インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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決闘
それは、少年と少女、二人の決闘か
はたまたありえぬ存在との決闘か


12 Duel

皆が寝静まった深夜。

月明かりのみが照らす森に、一夏は居た。

 

そして、周囲を見渡し、制服の上着に隠すように腰に付けられているホルダーに固定しておいたネクロノミコン写本を取り出す。

 

本はそのまま一夏の手から浮き上がると、独りでにページがめくれていく。

やがて、あるページを開いたところでページは止まり、そこから流れ出すように現れる光の帯。

それはよく見ると何重にも重なった人知の及ばぬ文字……術式だと言うことが分かる。

もっとも、一般人が見たところでその意味を知ることは出来ず、もし一般人が知ってしまった場合、その精神が今までのようにあれるのかという保障は一切無いが。

 

術式はやがて歪な人の形に集まって行く。

そして、術式の光が消えた。

すると、先ほどまで術式が集まっていた場所に現れたのは、黒。

全身が闇で出来ているかのような黒一色の人型。

しかし、その背中にはこれまた黒一色の翼があり、それがただの人ではないと言うことをあらわしている。

 

「なつかしいな、こうしてお前さんと相対するのも……じゃ、いっちょ頼むぜ? ナイトゴーント先生?」

 

そう、その人型の正体は旧神の一人であるノーデンスに奉仕している夜鬼。

そして、かつて一夏……九郎が魔術師になりたての頃に大変お世話になった、いわば師とも呼べる存在、ナイトゴーントである。

 

何故一夏はこれを呼び出したのか?

それは以前食屍鬼に襲われたと言うことが理由だ。

 

この世界に来て、一夏は長い間魔術とは離れていた。

いや、この言い方は正確ではない。

なにせ、ネクロノミコンのオリジナルにもっとも近い写本を常に持ち歩いているのだから。

正確に言うなら、魔術での戦いから離れていた、という物だ。

今までは平和に暮らしていたため、第二回モンド・グロッソでの誘拐事件のとき以外は魔術は使わなかったのだが、食屍鬼に襲われたとなれば、いやがおうにも魔術での戦いをする必要がある。

これからずっと襲ってくるのが食屍鬼だったのならばそれほど焦る必要も無いが、生憎これからもそれで済むとは一夏は思っていない。

これからより強大な怪異が襲い掛かってくるやも知れないのだ。

そんな時、戦い方がさび付いていたら……目も当てられない。

よって、基礎からもう一度学びなおそうと、こうしてナイトゴーントにご足労願ったと言うわけだ。

ちなみに、既に誰もが寝静まっている深夜とはいえ、誰に見られるか分かったものではないので結界はきちんと構築済みだ。

 

一夏が拳を構えると、ナイトゴーントもそれに習い拳を構える。

そして、二つの影が月明かりの下で交差した。

 

 

※ ※ ※

 

 

数日後。

一夏の姿はアリーナのピットにあった。

模擬戦があるわけではない。

とうとう本日がクラス対抗戦の日なのだ。

 

「一夏、なにやら体がぼろぼろだが、大丈夫なのか?」

「ん? あー……大丈夫大丈夫……多分」

「最後の一言が無ければ頼もしかったのですけどね」

 

箒の言葉に、一夏が答え、その答えに対しセシリアが嘆息する。

箒の言うとおり、一夏の体は傷だらけだ。

切り傷もあれば擦り傷もあり、打撲痕もある。

なぜこんな傷を負っているかと言えば、まぁ、予想以上に鈍っていた、というところだろうか。

 

(いつつ……さすがナイトゴーント先生だぜ。容赦ねぇ)

 

とりあえず、基礎の基礎と言うことで魔術での肉体強化のみを自身に施し、徒手空拳で挑んだのだが……相手が普通の格闘技選手ならそれでも問題なかったのだろうが、相手は怪異の一種。

 

負けた。

 

が、それでも何発かは相手にもダメージは与えれたはずだ。

去り際に、なにやら満足そうに頷いていたナイトゴーントを見たから、恐らく間違いではない。

故に、かつてペーペー魔術師だった頃の自分よりはがんばれたと思う。

が、それでもぼこぼこにされたことには変わりなく。

しかもナイトゴーントとの訓練をクラス対抗戦があるのを忘れて連日行っていたため、一夏はこのようなぼろぼろの状態で挑むこととなってしまったのだ。

 

……あえて言おう、馬鹿の所業である。

 

「っと、向こうはお待ちかねってところだな。行って来るぜ」

 

備え付けのモニターで、反対側のカタパルトから鈴音がでてきたことを見ると、一夏はアイオーンを展開し、カタパルトに乗る。

そして、自分を見つめる二人にサムズアップをしてからアリーナへと飛び立っていった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「来たわね」

「おう、来てやったぜ」

 

試合前だというのに、交わされた言葉はあまりにも軽い調子の物だった。

まるで、これからちょっと散歩に行こうなどと話しているかのように。

が、鈴音の、そしてアイオーンの装甲に隠れた一夏の表情を見たのならば、誰もが先ほどの考えは自身の間違いであったと認めるであろう。

 

