ソードアート・オンライン ~幻影の騎士~ 作:ELS@花園メルン
キリトを立ち直らせ、アイツに現実世界へ帰還する目的を再認識させたあの決闘の日から数カ月が経って、今は10月だ。来月にはSAOに潜ってから一年が経過するんだな、とキリトとメッセージのやりとりをし、俺は自分の目的を果たすため転移門広場である人物を待っていた。そして、待つこと数分、その人物が転移門より姿を現した。
「おう、ノーチラス———って、大丈夫か?」
「…シキ。ああ、うん、ちょっと、ね」
「今日、40層迷宮区の攻略だったんだろう?そんなにハードだったか?」
「…それも含めて後で話すよ。それより、ユナとも合流しよう」
「あ、ああ」
今日のノーチラスは今まで見たアイツの様子からかなりかけ離れた様子だった。その後、34層へ降り、ノーチラスの友人、まあ、今は俺の友人でもあるんだが、【ユナ】という女性プレイヤーと合流し、食事へと出かけた。
「ノー君、今日は随分、辛そうだね。無理してない?」
「大丈夫だよ、ユナ」
「で、さっき中断してしまった話だけど、今日の攻略で何かあったのか?」
攻略に出る際の装備を外し、深緑のセーターに着替えた俺はノーチラスへさっき中断した話について問いかけた。その際、ユナは飲み物を注ぎ、グラスを俺たちに渡してくれた。
「ありがとう、ユナ。…実は————」
ノーチラスは俺とユナにこう話した。
俺との攻略や訓練でならスムーズに行えた動きが、今日の最前線攻略の際、迷宮区タワーの中ボスとの戦闘の際、ボスの自分たちを殺そうとしているかの様な眼に思わず身体が硬直してしまい全く反応せず、今回の攻略から一軍へと上がった自分の同期の【サンザ】というプレイヤーの命を危険にさらしてしまったらしい。幸い、サンザは偶然居合わせたソロプレイヤー(おそらくキリトの事だろう)に救われたそうだ。———以前、キリトから聞いたことがあるが、アイツの知り合いにも似た状態に陥ったことのあるプレイヤーがいたそうだ。キリトが言うには、FNC【フルダイブ不適合】という症状だったそうだ。文字通り、フルダイブの際に適合せず、重度だと仮想世界へダイブすらできず、軽度でも何かしらの影響があるらしい。そのプレイヤーは遠近感が掴めず、戦闘において致命的なトラブルだったらしい。多分、ノーチラスもそれに似た感じで、頭では分かっていても、本能がボスへの接近を拒否しているんだろう。
「それで、副団長からは40層の攻略メンバーから外されて、更にサンザからは冷たい目で見られたんだよ、はぁぁ」
「なるほど、それでノー君はそんなに凹んでたんだね。でも、失敗なんて誰にだってあることじゃない。ノー君は一軍に入って、今回が最初の攻略なんでしょ?そんないきなりの状態だったらミスや失敗しても仕方ないじゃん!なら、次に向けてどう気を付けるとか考えようよ!ね、シキ君!」
「ああ、ユナの言うとおりだ。俺だって、攻略中に失敗したことあるし、今じゃ考えられないかも知れないけどあの副団長様だってミスや失敗なんてザラだったぞ?…まあ、最前線っていう厳しい環境と初陣っていうプレッシャーで体が動かなくなる、ってことは仕方ない部分もあるからな。その場合は安全マージンをより多く取っといて厳しい環境に慣れていくしかないかもだけど、次に生かせるように頑張ろうぜ」
「ユナ、シキ……、ありがとう。そうだね、なら僕は僕自身のペースで行くようにしてみるよ。とりあえず、今日のところはもう少し愚痴でも聞いてもらおうかな」
少し元気を取り戻したノーチラスとノーチラスを元気づけているユナと共に楽しい夕食のひと時を過ごした。ノーチラスは攻略メンバーから外されたが、キリトと共に最前線で十分な安全マージンを取っている俺たちはボス攻略に参加するように要請を受けているので、夕食を取った日の3日後、俺は40層ボス討伐隊として、迷宮区を登っていた。全25層で構成されている迷宮区タワーの20層にある安全地帯にて、攻略レイドたちは少しばかりの休息を取っていた。俺も、空いたスキルスロットに興味本位で入れた≪料理≫スキルにて作ったレーションを食べ、NPCショップで買った飲料水を飲んでいた。すると、俺の元にメッセージが届いた。本来、ダンジョンにはメッセージは届かないが、今いる安全地帯においてはメッセージの送受信が可能になっている。……差出人はノーチラスか、件名は——!?『助けて』!?
