インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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4ヶ月とちょっと……か……

ちょっと難産にも程があんよぉ……


と言うわけで、皆様お久しぶりです。



48 きっと、それは別ちがたい『モノ』

何故だろう。

今までに無いくらい、心が軽い。

このまま本当に空を飛んでしまえそうなほどの高揚感に、鈴音は包まれていた。

 

そして彼女はその心のままに走り出し……

 

「キャッホーーーーーーーーーーーー!!」

「こらっ!! よそ様に迷惑かけちゃいけません!!」

「父親か、汝は」

 

目の前のプールに飛び込んだ。

その背後に投げかけられるのは、一夏の怒鳴り声と、一夏の言葉に呆れるアルの声。

 

彼等の現在地、ウォーターワールド。

結局、あの後彼等は一緒にウォーターワールドへ行くことになったらしい。

 

背後から投げかけられる言葉をさらりと聞き流しつつ、鈴音は今この場にある涼を楽しむ。

 

――あぁ、このままひんやり溶けたい気分

 

「鈴! 聞いてるのか?! まず準備運動しなさい!!」

「だから汝はあやつの父親か!?」

 

あーだこーだ言い合っている一夏達を見て、鈴音は思う。

 

――やっぱ、あれの間に入ろうってのは無謀よねぇ。

 

なのに良くまぁあの間に入ろうとする奴もいるもんだ。

具体的には二人ほど。

 

「……ま、もう割り切ってはいるんだけどね」

 

ああいうの見せられると、こう、胸がもやもやしなくも無い。

なんだかんだで、告白するくらい好きだった相手なんだし。

 

――まぁ、だからって今更また狙う、なんてことしないけどね。

 

一度振られて、それで理解した。

恋だなんだ考えるより、そういうの抜きに親しくしたほうが気が楽だという事に。

 

「あーあ、こりゃ、私次の恋なんて出来るのかしらねぇ」

 

それは神のみぞ知る、というところだろうか。

とりあえず今は……

 

「パパー、飲み物買ってきてー」

「誰がパパか?! あぁ! 違うんです! あのプールにぷかぷか漂ってるちんまい娘っこは俺の娘なんかじゃ断じてないんです! だからその異物を見る目をやめてください!? 『高校生くらいの癖にあんな大きな子供いるなんて……』とか『小さな子にパパって呼ばせる不審人物』って言う目は勘弁して!?」

「パパー、あっちで一緒に泳ごー?」

「アルも流れに乗るんじゃありません!! あぁ! だからその社会のゴミを見る目をやめてぇ!!」

 

一夏をからかって遊びますか。

……それと後で人の事ちんまい呼ばわりした事について詳しくお話する必要があるわね……!

 

 

※ ※ ※

 

 

あの後、散々アルと鈴音に弄られた一夏はぐったりとプールサイドに設置されているビーチチェアーに寝転がっていた。

 

……あれ? 俺まだ泳ぐどころかプールに入ってすらいないのに、何でこんなに疲れてるんだろう?

 

ふとそんな考えが頭をよぎる。

そして一夏の疲れの原因は……

 

「何をしておる! 早くこっちに来んか、うつけがー!!」

 

元気にプールに浸かっております。

理不尽じゃありません? これ。

 

「どっかの誰かさん達のせいで既に心底疲れきっちまってるんだが!?」

「やれやれ、その年の癖にもう疲れ果てたというのか。軟弱者め」

 

プールから上がり、一夏の傍にやってきたアルが、腰に手をあて、そう言ってのける。

が、一夏としてはアルの言い方は納得できない。

だって、まるでこの現状が自分のせいだといわれているから。

 

「おう、さっきまでの自分の行いを、胸に手を当ててしっかり思い出そうか?」

「ふむ……」

 

一夏の言葉に、アルは胸に手をあて、しばし目を閉じ……

 

「ふむ……あの程度で疲れたのか? 軽い戯れだろうに」

「何『心底不思議だ』って顔で言うかね! お前さんは!! それにあれが戯れだったら世の中いじめなんてありません!!」

 

余計疲れてきた、と呟きつつ、一夏は先ほどよりもぐったりとした様子になる。

そんな一夏に苦笑すると、アルも一夏の隣にあるビーチチェアーに座る。

 

「まぁそういきり立つな。このような場だというに」

「だったらああいうのは止めてくれよ……」

 

もっとも、一夏もぐちぐち言ってはいるが、本気で怒っているわけでない。

こういうやり取りなど、最早茶飯事だから。

 

……悲しいことに、茶飯事だから。

 

(あっるぇ? なんだか涙がでてきたぞー?)

