ソードアート・オンライン ~幻影の騎士~   作:ELS@花園メルン

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幻の復讐者

「もう…無茶しないでよね!」

 

 

ローブ姿を追いかけたキリトが、宿の部屋に戻ってきたときにキリトの体に異常がないか心配しながら、アスナがそんなことを言った。

 

 

「それで、何かわかったのか?」

 

「追いつく前に転移結晶で逃げられたし、行先もそもそも性別も分からなかった。まぁ、あのローブがグリムロックなら男なんだろうけどさ」

 

 

そういいながら、キリトはヨルコさんの落下したところから拾ってきたダガーを取り出す。

以前見た槍とデザインが似ていたことから、これも製作者はグリムロックなんだろうな。

そう、凶器を見ながら考えていると、シュミットが話し出した。

 

 

「あのローブの奴はグリムロックじゃない…。アイツの背はもっと高かったし、何よりあのローブはリーダーの―――グリセルダの物だ!やっぱり、カインズもヨルコも幽霊に殺されたんだよ!!」

 

 

錯乱したシュミットはそう叫ぶが、キリトが机にダガーを置くと、ヒィ、と小さな悲鳴を上げ、仰け反った。

とてもじゃないが、今のシュミットからは大した話も聞けなそうだし、グリムロックの行きつけの店、というNPCレストランの場所だけ教えてもらい、そこで張り込んでみるということになった。

 

 

「…頼む。俺をギルド本部まで送り届けてくれないか……」

 

 

流石に一人にはしとけないわな…。

 

 

「分かった、俺が送ってくよ。キリトたちはそのレストランに向かってくれ」

 

 

キリト、アスナとはそれで別れ、俺とシュミットは56層にある聖竜連合本部前まできた。

 

 

「すまない、助かった……」

 

「いや、気にすんな。それより、部屋に戻ってからでいいんだけど、お前らのギルドメンバーの名前をメッセで送っといてくれないか?一応、黒鉄宮で確認しようと思ってさ」

 

「ああ、分かった、送っておく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュミットを無事送り届け、主街区に戻ったときに、シュミットから簡潔なメッセージが送られてきて、それを確認した俺は1層主街区の≪はじまりの街≫の中央にある黒鉄宮に向かった。

 

 

「え…?」

 

 

黒鉄宮にある≪生命の碑≫。

これにはプレイヤーの名前が記されており、死亡したプレイヤーの名前には横線が引かれるようになっている。

キリトから聞いた話では、ここが本来のSAOではリスポーン地点になるはずだったそうだ。

 

そして、俺はその≪生命の碑≫で名前を確認していたら、とんでもないものを見つけてしまった。

 

 

「カインズ氏とヨルコさんに線が引かれてない…?」

 

 

グリセルダさんの名前に線が引かれているのは確認したし、間違いなく死亡しているんだろう。

だけど、何で2人には線が引かれてないんだ?

 

 

「そうだ、カインズには書き方が二通りあったな」

 

 

KainsとCaynz、どちらもカインズと読めるから、俺はKの方のカインズの名前を調べた。

そこには、きちんと線が引かれており、死亡ログも記されていた。

 

 

「サクラの月22日、18;27。サクラってことは、4月だよな…。どっちだ?」

 

 

とりあえず得た手がかりを共有するべく、キリトたちがいるフロアまで急ぐことにした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「生きてるですって!?ヨルコさんもカインズさんも!?」

 

「ああ、シュミットに綴りを聞いて、黒鉄宮に向かって確認もしたから間違いない。んで、キリトから聞いたカインズの方は亡くなってた。原因は貫通継続ダメージ」

 

 

俺が得た情報を2人に共有し、アスナは驚いたが、キリトは何かを考えこんでいた。

 

 

「―――あ…、ああ!分かったぞ!」

 

「きゃ!何よ、急に大きな声を出して!」

 

「今回の事件、別に圏内で攻撃を可能にするスキルも武器もロジックも必要ないんだよ!!」

 

「分かったのか、キリト?」

 

 

キリトはどうやら、今回のトリックを見抜いたらしい。

 

 

