ソードアート・オンライン ~幻影の騎士~ 作:ELS@花園メルン
キリトの≪二刀流≫スキル発見から一月あたりが経過した。俺は狩りや攻略で稼いだアイテムをエギルの店に売りに行き、アイテムの売買を終え、雑談をしていた。
すると、キリトがエギルの店にやってきて、更にはその後ろからアスナもついてきていた。
「いらっしゃい。珍しい組み合わせだな、キリト、それにアスナ」
「このコンビは中々見ない組み合わせだよな」
と、エギルと俺は冷やかしを入れる。
そんな俺たちの冷やかしをキリトは軽く払いながら、エギルの店の奥で鑑定して欲しい物があるってことで、俺も興味を持って店の奥についていった。
「それで、鑑定して欲しい物ってのは何なんだ?」
「これなんだけどさ」
そう言って、キリトはワインレッドカラーのやたらとトゲトゲした槍を机の上に置いた。
「実は、さっき圏内でプレイヤーのHPが全損するって事件があったんだよ」
「は!?圏内でHPが全損って、決闘の全損決着モードとかじゃなくてか?」
「決闘じゃ無かったわ。その場にいた人たちにも協力してもらって、Winner表示を探してもらったけど、見つからなかったの」
「なるほどな、それでそのプレイヤーに刺さっていた武器がこれで、≪鑑定≫のスキル持ちの俺に聞きに来たってことか」
「そうなんだよ、せめて何か手がかりでも分かればと思ってさ」
そして、エギルが槍を鑑定した結果、武器の固有名は≪ギルティ―・ソーン≫。直訳で罪の茨と訳すらしく、性能は最前線では使いにくい中層レベルの武器だった。
「見た目に反して、性能は普通…だな」
「俺が使ってる槍の方が性能は上だな」
「特に変わった特徴は無いんですか?エギルさん」
「ああ。強いて言うなら、《継続貫通ダメージ》の特殊効果があるくらいだが、この効果はモンスターにはあんまり意味を成さないから、ちょっと優秀なPvP向けの武器って感想だな」
「この武器の製作者は誰なんですか?」
「グリムロック…と読むんだろう。聞いたことないプレイヤーだな」
「少なくとも俺は聴いたことないな。副団長さんは?」
「私も無いわ」
製作者の名前を聞くと、キリトはエギルから槍を受け取り、ストレージに仕舞った。
「サンキュー、エギル」
「気にすんな。こんな馬鹿げた事件は早く蹴りをつけるべきだからな」
「キリト、俺の手伝いは必要か?」
「いや、まだ大丈夫だよ。けど、シキには何かあった時にすぐ動けるように準備しといて欲しい」
「分かった」
「それじゃあ、お邪魔しました、エギルさん。シキ君もまたね」
「次は普通に客としてきてくれ」「おう」
キリトとアスナが店から出ていくのを見送り、俺とエギルはさっきまでのことを整理し始めた。
「圏内PK…シキは可能だと思うか?」
「睡眠中に相手の手を動かしてウィンドウを操って行う睡眠PKなんてのがラフコフの連中が活発に活動を始めた頃に起こってたけど、主街区の中心で睡眠PKをしようものなら、他のプレイヤーに気づかれるし、被害者を建物に吊るすなんて、まず不可能だ」
「俺たちがまだ知らないPKや圏内で攻撃を可能にした武器やスキルなんかの線は?」
「新しいPKについては分かんないけど、圏内攻撃可能なんて、フェアじゃないと思うな、俺は。
仮にこのゲームが普通のMMOとして稼働してたら、そんなのリス狩りし放題って訳だろ?そんな鬼畜仕様、ユーザー離れ待った無しのクソゲーだぜ」
「それもそうか。何にせよ、早く片付くことに越したことはない無いな。キリトたちはこの後、殺されたプレイヤーの身内に会うんだったか?」
「らしいな。あ、エギル、ちょっと状態異常用の回復アイテムを多めに売って貰えないか?キリトの呼び出しにすぐ応じる為に、準備しときたいんだ」
「あいよ、任せときな」
そうして、エギルから追加でアイテムを購入した俺は手ごろな値段で購入できた、自分の家にしている49層主街区≪ミュージェン≫の住宅へと戻った。
「…身内の犯行か、はたまたラフコフの奴らか…」
その後、キリトから連絡はないまま、数日が過ぎ、俺もその間は攻略を休んでいた。
そして、昼頃にキリトからメッセが届いたので、確認した。
「話し合いの護衛に来てほしい…か」
なんでも、被害者のカインズ氏やその友人であるヨルコさんは以前、ギルドに所属していたらしく、リーダーが亡くなったときに、なし崩し的に解散したそうだ。
そのリーダーはギルドでの攻略のドロップ品の取り扱いに揉め、多数決で売却することになって、上層に売りに行ったときに殺されたらしい。
そして解散したギルドの元メンバーには現在、≪聖竜連合≫に所属しているシュミットというプレイヤーもいたらしく、キリトたちが話を聞きに行ったときに、彼からヨルコさんに会わせてほしいと打診されたようだ。
シュミットが黒かどうか分からない今、護衛は多い方が良いってことで、俺にも声が掛かったわけだ。
てな訳で、俺は準備をして57層主街区≪マーテン≫の宿へと向かった。
指定されていた部屋に入ると、既に人は揃って席についていて、キリトとアスナが何かあったら動けるようにとその近くに立っていた。
「よう、待たせたか?」
「いや、こっちこそ、呼んで悪かったな」
