インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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燃やす
燃やすのは己が闘志か
はたまた己が魂か


15 Burn

--燃える。

 

自分の体が、自分の魂が。

自身を構成している『何か』が燃える。

そしてその熱はありえざる法則を作り上げるためのエネルギーとなり、放出されていく。

 

無論、実際に彼の体が燃えているわけではない。

だが、魂とはすなわち、人を作る物、人そのものである。

それが燃えれば、自身が燃えているように錯覚していてもおかしくは無い。

 

自身の魂を燃やす熱の奥に、一夏は自身が見知った闇を見る。

何故それが、などとは問わない。

もとより、白式だったISがこのような形になった時点で、そして武装の数々を見た時点で薄々感づいてはいたのだ。

そして、先ほどの声により、もはや確信する。

 

これは、このISは……

 

--本来ありえなかった存在である。

 

まるでデモンベインのような存在。

魔術と科学の融合。

もっとも、デモンベインよりさらに科学よりなため、魔術的な要素はほぼ無いといって構わない。

だが、たしかのそのコアには魔術理論が存在するのだ。

 

いわば半鬼械神。

鬼械神の模倣のさらに模倣。

 

ならば、今感じているような感覚が生じるとしてもなんらおかしくは無いのだ。

なぜなら。魔術は理不尽と非常識の権化ゆえに。

 

そして、その感覚に魔術が関わっているのなら、一夏にそれが乗りこなせないはずがない。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

燃やす、燃やす、燃やす!

 

自身がいくら削れようと構わない。

今ここで出し惜しみをしてはきっと後悔する。

ならば全力を出せ。

 

後の事は考えるな。

後の事を考えれるほど、お前は賢くは無いだろう!? 大十字九郎!!

 

痛い、熱い、それがどうした。

 

この痛みも、この熱も、勝利のためだとするならば恐れるに足らず!

 

 

徐々に装甲が修復されている腕を突き出す。

その腕に集まるように光が集い、やがて解放された武装が顕現する。

 

その武装がロックされていた理由。

それは普通の武装ではないため。

科学と魔術の混血児となったアイオーンの中で、それは色濃く魔術的要素を残していたため。

 

つまり、人相手に使うような武装ではないのだ。

 

それは、いうなれば魔法使いの杖。

引鉄を備え、金属質な光を放つ、杖。

一夏はしっかりとそれを握る。

 

杖の頭部が展開し、その姿を変える。

変わった姿は……一丁の巨大な砲。

 

対霊狙撃砲。

 

質量保存の法則も、ユークリッド幾何学も一切無視し、新たな姿を得た杖、否、砲の銃口はまっすぐガタノトーアへと向けられている。

砲口に、暴虐の光が宿る。

その光に、ガタノトーアが畏れたように後ずさる。

 

ガタノトーアは本能で察した。

あれを受けてはまずいと。

だが、ガタノトーアは逃げられなかった。

 

それは、果たして神が感じた恐怖ゆえか。

 

「----ッ!!」

 

一夏が、声にならない声で咆哮。

それと同時に、引鉄は引かれた。

 

--閃光(ホワイトアウト)

 

 

※ ※ ※

 

 

その部屋には、重苦しい空気が流れていた。

その部屋にいるのは三人。

 

一人は織斑千冬。

一人はセシリア・オルコット。

そして最後の一人は……

 

「篠ノ之、私が何を言いたいか分かっているな?」

「……はい」

「そうか……ならば、改めて言う必要もあるまい。故に手早く済ませよう……歯を食いしばれ!!」

 

千冬の言葉に、箒は俯きながら答える。

箒の答えを聞いた千冬はそういうと、俯いている箒の襟元を掴み、彼女を持ち上げ、彼女を殴り飛ばした。

 

「避難指示が出ていたにもかかわらずそれに従わなかった件、関係者以外立ち入り禁止だった放送室への立ち入り、ならび機材の無断使用。あとで反省文も待っている。覚悟しておけ」

「……申し訳、ありませんでした」

 

箒は殴られた状態で掻き消えてしまいそうな声で謝罪すると、立ち上がり、とぼとぼと部屋を出て行った。

その様子を見送った千冬は、深いため息をつき傍にあった椅子に乱暴に腰掛ける。

 

