インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル
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女装

それは、彼のトラu……

--皆、これを楽しみにしてたんだろう?
実は僕も楽しみにしてたんだよ


33 Drag

途中で□□□□と言う珍客と遭遇したというアクシデントもあったが、おおむね問題なく海を満喫した一夏は、今目の前に並ぶ食事に感涙していた。

「こんな豪勢な食事が出来るなんて……ありがたやありがたや……」

目の前のお膳に載っているのは新鮮な海の幸を用いて作られた料理の数々。
刺身に吸い物、煮物に焼物。
明らかに高校生の臨海学校ででてくるような食事ではないことは確かだ。
さすがIS学園である。

「一夏、そんなに感激しなくても言いと思うんだけど……」

隣に座ったシャルロットは一夏の涙にやや引き気味である。
いや、多分シャルロットでなくても引く。
唯一、引かなかったのは……

「と言うか、そんなに感激するくらいに貧窮してますの?」

シャルロットとは反対側の隣に座ったセシリアである。
まぁ、これは当たり前であろう。
何せ、セシリアの中身は一夏の中身……九郎がいかに貧しい生活をしていたのかを知っているあの覇道瑠璃だからである。

(……まぁ、なんであそこまで『人間やめてます』レベルで貧しかったのかは知っているんですがね……)

そんなセシリアは口には出さずにそう呟く。

セシリア……瑠璃としてもはなはだ疑問だったのだ。
自分達の依頼を受け、さらには非常勤とはいえ、覇道財閥お抱えの探偵となり、かなりの大金を手に入れているはずの九郎が何故多少生活水準が改善された……かな? 程度の生活をずっと続けていたのかを。
あの時の依頼……全ての始まりの依頼で九郎に渡した金額でさえかなりの額で、少なくとも九郎に人並み以上の生活水準を与えるのに十分な額だったのに、それ以降も九郎はいつまでも貧乏探偵のままだったのだ。

それで調べてみればなんてことは無い、ただ単に九郎は頭にバカが付くお人よしだったという事だ。

なんと九郎、受け取った報酬の殆どをある教会へと寄付していたのだ。
さらに調べてみると、瑠璃たちが依頼する前も、極僅かでも収入があれば教会への寄付をしていたのだ。
そして寄付の額は、自分の生活を度外視した割合で、手元に残るのは収入の一割あればいいほうだったりする。

この事実を知った瑠璃は、ほとほとあきれ返るとともに……彼らしい、と微笑んだものだ。

故に、一夏が感涙しようとなれたものだが、しかし千冬と言うきちんとした定期収入を入れる家族がいながらここまで感涙するという事は……やはり彼は今生でも貧しいのか? と疑問にも思うのだ。

セシリアの問いに対し、九郎は首を振ると、呟く。

「いや、別に金に困ってるわけじゃねぇよ。たださ……自分で料理作るようになってみると、こんな豪勢な料理作る人はどんな苦労の末に作ってるんだろうなとかいろいろ考えちまってな」
「……あぁ、そういう」

つまり一夏は料理を作る側の立場を知ったが故に感動しているらしい。
自分で料理は作らないセシリアからすればよく分からない感覚である。
そこではたと気づく。

一夏は男だが料理が出来る……それどころか、今までの話を聞くと家事全般は出来ると思われる。
対して自分はどうだ?

料理、料理人任せ。
洗濯、使用人任せ。
掃除、使用人任せ。
その他もろもろの家事、使用人任せ。

……あれ? 女として負けてない? これ。

セシリアは、不吉な考えを放り投げた!

「……ま、まぁ、そこで泣いていても箸は進みませんわよ」
「っと、それもそうか。んじゃ、いただきますっと」

セシリアの言葉に、一夏が箸を持ち、食事を開始する。
それを見たセシリアも箸を持ち食事を開始。
まず彼等が最初に箸をつけたのは……刺身である。

「……えぇ、やはり海が近いという事もあってか新鮮な物を使っていますわね」
「だな。スーパーで売ってる奴とは段違いだぜ」

舌鼓を打ちながらそう言う彼等を、シャルロットは驚愕の表情で見つめる。

「な、生の魚の切り身を食べる……? というか、食べれるの? おなか痛くならない?」
「あ? 刺身っつたらポピュラーな食い方じゃ……あぁ、そういやシャルロットはフランス生まれか」
「まぁ、日本以外で生の魚介類を食べると言うのはまずありえませんからねぇ」
「そういうセシリアはイギリス生まれなのに平然と食べてるよね、箸もうまく使えてるし……」
「まぁ、私ですし」
「理由になってないはずなのに凄い説得力だね……」

セシリアと会話しながらも箸の扱いに四苦八苦しているシャルロットは、仕舞いには箸で食べることを諦め、フォークで刺身を恐る恐る刺し、隣の一夏の食べ方を見て、醤油に刺身をつけ、これまた恐る恐る口に入れ……