【シキ、もし君がこのメールを見ていて、ボス攻略が済んでいるなら助けてほしい。実は僕とユナは今、数人のプレイヤーと共に迷宮区近くのダンジョンの≪閉じ込めトラップ≫に掛かって、モンスターの大群に追われているプレイヤーたちと救援に向かっている。でも、人数が10人ととてもじゃないけど心許ない。無理を言ってるのは分かってるけど、できれば助けに来て欲しい】
という内容だった。ボスの討伐は当然ながら済んでいない。けれど、討伐が終るのが一体、いつになるかすらも分からない現状、2人にもしもの場合があるかもしれない。————俺は、今回の攻略レイドのリーダーであるアスナを呼び出し、事の次第を話した。
「…分かっているの?あなたの実力は攻略組の中でも団長やキリト君と比べても遜色ないほどのトップクラス。そのあなたが抜けるようなことがあれば、運が悪ければこのレイドが壊滅する恐れすらあるのよ!?私達の攻略を待っている下層の大勢のプレイヤーとその数人のプレイヤー、どちらの命が重いかなんて一目瞭然でしょう!?ならば———「行かせてもいいんじゃないか?」———あなた…」
アスナの言葉を遮って、そう言ったのはキリトだった。その後ろにはクライン、エギルもいた。
「俺とクラインとエギルでシキが抜けた分の穴を埋める。それなら何も問題はないんじゃないか?」
「シキ、俺たちに任せてお前はダチを助けてこい!」
「お前の分の報酬は俺たちで貰うけどな」
「……はぁ、分かりました。その代わり、あなたたちにはしっかりと働いてもらいますからね?——シキ君、ノーチラス君のことお願いね」
そう言って、四人は俺を見送ってくれた。クラインとエギルは俺よりもレベルが低かったが、どこか頼りになる感じだった。——これが大人の余裕という奴か…。
俺は急ぎ、転移結晶で迷宮区入り口へ転移し、ノーチラスたちが向かったダンジョンへと急いだ。万が一、ということも考え、俺はスキルスロットの≪幻影剣≫をセットし、自分のAGIの限界のスピードで走り、ダンジョンへとたどり着いた。遺跡内は複雑な道で、道中にはかなりのMobが配置されている。しかし、ノーチラスたちが進んだからだろうか、複数ある道のひとつはMobが湧いていなかった。そこを進んでいき、俺が見たのは≪フィーラル・ワーダーチーフ≫という鉄仮面を被った拷問吏系のボスモンスターとその取り巻きたちと戦うノーチラスや40層の迷宮区攻略へ向かっていない風林火山のメンバー、数人のプレイヤー、そしてボスの周りにいるよりも多くの取り巻きに囲まれたユナの姿だった。
「ユ、ユナァァァァ!!」
ノーチラスがそう叫び、ユナの元へ駆けだそうとしていたが、足が動いていなかった。やっぱりノーチラスの身体を死への恐怖が縛り付けているようだ。
俺は、腰に装備している短剣を抜き、Mobに囲まれているユナの元へ投擲、≪幻影剣≫専用移動攻撃スキル≪シフトブレイク≫を発動し、ユナへ攻撃しようとしている≪エリート・ワーダーチーフ≫の前に瞬間移動し、ワーダーチーフの手斧を弾いた。
「…え?」
「!?」
攻撃を弾いた後、すぐに≪クイックチェンジ≫で武器を短剣から片手剣へと変更し、≪ホリゾンタル≫で正面の敵たちを切り裂き、ユナを囲んでいた包囲網に穴をあけ、その穴へユナを無理矢理押し出した。
「うわ!?シ、シキ!?なんで!?」
「バフを中止して一旦下がれ!」
手短にそう言うと、俺は≪幻影剣≫スキルの一つ≪ファントム・ソード≫で、自分の周りに武器を展開し、片手剣七連撃スキル≪デッドリー・シンズ≫で敵を蹴散らし、スキル硬直を狙って攻撃してくるMobたちに≪ファントム・ソード≫で反撃し、そのことごとくをポリゴン状に爆散させていった。俺がユナを包囲していた敵を全て蹴散らしたころには、ノーチラスたちがボスを倒し、ポリゴン状に変質させていた。
「うおぉぉぉ!やったぁぁぁぁ!!」
「た、助かったぁぁぁぁ!!」
「お前ら、ありがとな!助けに来てくれて!」