彼女が椅子に座った際の衝撃でゆれた椅子の足が床に叩きつけられた音が響き渡る。

 

「……弟が傷ついた原因を作った罪、も言うべきだったのでは?」

「からかうなオルコット。私はからかわれるのが嫌いだ」

「それは失礼致しました」

 

頭が痛い。

セシリアの言葉に頭痛を感じ、頭を抑えながら千冬は口を開く。

 

「言えるわけが無いだろう。今の私はあくまでIS学園の一教師、織斑千冬だ。私情を挟んで良い訳じゃない。私人としてでは無く、あくまで教師としてでなければならない」

「なるほど、そう言う事でしたか」

 

それからしばらく、二人は無言になる。

そして再び口を開いたのは……千冬。

 

「あれは、何だったのだ?」

「あれ、とは?」

「あれは普通のISではない。それぐらい分かる。だが何なのかがわからん……お前は、知ってるな? セシリア」

「……何故、そう思っておいでで?」

「勘だ」

 

--まったく、こういう勘の鋭い手合いは厄介だこと

 

セシリアは口に出さずそう思うと、千冬に向き直る。

 

「ええ、お察しの通り、私は、そして一夏さんはあれが何なのか知っています」

「……一夏も?」

「ええ」

 

千冬はセシリアの言葉に驚愕する。

自身の弟が、あのわけの分からない物について知っているというのだ。

 

言葉にせず、視線でセシリアに説明を要求する。

だが、セシリアには半ば殺気を込めたその視線も効きはしない。

 

何せ、セシリアの中身が中身ゆえに。

 

「残念ですが、織斑先生、貴方は知るべきではない。私はそう判断しますわ」

「ふざけるな」

「ふざけているとお思いですか?」

 

セシリアの瞳が、まっすぐ千冬を射抜く。

その瞳に、何故か千冬はひるむ。

相手は、たかが15~6しか生きていない少女だというのに。

世界最強とまで言われた自分が恐怖している……?

 

「貴方には足りなさすぎる。力も、覚悟も、何もかも。これに関しては、ただ知りたいから知るというわけにはいかないのです。世界最強(ブリュンヒルデ)? 弟のため? ぜんぜん足りませんわ。その称号も、人の領域でのものであるが故に。その感情も、人のものであるが故に」

「それは……どういう……?」

「言葉の通りですわ、織斑先生。それと、学園の命令だとしても、従えませんわ。自分のためと言うより、貴方のためにも」

 

「それでは……」と、セシリアは一頻り語ると部屋から出て行く。

 

その背中を、千冬はただ見送ることしか出来なかった。

 

「……あれが、幼くして財閥の頂点に立つ者ということか……?」

 

いや、それだけではない何かが、彼女にはある。

ただただ、カリスマという言葉では片付けられない何かが、セシリア・オルコットにはある。

 

--ああいう手合いは厄介だな。

 

奇しくも、先ほどセシリアが千冬相手に思ったことを似たような事を、千冬はセシリアに感じていた。

 

 

※ ※ ※

 

 

部屋から出た箒は、どこへ行くでもなく校舎内をさまよっていた。

そしてたどり着いたのは、校舎の屋上。

 

「……どうして、どうして私はいつもこうなのだ……」

 

昔からそうだった。

一度頭に血が上ったりすると、一つの事しか考えれず、周りの事などが一切考えられなくなる。

そうなるたびに、後に後悔し、今度こそそれを克服しようとするも、結局繰り返す。

以前、彼女が剣道を続ける理由には二つあるといっていたが、その二つの理由のうち一つがそのような自分を克服するためと言う物がある。

 

だが克服は叶わず、今回も箒は一夏の事で頭が一杯になり、その結果飛び出し……

 

--一夏が傷つく原因となった。

 

もしかしたら、箒があのような事をしなくても一夏は怪我をおったかもしれない。

だとしても、そのようなifは意味が無い。

自分が激励をし、その結果一夏が大怪我をした。

重要なのは、その『結果』なのだ。

 

情けなくて、涙が出る。

 

「一夏……すまない……すまない……」

 

屋上に誰もいないことをいいことに、箒は泣いた。

 

自分の情けなさに。

自分のせいで傷ついてしまった一夏に。

 

そして、あのような傷を負ってまで自分を助けてくれたということに、不謹慎にも嬉しくなってしまったという自分の卑しさに。

 