とりあえず呼び出した張本人であるキリトに軽く挨拶して、アスナたちにも声を掛ける。
「来てくれてありがとう、シキ君」
「気にするな」
「えっと、こちらの方は…?」
「≪創銀≫…」
「初めまして、ヨルコさん。俺はこいつらに頼まれて話し合いの護衛に来たシキってんだ。
あと、シュミット、その呼び方やめろ」
初対面だったヨルコさんにあまり不安を与えないように自己紹介をし、不本意ながらプレイヤー間で出回っている俺の≪二つ名≫を言ったシュミットに止めるように言う。
≪創銀≫
俺がユニークスキルを50層のフロアボス戦で使ったことから、呼ばれ始めた二つ名だ。
俺の持っている≪幻影剣≫で創り出した武器の全部が【銀一色】だったことから、ボス戦終了時にそんな名前で呼ばれ、広められた。
同じく50層で≪血盟騎士団≫団長のヒースクリフもユニークスキルを使ったことで、攻防自在の剣技から≪神聖剣≫と呼ばれている。
役者がそろったことで、話し合いは始まり、何かに怯えているようなシュミットと、友人を亡くしたからか落ち込んだ様子のヨルコさんが近況報告を行うことから始まった。
元気だったか、という言葉から始まり、中層ギルドから最前線のギルドへ加入できたシュミットを称賛するヨルコさん。
けど、怯えたシュミットはその称賛を素直に受け取らず、裏を探ろうとしていた。
そこから彼らのギルドが潰れた原因でもある≪指輪事件≫の話になり、そこから徐々にシュミットの声が大きくなっていく。
「なぜ、今になってカインズが殺される!?アイツが指輪を盗んでリーダーを殺したってことなのか!?」
「そんなわけない。カインズも私も本当にリーダーのことを信頼して尊敬してた!反対した理由だって、その方がギルドの戦力になると思ったからよ!」
「俺だってそうだよ!俺だって反対したさ!―――けれど、指輪を奪う動機は別に、反対してた俺たち以外にも、売却に賛成したあいつ等にだってあったはずだ!!
……それなのに、何で、グリムロックはカインズのことを…。次は、俺やお前も狙うっていうのか!?アイツは!!」
「まだ、グリムロックさんが犯人かどうかなんて分からないわ。他のメンバーかもしれないし――――リーダーのグリセルダさん自身かもしれないじゃない…」
ヨルコさんがそう言った時、シュミットは唖然とした。
「な、何を言って…」
「だって、そうじゃない!圏内で人を殺すなんて、普通は不可能!!それだったら死んだグリセルダさんの幽霊が殺したって考える方がよっぽど自然よ!!」
いや、それは滅茶苦茶過ぎないか…。
と、俺は思ったが流石に言い出せずに、考えるだけに留めていた。
「ゆうべ…、寝ないで考えたの…。
結局のところ、リーダーを殺したのはギルメンの誰かであると同時に、ギルドのみんな全員なのよ……。自分の欲に駆られ指輪の処遇を決めずに、初めからリーダーに一任してればよかったんだわ。
一番強かったあの人の指示に従う―――何もオカシイことじゃないでしょ?…なのに、私たちはギルドのためって揉めあって…」
夕暮れということや、身内を亡くしたことの喪失感もあってか、霊的な雰囲気を漂わせるヨルコさんに、シュミットは顔を蒼くしていた。
「だけど、グリムロックさんだけは『リーダーに任せる』って最後まで言っていたわ。あの人は私欲を捨てて、ギルドのことを考えてた。――グリムロックさんにだけは、私たちに復讐してリーダーの敵を討つ資格があるのよ」
「冗談じゃない…。半年も経って、何で今更……!お前だって、そんなのごめんだろ、ヨルコ!?今更、殺されるなんて!!」
「――――」
ヨルコさんが何かを言おうとした瞬間だった。
トンっ という音と共に、ヨルコさんの体が揺れ、目を見開き、体を開いた窓の方へと向けながらゆっくりと歩く。
「あ…」
先にその背中が見えたアスナが絶句し、完全にこちらへ背を向けたことで見えた光景に俺たちも絶句した。
ヨルコさんの背中には彼女の長い髪と紫色のチュニック、そしてそれらを貫通して彼女の体に刺さっている一本のダガー。
ダメージエフェクトの赤い光を認識した俺たちはヨルコさんからその凶器を引き抜こうと駆け寄ったが、力なく窓の外へと倒れていくヨルコさんを掴めず、彼女が落ちていくのをただ見ていくだけだった。
「「ヨルコさん!!」」
窓枠から下を覗いた時には、ヨルコさんの体が青いポリゴン片になって消えていく姿が見えただけで、体が消えてからカランと刺さっていたダガーの落ちる甲高い音が響いた。
そして、俺はふと、何かに気づいて窓辺から見える建物の屋根に顔をフードで隠した人型の何かを見つけた。
「あれは、プレイヤー…か?」
「!!アスナ、シキ!ここは任せた!」
「キリト!」「キリト君!?」
キリトはヨルコさんにダガーを刺したであろう奴を追いかけるために、窓枠から屋根に飛び移り、追いかけていった。
俺とアスナ、そしてうずくまって頭を抱えるシュミットだけが部屋に残り、部屋を刺す光は徐々に沈む夕日よって失われていき、俺たちの心の焦りが大きくなっていく様子を示しているようだった。
キリトとアスナの裏で動くシキって感じにしようと思ったけど、ある程度関わらせて、二話構成って感じでやります
片手に原作小説を携え、改良を徐々に加えていきたいですねぇ