インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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決心

この話から少しはデモベ分が増えていくと思います。


03 Resolution

本鈴がなる前に教室に戻ることが出来た一夏と箒はそれぞれの席に着き、授業の準備をする。

その瞬間、本鈴が鳴り、教室に真耶が入ってくる。

 

「それでは、今から授業を始めます。入学して初めての授業ですから、まずはISについて本当に知っておくべき基礎知識についてです」

 

その言葉の後に語られたのは何故ISが生み出されたのかなどと言った、いわばISの歴史。

そしてIS学園の存在意義など、本当に知っておかねばならない基礎知識といった内容だった。

 

分からないところは入学前に渡されたタ○ンページ並の厚さを持った参考書を見ながら授業を受けていた一夏は、知れば知るほどISが常識はずれな代物であるという思いを強めていく。

 

(なにせ、出てきてからざっと十年経ったか経ってないかってのに、ISってのはこの世界を大きく変えちまったんだからなぁ)

 

ちょっと考えればあまりにも異常である。

物事が広まる速度という物は存外遅いものだ。

仮にネットと言う世界中の情報をすぐに手に入れることが出来る手段があったとしても、それが言葉通り『世界中のありとあらゆる存在』に広まるにはそれなりに長い年数がかかるはずなのだ。

しかし、ISと言う物は出てきてから数年でモンド・グロッソと言う世界大会が出来てしまうほどに急速と言う言葉ではくくれないほどの速度で世界中に普及した。

そしてISがでてきてから既に十年程経った今、ISは最早この世界が成り立つ上で外せない要素にまでなっている。

ISを知らないなどと答える存在は、恐らく生まれたての赤ん坊ぐらいしかいないだろう。

この不可解な現実の裏には、果たしてどのような存在が糸を引いているのか……

 

(……ま、あれこれ考えてもどうしようも無いか。どうにも『昔』のせいで物事の裏まで考え出しちまうんだから、困ったもんだ)

 

頭に浮かんだ詮無い考えを振り払う。

それに、普通では不可能な事もやってのけてしまう天才を一夏は知っていた。

恐らくその天才が何かしたんだろうと自身を納得させ、授業へと意識を戻す。

 

黒板を見ると、自身が板書していない箇所が増えていた。

ただでさえISという物につい最近触れたばかりで知識的には遅れているのに、これ以上自身の失態で遅れてなるものか。

一夏はそう思いながら参考書と黒板とのにらめっこを再開した。

 

 

※ ※ ※

 

 

「しんどい、とにもかくにもしんどい……」

 

放課後になると同時に、一夏は朝のHR終了直後のように机に突っ伏す。

とにかく授業は参考書と黒板の往復。

それをしながらノートへの板書。

そして黒板にかかれてはいないが教師の言葉で重要そうな言葉もピックアップしてメモ程度にノートへ書き込む……

なれない環境での勉学は脳を疲労させる。

今の一夏は脳の疲労がもはやピークに達していたのだ。

だらしないの一言に尽きる現状だが、どうか大目に見てやってほしい。

 

そんな一夏の元へ真耶が近づいてくる。

それに気づいた一夏は、せめて教師の前では上半身を上げるぐらいはしようと、机にへばりついた身体を起こす。

 

「織斑君、まだ教室に居たんですね。どうですか? この学校は」

「はぁ……何と言うか、上野のパンダってこんな気分だったのかとか思っちゃいましたよ、ははは……ぶっちゃけしんどいです」

「これからそういう視線も少しずつ減っていくとは思いますから、がんばってくださいね? あ、そうそう、織斑君に話があったんだった」

 

一夏を慰めていた真耶が、手のひらをぽんと叩く。

そしてそのままクリップボードに挟んでいた鍵を一夏に手渡したのだ。

鍵についているキーホルダーには、『1021』の数字。

 

「……これは?」

「えっと、織斑君の寮の部屋の鍵ですね。キーホルダーにかいてありますけど、1021号室に入ってもらいます」

「あれ、でも俺って自宅から通うってことになってたような……」

 