心は熱く、思考は冷静に。

燃え滾る力を、冷静な思考にて練り上げ、形となす。

魔術の基本であるそれは、魔術だけの基本ではない。

 

「滾ってるな、鈴」

「当然。そういう一夏こそ」

「違いねぇな」

 

今の自分を滾っていると言わずして、いったいどのような状態の自分を滾っていると言うのだろうか。

 

その滾る闘志をあらわすかのように、互いが互いの得物を呼び出す。

鈴音の両手には光の粒子が集い、双天牙月が現れる。

一夏の右手には炎が集まり、バルザイの偃月刀が現れる。

そして二人の間にはカウントダウン表示が現れる。

数字は3から2、1と徐々に減っていき、そして0になると同時に、表示が消え、二人は折から放たれた猛牛のようにまっすぐに直進。

そして……ぶつかり合った。

 

「さぁ……熱く戦いましょうか!!」

「はっ! セラエノの果てまでぶっ飛ぶくらいに戦ってやらぁ!!」

 

再び、刃は交わされた。

 

 

※ ※ ※

 

 

「ISの出力的に言うなら、一夏さんの方が有利ですが、しかし出力が大きい分長期戦に不利。凰さんがつけこむならそこ一点……という感じですわね」

「…………」

 

観客席に座ったセシリアが一夏達の試合の様子をまずそのように評価した。

その隣で、箒はそわそわと落ち着かない様子で一夏達の様子を見ている。

だが、ただ一夏達の様子を見ているだけではないようで、そわそわと右見て、左見て、そしてある一点をみて、それから再び一夏を見てを繰り返している。

本人は誰にも気づかれないようにやっているつもりで、実際他の観客は気づいていないが、隣に居て、なおかつ少しの事に気づかなければ即蹴落とされるような世界をそれこそ長年わたってきたセシリアにはバレバレであった。

やがて、箒が何かを決心したかのような表情をし、立ち上がる……

 

「お止めなさい、篠ノ之さん」

 

かと思われたところでセシリアに止められた。

とめられたことに箒が不機嫌顔になり、セシリアを見る。

その事に気づきながらも、セシリアは一夏達の試合の様子から目を離さずに続ける。

 

「何をなさろうとしていらっしゃるので?」

「……場所を移ろうとしただけだ。ここからでは試合が良く見えない」

「そうですか……移る場所は、例えば管制室とかですか? 確かにあそこは試合が良く見えますわね。なにせ試合中のあらゆる出来事に逐次対応できるようになっておりますから」

「っ!?」

 

セシリアの言葉に、箒が動揺を見せる。

その時点になってようやくセシリアは箒の方を見やる。

 

「その様子ですと私の予想は当たっておりますわね? ならばもう一度言います。お止めなさい」

 

まっすぐに、セシリアの瞳が箒を射抜く。

その瞳を見て、箒は本能的に恐怖を覚えてしまった。

その瞳は、あまりにまっすぐで、鋭く、まるで自分を射抜いているように思えたからだ。

箒は、生唾を飲み込む。

 

--何かを言わなければ

--何を?

--とにかく何かを……

 

言葉を出そうとするとかすれたような声しか出せなかったが、しかし何とか声を絞り出す。

 

「……何の事だ?」

 

搾り出せた言葉は、たったこれだけ。

その言葉を聞いたセシリアは、呆れたようにため息をつくと再び試合へと視線を戻してしまった。

 

「管制室はIS学園の機密が詰まっている場所でもあります。なにせあらゆるISのデータが一旦そこに集約されるのですから。そのようなところに、入れるとお思いですか? いえ、入っていいと思っておいでですか?」

 

それは正論だ。

様々な店で事務室等に客が入ってはいけないように。

いくらIS学園生徒とはいえ、重要性の高い区画、機密度の高い物を扱う区画に足を踏み入れていいはずが無い。

セシリアの言葉に箒がだんまりを決め込んでいると、セシリアが言い聞かせるように言い放つ。

 

「……篠ノ之さん、恐らく貴方はなにか企むとか抜きに、ただ一夏さんの試合を良く見たいと言う思いで、ふと思いついた場所へ向かおうとしていたのでしょう? ですが、もう少し自身の行動等がどのような影響を及ぼすのかをよくお考えになってから実行にうつしたほうがよろしいですわよ?」

 

--どうにも、貴方は感情的になりやすく、思慮が浅くなりやすいのですから。

 

最後の言葉は、あえて口にはしなかった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「疾っ! 破ぁ!!」

 

鈴音の声と同時に、舞うように双天牙月が振るわれる。

それに対し、何故か一夏は二刀で扱えるロイガー・ツァールではなくバルザイの偃月刀を用いて相手していた。

それは何故か?

