう。
彼も笑顔でコーヒーを啜る……なんだか慣れた様子でそれを飲む彼を見て、ここに来た当初コーヒーを飲んでいた彼を思い出した。おかしいな、こいつ前まではあんなにコーヒーを苦いと言っていたのに……たった数日で慣れている辺り、かなり飲んでたな。いや、業務に追われていてカフェイン入りのコーヒーを飲まざるを得なかったか。
「さてガービー、話とは?」
俺が話題を振る。すると彼は頷いて、いつものように真剣な顔で懐から何かを取り出した。連邦の地図だ……ボロボロだが、戦前の物だろう、丁寧にラミネート加工されている。旧ミニットメン時代の物だろうか。
「グリッドがUTM座標ってことは、元々軍事用の物か」
「それが何かは分からないが、古い軍事施設で昔手に入れた物だ。将軍、ここを見てくれ」
そうして彼が指差したのは、インディペンデンス砦と呼ばれる由緒正しいアメリカの要塞だった。ここは古くアメリカの軍事を担った場所だと聞いている……一体この場所に何があるのだろう。
「ここはかつて、キャッスルと呼ばれていた。古くはミニットメンの本拠地があった所だ」
「へぇ、歴史は巡るわけだ」
俺が感心したように相槌を打つ。正確には古い戦争の要所だっただけだが。
「それで、プレストン。何が言いたいのかは分かるが続けてくれ」
もう半分以上この話の要点が理解できてしまったが、プレストンの話を聞く。彼は助かる、とだけ言って口を開く。
「ミニットメンの人員が増えてきた事は話しただろう。あんたがいなかったこの数日で3倍以上に『膨れてしまった』んだ」
「居住スペースが足りないって事か」
彼は頷いた。
「それだけじゃない。ミニットメンは民衆の味方であると同時に軍隊だ。あんたがそうした。一箇所に要点を固めるのは得策じゃないだろう……それに、連邦の秩序を守るためにはサンクチュアリでは融通が効かないんだ。ここは連邦の最北端と言っても過言ではないだろう?」
確かにそれはダイアモンドシティへ行く際に感じた。道中無補給であそこへ行くのは骨が折れる。こんな感じで、仮に南へ進軍するとしても、どこか途中に拠点があれば心強いだろう。
「それに今のミニットメンはまだ寄せ集めの武装集団の域を出ていない。もっと勢力を拡大する必要がある……残念ながら、連邦にはまだまだ悲劇が蔓延ってるからな」
そう言うと、プレストンは一瞬表情を強張らせた。悲しみとも怒りとも取れるような、正義感が無ければできない顔だ。もう俺には無理だろう。
「キャッスルという見栄えも良い拠点を取れればミニットメンはもっと強くなれる。理由は十分だろう?……将軍、これはミニットメン副官からの進言だ。キャッスルの奪還を提案する」
力強い声色でそう言った。ふむ、と俺は少しだけ考えて難色を示す。そして質問した。
「奪還と言ったな。なんでミニットメンはキャッスルを奪われた?」
そう尋ねると、彼はああ、と忘れていたように言う。若いな、話しているうちに熱くなったに違いない。
「キャッスルがミニットメンの手を離れたのは随分と昔だ。なんでも、海から化け物が現れて撤退を余儀なくされたらしい」
「バケモノ!?レイダーとかじゃねぇのかよ!」
てっきり軍事的な衝突で追い出されたのかと……そうなりゃ口径の小さい銃火器はあまり期待できないか。バケモノ、つまりミュータント動物の耐久力は異常だからな。
「詳しい話は俺も分からない。だが悪い話じゃないだろう?聞いたところによれば、キャッスルには強力な武器が眠っているらしいし……ほら、武器と聞いてあんたの目つきも変わった」
ニヤリと笑うガービーを見て俺はハッとする。しまった、強力な武器と聞いて思わず銃オタクの血が騒いでしまったぞ。
「うーん、キャッスルなぁ〜」
俺は悩んだ。そもそもインディペンデンス砦までのルートも開拓しなけりゃならないし、かなりの人員を割かなけりゃならないだろう。そうなれば街や周辺の居住地の防御力も減る。キャッスルを奪還したとしても、そこを運用する兵力も必要で……悩ましいな。
俺は悩んで、何か良い案は無いかと街を一望した。そこには平和そのものと言って良いほどの光景が広がっている。
