インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル
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……デート話とか、恋愛未経験の自分にゃ荷が重かったよ……(by作者)


44 ここに居る

臨海学校も終わり、全国の高校生が待ち望む時期が訪れた。

……そう、夏休みである。

期間は決められており、それが終わればすぐさま中間テストと言う地獄門が聳え立っているが、とにかくその期間の間は堅苦しい学び舎から開放され、誰しもが悦びを胸に抱き野に解き放たれる。

ショッピングなんてどうだろう?
海や山……レジャーに精を出すのも悪くない。
久々に別の高校に行った友人と会おうかなぁ。

など、抱く思いは人それぞれ。

もちろん課題も出されるが……その程度の障害で思春期街道まっしぐらの若者達をとめることなどできるわけがない。
当然、課題の優先度はとても低い位置になる。
そして休み終盤に大量に残った課題に泣くまでがテンプレな?

そしてここにも、夏休みを満喫する存在が……

「……ふぁぁぁぁ……もう朝かよ……」

そう、我等が織斑一夏である。

カーテンの隙間から射し込む光に目を細めながら、一夏は自分の部屋を見渡す。
シャルロットがタッグトーナメント終了後に女子として入学し直してきた為、現在一夏は一人部屋にて生活中だ。
もっとも、部屋の間取りは他の部屋と同じであり、そこに在るベッドが一つになっただけ……という有様なので、妙に部屋が広く感じるのが珠に傷と言ったところか。

そんなとりとめのない事を考えながら部屋を見渡す一夏は……何故か上半身裸だ。
そして彼が寝巻き代わりに何時も着ているジャージは、ベッドからそれほど離れていない地点に乱雑にほっぽり出されている。
そしてよくよく見ると、どうにもズボンやら下着まで放り投げられている。

何故そんなことになっているのか?
いきなり彼は裸族に目覚めたとでも言うのか?

否、否である。

じゃあ何故か。
その理由は……

「んぅ……」

一つしかないベッドで一夏に寄り添うように寝ているアルである。
ちなみに、彼女も一糸纏わぬ姿だったりする。

まぁ、つまりそういうことである。
詳しく描写したらこの小説がR-18になるから堪忍してつかぁさい。

とにかく、かつて離れ離れになった愛おしい相手。
そんな相手と十数年の時を経て、ようやく再会したのだ。
今まで溜まっていたものが爆発したとて、何もおかしいことはない。
ただ、強いて言うなら寮の自室、さらに付け加えて言うとIS学園敷地内でやるような事ではないのは確かだが。

「……アル」

そっと、壊れ物に触れるかのようにアルの頬を撫でる一夏。
指に触れるアルの肌の感触、そして頬にかかる髪の感触……どれも、自分が求めて止まなかったアル・アジフの物に相違ない。
そっと髪を一房持ち上げ、口づけをする。

もう放さない。
こいつは自分の物だ

そんな証を刻み付けるかのように。

「……何をしておる、一夏」

そんな事をしているうちに、どうやらアルも目を覚ましたようだ。
自分の髪に口づけしている一夏を見て、怪訝そうな顔をしている。

「んー、マーキング?」
「獣か、汝は」

一夏のあっけらかんとした返答に、呆れたように返しながらも、存外まんざらでもないアル。
なにせ愛している伴侶にそこまで求められているのだ。
嬉しくないはずがない。

独占欲が強すぎやしないか?
むしろ都合がいい。
もっと、もっと刻み付けて欲しい。
言い訳のしようがないくらいに……否、言い訳をしようと思わなくなるくらいに。

まぁ、でも。一方的に証を刻み付けられるだけなのはいただけない。

「で? いつまで人の髪を弄くっておれば気が済むのだ、汝は!!」
「へ? い、いででででで!? 噛むな! 指噛むな!!」

と言うわけで、照れ隠しも含めて、未だに髪を弄くる一夏の手をとり、そのまま指をガブリ。
一夏は痛がるが……知ったことではない。

しばらく強めに噛み続けた後に、指を口から出す。
見ると、指にくっきりと歯形が残っている。

--これでよし。

しっかりと歯形()がついたことに満足すると、再び指をくわえて、今度はあむあむと甘噛み。
特に、先ほど歯型をつけた箇所を労わる様に。
痛がっていた一夏も、現在のアルの行動に苦笑しつつ言う。

