# 故に輝星は花に惹かれる
## 第一局
入学式は滞りなく終わり、春の陽気と暖かな陽光につつまれたHRにて新しいクラスメイト達は先生の主導の元お決まりの自己紹介の真っ最中。だが、咲の席はちょうど日陰で暖かなそれらが届くことは無い。
クラスメイトの自己紹介を意識の外において、咲は考え事にふけっていた。
(あれからお姉ちゃんとは1回も話してない。お母さんの仕事の都合で長野から東京に引っ越してきても変わらないままだ。どうしたらお姉ちゃんと仲直りをできるんだろう…)
「……さん、宮永さん」
「は、はいっ」
思考の海に沈んでいた咲は突然の先生の声に驚き、立ち上がった。後ろで椅子がガタッと音をたてて倒れる。
「宮永さんの番ですよ。自己紹介をお願いします。」
咲は周りの様子が目に入らないほど考え事に没頭していた事に少し赤面し、慌てて自己紹介をはじめた。
「すいません。宮永咲といいます。入る部活はまだ決めてません。よろしくお願いします」
(やっちゃった…初日から失敗しちゃったよぉ)
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HRが終わるとクラスメイト達はめいめいの目的地に散ってゆく。
帰宅する生徒、職員室に質問しに行く生徒、運動部の見学に行く生徒。
だが、ここが白糸台である以上大半の生徒の行き先は決まっている。校内随一の部員数を誇る麻雀部。その部室である。
所属する部活を決めていなかった咲には特に目的地がある訳ではなかった。だが、無意識のうちに来てしまったのだろう。気づけば【麻雀部部室】と書かれた扉の前にいた。
(なんでここに来ちゃったんだろう…もう麻雀は打たないって決めてるのに…)
やはり未練があったのかもしれない。自分が大好きだった麻雀に。姉と自分を繋いでくれていた麻雀に。
咲が扉の前で物思いに沈んでいると、扉がガラッと音をたててひらいて、どこか日本人離れした風貌の女の子が長い金髪をなびかせながら出て来た。
「入部試験そろそろ始まるよ。早く中に入りなよ。」
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「あ、それロン!8000!」
「あーあ、また淡かぁ」
「こんな麻雀楽しくない…」
「私もう淡ちゃんとは打ちたくないよ…」
(これで淡から離れていく子は何人目だろう…)
大星淡は麻雀が好きな普通の女の子だった。友達と麻雀を打って笑い合う、そんな時間が好きな普通の女の子だった。
だが、そんなささやかな幸せも淡は奪われた。それも他でもない自身の才能に。
初めはみんなより少し強い程度だった。けれど淡の持つ天賦の才は凄まじく、その成長速度に着いてこれるものはいるはずもない。一緒に麻雀を打っていた友人達が離れていくのも時間の問題だった。
友人達が離れていく理由を淡は理解出来なかった。ただただ悲しかった。友人達がもう自分とは打ってくれないということを確信して。
気づけばただ1人、出雲美波を除けば淡に関わってくる人は誰もいなくなっていた。
「みなみは私の前からいなくならないよね…?」
「うん、私は淡の親友だから!」
出雲美波は責任感の強い女の子だった。だから圧倒的な才能のせいで孤立してしまった女の子を放ってはおけなかった。その女の子が当時仲良くしていた淡なら、なおのことである。
(私は淡の味方でいよう。何があっても)
自分が麻雀に勝つことで周りの人がどんどん離れていく。淡は自分は誰にも負けることは無い、というプライドで自分の心を守った。そうしないと自分の麻雀を好きな心さえ失ってしまうと感じたからだ。
転機が訪れたのは淡が高一になった時だった。白糸台高校に美波と共に入学した淡は誰にも負けるはずはないというプライドを持って麻雀部にのりこんだ。
そして実際、淡はそこでも負けることなかった。ただ1人を除いて。
「ツモ。6000オール。これでトビだね」
「う、そ…私がまけた…?」
「あなたには才能はあっても努力がない。そんな人に私が負けるわけがない。」
それからの一年間は淡にとってこれまでの人生で最も楽しさを感じられる時だった。白糸台高校麻雀部という麻雀をするのに最高の環境を得た。出雲美波という親友が隣にいる。そして何より、宮永照という目標が出来た。
「テルー!今日こそは負けないよ!」
(テルは私より強い。だから私から離れていくことはないんだ)
淡は自分の牌譜を眺め弱点を克服しようとした。照の牌譜を眺め弱点を見つけようとした。ネトマを打って能力に頼らない素の雀力を高めようとした。全て淡にとっては初めての努力だった。
楽しかった。目標がありそれに追いつくために様々な策を考える。様々な努力をする。どれも淡にとっては新鮮なことだった。
だがそんな時間も長くは続かない。宮永照が卒業する直前に打った最後のテルとの麻雀。
(あたりの喧騒が遠くなっていくように感じる…
次の牌をつもれば間違いなく…
それでも、それでも私は…)
「ツモ…4000、8000…」
「…強くなったね、淡」
淡は再び目標を失った。
一度目は才能で。二度目は努力で。再び失われた幸福な時。淡の本来の天真爛漫な性格は全てに無関心で寡黙な仮面の下に隠れてしまうようになった。
(最近の淡は麻雀に向き合わなくなっちゃった…
私にはただ横にいてあげることしかできない…
もし私がもっと麻雀が強ければ…)
それからの淡は対局相手を無表情で蹂躙し続けた。さながら機械のごとく。
出雲美波はそんな淡に悲しみを覚えると同時に、僅かな希望も抱いていた。
(照先輩が最後に言ったんだ。『美波。きっと淡が全力をだせる子が入学してくる。その時になったら淡がその子と向き合えるように、麻雀に向き合えるようにどうか助けてあげてほしい。』)
(去年の新入部員にはそんな子はいなかった。あの言葉が正しいなら今年その子が入学してくるはずなんだ。そうしたら淡も、きっと…)
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#淡咲SS
#淡咲SS/故に輝星は花に惹かれる