インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也- 作:クラッチペダル
人間、何が無くとも腹は減る。
ましてや何かやった場合は余計に減るものだ。
つまり何が言いたいかと言うと……
「んぐんぐ……一夏、その煮物を所望する」
「自分で頼めば良かったんじゃないんかねぇ。まぁいいけどよ。ほれ、あーん」
「あーん」
『深夜の大狩猟祭 ドキッ! 怪異しかいねぇよ!!』をやらかし、堂々と校則を破っていたこいつ等は今まさに食事中という事だ。
……周囲で同じく食事をしている一部の女子生徒の精神に多大なダメージを与えつつ、だが。
「し、自然な流れであーんを敢行した……!?」
「そしてこれまた極自然な流れでそれを受けた……!?」
「ぐぎぎ、ぐぎぎ、リア充爆発すればいいとおもうよ!」
「うわ、こいつ顔がマジだ」
「こりゃ爆発待たないでそのうち自分の手で殺るね、絶対」
「何よ、あんた等だって同じ事思ってるでしょうに」
「「(´・ω・`)らんらん豚だから難しい事わからないよ」」
「豚面被って誤魔化してんじゃねぇよ!!」
等と言うやり取りをする面子もいれば。
「お姉さま……あの、あ、あーん」
「いや、織斑君達に対抗しなくてもいいと思うんだけれど」
「あーん」
「いや、だからね」
「あーん」
「……あ、あーん」
女子校ゆえに成立する同性カップルが感化された結果、パートナーの予想外な押しの強さを知る羽目になる面子も居れば。
「何、男なんかと一緒に行動しちゃって」
「ほっとけばいいのよ、所詮それまでの子って事でしょ」
などと、世間に蔓延る女尊男卑主義に共感しているがゆえに忌々しげに呟く面子も居たりする。
聞いている側としては非常に気分が悪くなるような言葉だが、世界でこの様な風潮がある以上、この様な考えを持つ人間も居るのは、まぁ仕方ない事だ。
その風潮が良かろうが悪かろうが、人は世間のそれに流される存在である。
仮に、もし仮にだが、女尊男卑の風潮が終わり、男女平等の風潮になれば、今しがた男を見下した発言をしたあの生徒が声高々に男女平等を謳うかもしれないのだ。
自身が男を見下していたと言う事実を忘却の彼方に放り投げて。
つまりその程度の事を逐一気にしてたらキリがないのである。自身、ならびに自身の周辺に害が無い限りは。
故に、一夏は気にしない。
だって疲れるし?
いろんな意味で疲れる環境にいるんだ、少しでも疲れることはしたくない。
したくないのだが……
「女尊男卑と言ったか……ふん、まさに張子の虎よな。滑稽とはこの事よ」
この処世術と言う言葉を遥か過去に置いてきた合法ロリっ子は、さも不快だと言わんばかりにそう呟いた。
止めて! そんな事誰かに聞かれたら絶対問題が起こるわ!!
一夏は、誰も聞いてませんように聞いてませんようにと祈る。
……さて、ここで諸兄らに問題である。
Q:かつてこの男がこの様な場面で祈った際、その祈りは届いた事があっただろうか?
A:あ? ねぇよんな事
「あら、随分な言い方ね。でも、こう言う世間の中、それを言いきっちゃうなんて……」
つまり、ばっちり聞かれていたのである。
「お姉さん、そんなあなたにすごーく興味湧いちゃったなぁ?」
目の前のなんか髪の毛水色な、かつてのルームメイトにソックリな感じのおねーさまに。
それはもう、ばっちりと。
そのおねーさまの首元にあるリボンは……おおっと上級生の証だ。
「\(^o^)/」
目上の人に聞かれるとかどう考えても厄介事。
もしくは、これ自体が厄介事ではないとしたら、厄介事の種である。
※ ※ ※
とにもかくにも、普段からいろんな意味で騒がしく、夏休みでもそれは変わらない朝の食堂。
この喧騒は食堂を利用している生徒が食事を終え、やれ補習へ向かうなり、やれ待ち合わせていた友人と出かけるなどでいなくなるまで続く……筈だった。
だが、少なくとも食堂の一角は、何やら通夜のような空気が漂っている。
方や、扇子で口元を隠しながら微笑む、IS学園生徒会長である更識楯無。その扇子には颯爽登場と達筆な字で書かれている。
方や、何かをあきらめたような表情をしている、世界唯一の男性操縦者である織斑一夏、そしてその隣で我関せずとデザートに杏仁豆腐をパクついているアル・アジフ。
「……で、興味が湧いた……のはいいんだけれど、どうしてそんな通夜のような沈痛な面持ちなのかしら? 織斑一夏君?」
「イエ、ナンデモ」
そりゃそんな顔にもなりたくなる。
なんせ相手はこの、IS学園の生徒会長である更識楯無。
立場が上の人に目を付けられた結果、厄介事まっしぐらは最早アーカム的常識。
だからそんな顔してても仕方ない。
仕方ないったら仕方ない。
それに、IS学園において生徒会長とは学園最強の証だと言う。
世の中、力と性格を両立させている存在の方が少ないのだ。
故に疑う。この目の前に座している彼女の人格は果たして……
まぁ、こうしてにっこにっこ目の前に平然と座る辺り、大丈夫かなぁとか思ってたりもしているが、表で笑って裏で包丁研いでるかもしれないし?