「犬か猫か、お前は」
「ふるひゃい、うふへは(うるさい、うつけが)」

会えなかったフラストレーションはアルも同じ……否、むしろ傍にいたというのにコミュニケーションをとることができなかったアルの方がたまっているのだろうか?
一時も離れたくないと訴えるかのごとく、指をくわえたまま返答するアル。
そんなアルの返答に苦笑の度合いを強くした一夏は思う。

--犬か猫か……猫だろうなぁ、こいつは。

そんな事を考えながら、一夏はアルが満足するまでされるがままでおり、それに気を良くしたのか、アルも指を咥える事を止めはしない。
……が、流石にそろそろ指がふやけてきそうだという事で、アルの口から指を抜く。

「ぷぁ……っ!? むぅ……」
「そろそろやめてくくれアル。指がふやける」

むくれるアルをなだめながら、一夏は昨晩脱ぎ散らかした服を拾い上げる。

「しかし、流石に夏休み中こんな様子じゃ流石にまずいよなぁ……どげんかせねば」
「そう気にすることはあるまい? 何か不都合でもあるのか?」
「こんな爛れた生活続けてばっかじゃまずいだろうに、どう考えても」
「それ以前に、妾のような幼い肢体にその劣情をぶつけている時点で既にアウトであろうに……」
「それはそれ、これはこれ」

そもそも、以前は見た目の年齢差が酷かったが、今はそれほど離れていない。
だから問題ない、きっと、多分、メイビー。
以上、一夏、心の独白。

「見た目の話ではないと思うのだが……まぁ、もう何も言うまい」

--もっとも、それを受け入れる妾も大概……か。

……アルもアルでこんなザマである。

「とにかく、こんな不健全ではいかん。ここは学生らしく行くとしよう」
「で? その学生らしく、とはどうするつもりだ?」
「そういうわけだ、アル。デートしよう」
「ほう? デートか。悪くな……」

「……えっ」


※ ※ ※


(デート、デート……か)

一夏に手を引かれるがまま、街へ行く為のモノレールに一夏とともに乗ったアルは、表向きはいつもどおり、しかし内心晴れやかにそうひとりごちる。
デート……そう、デートである。
自分の伴侶にデートに誘われたのだ。
浮かれるなと言うほうがおかしい。

(……っ! 浮かれるな、浮かれるなアル・アジフ! そう、以前と同じだ。うん、一緒に居るのは何もおかしくない)

そうやって気を落ち着けようとするが、どうやら効果は薄いようだ。
『一緒にいる』と『デートする』はまた別物だ、という事か。

そもそも、そもそもだ。
考えてみれば、デートとしてこうやって出かけるなんてこと、以前は無かった。
以前も一緒に出かけてはいたが、あれはあくまで魔導師と魔導書として。
または仕事の相棒として一緒に出かけていたようなものであって、決して恋人同士のデートなどでは無かったように思う。
だって、その頃はまだ一夏……九郎に対する思いなんて、波長的には合っており、一緒に居て心地よいとは思っていたが、それでもなんだか情けないへっぽこ魔導師、ぐらいにしか思ってなかったのだから。
しかし、あのインスマウスでの一件で妙に九郎を意識し始め、そして自分の気持ちにほんの少し気付いたかな? と思ったときには、もうそんな事を悠長に考える暇など与えぬ! と言わんばかりにブラックロッジの侵略が始まり、完全に自分の思いを確信したときには、既に戦いは最終局面へと向かいつつあり、ようやく思いを伝えられたのは最終決戦の直前。
そして思いを伝えたらそのまま最終決戦。
終わったら終わったで自分達しかいない宇宙を終わりも無くさまよい、その当てのない旅が奇跡的に終わったと思ったら自分と九郎は離れ離れ。
それどころか、ついこの間まで自分は人の形すら取れずという有様ではないか。

……うん、デートなんて行けてない。
行く暇なんてなかった。

(……って! 結局デートの事について深く考えておるではないかぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)

アル、渾身の墓穴掘りである。
思わず頭を抱え込む。
そしてそんなアルを訝しげに見る一夏。

「アルさんや、何を先ほどから百面相をしてるんだね?」
「……なんでもない。あぁ、なんでもないぞ、一夏」
「……もしかして、嫌だったか? デート」
「それは無い!! 絶対に無いからな!?」
「お、おう」