「まず、シキの確認した死亡ログ。これは多分、去年の4月のものだと思う。あそこのログは≪月≫までしか記録されないから、それが今年か去年かは分からないんだよ。

そして、カインズ氏とヨルコさんの死亡したかのように見えたエフェクト。あれは、アバターが爆散して出来たエフェクトじゃなくて、身に着けてた装備の耐久値が切れた時のものだったんだ」

 

「装備の?」

 

「例えば、このポーションのビン。空になって捨てると、圏内でもエフェクトが発生して消えるだろ?多分、その耐久値が切れるタイミングを確認しながら、転移結晶で移動したんだ。転移のエフェクトは多分、装備の破損エフェクトに紛れて見えなかったんだと思う。そういや、アスナはヨルコさんとフレンド登録してたよな?」

 

「あ!そうだわ!亡くなったから自動的に解除されたと思って、特に確認してなかった…。―――あ、良かった。まだ残ってるってことは、生きてるのね…」

 

「てことはカインズ氏も恐らくそこにいるんだろうな。シキ、シュミットは今、どこにいる?」

 

「普通なら部屋に籠ってると思うが――――19層、主街区から少し離れたエリアの丘だな」

 

「ということは、そこがグリセルダさんの墓なんだろう」

 

 

キリトの推理を聞き、アスナはさらに質問する。

 

 

「ねぇ、なら動機は何なの?」

 

「多分、指輪事件の真相を探るためだったんだろうな。シュミットが聖竜連合に入るには、前のギルドにいたころの状態じゃ、厳しかったはずだ。急激なレベルアップや装備の更新でもない限りは」

 

「てことは、指輪を奪ったのはアイツだってことか?」

 

「どうだろう…。わざわざ攻略組に入るために、PKなんて危ない橋を渡るとも思えない」

 

 

シュミットは違うってことか…。なら指輪はどこに消えたんだ…?

 

 

「なぁ、キリト。指輪を奪ったのはシュミットじゃないかもしれないが、それなら指輪はどうなったんだ?別に持ち主が死んでも、そのストレージ内のアイテムがその場にドロップするわけじゃないだろ?」

 

「そりゃ、グリセルダさんはグリムロックと結婚してたって話だし、グリムロックに―――あああ!そうだ、指輪は奪われたんだ、グリムロック(・・・・・・)に!」

 

「ど、どういうこと!?」

 

「グリセルダさんが死亡したことで、そのアイテムは結婚した相手であるグリムロックの下に全部渡ったんだ。その中には、指輪も…!」

 

 

キリト曰く、≪結婚≫システムで夫婦になっているプレイヤーはアイテムストレージが共通になっていて、離婚するときにストレージ内のアイテムも状況に応じて分配されるそうだ。

一方的に離婚した場合はした側が0でされた側が100という具合で分配されるらしい。

そして、自分が100で相手が0になるように分配するには、死つまり相手が死ぬことでそのアイテムがすべて生き残っている側に渡るようになっているらしい。

 

だから、グリセルダさんの持っていた指輪は、彼女の死亡時に夫であるグリムロックの方に流れ、彼の物になったということらしい。

 

 

「そういうことか…。ってか、キリト、お前、結婚のシステムなんてよく知ってたな?フレンドの数が乏しいボッチのくせに」

 

「ボッチって言うなよ。ヒースクリフにメッセで聞いたんだよ。なんか、アイツ、SAOのシステムに関して異様に詳しいしさ」

 

「それもそれで、ヒースクリフが知ってるのも不思議だけどな」

 

「けど、それならヨルコさんたちが危険じゃないの?シュミットさんの事情を知ったら、グリムロックさんが主犯だってバレちゃうわけでしょ?」

 

「これは流石にヤバいかもしれない。ヨルコさんたちの行った自演の圏内PK。俺たちが動かなくても、事態は広まってしまうはずだ。そうすれば、いずれ指輪事件のことも明るみになってしまう」

 

「だからグリムロックが事件に関与している彼らを殺そうとしているって訳か。けど、ヨルコさんやカインズ氏はともかく、攻略組のシュミットに勝てるか?」

 