ジュンが各警備所を回ってコズワースと共にタレットを点検しているのだ……あっ。
「そうだよな。何も人間だけじゃなくてもいいんだよな」
「将軍?」
名案がある。いやまだ確定はしていないが、良い案であることは間違いない。
「条件がある。それが達成されればキャッスルの奪還を認めよう、俺も参加していい」
「本当か!」
俺はタバコを取り出し火をつけようとして……今は現役時代並みにおっかなくマクレディの教官として振舞っているカミさんを思い出す。やめておこう、臭いでバレちまう。
そっとタバコをポケットに戻すと、頷いた。そして新しい友人の名を出す。
「エイダの件に付き合え。キャッスル奪還はそれからだ」
翌日、サンクチュアリの小規模な生産工場。小規模といってもそれはコルベガ組立工場と比較した場合の事であり、必要最低限の物は揃っている。主に兵器開発だが。
ここでは日夜タレットの改良と、民兵が持つ小銃や装備の研究で忙しいらしい。コルベガから戻ってきているスタージェスが部下のミニットメン技術者たちと何やら話し合っていた。
いた、という過去形から分かるように、今はその話し合いも終えて……というか俺の登場ととある依頼により中断され、またまた忙しなくワークベンチを用いてデカイ機械を製造中だ。
「ガービーに聞いたが、もうすぐ車両が生産できるんだって?」
隣で部下達の仕事っぷりを眺めて時折指示をするスタージェスに話しかける。ガービー曰く、コルベガの施設を利用して、そこいらに転がっている状態の良い廃車を再利用する形で車を生産するようだ。どうやらそれは近いうちにできるとのことで、俺がいないたった数日でそんなにトントン拍子で事が運ぶのかとも疑問視してしまったが……まぁできるんでしょ、スタージェスもそう言ってるし。
「ああ、あとは生産した部品を取り付けて試験運用するだけ……なんだが、いかんせん車なんて乗ったことのあるやつがいなくてね。このままだとあんたがテストドライバーになりそうだ」
「いいね、どうせなら最初に乗ってみたい」
運転は嫌いじゃない。軍じゃ一応指揮官だったから部下が運転してくれていたお陰で家に帰ってきた時くらいしか運転機会がなかった。そもそも向かった戦場がことごとく車両に向いていなくて、徒歩かスノーモービルばっかりだったし。
と、そんな会話も束の間。優秀な技術者達はものの数分で機械を組み上げてしまったようで、責任者であるスタージェスにその事を知らせてきた。あとは本命が来るだけだが……
「将軍、連れてきたぞ……おいなんだこれは、随分デカイ機械だな!」
工場にやってきたガービーが驚く。その背後には独特な駆動音を鳴らして青いボディのエイダが追従していた。
彼女はカメラをこちらに向けて言う。
「旦那様、お待たせいたしました。ロボット作業台を作ってくださったのですね」
そう、たった今作り終えたこの機械。それはエイダの情報により作成されたロボットを改造するための機械だった。
ガービーのキャッスル奪還を飲むための条件。それはエイダが望んでいるメカニストとの対決だ。そのためにはまず、エイダを改造して火力を上げる必要があると感じた。彼女の武器は現状、非力なレーザーガンに作業用クローのみだからな。
「それでエイダ、俺はどうすれば?言われた通り資源は揃えた」
「私が作業台の中央に立ちますので、旦那様はコンソールから改造項目を選択してください。それだけで結構です。どう改造するかはお任せします」
それはなんとまぁ、便利なものだ。俺が持つロボット関連の技術は軍に入隊するまでのものだから、最終戦争前の物はほとんど分からない。
さて、早速エイダが作業台の中央に立ち、俺は技術者達の視線を背に受けながらコンソールをいじる。俺もそうだが、男ってのはいつまで経っても子供なのだ。メカなんかに関しては……
「何々……じゃあまずはレッグから改造しよう」
コンソールのタッチパネルを操作し、彼女の脚部を改造する。そうだな、今はプロテクトロンの脚を流用しているせいでみっともないから、ここはアサルトロンの物を作ろう。
項目をタッチすると、作業台のアームが動く。それらはエイダを掴み上げると、無駄なく彼女の脚を解体し始めた。
