インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也- 作:クラッチペダル
それは、恐らく彼女にはまだ大きすぎる力。
今回は一気に3話更新しちゃいます!
……のーみそふっとうしそうだお!
臨海学校二日目。
参加している生徒全員は旅館近くの海に集合していた。
しかし、彼女等は遊ぶために集合しているのではない。
なにせ、これから臨海学校に来た本来の目的を果たすときなのだから。
「……と言うわけで、専用機持ちは各々のパッケージ等をテストし、データを纏めろ。それ以外の生徒も持ち込んでいる機体で各社が開発したパッケージ等のテストだ」
千冬の号令のもと、生徒は自分が行くべき場所へと向かう。
そしてその場に残ったのは、一夏達専用機持ちと……箒だった。
「織斑せんせー、専用機持ちがこっちでデータ取りするなら、何で箒が? それとシャルロットも、聞いた話だと専用機返却したとか聞いたんですけど」
鈴音が早速千冬になぜ箒がこの場にいるのかを問う。
それは鈴音、いや、この場にいる誰にとっても当然の疑問であり、そもそも箒自身もなぜ自分が専用機持ちグループにいれられたのかが分かっていない。
先ほど、千冬にこのグループに入れと理由も教えてもらえず言われたためである。
そして話題に上がったもう一人、シャルロット。
彼女は現在自由国籍所有者であり、フランス国籍は持っていない。
つまりフランス代表候補の証である専用機は返却しており、現在は専用機を持っていないはずなのだが……
鈴陰の質問に、千冬は眉間を揉み解しながら言う。
「……私もこうなるとは予想外だったんだがな。理由は簡単だ。箒も専用機持ちに『なる』からだ。そしてデュノアは……」
千冬はちらりとセシリアを見やる。
セシリアはただただ微笑んでいるだけだ。
「? まぁそれはともかく、専用機持ちになるって……」
千冬の視線を追ってセシリアを見るが、何がなんだか分からない鈴音は、まぁいっかと割り切り、そして箒が専用機持ちになると言う発言に鈴音が首をかしげる。
すると……
「ちーーーーーーーーちゃーーーーーーーーーーーーーん!!」
なにやら遠くから、それでいて大きな声が聞こえてくる。
しかもその声はじょじょに近づいてきているではないか。
声がする方向を見やると……何かが崖を駆け下りている。
……おおよそ傾斜が垂直である崖を、だ。
「……はぁ!?」
その光景に思わず千冬、一夏、箒以外は口をあんぐり。
そして件の人影はと言うと、しばらく崖を駆け下りた後……
「とう!!」
跳んだ。
それはもう素晴らしいフォームで、空に人影が舞う。
そしてその人影はまっすぐ千冬に……
「ふんっ!」
「ふんぎゃっ!?」
突撃しようとしたところでその顔面をキャッチされ、そのままアイアンクローに移行された。
ぎりぎり……と人体から発されてはいけない音が次第に大きくなっていく。
「お、おうふ、ち、ちーちゃんちーちゃん、今、私の頭が危ない、物理的な意味で危ないよ」
「ああ、そうだな」
「他人事!? 原因なのに他人事!? あんまりだよちーちゃん! と言うわけで、そろそろ放してくれると束さんたすかっちゃうなーって?」
「ああ、そうか」
「放す気無し!? だったらいっそ開き直って手を伸ばせばすぐそこにあるその実際豊満な……あ、ごめんなさい冗談ですだから力強めないでメキョっていっちゃうーーーー!?」
「ああ、そうみたいだな、いっそそのままメキョれ」
それからしばらく、二人はあーでもない、こーでもないとやり取りを続ける。
……そして傍からその光景を見ている全員は見事に話に置いてけぼりを食らっていた。
「……なんぞこれ」
一夏の言葉に、全員が頷いた。
なんとか千冬の鉄腕から抜け出した人影は先ほどの言葉で一夏の存在を認めると、片手をシュタっとあげて挨拶をする。
「いっ君おっすおっす!」
「えっと、おひさしぶりっすね、束さん」
「うんうんおひさー。と言うわけでいっ君、白式みせて! 今どうなってるのか、私気になります!」