 

※ ※ ※

 

 

目が覚めると、一夏はいつぞやのように全身包帯だらけでベッドに横たわっていた。

 

「…………」

 

周囲を見渡すが、ベッドの周りがカーテンで仕切られているため誰かいるのかさえもそもそも分からない。

 

とりあえず上体だけでも起こそうとベッドに右腕をつく……

 

「~~~~っ!? いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!? な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

ベッドに腕を付いた瞬間、右腕から走った痛みに思わずベッドに再び倒れこみ、悶え転げまわる。

見ると右腕も包帯でぐるぐる巻きになっており、その包帯はおびただしいほどの血液で赤く染まっていた。

 

「……ナニコレ」

「な、何事!? って、あ、気が付いたんですね?」

 

自身の体の惨状に思わず唖然としていると、先ほどの声に反応したのか、やけに慌てた様子で誰かがカーテンを開けて入ってきた。

入ってきたのは……真耶だった。

 

「や、山田センセ? これ何……?」

「織斑君、覚えてないんですか?」

「覚えて……?」

 

はてさていったい何のことを言っているのかと一夏は首をかしげ、そして思い出す。

 

(そっか、俺、確かガタノトーアと……)

 

そこでふと気づく。

 

「や、山田センセ! ガタ……じゃなくてあの侵入してきた奴は!?」

「そこは本当に覚えてないんですね? ……大丈夫ですよ。織斑君がやっつけましたから。その直後に織斑君は気絶しちゃったんですよ」

「そっか……」

 

自分は、邪神に勝てたのだ。

デモンベインなくとも。

 

「よかった……」

 

気が緩んだ瞬間、まぶたが重くなってきた。

それに気づいた真耶が、一夏の体に掛け布団をかける。

 

「大変なことがありましたからね、もうちょっと休んでてください。恐らく織斑先生が来るまでまだ時間があるでしょうし」

 

確かに今の自分に必要なのは休息だ。

それも、死んだように深い眠りを伴った、それそはそれはすさまじいまでの休息が。

 

真耶の言葉に甘え、一夏はその目を閉じる。

眠りは、あっさりと訪れた。

 

 

※ ※ ※

 

 

目が覚めて、まず確認したことは自身の体がキチンと動くかだ。

右腕、左腕、右足、左足。

……全部、ちゃんと自分の思うように動く。

 

「……よかった……よかったよぅ……」

 

涙を流しながら、鈴音は自身の体が動くことに涙した。

 

「動く……ちゃんと動く……」

 

彼女がガタノトーアから受けた瘴気は、その実ほんの微々たる物だ。

そしてそれも、すぐさま一夏が旧神の紋章で浄化したため今はもはや彼女の体を蝕むことは無い。

 

だが、心は?

 

体が受けた瘴気がほんの微々たる物と言っても、それでも一般人にとっては危険な毒なのだ。

そのうえ、彼女にとっては最早常識はずれと言う言葉ではくくれない程の恐怖が襲い掛かっていた。

そう、生きたまま石になるという、想像を絶するような恐怖が。

そんな恐怖に晒された心が、普段どおりであるはずが無かった。

 

体がちゃんと動くことを確かめると、鈴音は周囲を見渡す。

 

「……誰かいないの……?」

 

その声に答える存在は……いない。

 

「やだ……だれか、だれかぁ!!」

 

その事に、普段では感じない恐怖を感じ、鈴音は涙を流しながら誰かを求める。

しかし、先ほどまでいた真耶も一夏が眠ったことを確認するといったん席をはずしてしまった。

 

誰も自分に返事をしてくれない。

誰も自分を見てくれない。

 

恐怖ゆえに、鈴音は泣き叫びながらベッドを飛び出す。

 

「やだ! やだやだやだ!! だれか、ねぇだれか! ねぇ!?」

 

ベッドを飛び出し、カーテンを掻き分ける。

保健室には……誰もいない。

窓の戸を見ても、見えるグラウンドには誰もいない。

入り口の扉についている窓から見える廊下にも、誰もいない。

 

鈴音の心に、普段なら鼻で笑い飛ばしてしまうような思いが去来する。

 

--もしかして、この世界には自分ひとりしかいないのでは……?