渡された鍵をしげしげと眺めながら一夏は首をかしげる。

事前の話だと、女子しかいないIS学園の寮に男を入れることはまずいということで、寮の部屋が準備できるまで一夏は自宅から通学するという手はずだったのだ。

 

「えっと、それがですね……こういうことを言っちゃうのは教師として駄目かもしれませんが言っちゃいますと、防衛上の観点からですね。IS学園にいてくれたほうが護衛とかもしやすいですし」

「あー、なるほど」

 

言われて納得する。

織斑一夏と言う存在は現在の世界では非常に大きなものだ。

女性しか扱えないISを現在唯一扱える男として、一夏をぜひ研究したいという白衣を着た方々や、彼をそういうマッドな方々へ売れば金になると考える黒い服を着た方々。

他にも、過激なまでに現在の女尊男卑の風潮を信奉している存在から、その風潮をぶち壊すかもしれない劇薬ということで狙われることもありえるだろうし、逆に現在の風潮をぶち壊そうとする存在が一夏を神輿として祭り上げようと誘拐を企てる可能性だってありえなくは無いのだ。

 

故に、IS学園と言う決まった敷地内にいてくれたなら侵入者の察知も容易で、護衛も簡単なのだ。

そういう理由ならば、一夏も断ることは出来ないし、そもそも断る気も無い。

鍵を制服のポケットにしまい、そこでふと気づく。

本来自分は自宅から通学するはずだった。

ならば、生活に必要な物は自宅に置きっぱなしなのだ。

 

「あ、あの、俺の生活用品とかはどうすれば……」

「安心しろ、それならば私が既にここに運ぶように手配した。既に寮に届いているだろう」

 

真耶に自身の生活用品について伺いを立てようとしたとき、教室に入ってきた千冬が一夏にそう告げる。

 

「千冬姉、ずいぶんと用意がよろしいことで」

「織斑先生と言え馬鹿者……と言いたいが、今は放課後だ、大目に見てやる。届けてもらうといっても、必要最低限の物だけだがな。携帯の充電器や数日分の着替え等だ。ほかに入用なものがあったら購買である程度は揃えれる。そこで買うといい」

「しかし、理由があるからっていいのかねぇ、女子と同室なんて」

「仕方が無いだろう。なにぶんお前の入学は急だったんだ」

 

まぁ、経緯が経緯なため、それも仕方が無いだろう。

そう自分を納得させた一夏は、机の脇にかけてあった肩掛けカバンを肩に掛け、教室を後にする。

 

「それじゃ千冬姉、俺は寮にいってくる。山田センセ、さよならー」

「はい、さようなら」

「問題を起こすなよ、愚弟」

 

真耶の返事を聞き、千冬のあまりにもあんまりな言葉を背中に受けながら、一夏は寮へと向かっていった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「えっと、1021、1021……っと」

寮へたどり着いた一夏は寮の入り口近くで千冬が手配したであろう自身の荷物が入った大型のカバンを回収すると、1021号室を探しさ迷い歩いていた。

なるべく周囲にいる女子の姿を見ないようにしながら。

何故見ないようにしているのか、それは彼女たちの格好に問題がある。

 

「え、うそ!? 織斑君この寮に入るの!?」

「やっば! 私このカッコだらしない!?」

「さすがに男子の前でこの格好はやばいって私!!」

 

人々は女子しかいない空間に夢を見がちだが、男の目がないと言うことは異性の目を気にしなくて言いと言うことと同義。

すなわち同性しかいないんだから多少だらしなくてもいいよね? という状態になるのだ。

よって、彼女らの現在の格好はかなりラフである。

中にはラフを通り越し、それはさすがにだらしないだろと言う、同性しかいない空間でしかしてはいけないような格好をしている生徒もいる。

だが、異性の目があるなら話は別。

少しでも自身を良く見せたいと思うのが乙女心という物である。

そんな彼女らの名誉のために、一夏は努めて周囲の生徒の姿を見ないようにしている。

ちなみに部屋を探すためどうしても周囲を見回さなきゃ駄目なため、完全に見ないように、ということは不可能なため、視界に入ってしまった場合は脳内フィルターで無かったことにしている。