 

とりあえず、アルにばれないようにこっそり涙を流しておいた。

しばらくの間、こっそりと涙を流した一夏は、アルに向き直る。

 

「そういやお前さんはもう泳がなくていいのか?」

「む? そうさな……妾も少し疲れたのでな。小休止といった所だ」

 

それに、とアルは一旦言葉を区切り……

 

「汝が居るからな。別に泳がなくとも問題ない」

「……そうか」

 

――……照れさせること言ってくれちゃって

 

思わず一夏は顔を背ける。

が、そのせいで一夏は気付かなかった。

 

……他でもない、アル自身も自分の台詞に赤面していることに。

 

「……縁側で日向ぼっこしながらお茶飲むのが似合う年になってるのに恋愛には初心な夫婦みたいな感じね」

 

その光景をたまたま目にした鈴音は、誰に聞かせるでもなくそう呟いたという。

 

……なんだその例え

 

 

※ ※ ※

 

 

この後、ウォーターワールドにて開催されたイベントで鈴音が暴れる……

などという、どこぞの世界線で起きたような出来事が起こるわけも無く、三人はウォーターワールドを満喫した。

 

まぁ、そもそもあの世界線と違い、セシリアが居ないし、仮に居たとしても、そのセシリアも中身が違う別人な訳なのだが。

 

なお、その鈴音はすでに一人で帰ったらしい。

せめて帰る際の挨拶ぐらいはして欲しいと一夏は思ったが……

まぁ、よくも悪くも『一人で好き勝手遊んでる』という言葉を実践したという事か。

 

ちなみに、鈴音の名誉のため真実を言うと、鈴音は無理言って付いて行かせてもらったわけだし、帰りの挨拶くらいはしようとは思っていたのだ。

思っていたのだが、そのときになってもまだ二人して照れているという光景に

 

――あ、これ入り込むの無理なやつや

 

と判断し挨拶できずに帰ったのである。

鈴音は空気が読める子なのです。

 

アルと町を歩きつつ、「まだ時間あるから次はどこ行くか」、「いやどっか行く前に腹ごしらえを」、「じゃあどこで腹ごしらえするか決めなあかん」と言った会話をしていると、ふとアルが一軒の店に視線を向けた。

 

「ん? どうした、アル」

「いや、あやつ、なにやら見覚えがあると思ってな」

「んー?」

 

アルが指差した方向には一軒の飲食店。

まぁ、これだけなら普通の店ですねで済むのだが……

 

「ん? ……んー?」

 

窓から見える店の中に、なんか見覚えのある影がいたような……

目を擦り、再び店の中をみると、そこには……

 

「ラウラ……?」

 

どうみてもラウラ・ブランケットです。ありがとうございました。

なにやら店の中をあっちへとっとこ、こっちへとっとこと駆け回っているが……

 

「何やってんだ? アイツ」

「知らん。だが、冷やかしてみるのも悪くは無かろうよ。おあつらえ向きに、ここは飲食店のようだがな」

「ふーん……」

 

アルの言葉に、店の名前を見る。

@クルーズ……一夏にも聞き覚えのある名前だ。

 

IS学園に入学する前からあるらしい店で、なんでもメイド喫茶だとか。

弾がやけに興奮して話していたのを思い出す。

 

もっとも、自分が大十字九郎だった頃に、あのリアルメイドの面々を飽きるほど見ていたため、興味なんてわきもしなかったが。

 

――というかね、メイドに幻想とか抱けねぇよ、あの面々見たらよ。

 

とは人知れず一夏が呟いた一言だ。

 

「……まぁ、いいか」

 

丁度腹も空いてきているところだ。

目に付いた店で何かを食べるのも悪くは無いだろう。

それに、なぜセシリア命なラウラがこんなところにいるのかも気になるし。

 

 

※ ※ ※

 

 