 

「いや……そんなのいやぁ……!」

 

最早限界だった。

その場でへたり込み、鈴音はついに大声で泣き出した。

不安で、孤独で、まるで捨てられてしまった子供のように……

 

「ん……」

「っ!?」

 

そんな彼女に、その声は福音のように届いた。

明らかに、自分の物ではない声。

涙があふれる目こすり、何とか視界を確保して周囲を見渡すと、自身が眠っていたベッドの隣のベッドがカーテンで仕切られている。

つまり、誰かがそこで寝ているということ。

 

「あ……あぁ……」

 

涙を流しながら、鈴音はそのカーテンに近づき、そしてあける。

ベッドで寝ていたのは……

 

「いちか……いちかがいた……っ!」

 

織斑一夏だ。

その事に、鈴音は安堵する。

 

一人じゃない……私は一人じゃない……!

 

「よかった……いた……私だけじゃない……」

 

ふらふらと、眠る一夏に近づく鈴音。

一夏の寝顔に触る。

ちゃんと感触と、体温の暖かさが感じられる。

掛け布団がかかった胸も、ちゃんと上下している。

幻影なんかじゃない、ここに確かに一夏はいる。

 

「いちか……いちかぁ……」

 

縋り付くように、一夏に抱きつく。

一夏の暖かさが、鈴音を癒す。

 

「……で、さすがの一夏さんもここまでされると起きちゃうんですが、鈴さんはなにをしているんでせう?」

「……はぇ?」

 

ふと頭上から投げかけられる声。

声がしたほうを見ると、一夏がしっかりと目を開いて鈴音を見つめていた。

 

普段の彼女であれば、ここで顔を真っ赤にし、下手すれば手が出ていただろう。

しかし、今の彼女の精神状態はいろんな意味で普通ではない。

 

「…………」

「でぇぇぇぇぇ!? 泣いちゃう!? 何で泣いちゃうの!?」

 

鈴音は泣いた。

ちゃんと一夏が自分を見ている。

ちゃんと自分を認識している。

 

先ほどまで孤独の恐怖に怯えていた鈴音は、誰かが自分をしっかりと認識してくれていることが嬉しかったのだ。

そう、涙を流すほどに。

 

「いちか……いちかぁ!!」

「うぶぉあ!? いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?! り、鈴さん! 俺けが人!! しかも結構な大怪我だから!!」

「こわかった! こわかったよぉ!!」

「……え?」

 

感極まった鈴音は、一夏へと飛びつくように抱きつく。

当然、全身傷だらけの男にその行動はもはや攻撃だった。

痛みに悶え講義するが、鈴音の言葉に抗議の言葉が途切れる。

 

「だんだんうごけなくなって! おきたらうごけたけど誰もいなくて! わたししかいないんじゃないかって……こわかった……いちかがいてよかったよぅ……」

「…………」

 

普通ではない鈴音の様子で、一夏は察する。

恐らく、まだ鈴音は邪神から与えられた気が狂いそうな恐怖の一片を振り切れていないのだ、と。

 

「……あぁくそ、めんどくせぇなぁ……」

 

そういいつつ、一夏は抱きつく鈴音を抱きしめ返す。

 

「ほ~ら、一夏さんはここにいますよ~っと」

「うん、うん! いちかはここにいるよね? きえないよね!?」

「大丈夫大丈夫。鈴もちゃんとここにいるから」

「うん、うんうん!!」

 

一夏の言葉が、鈴音を癒していく。

それに伴い、少しずつ落ち着きを取り戻していく鈴音。

 

「……第四の結印は旧神の紋章(エルダーサイン)、脅威と敵意を祓うもの也」

 

そして呟くようになされる詠唱。

それにより、鈴音たちをエルダーサインが包む。

 

それは、暖かな、浄化の光。

 

「……あったかい……」

 

その暖かさに包まれ、鈴音はそのまぶたを閉じ、穏やかな寝息を立てる。

 

「……これで何とかなるといいんだがな」

 

眠った鈴音を自身が眠っていたベッドに横たえながら、一夏はそう呟いた。




おかし、鈴音のヒロイン力がぎゅんぎゅん上昇してるじゃねぇか。
これは正妻のポジが危ない。

とまぁ、駆け足気味かもしれませんが、クラス対抗戦の話はこれで終了。

……こ、これならアンチとかヘイトじゃないはず!
きっと!!

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