と、他のプレイヤーたちが喜びあっていたが、ノーチラスはユナの身を案じるべく、すぐさまユナの元へ駆けよっていた。
「ユナ!大丈夫!?死んでないよね!?」
「…うん、大丈夫だよ、ノー君。危なかったけど、シキ君が助けてくれたから…」
「そ、そうだ、シキ!君、どうしてここに!?フロアボスは倒したのか!?」
「い、いやぁ、ボス攻略は他の奴らに任せて、こっちに駆け付けたんだけど」
「な…!?———ううん、でも、君が来てくれなかったら、ユナは死んでた。ありがとう、シキ」
そう言いながら、ノーチラスは俺に頭を下げてきた。すると、ボス攻略に向かっていない風林火山のメンバーが俺の元へきて、
「シキぃ!お前のおかげで誰も死なずに助かったぜぇ!で、よう、お前さっきのあれはなんだったんだよ!?瞬間移動したり、武器が宙に浮かんで敵を攻撃したり!あんなのみたことねぇぞ!?」
「あ、これ、言わなきゃいけない流れ…?」
「——いや、やめとくわ。知りたいって気持ちもあるけど、助けてもらった恩もあるからな。アンタらもそれでいいだろ?」
そう、風林火山のメンバーが後ろにいた救助隊のメンバーとその仲間に尋ねると、全員が承諾していた。いや、ホントこれには感謝だわ。ぶっちゃけ、情報が洩れれば一瞬で拡散されそうだし…。
「ま、俺らは先に帰るけどお前らはどうする?どうせなら、このままレベリングしながら帰るか?今なら、攻略組のソロプレイヤーと一緒に狩りができるぜ?」
「もうへとへとだって……。タダでさえ切羽詰まってた上に、ボス戦までしたんだから帰らせてくれって…。ってことで、俺たちは帰るけど、兄ちゃん助けてくれてサンキュな!」
そう言いながら、救助隊の人たちは座っている俺の頭をわしゃわしゃして帰っていった。風林火山の二人もそれに続き部屋を出て、残ったのは俺とノーチラス、ユナの三人だけだ。
「俺たちも帰るか、ノーチラス、ユナ」
「そうだね。ユナ、立てる?」
「う、うん———あ、あれ?腰が抜けちゃったのかな…、た、立てない」
「ええ!?」
「あー、こりゃしょうがないなぁ。よし、ノーチラス!おんぶ、いや、お姫様だっこだな!」
と、俺が腰の抜けたユナを結晶無効化空間から出すために、ノーチラスへそう提案すると、コイツ、顔をタコみたいに真っ赤にさせやがった。
「ちょ、いきなりそんな…!?」
「だーいじょうぶだって、お前の筋力値ならプレイヤーの一人や二人余裕だろ?なんなら俺が代わろうか?」
「い、いや!僕がやる!!————あ…」
ノーチラスがしまった、と思った時には既に遅く、ノーチラスがそう宣言したことで、ユナの顔もほんのり紅くなっていた。
「お、お願いします…」
「う、うん…」
「暑いなぁ…。ここ監獄フィールドだから別に暑くはないはずなのに、なんでかな~?」
「「シキ!(シキ君!)」」
「あはは、悪い悪い!じゃ、さっさと帰ろうぜ」
俺とユナを連れた(結局おんぶ)ノーチラスは結晶無効化空間の大部屋を脱出し、40層主街区へと帰還した。
後日、血盟騎士団の方へノーチラスは向かい、しばらくの間、前線を抜けたいと団長のヒースクリフへ申し出たそうだが、俺がアスナに口添えしといたからか、すんなりと承諾され、ノーチラスはユナと共に中層にて≪攻略組予備軍≫と呼ばれるプレイヤーたちの育成のためにしばらく尽力したそうだ。
それから二カ月が経ち、クリスマス前になり、アインクラッドの攻略は半分の50層に差し掛かった。しかし、SAO開始から一年が経過したことで皆、この世界での生活に慣れ、年末が近づくと、攻略を休み、宴気分になっていた。そんな時、俺とキリトが初期から関わっている情報屋のアルゴからとある情報が出回った。曰く、死亡したプレイヤーを蘇生させるためのアイテムをドロップするボスモンスターがクリスマスの日に現れる、と。
大変遅れて、すみません。少々、立てこむことが多々ありまして…
他の作品を待っている人にも、申し訳ないです。