即答である。
アルの余りの勢いに、思わず仰け反る一夏。
まぁ、嫌じゃないならいいか、と自分で自分を納得させた。

かくして、機嫌よく鼻歌を歌っている一夏と、なにやらもんもんと何かを考え込んでいるアルを乗せ、モノレールは街へと向かっていった。


※ ※ ※


やってきたのは、臨海学校前にシャルロットと買い物に来たレゾナンス。
ここなら様々な店があり、見ているだけでも楽しいだろう。
それに、今の世界の事をアルに知ってもらうには丁度いい。

「ふむ……活気にあふれておるな、相変わらず」
「相変わらずって……」
「忘れたか? 妾は汝のISだぞ?」

つまり、人型がとれる前から見ているだけはしていた、と言いたいらしい。
確かに、再会した際には簪と一緒の部屋にいたとか、シャルロットと一緒に風呂に入った事について言っていたような気が……。
何だろう、その事を思い出すと妙に顔が痛い。

まぁ、見ているだけと実際に触ったりなどとはまた感覚は違うものだ。
『今』の世界の事を、もっと良く知って欲しい。
そういった思いもあり、ついでに今まで会えなかった時間を埋めるために、こうして一夏はアルをデートに誘ったわけだ。

ちなみに、表面上は機嫌良さそうにしている一夏だが、内心かなり緊張してたりする。

以前の世界で何時も二人で行動し、それどころかいろいろ致すことまで致したくせに何を言っているかと言われそうだが、それとこれとはまた話が別なのだ。

「……よし、それじゃ、行こうぜ? アル」
「お、おう」

が、入り口で固まってばかりもいられない。
アルの手をとると、一夏はそのままレゾナンスの奥へと進んでいく。

途中にある様々な店を冷やかしたり、最初はガチガチだったが、次第が吹っ切れたアルに時折引っ張られながら、二人はデートを楽しんでいく。
今まで、触れ合えなかった時間を全力で埋めるかのように、目一杯。

実際の精神年齢?
知ったことではない。
精神年齢がどれくらいだろうが、楽しいもんは楽しい。
そんな『楽しい』を楽しんで何が悪い。

昼食として、レゾナンス内の喫茶店でパスタを頼んだり、その際アルがかつての極貧生活を思い出し、一夏に金は足りているのかなどと問い詰めるなんて一幕もあったが、まぁそれもご愛嬌。

……ちなみに、かつてと違って一夏、結構金を持っていたりする。
何故か?
描写はされていないが、一夏は自身のISを開発した倉持に定期的に稼動データを送ったり、時には倉持技研に自ら赴きデータ収集に協力していたりする。
その際の拘束時間に対する手当てとして、そしてISについての研究を進める材料を提供している謝礼として、倉持から一定の金額を支給されているのだ。
少なくとも、高校生が使うには多すぎる金額が。

……普通の専用機持ち相手では、似たような待遇はなされるかもしれないが、流石にここまでのVIP対応はない。
では何故一夏にそこまでの対応をするのか?
それは一夏は正しく世界唯一の存在だという事である。
世界で唯一の男性操縦者。
そのネームバリューは計り知れないものだ。
そんな存在が自社の製品を使っていると言うことは、それだけで大きな宣伝となる。
それに、たかが情報、されど情報。
男性操縦者のデータという物は今の世の中では金塊よりも価値が高い、夢のような宝なのだ。
それに対する報酬としては、確かに毎月渡されているその金額は妥当なのかもしれなかった。

ちなみにこの待遇、むしろこれでも足りないと言っていた倉持側を、一夏が土下座してまで押しとどめてようやくこの待遇である。
その際自分の条件を押し通そうとした倉持側と、それを押しとどめようとした一夏で土下座合戦が繰り広げられたりもしたが、それはこの際どうでもいいので割愛。

「っつー訳だから金の事は気にしないでいいぞ?」
「…………」
「その疑いの眼やめて、心がえぐれそうだから!!」

ちなみに予断だが、学生であり、それほど出費をしないで済む身分の一夏は、今生は堅実に貯金していこうと固く心に誓っていたりする。

閑話休題

昼食の後も、洋服店に入っては自分やアルの服を見繕ったり、アイス屋にてアイスを購入したりと、それからもデートを楽しんだ二人だが、しかし時間は有限。
そろそろ寮へ帰らなければならない時間だ。

ちなみに、やろうと思えば外泊も出来るのだが、IS学園では、たとえ長期休暇中だとしても、外出、外泊の際にはあらかじめ外出届、ないし外泊届を提出しなければならず、一夏は外泊届を提出していないのだ。
理由としては、外泊となると、外出よりも手続きに時間がかかってしまうためである。
少しでも早くアルと出かけるためにと焦り交じりで外出届にしたが、今更言うのもなんだが、多少時間を食ってでも、外泊届にしておいたほうが長い時間二人きりになれたのではないかと言う思いが浮かび上がってくる。

(めんどくさがらずに、いっそ外泊届だしときゃよかったか……?)