油断は死。
かの有名なマジツ=スクロールであるネクロノミコンにもそう書かれている。
そんな一夏の内心を知ってか知らずか、楯無はアルを見やる。
「それで? 今の世の中であそこまで言いきれちゃうのってすごい事よ? 人間誰しも世の中の流れに流されるもの。そして今の世の中の流れは間違い無く『ISが使える女はすごい、使えない男は駄目』よ?」
「ふん、悪いが妾を世間ただ流されるだけの存在と見くびるなよ小娘」
「俺としては、少しぐらい流れてもいいと思うんですよ、はい」
「あ゛ぁ゛ん゛!?」
「ナンデモナイデース」
でも、もう少し常識とかそっち方面では流されて欲しいな!
織斑一夏、心の叫び。
「……まぁ、一夏にはあとで問い詰めるとして、話の続きだ。なに、簡単な話だ。妾は知っているだけだ」
「知っている?」
「うむ。世の中の流れなどまっことどうでもいい事だ。妾はこの目で見て知っている。ISを使う者達を。いい例ならば……オルコットの小娘やその従者だな」
目が合えばなんだかんだ憎まれ口を叩くが、アルは彼女なりにセシリアを認めてはいるのだ。
――かつての話ではあるが、彼女は前線に出ていたわけでは無い。
本人曰く、安全な後方にいただけというが、見ただけで精神を砕かれる邪悪な存在相手に安全な場所などありはしない。
だというのに、人の身でありながら最後まで戦い抜いたという点において、アルは何よりもセシリア……覇道瑠璃という存在を認めている。
「あの小娘はいいぞ? 自分が何を持っており、それをいつ、どの様に振るうかをしっかり見定めている。従者も同じだ。あれを知っているなら、世間の流れなどもはや淀んだ沼にしか見えぬわ」
様は流れ流れと言うが、実際は流れて無いから水汚れてんぞオイという事である。
「それに、なにより根本的な事は……声高に女が男がと話す奴は……そういった真にISを扱う者のおこぼれを預かっているに過ぎんという事よ。そのような輩が何を語ったところでその言葉は薄っぺらもいいところだな。ただの音に過ぎん。そして、ただの音如きで揺らぐほど妾は暇では無いのでな、そんな事に気を割くよりだったら一夏と共に居るほうが建設的だ。うむ、実にな」
「…………」
ここで惚気入れる必要はあったんですかねぇ……
まぁ、嬉しいけど……嬉しいけど!
思わず顔に手を当て、一夏思う。
――やっべぇ、触った顔熱い。
確実に自分の顔は今赤いんだろうなぁ、なんて事を現実逃避気味に思いつつ、一夏は自分と同じくアルの言葉を聞いていた楯無を見やる。
その顔は……それはそれはいい笑顔であった。
満面の、である。
「イイ」笑顔ではなく、正しい意味での、満面の良い笑顔。
口元を隠した扇子には天晴と達筆な文字で書かれている。
……あれ? さっきは颯爽登場って書いてなかった?
「good. こんな世の中でそこまで言いきれる胆力、まっこと天晴ね。おねーさん貴方達の事気に入っちゃったわ」
……貴方「達」?
「はいそこ、なんで『達なわけ?』見たいな顔しないの。貴方だって同じでしょ? そういう事を気にして無い……いえ、気にするつもりが毛頭ないのは。この子が話してても、この場で話してることに対しては顔を顰めたりしてたけど、話してる内容には顔を顰めて無いもの」
なんという洞察力だろうか。
もしくは、一夏が分かりやすいだけなのかもしれないが。
「いやー、こっちも一応生徒会長として、生徒の事をある程度調べてはいるけど、生徒の思想思考までは流石に書類とかじゃ詳しく分からないからねぇ。こうして実際話して見ないとね、やっぱり」
一人何かに納得し、うんうんと頷く楯無。
だが、こちとら何一つ訳わからない。
興味もたれて、いろいろ話してたらなんでか勝手に気に入られた。
一夏からすれば現在の状況はそんな感じである。
「で、そんなあなた達を見込んで、是非とも頼みたい事があるんだよねー、お姉さんは」
「なるほど、そっちが本題ですかい」
一夏がやや呆れたようにそう言い放つ。
なんとなく話しかけてきたときから裏で何かを考えてる感じはしていたのだ。
しかし、頼み事をしたいだけなのに随分回りくどいことだ。
「頼み事は頼もうとしてる相手の人となりを知ってからじゃ無いとねぇ。だれかれに頼むなんてお姉さんとてもじゃ無いけど出来ないわ」
「ナチュラルに
どうしてこう、自分の周囲の人間はこう言う事をしてくる奴が多いのだろう。
一夏は嘆く。
なお、自分が分かりやすいだけという限りなく真実に近い可能性もあるのだが、そこは見て見ぬ振りをした。
「とまぁ、とにかく貴方に頼みたい事があるのよ、織斑一夏君」