 

そして、若干の時間をかけ、一夏はようやく1021号室のいたどり着く。

 

やっとたどり着いたことに安堵のため息をつき、しかし油断せずにノックを一回、二回、三回。

ノックせずに入り、ラッキースケベイベントが起こったらたまった物ではない。

部屋の中から返事は……無し。

もう一度のノックを、一回、二回、三回、四回。

……やはり返事は無し。

とりあえずまだ中に誰もいないのかと思いドアを開けようとすると、案の定鍵がかかっていた。

鍵を取り出し、鍵を開ける。

そのまま部屋に入り込むと、扉に背中を預けるように床に座り込み、大きなため息をついた。

 

「うへぇ……こいつはかなりしんどいぞ。寮でまであの好奇の視線かよ……勘弁してくれ……」

 

そう呟き、しばらくうなだれていたが、入り口でずっとうなだれているわけにもいかず、部屋の奥へと進んでいく。

部屋はそこそこ、というかかなり広く、ベッドは間隔をあけ二つ設置されている。

とりあえずベッドにカバン類を放り投げ、部屋の間取りを確認すると、脱衣室とシャワールーム、そしてキッチンを発見。

 

「へぇ、さすが税金つぎ込んで作った学園。寮も至れり尽くせりだぜ」

 

間取りを確認し終えると、一夏はカバンを放り投げていたベッドにダイブ。

そして、だらけた。

 

「……まさか、こんな学園生活を送る羽目になるとは思いもしなかったなぁ……」

 

そういうと、一夏はだらけたまま肩掛けカバンを引き寄せ、中から一冊の本を取り出す。

かなりのページ数を誇り、装丁はしっかりとしている。

しかし、その本は見ているものに言いようの無い不安や不快さを感じさせる。

一夏はそんな本をためらいも無く広げ、中身を見る。

既に隅から隅まで頭の中に刻み込んでいるため、改めて読む必要性は無いのだが、これは一種の儀式のようなものである。

 

「こうでもしないとお前を忘れちまいそうだからなぁ……なぁ、アル」

 

織斑一夏には、誰にもいえない隠し事があった。

それは、今こうしてここにいる彼は、本当の織斑一夏ではないと言うことだ。

と言っても、赤ん坊の頃別の赤ん坊と取り違えられて、などと言ったありえ無そうで実は結構あるような事例というわけでもない。

少なくとも、この身体は間違いなく織斑千冬と血の繋がった弟、織斑一夏の物だ。

では先ほどの本当の一夏ではないとはどういうことか?

ようは外の問題ではなく、中の問題なのだ。

身体は確かに一夏の物だが、その身体を動かしているのは一夏ではない。

なら誰か?

彼は、かつては大十字九郎と呼ばれていた。

 

 

九郎が今のような状況になったのは一夏がまだ小学生になる前だ。

大十字九郎として、伴侶であり、唯一無二の相棒であるアルと共にある戦いの最終決戦に挑み、そして勝ち残ることが出来たところまではきちんと覚えている。

そしてその後、謎の光に包まれたということもおぼろげながら覚えている。

そして気が付けば、大十字九郎は織斑一夏の身体の中に入っていた。

 

「最初はかなり焦ったよな。なんせ、25、6のいい年した男が、次の瞬間小学手前の年齢になっちまってたんだから」

 

言葉の通り、最初九郎は大いに焦った。

しかし、現状を理解は出来ないが納得しようと冷静になったとき、ふと気づいたのだ。

 

--この身体の本来の持ち主はどうなったのだろうか?

 

結果だけを言うなら、消滅した。

確証はないが、なぜか九郎はそう感じていた。

何故そうなったか?

