Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth 作:Ciels
第五話 サンクチュアリへ、コズワース
眩い光が目を覆う。
体感的にはついさっきまで陽の光は見ていたはずなのに、こんなにも久しぶりに思ってしまうのはなぜだろうか。
手で顔を隠すようにして、眩しさを紛らわせた。それは隣にいるアルマも同じ事だ。
エレベーターが上がりきると、ようやく目が光に慣れて周りの風景が脳に入るようになる。
今一度、俺が住んでいた街や風景を思い浮かべながら、大きな不安と少しの希望を持って、高台からそれらを眺めた。
「ーー
勝ったのは大きな不安などでは無い。かと言って、少しの希望なんて心地良いものでもなかった。
絶望だった。それが、眼前に広がっている。俺とアルマは言葉を失くした。
数分も、俺たちはそれを見ているだけだった。
それがぴったりと当てはまる景色が、広がっている。
あんなに茂っていた青々しい木々が、今ではほぼ枯れ果てている。
金属製のフェンスは錆びて、崩れてしまっているものもある。
おまけに、周囲には州軍の兵士が着用している戦闘服が散らばっている。よく観察すれば、それらの中に白骨が散りばめられていて、それが元々は人だったという事が嫌でも理解できた。
ならサンクチュアリは?
崖の下を見ると、ボロボロになった家屋がやはり散見された。酷いものは倒壊している。俺の家は、辛うじて無事なようだったが、もう人が住める状態では無い。
いきなりミサイルが落ちてきて避難してみれば冷凍され。妻を撃たれ息子を奪われ。挙げ句の果てには住んでた街がゴミと化している。
地獄以外に形容できる言葉を、俺は知らない。
まるで戦場じゃないか。
「こんな、こんなことって……」
ショックを受けた様子のアルマが呟く。
いや、絶望してくたびれるのはまだ早い。
まだ彼女がいるし、ショーンもどこかで待っているのだ。
俺がしっかりしないでどうする。俺はSEALsで、一家の長だぞ。
「移動しよう。ここは見晴らしが良すぎる、危険かもしれない」
頭を仕事モードに切り替え、アルマの手を引く。彼女はふらつきながらもしっかりと足を動かしてくれていた。
見晴らしが良すぎて危険、と言ったが、もちろんそれにはしっかりと理由がある。
誰でも少し考えれば分かる事だが、人に見つかりやすいのだ。
なぜこの状況で人に見つかるのが危ないか。
それは、俺たちがVaultという安全な(結果的にはクソみたいな実験施設だった)場所へ逃げ込んだためだ。もしそれに対し、避難できずに爆発に巻き込まれながらも生き延びていた人がいたらどう思うだろうか?
極限に陥った人間には、道徳なんてものはない。恨みがあれば、簡単に人を殺してしまう。
このスーツを着ている以上、あまり目立つことはできなかった。
それでもサンクチュアリへと行く必要はある。
世界がどうなっているかわからない以上、一度家へ行き、準備を整え、手近な米軍基地へと行くのだ。
そして、ひとまずアルマを安全なところへ避難させる。
それからーーそれから。
それでは原隊復帰になってショーンを探せないかもしれない。
クソッ、どうするか。
フェンスを越え、丘を下る。
その最中、白骨化した遺体が、やはり散乱していた。
あの時スーツケースに物を詰め込んでいた住民も、今ではケースに寄りかかる骸骨にすぎない。
米軍のT-60の残骸もあったが、再起動できる状態ではないし、武装もミニガンというとんでもなく重い武器であるために持って行くことはできないし、そもそも壊れている。
「……これ、お隣さんだ」
不意にアルマが、ボロボロになったワンピースを着た骸骨の前で止まる。
俺は長いこと留守にしていたためにあまり面識はなかったが、アルマは違う。
家を空けていた間、ショーンを育てながら近所付き合いもしていたんだろう。
俯いて静かに涙を流す彼女の背中を無言で抱きしめ、そのまま強引に歩みを進ませた。
濁った小川にかけられているボロボロの小さな橋を渡り、ようやくサンクチュアリ・ヒルズへと踏み入る。
そこには以前のような、高級住宅街の面影はない。
あるのは、壊れた車に崩れた家、割れたアスファルトに倒れた電柱だった。
人の気配は無い。
「……家に向かおう。緊急時の貯蓄が地下室にあるんだ」
自分に言い聞かせるように提案した。
アルマも頷いて、晴れない表情のまま後をついてくる。