「……あ、おいしい」

新鮮な刺身の旨さに緊張もほぐれた。
それは何かしらの加工が施された魚介類では決して味わえない味。
いわばシャルロットにとって未知の味だ。

「生の魚ってこんなにおいしいんだね、初めて知ったよ」
「ま、だからって何でも刺身で食っていいって訳じゃないからな?」

そういいつつ、今度は一夏は醤油にわさびを多少溶かし、わさび醤油に刺身をつけてぱくり。
そしてそれを見つめるシャルロット。

「……その緑色のペースト、何?」
「何って、わさび。この場合は醤油に溶かして使うんだ。あ、だからって大量に溶かすと「へぇ、こうかな?」……あ」

一夏の説明を中途半端に聞き、寄りにもよって添えられたわさびを醤油に全投入。
そのまま先ほどの一夏が溶かしていた様子を見よう見真似でわさびを溶かそうとする。
しかし、そんな大量のわさびが溶け切るはずも無く、それを見たシャルロットは唖然とする一夏の静止するように伸ばされた手に気づかずにわさびの溶け残りが浮かぶ醤油に刺身をつけ、ぱくり。

「……~~~~~~~っ!?!?」

結果、鼻を押さえる羽目になった。

「い、痛い!? 鼻が! 鼻の奥が凄く痛い!?」
「わさび特有の鼻に来る辛さ、と言うわけですわ。しかし、一夏さんも少量しか溶かしてなかったでしょうに……」

ちなみに、わさびの辛さは唐辛子などの辛さと違い、原因が揮発性の物質なため、鼻に抜けるような辛さを感じるのだそうで。

まぁどうでもいい話である。


※ ※ ※

夕食の時間も終わり、生徒、引率の教師が各々の部屋に入った後の事。

自身に割り振られた部屋……まぁ、教員用の部屋の前に立った一夏は、ふと嫌な予感を感じた。
それは、このふすまの向こうで何か地獄が待ってそうな……そんな感じ。
そしして一度その地獄に引きずりこまれたら最後。
きっと抜け出すことは不可能だろう。

そこまで考えた一夏はすぐさまその場で回れ右。
すぐさま退避せよ。

「にがしませんわよぉ……そこにいるのは分かっています……ラウラ!!」
「はっ!」

が、そんな一夏の目論見もふすまの向こうから聞こえた声によって見事に潰される。

その声が聞こえた直後、ふすまがすぐさま開け放たれ、そこから小柄な人影が飛びかかってくる。
そのまま人影は一夏の首根っこを掴むと、ふすまの向こう側へとぽいっとな。

「っでぇ!? な、なにしやがるラウ……ラ?」

放り投げられた際しりを強打した痛みから、一夏は自分を放り投げた下手人……ラウラに対して怒鳴ろうとしたが、それは部屋の惨状を見て途切れる。

あちこちに放り投げられているビールの空き缶。
部屋の片隅で一塊になり何かに脅える箒、鈴音、シャルロット。
そして……酔いに酔ってもはや理性のたがが外れた千冬とセシリア。

そんな光景を見て、一夏は全てを悟った。
思わず絶望の表情を浮かべる一夏をよそに、酔っ払い二人は一夏を見下ろす。

「……あらあら、やはりこの世界でも貴方の肌って、すべすべで、きめ細かくて……思わず嫉妬してしまいますわ」
「だろう? だろう? 何せ、私が蝶よ花よと育てた自慢の弟だからな……私もたまに女として嫉妬する位だ、クソ……ッ!」

やばい。
セシリアの言葉を聞き、一夏は危機感を覚える。
未だに二人は何かしら話し合っているが、そんなことに気を配っている余裕は一切無し。
以前……そう、以前の世界で似たような場面で、似たような台詞を目の前の暴君は言っていなかったか?
思い出せ、思い出せ織斑一夏! あの時、あの姫は何と言った!?

『「……では、一夏さんをどこに出しても恥ずかしくない淑女にしてあげてくださいませ」』

そう、確かそんな台詞……え?

「え」
「……申し訳ありません、織斑様」

自分が脳裏で考えていた台詞そのままの言葉が、セシリアの口から飛び出してきた。
それに思わず動きを止めてしまう一夏。
……僅か一瞬の停滞。
その一瞬があれば、この従者には十分だった。

しゅるりと一瞬で一夏の体に巻きつけられるロープ。
それにより、身動きが取れなくなる一夏。

「ちょ、ま、えぇ!?」

思わず身をよじるが、既に簀巻き状態にされた一夏に最早逃げ場無し。

「なにぶん、お嬢様の命令ですので」
「面白そうな事を考えるなオルコット。私も混ぜろ」

そういうラウラの手には……なにやらスティック状の物体やらブラシやら。
顔を赤くした千冬がそれを見て、ラウラの手の中にある道具……メイク道具をいくつか借り受ける。
セシリアは……盛大に浴衣の胸元を肌蹴させながら、うっとりとした表情でそんな光景を見つめている。
もちろん、その顔は赤い。