「グリムロックだけなら、な。けど、シュミットが攻略組にいることくらい知ってそうだから、殺し専門の≪レッド≫に依頼をしてる可能性もある。

今から、19層に向かってヨルコさんたちのいるところに向かおう。応援も今すぐ動ける何人かに声を掛けておいて、先行して俺たちが時間を稼ぐんだ」

 

 

ひとまずフレンドの中でもこの時間に基本暇かつそれなりに腕の立つプレイヤー達に「19層にラフコフの幹部出現の可能性あり」という情報を送り、俺たちは19層へと向かった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

19層にあるレンタルホースの店で馬を借り、俺とキリトが先行し、アスナにはグリムロックを探してもらうことにした。

 

 

「遅いぞ、キリト!」

 

「馬なんて、全く乗ったことないんだよ!大体、なんでシキはそんなに早いんだ!?」

 

「俺は何回か乗ったことがあるんでね。もうすぐ目的のエリアだ。俺は先に行かせてもらうぞ、キリト」

 

「ああ、すぐに追いついてやる!」

 

「行けっ!」

 

 

ぶるるぅぅぅぅ!

 

 

と馬に手綱で合図すると、さらに加速し、キリトを置き去って俺は19層の丘エリアを目指した。

 

 

「!やっぱり、あいつ等か!」

 

 

丘エリアの開けた所で、4人の黒マントとそいつらに囲まれて倒れている3人のプレイヤーがいた。

そして、取り囲んでる黒マントたちの頭上にはオレンジ色のアイコン、つまり意図的にプレイヤーを攻撃し、グリーンから変化した所謂、犯罪者プレイヤーたちだった。

 

その黒マントのうちの一人がその手に持つ細剣≪エストック≫を倒れているシュミットに向けて突き刺そうとしたのを見て、俺は馬の上からボスドロップの短剣武器である≪シャムシール≫を前方に投げ、≪幻影剣≫ソードスキルの≪シフトブレイク≫を発動し、エストック持ちに切りかかった。

 

 

「!!」

 

「やらせねぇよ、≪赤目≫」

 

「お前、は、≪創銀≫、か…」

 

 

寸でのところで察知され、飛びのいたエストック持ち≪ザザ≫は髑髏マスクから見える赤い目を光らせながら、俺を認識しそう呼んできた。

 

 

「Wow、こいつは攻略組のユニーク様じゃないか。≪DDA≫のタンクからまさかこんなデカい獲物が掛かるとはな」

 

「こっちもアンタら幹部が4人もいるとは思ってなかったよ、PoH(プー)

 

 

俺を見て、そう口笛を吹きながら余裕そうにしているのがラフコフの団長で俺やキリトと同じボスドロップの≪魔剣≫を持っている≪PoH≫。

何でか、キリトのことをラフコフ設立前から異様に狙っている。

 

 

「くそが!もう少しでイイ悲鳴が聴けるって時に、邪魔してんなよ、この野郎が!!」

 

「そう何度もお前らの好き勝手にできると思ったら大間違いなんだよ、ジョニー・ブラック」

 

 

俺にキレ散らかしてる頭陀袋のようなマスクを被ってるのが、≪ジョニー・ブラック≫。

毒や麻痺が付与された武器を好みで使い、何度かキリトにも襲い掛かっていたそうだ。…あいつ、変な奴に好かれてるな……。

 

 

「いやはや、リーダーの言う通りですねぇ。にしても、それが噂のユニークスキルですか。実際に目にするとやはり反則レベルですねぇ」

 

「お前の話し方は相変わらず不快だよ、ジキル」

 

 

ニタニタと笑い、ねちっこく話しているのが、≪ジキル≫。

ラフコフ幹部の中でも新参者らしく、≪睡眠PK≫の考案者らしい。

 

 

「とは言え、いくらユニーク様でも俺たち相手に足手纏いを3人もカバーしながら戦うのは不利じゃないですかねぇ?」

 

「確かに、いくら耐状態異常のポーションを飲んでいても、アンタら4人を相手にするのは、精々、時間稼ぎが精いっぱいだよ。だけど、アンタら忘れてないか?俺がいっつも誰と組んでるかをよ?」