「お帰りなさいませ、ご主人さ……織斑様? アル様?」

「よう、ラウラ」

 

一夏達が入店すると、ラウラが挨拶をしようとするが、入ってきたのが一夏達だと気付き、驚きの表情を浮かべる。

もっとも、驚きの表情と言っても、多少目を見開くぐらいの変化だったが。

 

「偶然通りかかってな」

「小娘の従者である汝が主から離れてここにいるというのも珍しいな」

「まぁ、お嬢様は義姉様がそばにいるので万が一も無いでしょうし、お嬢様も少し羽を伸ばせばいいと仰られたので、デュノア様と一緒に出かけてみまして」

「シャルと?」

 

ラウラの言葉に、一夏は店内を見渡す。

しかし、いくら見渡せどシャルロットらしき影は見えないが……

 

……いや、居た。

店の奥。

スタッフルームへ通じる通路の壁に、何か居た。

本人はそれで隠れているつもりなのだろうが、ぜんぜん隠れてない。

 

……なにこれ、突っ込み待ち?

あの子突っ込み待ちしてるの?

仮にそうじゃないとしたら、それはそれですごいよ?

だってあれで隠れてる気になってるんだし。

その点ト○ポってすごいよな、最後までチョコたっぷりだもん。

 

「なぜトッ○なのだ、一夏よ」

 

いや、今しがた通り過ぎた店員が運んでるパフェに○ッポが刺さってたもんでつい。

 

そんな様子を見ていたラウラはため息一つつくと、すたすたと隠れている(と本人は思っているであろう)シャルロットの元へと歩いていくと、ぺいっと店舗側へと放り投げた。

 

「ちょ、ラウラ!?」

「一時的とはいえ、この店で働いてるのですから、そのようなことでサボるのはおやめください、デュノア様」

「べ、別にサボるために隠れてたんじゃ……」

 

放り出されたシャルロットを見て、一夏は何で彼女が隠れていたか納得する。

 

……だって、今彼女が着ている服、執事服なんだもん。

男装してる姿なんぞ、知り合いに見られたくないもんね。

 

……じゃあ、女装姿見られた俺って、一体……?

 

ふとそんな考えがよぎったが、さっさと頭から放り出した。

 

考えるのはよそう。

これ以上考えれば暗黒面へ引きずり込まれそうだ。

 

だからとりあえず。

そう、とりあえずはだ……

 

「ピロリンとな」

「何撮ってるの!? 何撮ってるの!?」

「何って……某社の燃料?」

「さっさとつぶれろデュノア社(悪の巣窟)ぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

なんでか。

『なんでか』自分のスマホにいつの間にか入っていたデュノア社社長の連絡先宛に今のシャルロットの姿を写メるとしよう。

 

 

※ ※ ※

 

 

「……で、なんで二人で出かけてここでバイト?」

「正直、僕が聞きたいよ。出かけようかなって思って支度してたらラウラが来て、一緒に出かけようってなって、出かけてたらあれよあれよという間に何でかバイトしてたって言う状況……ほんと、誰か説明して……」

 

店の入り口での騒ぎに店長が気付き、何事かとやってきたところに事情を説明し、一夏達がシャルロット達の知り合いだということを店長が把握すると、気を利かせてくれたのか休憩していいとのお達しが来たため、シャルロットとラウラは一夏達と一緒のボックス席に座り、それぞれ軽い食事をすることとした。

なお、シャルロット達の服装はここの制服のままだ。

きっとこの休憩の後も働かされるんだろう……執事姿のままで。

 

シャルロットがかわいそうと思わなくも無いが、ここで口出しすればきっと自分達も巻き込まれる。

そんな確信がある一夏はあえて何も言わなかった。

一夏だって、首を突っ込む場面を選ぶくらいはするのだ。

 

「あーあ、急に銃を持った集団が立て篭もりにきたとか、何か大きな出来事に巻き込まれないかなぁ……そうすればその混乱に乗じて逃げるのに」

「何物騒な事を言っておるか汝は」

 