単純に慣れてないからである。

 

あの無限螺旋の戦いの中、九郎がロイガー・ツァールをまともに使った回数を覚えている方は居るだろうか。

ならば思い出してほしい。

 

……そう、ロクに使われたためしがないのだ。

 

模擬戦の際は、相手も二刀流だと言うことで呼び出し、使ったのだが……あの戦いでぎりぎり勝てたのは奇跡だと他でもない一夏自身が思っている。

 

そもそも、二刀流とは剣の扱いに長けた者がやらなければただの格好つけに過ぎないのだ。

両手でしっかり握った剣と片手で持った剣。

果たしてどっちが高い威力を出せるかを考えていただければ分かるだろう。

それに、一度に二本の剣を使うと言うことで、状況判断能力も普段以上に必要になる。

 

さて、そのように考えれば、現状の一夏ではロイガー・ツァールの利点である二刀流による手数の多さを活かせないと言うのが良く分かるだろう。

そして、ここで死んでしまった二刀流と言う点を抜いて、バルザイの偃月刀とロイガー・ツァールを比べてみよう。

 

--普通に剣として使える。

--投げれば飛ぶ。そして戻ってくる。

 

……見事に重なってしまっているのだ、特性が。

そして、それに輪をかけ偃月刀の場合。

 

--広げれば結構なサイズの盾として使える。

--持っているだけで魔力ある程度増強。

 

これが要素として追加される。

……哀れ、ロイガー・ツァール。

 

ちなみに、以前から今の戦闘スタイルのための訓練をしていた鈴音にぎりぎりとはいえ勝てたのは、一重に鈴音が一夏の武装の事を知らなかったため、不意を突かれただけという理由だったりする。

 

閑話休題

 

一夏はバルザイの偃月刀一本で、しかし鈴音となんとか互角に渡り合っていた。

それでもやはり手数の多さはいかんともしがたく、徐々にではあるがエネルギーは削られている。

……もっとも、削られていると言っても全身が装甲に覆われているためその分シールドに割くエネルギーは少なく、被害は普通に比べれば少ないのだが。

硬い金属とやわらかい生身、どちらが守るためにより力を使うかと言うことである。

 

「っ! 埒あかないなぁ! もう!」

「だったら! 降参するか!?」

「誰が……するかっての!」

 

鈴音の言葉に、一夏が装甲の中で苦笑いする。

昔から勝気だった彼女らしい言葉だ、と。

そして鈴音を振り払おうとし……

 

次の瞬間、背筋に電流が走りぬけるような感覚が一夏を襲う。

その感覚に従うように一夏が今居る場所から無理やりな体勢を取ってでも退く。

装甲表面を、何かがかすった。

 

「なんだ!?」

「うっそ、今のを避けたっての……?」

 

一夏は自身に襲い掛かった何かに唖然とし、鈴音は別の理由で唖然としている。

 

(何だ……なんだったんだ『今の』は!?)

 

かつて背徳の獣を産み落としし魔人に言われていわく、未来予知めいた戦闘での勘が一夏を動かした。

目には見えなかったが、一夏は確かに、自身を狙った何かが通り抜けていったことを察した。

 

「……っ! まさか初見で見切った? いえ、きっとまぐれ……でも、本当に?」

 

鈴音はどうやら今しがたの『何か』が避けられたことに衝撃を受けていたようだ。

今なら、鈴音の不意をつける。

が、相手も代表候補と呼ばれる存在。

すぐさま気づいて反撃に転ずるだろう。

 

果たして、自身はあの不可視の攻撃を避けつつ接近し、一撃を叩き込めるか?

……恐らく、否。

 

ならばすべきことは決まっている。

右手に持ったバルザイの偃月刀を格納し、両手を広げる。

広がった両手にそれぞれ光がまとわり付き、形作るは無骨な鉄の塊。

それは、名も無き二挺拳銃。

 

一夏が選んだのは遠距離戦闘。

近づけないなら、近づかずに戦えばいい。

単純、故に効果的な方法。

 

そして一夏は銃口を鈴音へと向ける。

しばらく何かを考えていた鈴音だったが、自身に銃口が向けられていることに気づくと表情を変える。

 

「考え事ばかりしてると寂しくて泣いちまうぜ?」

「っ! しまっ! 考えすぎた!?」

 

一夏がそう言い放つと同時に、引き金を引く。

放たれた二つの弾丸は高速で、まっすぐに鈴音へと向かい……

 

『さぁて、ここでスパイス投下~っと』

 

アリーナのバリアを突き破った光弾によってかき消された。

 

「「っ!!」」

 

突然の自体に驚愕する二人を尻目に、最初の光弾で穴の開いたバリアから何者かが入り込み、その何者かが一夏達に向かって攻撃を開始。

その攻撃を脳が認識する前に、二人は本能に体を突き動かされ、アリーナの空を飛び回る。

そして、侵入した何者かがアリーナの地面に着地……いや、もはやその勢いは落下と呼べるほどの速度だった。

故に、着地点にはもうもうと土煙が立ち込めている。

 

そして、その土煙を掻き分けるように、一体の黒い人型が現れた。




ロイガー・ツァールの扱いの酷さは異常(挨拶)
姫リアさんの安定感も異常(再び挨拶)

と言うわけで12話目です。
箒さんへの扱い……これってもしかしてアンチとかヘイトになっちゃうレベルですかね?
個人的にはそれほどでもないと思うんですが……

さて、と言うわけでIS原作だとゴーレム乱入のところまで来ましたが、この小説では何が乱入してきたのやら……
少なくとも、ただのゴーレムではないです。

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