千冬とセシリア。
二人の顔を見て、一夏は万感の思いを込めて叫ぶ。

「誰だ……!? 誰なんだ!? 教師と未成年に酒を飲ませたのはぁぁぁぁぁぁぁぁ!? って、あ、あぁ駄目、そこはだめぇぇぇぇ!!」

が、その叫びも千冬とラウラに着ていた浴衣を剥ぎ取られたことで別な叫びへと代わって言った。

ちなみに、そんな光景を部屋の隅で脅えていたはずの少女達が顔を千冬たちとは別な理由で赤くさせながら、それでもしっかり見つめていた。


※ ※ ※


「……終わりました、お嬢様、しかし、これは……」
「さすがの私も酔いがさめるほどですわ。いえ、知ってました。知ってましたが……これは……」
「う、うむ……これはさすがに……なぁ?」

やることは全てやったのか、ラウラ達が一夏から離れる。
そして、現れた一夏の姿を見た三人は思わず目を見開く。
千冬とセシリアにいたっては酔いもすっかり吹き飛ぶほどだったらしい。

「お、おお……?」
「うわぁ……」
「マジ? それ……」

部屋の隅でじっと惨劇を見ていた箒たちも思わず声を漏らす。
さて、彼女たちにこんな表情をさせる一夏は、一体どんな状態になってしまったのか。
それは……

「お、ま、え、ら……! 人をおもちゃのように好き勝手弄くり回しやがって……」

ゆらりと立ち上がる一夏の姿を見て、その場にいる全員が叫ぶ。

「「「「「「か、完璧だ……!!」」」」」」

そこには、千冬がいた。
そう、一夏の見た目は千冬そのものになっていた。
いくら姉弟だからと言って、余りにも瓜二つである。その場の全員が思わず叫んでしまっても文句は言えない。
きっと、かの邪神だって文句は言えない。

「う、うむ、千冬さんの妹と言っても誰も違和感を覚えないぞ、一夏」
「そ、そうよ! 女の私から見ても完璧な女の子よ」

部屋の隅から飛んでくるフォロー……の皮を被ったトドメに、思わず一夏はくずおれた。
そして、その際に部屋に備え付けられている鏡台で自分の姿を確認する。

……自分で見ても、千冬だった。

が、こうやって女装させられる事も今回で二回目。
わずかばかりとはいえ、耐性は出来ている。

一夏は立ち上がり、そして周囲を見回すと。

……微笑んだ。
それも、千冬本人は絶対やら無いような、優しい、それはそれは優しい笑みで。

「「「「「「ガフッ!?」」」」」」

それを見た一夏以外の全員が、口から血の様な何かを吐き出した。
それを見た一夏は、今度はその場で後にくるりと向き直り……

少し伏し目がちな表情を浮かべながら首だけで振り向いた。
その瞳は涙で潤んでいる。
その姿は、まさに儚さをまとった見返り美人。

「「「「「「グハァ?!」」」」」」

全員が、思わず鼻を押さえ、天井を向く。
鈴音とシャルロットにいたっては、首筋の後をとんとんと叩いている。

「ふ、ふふふ……こうなりゃやけだ。千冬姉瓜二つのこの見た目で……絶対千冬姉がやらないようなことやって千冬姉を恥ずかしがらせてやらぁ!!」

一夏はヤケクソだった。
そしてそれをやられた側もたまった物ではない。

千冬にとっては、いくら自分がやっていないとはいえ、自分と同じ容姿をした存在が、自分が絶対にやらないであろう……いや、出来ないであろう表情を浮かべ、やらないであろう行動をとる。
千冬の精神に大ダメージ!

そして、普段の千冬を知っているほかの面々も、千冬と同じ見た目の一夏が繰り出すまさに『乙女』な仕草に、思わず何かがはじけた。

はじけたのは、多分萌えとかそんな感じの物。

「くそっ! なんと言う乙女力(おとめちから)! 義姉さん、あなたが言う『美しい』という物が、少し分かりました!!」

なお、口の端から血を流し、鼻から血を流しながらも、ラウラはどこからか取り出したカメラで一夏を撮影していた。

……一夏が乙女な仕草をするたびに血を噴出させながらも撮影するその姿は、まさに美の追求者の後継であった。



おまけ

「ぬぁにを騒いでいるであるかIS学園の教師生徒共よ! 実に健康的なマッドサイエンティストである我輩はそろそろおねむの時間であって、騒がしいと眠れな……」
「あ」

西村、ふすまを開けたとたん真正面から女装一夏の笑顔を直視。

「わ、我が生涯に一片の悔いなし……ゴフッ」
「吐血して気絶!?」


※ ※ ※


と言うわけで、皆お待ちかね、一夏君の女装だよ!!
見た目? まんま織斑マドカさんです、はい。
胸? ラウラ達が詰め物を詰め込んだため見た目胸あります(爆

さて、皆さん想像してください。
普段ツリ目な千冬さんが、その目をとろりと垂れさせ、微笑んだり、瞳を潤ませながらこちらを見てくる様子を……
思わずクる物があるでしょう?

つまり、それが今回一夏君がやったことです。
なんと言う乙女力。
そして千冬さんよりも乙女力が上と言う事実。

さて、今回はこのくらいの女装シーンでしたが、正直この話書いたクラッチ、この程度の描写じゃ満足できん!!
と言うわけで、そのうち外伝話でまた一夏を女装させるかも。