シャルロットの言葉に、アルが思わず突っ込む。

だが、無理も無いだろう。

夏休み、せっかくだしと一夏を誘おうとしたら既に一夏は出かけてて、じゃあ一人でぶらぶら出歩くかと思ってたらセシリアにラウラを頼むといわれ、ラウラと出かけたらなんでかメイド・執事喫茶で働くことになって、執事服という、自分の黒歴史の一端である男装を思い出させる格好をさせられ、最終的にそれを一夏に見られたのだ。

そりゃここまでされれば誰だって荒む。

故にこんな物騒な事も言いたくなるものだ。

 

「ここにいる奴等、全員動くな!!」

 

「……よかったなですねデュノア様。デュノア様のお望みに合致する、ナイスな展開です」

「……やめてよラウラ。僕だってまさかこんなことになるなんて思ってなかったんだから。ちょっとしたジョークのつもりだったんだから。だから一夏、そんな怖い物を見る目で僕を見ないで。アルもそんな『こいつ、やりやがった……』って目やめて。お願い。じゃないと僕泣いちゃいそうだからぁ!!」

 

ただ、それを言った直後にさっき自分が言ったとおりの集団が自分が言ったとおりの事をするだなんて、一体誰が想像付くというのだ。

だから、僕は悪くない。

悪くない……はず。

 

「……で? どうするラウラ?」

「聞くまでも無いでしょう? 鎮圧します」

「さよか。なら、手伝うとしますか」

 

机に突っ伏し、「僕じゃないー、僕じゃないー」と言い訳を探して傷ついてる状態になったシャルロットをよそに、一夏とラウラは平然とそんな事を話し合っていた

正直、自分がいる場所に銃を持った集団が押し入ってきたときの反応ではない。

では無いのだが……まぁ、こいつ等の経歴を考えれば、むしろあせったりするほうがおかしいわけで。

 

「っつーわけだ、行くぜ、アル」

「まったく。また厄介事に首を突っ込むか、汝は」

 

一夏の言葉に、アルは悪態をつくも、その表情は言葉とは違い、笑顔が見られている。

 

 

――自分の比翼が行くというのだ。自分も行かずしてどうする。

 

 

その後、ちゃっちゃと集団を鎮圧した一夏達は、鎮圧後も未だに僕じゃない状態にあるシャルロットをつれて、混乱に乗じてさっさと学園に帰ったそうな。

まぁ、魔術を使わず魔術師を倒した存在の教えを受けた奴と、前世で魔術師だ邪神だと戦い、今も日夜奉仕種族相手に戦闘訓練を行っている奴が、たかが銃を持っただけの一般人に負けるなど、そもそもありえないわけだが。

 

とりあえず、一夏は思う

 

――千冬姉にことが知られなきゃいいけどなぁ……

 

もっとも、そんな奴でも肉親のお怒りとお説教。

そしてのちに来るであろう涙目には弱かったりする。

 

世に存在する生物には天敵が必ず存在する。

世界とはかくも上手く回っているものなのだった。




某日、某所にて

「えー、それではこれよりさる筋の方からいただいた新作をお披露目しようと思う」
「しゃ、社長! 今回の新作は一体どんな……!?」
「今の私は社長ではない! 団長だ! 間違えるな!! ……今回の新作は……コレだ!」

そう言って男が取り出したのは、執事服を着たシャルロットの写真。

「Foooooooooooooooooooo!!!」
「だから言ったじゃない! シャルちゃんは男装してこそ輝くと!」
「お前じゃなくて俺だろ!? シャルちゃんは執事の格好が一番映えると!!」
「落ち着きたまえ同士諸君。 静かにしないとこの写真あげないぞ?」

とたんに静まり返る彼等。
その様はまるで統率された軍隊のよう。
その光景を見て団長は満足げに頷くと、同士に写真を配り始める。

「……それでいい。さぁ、この写真を糧に、これから先も突き進もうではないか!」

その日、某国の某社から、天地を揺るがすような声が響いたとか響かなかったとか。


※ ※ ※


と言うわけで皆様、お久しぶりです。
いやぁ、仕事の忙しさ+難産のせいでまさかの4ヶ月ですよ奥様。
こりゃもう半クラッチ程度の速度以下。
もう少し速度上げていかないとなぁ。

Q:なんで立て篭もり犯鎮圧の場面をカットしたの?
A:一夏達とラウラが鎮圧するとなるとどうなるかは書かなくても明白だから。

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