ずっと片手は
そうでもしないと不安でたまらない。
俺にとって銃は、何かに立ち向かう勇気を増長させてくれるものでもある。
ずっと銃に助けられてきた。
なるべく道の端に寄り、自宅へと向かう。
すると、家の玄関に動きがあった。
なにかがエンジンのような音を立てて出てきたのだ。
「ッ!」
反射的に銃を構え、その物体に照準を合わせる。
が、次の瞬間には俺は銃を降ろしていた。
その物体が、見知ったものだったからだ。
「コズワース……!」
そう、それは紛うこと無き我が家の
あんなにピカピカだった外装は錆びついて、中古品でもあんなにならないだろうと言えるくらい酷かったが、それでも心の底から嬉しかった。
「なんということでしょう……!本当に旦那様と奥様では無いですか!」
今まで聞いたことのないような、感極まった声でコズワースは言った。
俺とアルマは笑顔で駆け寄り、その無機質なボディを抱きしめる。
「コズ!コズ、生きてたんだね!」
「錆びだらけだぞコズ!ああクソ、よく生きてたな!」
二人して彼の生還を喜ぶ。
コズワースは家族だ。置いて行くことになってしまったが、それでも俺達はそう思っているのは間違いなかった。
コズワースはやや戸惑った笑い声を発しながらも、ジェット噴流を俺たちに向けないように調整して飛び続ける。
「ああ、私はてっきり……!心配していたのですよお二方!」
「お互い様だよ。……コズワース、今のこの世界の状況は把握しているか?」
再開もつかの間、俺は真っ先に把握しなければならないことを訪ねる。
「旦那様、一度家の中へ入ってからでもよろしいでしょうか?私としてもこの再会は嬉しいものでして……なにせ200年ぶりですから」
喜びに満ちていた心が一気に冷え切った。
いったい、コズワースは今なんて言った?聞き間違いでなければ200年?
そんなバカな。変な笑いがこみ上げてくる。
「に、にひゃ」
アルマもおかしな声を上げて信じられないという表情を浮かべている。
「……詳しい話は中で聞こうか」
そう言って、一人欠けた家族は、200年ぶりの帰宅を果たしたのだった。
「どうぞ旦那様に奥様。豆の味は保証できませんが、水は自家製の天然水です」
ソファーに座る俺とアルマに、コズワースはコーヒーを差し出す。
買ったばかりの白いカップとソーサーは、くすんでしまっていて汚いがコズワースが洗っていたから大丈夫だろう、多分。
俺は改めて家の中をぐるっと眺める。
新築で綺麗だった家は見る影もなく、ボロボロで、屋根は穴が空いている。クソ、まだローンが何年も残ってるんだぞ。
家具類も損傷が激しい。高かったのに……核爆発に対して保険は下りるのだろうか?
「ほんとに200年経っちゃったのかな」
ボソッと、俺の隣でコーヒーを飲むアルマが言った。
俺はなにも答えられず、苦し紛れにコーヒーを飲む。やや酸っぱいが、飲めないほどではない。
「さて、お二方。お疲れでしょうがお話が必要のようですので。私としてもショーン坊ちゃんがいらっしゃらない事に疑問がありますし」
と、コズワースは壊れたテレビの前に移動して言った。
そうだ、今は現状を把握しなくてはならない。
「とりあえず……その、200年ってのは本当なのか?ゼネラル・アトミックス社のバグってことはないのか?」
「旦那様、いきなり失礼ですね……まぁいいでしょう。古いクロノメーターと地球の自転のせいで細かい数字までは割り出せませんが、現在日時は2287年の10月23日であることは間違いありません」
なんということだ。
じゃあなんだ、俺はシルバー・シュラウドのラジオ放送第83話のMr.アボミナブルみたいじゃないか。……いや、つまり長いこと冷凍されてたってことだ。
「世界はどうなってるの?」
アルマが尋ねる。
「お外のゼラニウムが今なおサンクチュアリ・ヒルズの羨望の的になっている事以外は、どこもかしこもどんよりしています」
確かに家の外に植えられた観葉植物は綺麗に整えられていた。それでも前のように花は無いし、半分枯れているが。
しかし彼の回答は求めていたものでは無い。もっと具体的に質問しなければならないか。
「コズワース、誰か生存者は見たか?」
「数週間ほど前にハロウィンのコスチュームを着て走り回っていたMrs.ローザの息子です!まったく、あなた様と違って躾がなっておりません」
一人憤慨するコズワース。
俺とアルマは顔を見合わせる。