この疑問に対し、九郎はある一つの仮説を立てた。

 

身体を魂の入れ物と仮定すると、身体には一つの魂しか入らない。

そんな中、突然入ってきた九郎の魂。

まだ幼い少年である一夏の魂と、既に25歳と言うことでそれなりに人生を歩んできた九郎の魂。

魂に力という物があった場合、どちらが強いかは明白だ。

自分は織斑一夏を弾き飛ばし、このように収まっている。

つまり、大十字九郎はその意図がなかったとはいえ、織斑一夏を殺してしまったのだ。

 

その事に、九郎は大いに悩んだ。

こんな後味悪い事、夢であって欲しいと願った。

きっと、これは幼い一夏が、自分が大十字九郎であると夢想している、という現実であって欲しかった。

しかし、現実は非情であり、また不可逆である。

どんなに望まない現実もそれは現実であり、それを巻き戻し、やり直すことは不可能だ。

悩みに、悩み、悩みぬいて、九郎が決めた答えは……

 

「……だったら、俺が一夏として生きる」

 

罪滅ぼし、というわけではない。

ただ、この現実は彼にとって背負うべき物だ。

安易に投げ出すわけにはいかない。

罪の呵責に耐えかね、死を選ぶなど言語道断だ。

望んだわけじゃないが、自分は織斑一夏の身体を奪ってしまった。

なら、奪ってしまった責任はしっかりと取るべきだろう。

だから、生きる。

大十字九郎の記憶を持った織斑一夏として、自分は生きて、生きて、生き抜く。

そして病気や寿命などで死んだそのときには、本当の織斑一夏に全力で土下座だ。

九郎はそう決心した。

 

幸い、一夏の記憶は自分の記憶として扱える。

それを用いれば怪しまれることはないし、そもそも幼い一夏の態度が急に変わったところで子供の気まぐれで済まされる。

その頃の一夏はそれで済まされる年齢だった。

 

「そうして、なんやかんやで今に至る……と」

 

本を撫でながら、九郎……一夏はそう呟く。

 

「アル、これで良いのか? 俺のやってることは間違ってるか?」

 

本に向かい問いかける。

答えは……ない。

当然だ。これは本であり、彼が求めるあの傍若無人な相棒ではない。

 

「……どこにいるんだ、アル。お前がいないと……ちときついぜ」

 

そう呟き、一夏は本を閉じる。

本の表紙にはこう書かれていた。

 

『ネクロノミコン』と。

 

もっとも、これは彼が自身の記憶の中にある魔導書、ネクロミコンのオリジナル、アル・アジフ……九郎がアルと呼ぶ存在の記述を元に自身で書き上げた、いわば写本である。

九郎の世界では、力のある魔導書はやがて人の肉体を得る。

アルもそんな魔導書の一冊だった。

しかし、ある一件でアルは肉体を維持できず、書の姿へと戻ってしまい、九郎は戦う力を失う。

その際、九郎はアル・アジフの記述の隅々を自身の脳内にこれでもかと言うほど叩き込んだ。

たとえ無駄だとしても、せめて足掻く為に。

 

その記憶を元に、こっそりと家族である姉に隠れてかき続けてきたのだ。

ちなみに使った紙は羊皮紙で、それは通販で買い集めていたりする。

 

ここまでしてこの写本を書いたのは……こうすればアルに会えるような気がしたためだ。

もっとも、完成した今でも件のアルには会えずじまいだが。

 

ため息を一つつく。

それと同時に、部屋の扉がノックされた。

思考を切替え、一夏は返事をしながら部屋扉を開け放つ。

 

そこには、水色の髪を持つ、めがねを掛けた少女が居た。




と言うわけで、なんと九郎ちゃんは一夏君に憑依しちゃってましたというお話。

……まぁこの話の前から既に分かってた人は分かってたと思います。
実際一話でクトゥグア使ってましたし。
とまぁ、こんな感じでこれからもデモベキャラが憑依するという展開が何回かあります。

ちなみにルームメイトを彼女に決めた理由は、ほら、デモンベインって彼女の好みドンピシャだなぁと思って。

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