ギィン!!と金属と金属がぶつかる音が鳴り響き、剣と剣の間に火花が散る。
「はあぁぁぁ!!」
白銀の鎧を着た女騎士が手にした細身の剣を振るう。
振るわれた剣は黒衣の騎士の持つ剣によって弾かれた。
「ふっ!」
黒衣の騎士が黒馬と共に走り抜け、彼女に目掛けて神速とも言える剣を振るった。
その斬撃は彼女の身体に当たる事なく、空を切った。
「やはり卿は中々の腕を持つ。聖騎士」
「かの魔将軍に言われるとは、光栄と言っておきます」
黒の髪と金の髪が風により揺れる中、お互い剣先を向けたままだ。
「ハァ!!」
魔将軍の叫びと共に黒馬がその身体を上げ、地を駆け抜ける。
そしてその勢いと共に、魔将軍は剣を振り抜いた。
「!無駄です!!」
光を通さぬ斬撃が彼女を襲うが、彼女は聖騎士であり英雄だ。
凄まじく早いその剣先を彼女は見切り、捌いていく。
だが、魔将軍も攻撃を見切る彼女に一切もの油断はなく、その攻撃の手を休めない。
少しずつではあるが、彼女の真っ白な肌に切り傷を作っていき、鮮血を散らせた。
「くっ!」
彼女は魔将軍の斬撃を弾くと、そのまま距離を取る。
距離を取る彼女に対し、魔将軍は追撃をする事なく、黒馬と共に彼女を見つめた。
そんな魔将軍に対し、彼女は言葉を投げる。
「なぜ、追撃をしなかったのです」
彼女のその言葉に魔将軍は口を開いた。
「何、卿との闘争が楽しくてな。ここで倒して良いものかと考えてしまった」
魔将軍の言葉に彼女は驚いた顔をする。
この男は今、何と言った?
この闘争が楽しい。と、彼は言っていた。
そんな魔将軍に対し、彼女は口を開く。
「・・・私はそうは思いません」
「ほう?」
彼女の言葉に魔将軍は興味深そうに耳を傾けてくる。
「戦いなどただ悲しいだけではありませんか。沢山の人が死に、残された者達は悲しみに暮れる。そんなものしか生まない戦いになんの意味があるのです?」
彼女のその言葉に魔将軍は口を開いた。
「それは卿の考えている事であろう?私は違う」
魔将軍はそんな彼女に言う。
「私は戦争の化身である。皆が強者との勝利を栄光を求めているのだ。なら、強者である卿との戦いに勝利をした時の感動は忘れられないだろう?私はそれを求めるのだ。故に─────」
「私は闘争と勝利、栄光を求める死者や生者達の王となろう!」
魔将軍はそう高らかに答えて、剣を振り抜いた。
「ッッ!!」
剣同士が再びぶつかり、強烈な衝撃が彼女を襲う。
「あなたは・・・間違っている!!」
彼女は叫ぶ。そのあり方は間違っていると。
だが魔族である魔将軍は鬩ぎ合いの中、彼女に言葉を投げかける。
「なら卿はこの先の新世界で何を願う」
「無論!世界の平和を!」
「ならば己の覇道で何を願う?」
「答えるまでもない!それは──────」
何故か、言葉は出なかった。
「私(戦争)を人から取り除く事など誰にも出来はせんぞ」
その言葉にも・・・彼女は答える事が出来なかった。
そんな彼女に対し、魔将軍は語る。
「異なる他者への排撃は、魂の根幹に刻まれた私達の原罪だ。決して拭えん」
「卿もまた、私を認められんのだろう?」
確かに、魔将軍の言うことは間違っていない。私が聖騎士として戦場に参戦する前だって、世界の何処かで戦争が起こっていたはずだろう。
それは殺し合いなんて大仰なものでなくても、相容れない他人を前に喧嘩をしたり嫌いあったり、数え切れない拒絶に満ち溢れている世の中。
私はどう答えればいいのか分からず、ただ立ち尽くすしか無かった。
「殺し合わずにおれないならば、等しく我が元で永劫の闘争を続ければ良い。人や悪魔である私達は何も変わらん。善や道徳という欺瞞は剥がされ、真実の己に立ち返ること、それを祝福と思う者も存在する」
「いや、認めずとも皆が同じなのではないか。力を得られて興奮したろう」
「それ・・・は・・・」
言葉が出てこない。
「他者より抜きん出る事実に優越を覚えたことは?」
皆を守るために勝利をする為に刃を磨いた。それもまた真実だった事に彼女は剣を落とす。
“カラン“と音を立てて剣が落ちる。
そんな彼女に対し、魔将軍は言った。
「ゆえ、与えてやるのだ、この私が。鉄火に満ちた戦場の風を、英雄になりたいという慰めの妄想にすぎなかった非現実を、私がこの世界に贈ってやろう」
「そして、卿には“英雄になる資格がある”」
「ぁ・・・・」
確かに私は最初、英雄になりたかった。
だけど現実はそう甘くはなく、英雄とは弱者が虐げられるからこそなれるモノなのだ。
そんな弱者になる人間を生み出す位なら英雄にならなくていい。
そう自分に言い聞かせて、生きてきた。
だけど、彼が言う永劫の闘争がこの世界に広まれば────
私は・・・英雄になれる?
憧れていたモノになれる。その先が永劫の闘争の道だと分かっていても──────
「私は・・・英雄になれるのですか?」
彼女の問いに魔将軍は言った。
「無論─────私の元へ来れば卿は“英雄”になれるだろう」
その言葉に──────
「私は・・・英雄になりたい!」
彼女の答えに魔将軍は言った。
「ならば、私の祝福を受けるがいい!」
魔将軍はそう言って、その手に持つ剣を私に突き刺した。
私が魔将軍に吸収される。体も意識も何もかも。だが、恐怖は無かった。だって──────
英雄になれるのだもの
彼女は意識はそこで無くなった。
「ああ、私の世界(中)で永劫に戦い続けるがいい。卿は間違いなく英雄になれるとも」
魔将軍はそう言い、戦場を駆けていった。
この先に見据える新世界を彼女達は夢見て。
◇◇◇◇◇
「あーあ。英雄を目指す奴なんざどの時代になっても変わらねえな」
青年が戦場を駆ける魔将軍を見てそう呟く。
「まあ?あの魔将軍様は英雄じゃなくて、どっちかっつうと魔王か?まあ、どうせあの魔将軍様は魔王になるからどの道一緒か」
悪魔の青年は肩を竦めて身を翻す。
「まあ、今回は俺の出る幕じゃ無かったってことだ」
そう言って彼は消えていった。
そして魔将軍は新たな魔王となった。
その傍らには英雄になった女が騎士として彼に仕えていたという。