一夏の言葉に、今度は全員が驚く。
一夏は目の前のこの女性を『束さん』と言った。
もしかして、その束と言うのは……
一夏からふんだくった白式……アイオーンを端末につなげ、ほむほむ、ほへぇ~などと声をあげている女性を見て、全員がそんな考えを頭によぎらせる。
束に逃げられてから、また眉間を揉み解していた千冬はそんな疑問を察して口を開いた。
「……あぁ、お前等の考えは分かる。そして残念なことに、お前等の予想は当たっているよ。こいつは篠ノ之束……ISの生みの親だ」
「ドヤァ」
千冬の言葉を聞いて、人影……篠ノ之束は両手でそれぞれピースをし、その手を顔の両横に持ってくる。
ドヤ顔ダブルピースである。
……うぜぇ
今、この場にいる全員の心は一つとなった。
※ ※ ※
「と言うわけで凡人共、私が大天才篠ノ之束ちゃんだよー! ……あー! ちーちゃんいたいいたい! 頭ぐわしって握らないででちゃいけない中身がでちゃうーーーー!!?」
「挨拶ぐらいまともな態度でやれ……はぁ、これでも一時期に比べてまともになったと言うのだから困る」
「これで……?」
千冬の言葉に思わずそう返すシャルロット。
確かに、この場面を見てどこがどうまともなのかは実に判断しにくい。
しかし、束という存在を昔から知っている人々にとっては彼女は本当にまともになったと評価するのにふさわしいのである。
「束さんはなぁ……昔は俺、千冬姉、箒以外は認識できない……と言うかしない、かな? って言う人だったんだよ。けど今束さん、まぁ態度はどうあれ自分から挨拶をした……そこらへんから察して欲しい」
「いっ君いっ君、人をさも社会不適合者みたいに言うの止めてくれないかなー?」
「えっ」
「えっ?」
「えっ!?」
一夏の言葉に束は反論するが、千冬、一夏、箒の順に「お前何言ってるの?」的な反応をされる。
特に箒の反応が大きかった。
束は泣いた。
マジ泣きだった。
※ ※ ※
「ぐすん……と、とにかく私の事はいいんだよ! 今は箒ちゃんのこと!」
未だに流れ落ちる涙をなんとか拭うと、束は箒へ視線を向ける。
そして……
「さぁさぁご観覧の皆々様、はるか上空をごらんあれ!」
そう宣言しながら右腕を天に伸ばし、人差し指で天を示した。
それに釣られ、全員が空を見上げる。
そこには何も無い……否、なにかがあった。
それは初め、小さな黒点だったが、次第に大きくなってきていることから、じょじょに落ちてきているようだ。
やがて落下物の全容が見えてきた。
「……ラ○エル?」
思わず一夏がそう呟く。
落下してきているもの、それは青く輝く正八面体だった。
「あ、陽電子砲とか撃たないしそもそも攻撃手段無いから安心してね? あれただの輸送コンテナだし」
「なら正方形でいいじゃないっすか」
「つまらないじゃん? 普通の形」
やがて、束いわく『普通の輸送コンテナ』は、砂を盛大に巻き上げながら着地。
全員が顔を腕で覆う。
「では、中身をごらんあれ! きっと皆様の度肝を抜けることでしょう!」
束は芝居がかった口調で言い切る。
全員が顔を覆う腕をのけると、コンテナがじょじょに開いていく。
そして、中から現れたのは……紅。
「これは……IS?」
「そう! 私が箒ちゃんのために愛とか愛おしさとかその他もろもろをとにかく詰め込んだ箒ちゃん専用IS! その名も……『紅椿』!!」
「わ、私の専用機!?」
「だから篠ノ之さんも専用機持ちグループに入れられたのですね」
セシリアは得心したように頷く。
そして箒はと言うと、言葉通り『降って沸いた』専用機に、誘蛾灯に誘われたかのようにふらふらと近づく。
そして、その紅の装甲にそっと手を触れた。
「これが、私の……?」
「そう、箒ちゃんの、箒ちゃんだけの力。私が箒ちゃんの為に作り上げた、第四世代のISだよ」
「……第四世代?」
束の言葉に、シャルロットが疑問を持つ。
現状、一番新しい世代は第三世代だ。
そしてその第三世代も未だに実験機の域をでていない。
だが、このISは第四世代……?
