Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth   作:Ciels

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第六話 サンクチュアリから、V.A.T.S

 

 

200年の月日は残酷なもので、人工物と自然の境界線を曖昧にする。

俺からしたら数時間前程度にしか感じないのだが、その頃には掃除が行き届いて綺麗だったはずの近隣の家は、既に崩壊が始まりつつありフローリングを突き破って草が生えてしまっている。別にネットスラングの意味ではない。

白かった壁はカビが生え、それ以上にツタなどの植物に覆われていて、手の施しようがない。

 

とにかく、時と自然は偉大だ、ということだ。

 

その自然の中にはもちろん虫も含まれている。

うちの執事ロボット曰く、放射能によって巨大化したであろう怪獣の出来損ないのようなハエとローチが、ローザの家を含めて住み着いてしまっていた。

虫嫌いの俺からすれば、この害虫駆除は非常に不快でやりたくない仕事のトップ10には入るだろう。

 

ライフルの上部レイルに取り付けられた光学照準器(ホロサイト)を覗く。

小型の核分裂バッテリーにより発光させられた赤い照準(レティクル)が、ふらふらと飛ぶハエに重なった。

引き金(トリガー)を引く。雷管(プライマー)を叩かれた弾薬が、火薬(ガンパウダー)を破裂させ弾頭を飛ばす。銃身内(バレル)を通過する弾頭が、螺旋を通って回転(ライフリング)し、銃口(マズル)を抜けて空中を飛ぶ。音速を超えた弾丸は衝撃波(ソニックブーム)を出しながら、ハエへと飛んでいき、綺麗な直線を描いてぶち当たる。

刹那、弾丸のタンブリング効果によってハエが内側から破裂し、地面へと落ちた。

数秒もがき苦しんだ後、ぱたりと動かなくなったのを見ると、完全に死んだようだった。

 

「嫌な光景だ」

 

Pip-boyのボタンを押しながら文句を言う。

今の一連の描写を、俺ははっきりと感じることができた。ハエがもがく以外は一秒にも満たない光景や感覚を、引き伸ばされたように感じることができるのは、このPip-boyの機能によるものだ。

 

Vault-tec Assisted Targetig System、略してV.A.T.S。

Pip-boyに搭載された戦闘支援システムの名称で、使用すると体内時間が引き伸ばされる上に、今自分がしようとしている攻撃の成功率や命中率が表示されるのだ。

映画やゲームなんかでよく見る超感覚の一種みたいだが、やってることは恐らく神経接続されたPip-boyが脳にアドレナリンなどを強制的に出すように促しているか、薬物を投与しているんだろう。

 

ともかくこのシステムは便利だった。

大嫌いな虫がゆっくりと解体されるシーンを見ることになるのと疲れることを除けば。

 

「でもすごいねこれ。元々は軍用で開発されてたんでしょ?」

 

呑気に、いや極めて一般的な感想をアルマが述べる。

 

「うちの部隊が試験運用した時はこんな便利なものなかったよ」

 

俺が使ってたのは単なるウェアラブルコンピュータだった。しかももっとデカイから使い物にならない。

 

「旦那様、奥様。もうあの忌々しい害虫どもの生体反応はありません」

 

シュゴーっと、控えめなジェット噴射の音と共にコズワースがやって来る。

数十分ほどかけて、俺たち2人と1機はサンクチュアリ・ヒルズの害虫駆除を終えたところだった。もういい加減、気持ち悪いだけで見ただけではもう何とも思わない。

 

「そりゃ良かった。どうも俺には人間相手の方が性に合ってる」

 

「またまた捻くれちゃって、この人は」

 

皮肉交じりに言って、アルマに茶化される。でも、心底そう思う。怪獣退治は向いてないのだ。やろうとも思わないし。

 

ともあれ、サンクチュアリに潜む望まれざる客(Persona non grata)は去った。

こうして俺たちは武力により、また平穏な居住地を手に入れたのだ……それが続くかは別として。

 

家へと戻り、アルマと再度銃や弾薬の確認をする。

プレートキャリアと呼ばれるベストの上から装着した弾帯のポーチに、弾を詰め終えた弾倉を突っ込む。計7個の弾倉を収納した後、入りきらないものはPip-boyの中へ。

なぜPip-boyの中に全部しまわないのかって?四次元空間で重さも感じないから邪魔なものは全部突っ込めばいいのにって?そりゃもちろん理由がある。

Pip-boyの収納スペースは、取り出すのに時間がかかるのだ。

大きさや重量にもよるようだが、最低でも2、3秒は出現に時間がかかる。

その上、目の前にポンっと出て来るため、落としやすい。

緊急時に3秒は致命的な事に陥りやすいし、隠れている最中に使用して目の前に物が落下したとなれば音で怪しまれる。

そんなリスクは避けたいし、絶対に犯すべきではない。

加えて、機械というものに故障は付き物だ。200年前の装置である以上、何かしらの不具合は想定してしかるべきだろう。

また、なにかの拍子に衝撃が加わって使えなくなったとなれば、物を取り出すこともできない。

だから小型のバックパックを持ってきた。

必要最低限の食料なんかを詰め込むために、だ。

 

「ねえハーディ、今は装備を外したら?見ていて暑苦しいんだけど」

 

補充を終えてソファでくつろぐアルマが言う。

 

「職業病だね。世界がこんなになってる以上、いつでも戦闘に対応できるようにしたいんだ。アルマもプレートキャリアだけでも着ててくれ」

 