ローザの息子が走り回っていたというのはおかしい。200年も経っているのだ、Vaultに入れなかったあの一家が生き残っている事は、通常有り得ない。
やはりコズワースは故障しているのだろうか。
「……わかった、なら銃を持ったハゲ頭と、ハザードスーツを着た女を見なかったか?」
「いえ、力になれず申し訳ありません。ところで、そろそろショーン坊ちゃんの事をお聞きしても?」
何も知らないコズワースが尋ねると、俺とアルマは表情を暗くする。
しかし言わないわけにも行くまい。
「そいつらに誘拐された」
「なんと……」
信じられないという声を上げるコズワース。俺もアルマも信じたくはないが、事実だ。
気晴らしにコーヒーを飲んだ。酸っぱい。
「とにかく、生存者はいるんだな?」
話題を変える。
ローザのバカ息子が誰にせよ、生きている人間がいるという事は分かった。
「ええ。Mrs.ローザの息子以外にも、時折ガラの悪い不審者がサンクチュアリに入り込もうとしますので、追い返しています」
「そう来たか」
ガラの悪い不審者。
コズワースが追い返すぐらいにガラが悪いという事は、
誰もいない町を狙って来たのだろう。
そうなれば、こっちも準備する必要がある。
俺は立ち上がり、ごちそうさまと告げると寝室へと向かう。
「ハーディ?」
「ちょっと準備してくる。コズワース、アルマはお腹が空いてるんだ。何か作ってやってくれ……ちゃんと食えるものをな」
そう言って俺はリビングを後にする。
残されたアルマとコズワース。アルマは不安そうな顔を浮かべたままで、コズワースは軽快な返事と共にキッチンへと向かった。
コトッ、とコズワースがテーブルに皿を置く。意外と綺麗な皿は、コズワースがいつか自分たちが戻ってきた時のために磨いていたのだろうか。
皿に乗った食べ物は、壊れた冷蔵庫にあったソールズベリーステーキだった。レトルトのハンバーグステーキであるそれは、最新の科学を用いているために賞味期限が無い。でも、200年経った今でも食べられるのかは分からない。
まぁ、コーヒーも飲めたんだし大丈夫だよね。
「どうぞ、召し上がれ奥様。放射能は検出されていませんから安全に喫食できます」
「うん、いただきます」
そう言うと、ナイフとフォークで加熱されたステーキを切り分ける。
そして、一切れを口に運んだ。
「うん、おいしい」
「ありがとうございます。と、言ってもレトルトで、私は加熱しただけですが」
恥ずかしがるように言うコズワース。
確かに火炎放射器で焼くって言うのは中々にファンキーな調理だったが、それでもおいしいものはおいしい。
スティムパックのせいで引き起こされた空腹は、たちまち満たされて行く。
もともと少食だから、これでも十分だった。
「ご馳走さま、美味しかったよ」
完食し、インスタントのコーンスープを飲む。
「それは何よりです奥様。……ところで、旦那さまはやはり地下室へ?」
どこかよそよそしい感じで尋ねるコズワース。私は困ったように笑った。
「うん、多分非常食とか色々用意してくれてるんだよ。あの人、心配性で過保護だから、一人で用意したいんだろうね」
我が旦那の悪いけれど愛おしい癖を思い返す。きっとあんな事の後だから、こうして食事でもしてリフレッシュさせてくれたに違いない。彼は優しいから。過保護なくらいに。
数々の思い出に浸りながら、左手の薬指にはめられたリングを撫でる。
シンプルなシルバーのリング。
趣味の銃コレクションを売ったりしてコツコツ貯めたお金で買ってくれた宝物。
世界はこんなだけど、やっぱり結婚してよかったな。初めて会った時は頼りなかったけどね。
「クソ、高かったのに……」
と、そんな所にハーディが戻ってきた。
背中には大きめのリュックサックが二つと、両肩にはライフルが吊り下げられ、腕には大きなダッフルバックが。
きっと、武器や食料だろう。それと少々の着替え。
「よっと」
大荷物を床に降ろす。
夫は腰が痛いと言わんばかりに背伸びした。
「クッソ〜、思ったよりも大荷物になっちまった」
「早かったね。これ全部緊急用の荷物と武器?」
「うん。地下室にあるもののいくつかはもう錆びたり劣化したりして使えなかったよ」
ちょっと悲しげに言う。
そりゃそうだろう、ヘソクリまでして買ったコレクションが壊れているとなれば、誰だってへこむ。
しかも、彼は超が付くほどのガンコレクターだ。それなりに部隊で有名だったらしい。
「飯はもう食った?」