「まぁ、一応聞くだけは聞きますけどね。一体俺に何をしろと?」
「それはね……」
「私の妹を□□□□の魔の手から助けてくだしあ! オナシャス!!」
後に某魔導書は語る。
「それはそれは、思わず妾でさえも惚れ惚れしてしまうくらいに美しい……土下座だった」
と……
※ ※ ※
とりあえず美しい土下座から体勢を直してもらい、詳しい話を聞く。
が、全部聞かなくても大体分かった。分かりたくなかったけど分かっちゃった。
「「またあいつか!!」」
まぁ、なんて事は無い。あのキ印博士絡みの話であった。
曰く、妹が□□□□に目を付けられたせいでちょっとこれはイカンでしょな方向へ邁進しているとの事。
因みに、妹の名前は更識簪。
ああ、どうりで似てると思ったわけだよ。
姉妹だったわけね。
つか、入学式の際に目の前の会長さんは挨拶してたんだし、名前は知ってたんだし、簪との自己紹介の時になぜ気付けなかったんだろうか。
「しかし、姉なのだろう? 直接妹を彼奴から引き離せば良かろう。なぜわざわざ妾や一夏に頼む? 出来ぬ事情でもあるのか?」
「…………」
アルの言葉に、何故か急に落ち込みだす楯無。
あれ? そこまで落ち込むような事でも無いような……
いや、わざわざあまり接点が無い自分達に頼むって事は、自分じゃどうしても出来ない事情があるんだろうが……
「……あのね、私ね……嫌われてるの……壮絶に」
「「うわぁ……」」
さめざめと涙を流す楯無に、一夏はもちろん、流石の魔導書も絶句するしかなかった。
やっべぇ、なんか地雷踏んじまった的な感じで。
「だって……だってしょうがないじゃない……私だってあんな事言いたくなかったわよ……でも、手っ取り早く離すにはああ言うしかなかったし……ああでももっとこう……言い方とかあったわよねぇ私!!」
「一夏、こやつ自分の世界に入りおった」
「そっとしといてやろう。今会長は忙しいんだ」
何やら葛藤し始める楯無を前に、それでもそっとしておく位の情けが二人にはギリギリあった。
「……でも、簪ちゃんもひどいと思わない!? 私が仕方なく、嫌々、渋々、しょうがなく、苦渋の決断の末にあんな事言ったって察してくれても良いと思うの!!」
「で、その言葉の真意を後々説明しましたか?(小声)」
「人は言葉で聞かねば人の気持ちはわからんのだぞ?(小声)」
「ぐっはぁぁぁぁぁ!?」
ただし、責任転嫁しだすような人にかける情けは持ち合わせて居なかった。
というかむしろそう言う奴はこいつ等にとっては玩具である。
「めっちゃ避けられてたから話せなかった、とか言いませんよね?(小声)」
「そこで引き下がったら額面どおりに受け取られても、仕方ないのでは?(小声)」
「げっぷぅぅぅぅぅ!?」
「……あ、あれ、私、あなた達に相談しに来たのに、なんであなた達にいじめられてるのかしら……?」
「何と言うか、流れ?」
「運命だ、受け入れよ」
「んな流れも運命もノゥセンキューよ!」
一夏達の言葉の暴力からなんとか復帰した楯無は、うがー! と唸りながら体を起こす。
手に持った扇子には話題脱線の文字が。
……あれ? さっきは天晴って書いてなかった?
「まぁでも、話そうと思えば話せるなら、話しておくに越した事はねぇぜ? ……後からになってあの時もっと話しときゃ良かった、とか後悔しても遅ぇからよ……」
思いだすのは、この世界に来たばかりの頃。
アルは傍におらず、自分だけが見知らぬ世界で、見知らぬ人と暮らしていたあの日。
あの頃は常日頃思っていたものだ。
もっと、もっとアルといろいろ語り合っていればよかった、と。
語っても語っても尽きぬ話を、それでも一つでも多く語り合えば良かった、と。
奇跡的に、自分の場合はこうして再びアルと再会することが出来たが、当時はもう二度と会えないのなら……と後悔の連続だったのは未だに覚えている。
「少なくとも、会おうと思えばいつでも会えるんだ……ほんの少し、勇気を出せば。だったら、嫌われてるだのとか、そういうので尻込みして手遅れになる前に、話したほうが良いと思うがね」
「……そうかしらね」
一夏の言葉をどう捉えたのか。
楯無はただ、一夏の言葉に頷くだけだった……
「……それはそうとあの□□□□どうすれば良いかしら?」
「「とりあえず殴っておけばおk」」
シリアス返せお前等。
更新ペースがダダ下がりの中、ようやく会長を本格的に出せたZOI!
……でも、あれ?
予定してた場面までたどり着いてない……それどころか予定にない場面がある……?
……教授! これは一体?!
――束ちゃんの仕業だ
束ちゃんの仕業なら仕方ない。