「そう! 第四世代! なんとこの紅椿! 展開装甲って言う状況等に応じていろいろ変わる装甲とかを持ってて、パッケージ換装とか無くてもあらゆる状況に対応できちゃうのだ!」
「待て束! 未だに第三世代もまともに出来ていないこの現状で、よりによって第四世代だと!?」
「うん? 何かおかしいかな? 箒ちゃんの為に最高のISを作ってあげるのが」
「あぁ、そのあたりも若干引っかかる点が無いわけではない。だが私が言いたいのは……っ!」
「分かってるよちーちゃん。余りに先を行き過ぎた技術をつぎ込んだIS。そんな物を持ってる箒ちゃんが危ないんじゃないかってことだよね?」
「……あぁ」
束はうんうん頷くと、やがて口を開いた。
「でも、いっくんの白式……今はアイオーンだったっけ? も展開装甲使ってたしなぁ。いまさらだよいまさら。まぁいまじゃアイオーンには展開装甲の影も形もなくなっちゃってるけど! おかしいよね! どうしてなくしちゃったのかな? ファーストシフトのとき、いっ君と相性悪いからって消しちゃったのかな!? うほっ! 産みの親でも分からないこの展開、みなぎってきたーーーーーー!!」
「……はぁ」
千冬はここに来て悟る。
これは何を言っても無駄だ、と。
もとより、口で束に勝ったことが無い千冬。
どんな正論を述べようと、それを上回る屁理屈で返され、結局負けるのが常だった。
「……っと、いっ君のアイオーンはおいといて、さ、箒ちゃん。ちょちょっと調整済ませちゃおう!」
「えっと、は、はい……」
そんな千冬の頭痛をよそに、束は箒を紅椿に押し込むと、紅椿に端末を接続し、目にも留まらぬ速さで仮想キーボードをタイプする。
「ほい終了! はっやいねぇ、さすが私! さ、箒ちゃん、飛んでみて飛んでみて!」
「飛ぶ……」
時間にしておよそ20秒かかったか否か。
その極短時間で調整を終えると、束は箒に飛行するよう促す。
今まで専用機は持っていなかったが、授業の中で操作はしてきた。
そのときの感覚を思い出し、箒は宙を舞う。
そして、そんな光景を束は満足げに見つめていた。
「……?」
しかし、そんな彼女の横顔を見ていた一夏はあることに気づく。
(束さん……『嗤ってる』? それに……)
そう、笑っているのではなく、嗤っている。
まるで、思い通りにことが進んでいるとほくそ笑んでいるような、そんな……
「ん? どしたのいっ君?」
「へ? あ、いえ、別に」
「ふーん……まぁいいや」
が、そんなにじっと見つめていてはさすがに束も気が付く。
束は一夏の方へ顔を向けると小首をかしげる。
何と返事をしようか困り果てた一夏だったが、束の方が話を切り上げ、再び空を舞う箒を見上げる。
その顔には、先ほどの表情はなくなっていた。
「まさかな」
一夏は先ほど浮かんだ考えを頭から振り払う。
まさか、束からあの邪神に似た気配がした……などと言うのは、恐らく気のせいだろう、と。
……しかし、後に一夏はこのときの判断を後悔することになる。
今からそれほど近くない、しかし遠くも無い未来で。
テストは佳境に入ってきたようで、箒はいつの間にか束が取り出したミサイルポッドから放たれるミサイルを避けたり、両手に持った刀で切り払ったりしている。
その動きにはまだぎこちなさは残っているが、それでもルーキーの動きとしては破格の動きを見せている。
「……さすが天才・篠ノ之博士手ずからのIS。凄い性能」
今まで熱心な瞳で紅椿を見ていたため、言葉を発していなかった簪が、空を舞う箒、そして紅椿を見て感心したようにそう呟く。
それに同意するように頷いているのが鈴音とシャルロットだ。
しかし……
「なぁ、セシリア、あれどうみても……」
「振り回されてますわね、性能に」
「その性能のおかげで傍から見ればそうとは見えませんがね」
一夏、セシリア、ラウラはそう評価している。
千冬も口には出していないが、苦々しい表情を箒に向けているという事は、一夏達と同じ考えに至っているという事だろう。
現在の箒の現状を表すなら、振れば「とりあえず当たる」強力な剣を振り回しているという具合だ。
確かにそれでもそこそこ強く、並の相手ならば普通に勝てるだろう。
だが、それは決して剣を使いこなしているという事にはならず、同格、あるいは格上と戦えばボロがでて敗北するだろう。
強い武器を使うものが強いのではなく、武器を使いこなすものこそが強いのだ。
一夏……否、九郎はそれを知っている。
でなければ、
あれはまさしく三位一体……人と書と神とが正しく一つとなり、その力を十全に使いこなしたがゆえの勝利だろう。
そんな事を思っていると、ふと真耶がこちらに近づいてくる。
確か真耶は一般生徒のテストを見ていたはずだが……
「織斑先生! 緊急事態です!」
「どうした? 山田先生?」
普段の真耶からは考えられないような様子に、千冬もその表情を引き締める。
しばらく、真耶は間を空け、そして口を開いた。
「……アメリカ、イスラエルが共同で開発していた軍用IS、
と言うわけで今回は束さん本格出現の巻。
次から福音との戦闘になります。