後悔先に立たずとはまさにこの事である。

帰りのモノレールの中。
時間はおおよそ午後4時を少し過ぎた頃。
元から乗っている乗客も少なく、一夏達が乗っている車両は、丁度彼等二人しか乗っていない。

一夏とアルの間に、言葉は無い。

ただ無言で寄り添ったまま、流れていく景色をぼんやりと見つめている。

「……九郎」
「……ん?」

二人きりだからか、アルは一夏の事を九郎と呼ぶ。
それに対し、一夏も苦言を呈する事無く答える。

しかし、アルから言葉の続きがでてこない。
なにやら、あーだのうーだの唸っているようだが……

「……その、なんだ。いざ言おうとなると、気恥ずかしいものがあってな……まぁ、あれだ。汝と出かけられて、楽しかったぞ?」
「…………」
「かつて妾達が居たアーカムじゃお目にかかれないものばかりだった。全てが目新しいものばかりだった。以前まではそれを見ているしか出来なかったが……この手でしっかりと触れることも出来た」

そう言うと、アルは自分の手を見下ろし、その手を開いたり握ったり。
それはきっと、自分の体を確かめる行為。

ここでこうして存在している自分の体。
それが、自分の妄想の物ではないと、自分に言い聞かせるための行動。

「そしてなにより……また汝の隣に、こうして在れた……ああ、それが何よりの僥倖だ……だからこそ、妾は恐ろしいのだ」

そう呟くアルの瞳には……涙。

「昨夜、あれほど汝を妾に刻んだと言うのに……まだ妾は怖い。やはり、今こうして妾が触れているもの、見ているもの、何もかもが……まだあの暗い闇の中で眠る妾が見ている泡沫の夢なのではないか……本当はあの光に包まれた後、妾だけがあの闇に取り残されてしまっているのではないかと、そう思ってしまう……そう思えてしまうほど、幸せだ……幸せなのだ……」
「…………」

恐らく、目に映る所に誰も居ない、という事もその考えに拍車をかけるのだろう。
そうそう起こらないであろう、自分と愛する人しか居ない空間。
目に見えなくても、誰かが居るであろう気配や音さえも無い、ただただ静かな空間だからこそ、その恐ろしい考えがより現実味を帯びてくる。

「……九郎、汝のせいだ。汝が妾をこんなに弱くした。以前の妾だったら、そんなこと、気にもとめなかったであろうさ。悠久の時を、孤独に過ごすことには慣れていた。だと言うのに、汝が、妾を……っ!」

涙を流しながらそう言い放つアルの手を、一夏は黙って握る。
そしてアルの瞳をしっかりと見つめ、口を開いた。

「……俺は、ここにいるぜ? アル」
「……っ!」

その一言だけで、十分だった。
何よりも自分が求めて止まない、ただ一人愛する男からの、その一言だけで……アルには十分だったのだ。

「夢なんかじゃねぇよ。俺はここにこうして居て、そしてそんな俺の隣にはアルが居る。それは誰にも否定できない。否定なんざさせねぇよ。けど、もし、また不安になっちまったら、怖くなっちまったら俺に言え……何度だって言ってやる。『俺とお前は、ここに居る』ってな」
「……ああ……ああ……!」

涙を流しながら、アルは一夏に抱きつく。
しっかりと、自分の、一夏の存在を確かめるように、ただただ、涙を流しながら抱きついていた。

ただ、その顔は、涙にまみれているが、間違いなく……笑顔だった。



と言うわけで、以前の更新からかなり間が空いてしまいました。

理由はこの話を書くため。
うん、恋愛未経験なんだ、筆者は。
だからデートってどんな描写すればいいのかを試行錯誤してたらこんなにあいてしまったんだ。

正直、申し訳ないです。