思えば、中東やアラスカでもそうだった。

基地と言えども安全ではなく、常にスナイパーや砲弾が落ちて来る危険に晒されていたのだ。

砲弾はともかく、スナイパーは今でも十分ありえる脅威だろう。

 

「はいはい。現役の特殊部隊の大尉の言うことには従うよ」

 

せっかく脱いだプレートキャリアをまた装着するアルマ。

実のところ、プレートキャリアは重い。

内部に仕込む防弾用のセラミックプレートは1枚2kg以上で、それが前後で計2枚。

加えて、アルマの着ているプレートキャリアは表面に直接マガジンポーチをMOLLEと呼ばれるウェビング経由で装着できるものだ。マガジンの重量も加算される。

いくらサブマシンガンのマガジンとはいえ、6本もあればそれなりに重い。

 

「なんか、ごめんな。輸血もまだなのに色々と」

 

食事は摂らせたが、輸血はしていない。

もうほとんど回復しているとは言え、一連の出来事で消耗しているのは確かだった。

もう日も暮れる。それなら、コズワースと俺が見張りについて寝てもらうのもいいだろうか。

 

「……もう、冗談だって。そんな顔しないでよ。こっちこそごめんね。色々気を遣わせちゃって」

 

お互いに謝ってばかりいる気がする。

俺は首を横に振って、彼女のサラサラな髪を撫でた。

猫のように、スリスリと手に顔を擦り付けてくる。

癒しつつ、癒されつつ。

これが夫婦円満の秘訣なのかもしれない。

 

「明日、コンコードに行ってみようかと思うんだ」

 

ふと、この状況で告げてみる。

するとアルマは上目遣いで眉をハの字にして、

 

「どうして?」

 

「コズワースが、コンコードでライフサインを探知したらしい。もしかしたらまともな人間かもしれない」

 

このままずっと、ここで二人で暮らす訳にもいかない。ショーンの事もそうだし、食料や物資も無限ではない。

いつかはやらなくてはならない事なのだ。

 

「私もついてく」

 

予想していた言葉が返ってくる。

俺は困ったように笑いながらも、その要請を却下した。

 

「だーめ。もしかしたら危ないやつらかもしれないだろ?」

 

妻を危険な目に合わせたくないというのは、過保護な俺だけでなく夫として共通の感覚のはずだ。

だがアルマは納得している様子はない。

マイペースで、でも頑固者な奥さんは食い下がる。

 

「一人は嫌だよ」

 

「コズワースも残す」

 

「そうじゃないよ鈍感。……ねぇ、もう誰かと離れたくないんだよ。家族なら特に、さ。私ってそんな頼りないかな?」

 

「そうじゃないが……」

 

露呈した心の弱さに頭を悩ませる。

確かに気持ちは分かる。ショーンを失って、今度は俺も失ったら。きっと逆の立場だったら狂ってしまう。

俺がそうであるように、彼女もさみしがり屋さんなのだ。

 

渋々、俺は納得する事にした。

ちゅ、と彼女のおでこにキスして笑う。

 

「わかった。でも、約束してくれ。厄介事は全部俺に任せる。いいね?」

 

そうでなければ彼女を守れない。

危険な事は、危険な奴に任せればいい。

俺は適任だろう。

アルマは頷く。頷いて、俺の胸に頭を寄せた。コツン、と固いものに当たる。

 

「……痛い」

 

「プレート入ってるからな」

 

「……バカ」

 

「ふふっ」

 

笑い合う。

お互いの不安を打ち消すように。

夜は長い。少しは昔みたいに、純粋に楽しんでもバチは当たらないかもしれない……そう思って彼女の隣に座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は放浪していた。

つい最近まで一緒だった飼い主も旅の途中で力尽き、その飼い主の友人達もどこかへ行ってしまった。

自慢の嗅覚を駆使して彼らの元へと行こうともしたが、その周囲には危ない人間が山ほどいるために、気乗りしない。

それに、もともと好きな奴らでもなかったし、従うに値しないとも思っていた。仮に行けたとしても彼は無視していた可能性も高かった。

 

なら、このまま野生の本能を剥き出しにして生きてみるのも悪くないかもしれない。

誰にも縛られず、獲物を狩り、遊び、たまに他の犬と喧嘩する。

そんなライフでもいいかもしれないと、本気で考えていたのだ。

 

建物で見つけたクマのぬいぐるみで遊ぶ。

今まで散々こき使われてきたのだ。

悪い気はしなかったが、休む権利を使ったって誰も責められはしない。

腹が減ったらデカイネズミでも狩ればいい。

ここは彼にとって、聖域(サンクチュアリ)だった。

 

だから、こんな朝早くから聖域(サンクチュアリ)に侵入してくる人間に牙を向けるのも当然だった。

自分は強いから生きてるし、ネズミどもを追い払ってこの建物を支配している。

近づくな、と、喉を鳴らして警告する。

 

「おお、シェパードか。お前一人か」

 

でも、思いがけない出会いもあるものだ。

心の底から仕えたいと思ったことのない彼は、侵入者を観察して悟った。

 

この人間は違う。

こいつにだけは逆らってはいけないと、本能が感じ取っていた。

彼には人間ほどの知性がないからよく考えられないが、目の前にいる人間を見て深く反省してしまった。

あぁ、自分なんてまだまだだったんだ。

世の中にはもっと強い生き物がいるんだ。

 

そして決める。

目の前の夫婦に対しては、賢い忠犬であろう。

そうすれば何も問題ない。

自分より強いものに従う。

それがウェイストランドと呼ばれる場所の、ルールだった。

 

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