「おかげさまで」
「そう。ならちょっと手伝ってくれ、バックパックに色々詰めたい」
言いながら、彼はダッフルバックを開いた。
「
満足気にそう言って、手にしたライフルをテーブルに置く。
家の地下シェルター兼作業場から持ってきたのは、武器と弾薬、装備、食料、それと着替えなどだった。
銃集めが趣味なこともあって、武器の備えは問題無し。弾薬や弾倉もそれに付随してある程度はある。
装備も部隊で使っていたものまでとはいかないが、一般兵が使っていた物よりは数十倍質がいい。食料はこういう時のために貯蓄していた保存食やレーションがある。……もちろん、アメリカ軍以外の、だ。MREはビーフジャーキー以外口に合わない。
「うん、こっちも大丈夫だね」
隣でアルマも強化プラスチックで構成されたサブマシンガンをいじっている。
ちなみに、服はVaultスーツの上から迷彩服を着ている。どうやらコズワースがスーツを調べた結果、多少の放射能耐性があるらしい。
各地に放射能の汚染があると思われる以上、これを利用しない手段はない。
それに、もう10月も終わりを迎えているから重ね着しても問題ない。流石に動けば汗はかくだろうが、このスーツは通気性や速乾性にも優れている。
……こういうところは良い仕事してるな。
「一応油は挿してあるから動くと思うよ」
捕捉するように言う。
アルマが持っているサブマシンガンは、H&K社のUMPというものだ。.45口径、装弾数は薬室を除いて25発。全米で流通している.45ACP弾を使用するからもし弾が少なくなっても見つかる可能性がある。
セルフディフェンスには過剰なくらいだ。
一方で、俺がテーブルに置いたライフルはAR-15。資源不足になるまで米軍が正式採用していたM16ライフルの、民間モデルだ。と言っても、民間へのフルオート規制法が撤廃されてからはこいつも連発できるようになり、あまり区別はない。使用弾薬も.223レミントンじゃなくてしっかりと5.56mm弾にコンバートしている。
今手元にあるものは、銃身長が14.5インチのモデルだ。大昔はライフルタイプの銃は16インチ以上の銃身長でなければ違法だったが、それも撤廃された。
「私、迷彩服着るの久しぶりだよ」
曇った姿見の前でアルマが言う。
まぁ、彼女は軍を辞めてからは趣味程度でしか銃を触ってなかったからなぁ。
二人とも、着ている迷彩服はマルチカムというパターンの森林用迷彩だ。ぶっちゃけイラクやアフガニスタンでも使える万能さがある。ちなみに私物だ。
「どんな服でも似合ってるよ」
「あら、お上手なことで」
褒め言葉に妻はクールな笑みを返す。
やっと本調子になってきた。
拳銃も変えた。
10mmピストルはあまり好きではなかったから、保管していたSIG SAUER社のP226を持ってきた。
9mm弾を使用するこの銃は、設計こそ古いものの、大昔から海軍の特殊部隊に使用されてきた由緒正しい信頼できる銃だ。ポリマーではなく鉄やステンレスを使用したこの拳銃は、タフで正確だ。
欠点らしい欠点も無く、任務では使ってはいなかったものの、コレクションとしては銃企業の魂が感じられて大好きだった。
装弾数は薬室を除いて15発。十分な弾数だ。
アルマのもちゃんと選んだ。
彼女に預けたのは、ポリマーフレームをフレームに使っているグロック社のコンパクトモデルハンドガンであるグロック19だ。9mm弾を使用し、装弾数はエクステンションバンパーのお陰で薬室含め17発。通常のものより2発も多い。
ポリマーフレームを使った銃はフルメタルの銃よりも軽い。彼女にはあまり負担をかけさせたくないので、これを選んだ。
やはり俺は過保護だろうか。
「さて、銃は良し。食料も良し。着替えも終わった。となれば、ちょっと試し撃ちしたいかな。しばらく撃ってなかったし」
ふと、アルマがそんな事を言い出す。
確かにショーンを妊娠したり、弁護士の資格を取ったりしてて、彼女は最近撃つ機会がなかった。
更なる気晴らしも兼ねて、何か撃つのも悪くないだろう。
「なら空き缶でも用意するか?」
そう俺が尋ねると、コズワースが口を挟む。
「旦那様、それならうってつけの的がございます」
「おお、なんだい?」
気が利くコズワースだ。
「最近大型の虫が近所に出没しておりまして。害虫駆除がてらそれらをハンティングなさるのはいかがでしょうか?少々危険ですが」
前言撤回。
コズワース、俺虫は大嫌いだ。