スムーズに歩く真っ赤なエイダを見て、俺は思わず子供心をくすぐられた。最終的に彼女の改造は全身にまで及んだ。まずは脚部を見ていこう。
脚部は先ほども言った通り、アサルトロンの物を作って換装。機動性よりも耐久性を重視してスカートのような追加装甲も取り付けた。更に駆動部はスタージェスの提案で最新式のものを取り付けたので、実質通常のアサルトロンよりも機動性が高い。
続いて腕部。これもツギハギのプロテクトロンのものだったのをアサルトロンの物に換装。左肩には展開式のシールドを取り付ける事によって小銃弾を防げる。左手は作業用のクローから、展開式のヒートブレード……ウェイストランド風に言えばシシケバブを装備。右手には俺の提案により武器庫から持ってきたガウスライフルを取り付けた。
2mmカートリッジ弾という専用弾薬を使用するガウスライフルは本来狙撃用の大型ライフルだ。アンカレッジ戦後期に開発され、一部の部隊に配備されたガウスライフルは所謂レールガンであり、小さな針のような弾頭を火薬と電磁加速で撃ち出す。本来ならばマイクロフュージョンセルという電源が必要だが、それはエイダの内部電力で賄う事で弾薬のみが必要な優れものになった。
ガンオタクなので長々と語るが、このライフルはヤバイ。何がヤバイって、その貫通力が異常だ。12.7mmの大口径なんて鼻で笑えるくらいの貫通力を持ち、超加速されたタングステンの弾頭は戦車の装甲を貫けるほどだ。もっとも、装甲にぶち当たった時点で弾頭がもたないが……
ちなみに人間に撃つと冗談抜きで弾け飛ぶ。俺も中国軍の将校相手に狙撃利用して弾け飛ばしたなぁ。スポッターの仲間と一緒に思わずドン引きした。ロボットなんてこいつで一発だ。最大火力で撃つにはチャージはいるけどね。
胴体は元々アサルトロンだったので、ガタが来ているパーツを取り替えて表面装甲をアップグレードしたのみだ。荷物運搬用のバックパックは物がもっと入るように交換させてもらった。
最後に頭部。元々アサルトロンだった彼女にはある機能が無かった。それは高出力レーザーを撃ち出す機能。軍事用として作られたアサルトロンは、その頭部に相手を消し炭にするためのレーザーが備わっている。長いチャージが必要だが、その威力は多大だ。今回はそれを取り付けた。
「でも良かったのか?色まで変えちゃって」
真紅のボディを誇る生まれ変わった彼女に問う。
「いいんです。これはメカニストと対決するための、決心の表明ですから」
「まぁその方が女の子らしいよ」
「……よくわかりません」
困惑するエイダ。きっと表情があったらさぞかし可愛いんだろうなぁ。
「エイダ様、旦那様は少しばかり変わり者なのであまり気にしなくてもいいんです」
と、いつのまにか隣にいたコズワースが俺をディスった。いや変わり者なのは自分でも理解しているけどさ……
「え、辛辣じゃない?」
「こうでもしないと奥様に嫉妬されますよ……!本当に怖いのは怒った奥様ですからね!」
小声でそう忠告するコズワース。なるほど、さすが家族だ。うちのカミさんの事をよく分かってらっしゃる……確かにこうでもしないとあいつは何にでも浮気を疑って殺されかねない。
「オラー!上げろー!」
一方、サンクチュアリの外れにある訓練施設ではアルマの指導の下、スナイパーとしての素質があるミニットメン達が必死に腕立てをしていた。もう何回めかも分からない腕立て伏せの中、なんとあのケイトまでもが必死に腕立て伏せをしている。
マクレディは瀕死と言っても過言ではないほど表情が死んでおり、他の隊員についてはもう地に伏せている。その彼らの前で、アルマはメガホンを口に当ててなんとか脱落しないでいる二人をどやす。
「お前スナイパーなめてんのか!女の子に負けちゃって、恥を知れ恥を!」
「ぜぁ、はぁ、ああ……」
もう動かない腕に絶望しながらマクレディは思う。
「なんで、俺がぁ……こんな目にぃ……」
「うっせーボケっ!喋れるってことは余裕って事だなっ!次は腹筋じゃコラっ!」
「勘弁してくれ……」
スナイパースクールなんだから狙撃の訓練させてやれよ。
レンジャー課程みたいですね……