 

 

俺がやってきた方から馬の駆ける音と、ドサッて落下する音が聞こえてきた。

いや、タイミングはバッチリだけど、色々ダサいぞ、相棒。

 

 

「ってて。よう、良いタイミングだったろ、シキ?」

 

「ああ、キリト。それで、カッコ悪い登場方法に関して何かあるか?」

 

「乗馬の経験値が足りてませんでした」

 

「精進あるのみだな。さて、これでどうだ、ジキル?」

 

 

落馬して打った尻を擦りながら、愛剣を構え軽口を俺と言い合うキリト。

これでこっちの戦力は大きく増えたな。

 

 

「おやおや、これは≪黒の剣士≫さんじゃないですか。あなた、意外とドジっ子属性持ちなんですねぇ」

 

「…うるせぇ」

 

「てめぇら、何、余裕ぶっこいてんだ!!ジキル、てめぇも呑気に話してんじゃねぇ!!」

 

「黒の剣士が来たところで、所詮は、2人。不利なのは、お前たち、だ」

 

 

呑気にキリトに話すジキル。軽口を言い合った俺たちにキレるジョニー・ブラック。そして、俺を見ながら状況を冷静に判断しているザザ。

 

 

「まぁ、確かに人数不利には変わらないさ。だけど、俺らが本気で時間稼ぎをしたら20分は粘ってられるぞ?そしたら、今度は攻略組の大部隊との連戦だ。それが分かってて、お前らは戦うか?」

 

「んなもん、俺らなら―――「待て、ジョニー」――あぁん?んだよ、ザザ!」

 

「リーダーの、考えは、別のようだ」

 

「分が悪いのはこっちのようだ。帰るぞ、テメェら。――≪黒の剣士≫、お前はいつか俺が這いつくばらせてやるよ。大事な相棒や仲間たちの血でできた海にな」

 

「俺だって、必ずお前を監獄にぶち込んでやるさ」

 

 

「≪創銀≫。次こそ、お前を」

 

「お前との決着に興味は無いよ。無力化して、すぐに監獄に送ってやるさ」

 

「また会いましょうねぇ、シキくぅん!ザザさんと一緒にあなたを追い詰めて、その喉からイイ悲鳴を聴かせてくださいねぇ!」

 

「黙れよ、サイコ野郎が。お前に聞かせるのは俺の悲鳴じゃない。俺たちの勝利とお前らの敗北だよ」

 

 

俺はザザ、ジキルの捨て台詞にそう返した。

相変わらずこっちの気分を逆なでするようなジキルの声に、俺も思わず口が悪くなってしまっていた。

 

 

ラフコフの連中は、結局、誰も殺せずに引き上げ。俺たちは奇襲を警戒して、身構え続けていたが、構えを解いて、武器をしまった。

 

 

「ふぅ、間一髪だったな。にしても、キリト。大部隊って言ってもそんなに集まってないだろ?」

 

「まぁな。けど、こう言った時にはブラフでもデカく見せとかないと、向こうに余裕を与えちゃまずいからな」

 

「それもそうか。ヒール≪シュミット≫、大丈夫か、シュミット?」

 

「あ、ああ。助かった、シキ、黒の剣士。だけど、何で?」

 

「それについては、全員そろって―――見つけたみたいだな」

 

 

俺に説明を求めてきたシュミットにそう返そうとしたときに、アスナがサングラスを掛け、ロングコートを羽織り、深めの帽子をかぶったプレイヤーに剣を突き付けたまま、こちらに連れてきてるのが見えた。

 

 

「見つけたわ。近くの木々にハイドしてた」

 

 

アスナが連れてきたプレイヤーは≪グリムロック≫。

ヨルコさんたちの計画を聞き、武器を作り、≪圏内事件≫に加担しようとしながらも、≪指輪事件≫隠蔽のためにレッドプレイヤーに彼女たちの始末を依頼した本人だ。

 

 

「やあ、久しぶりだね、皆」

 

「グリムロック、さん?何で、ここに?」

 

 

呑気に元ギルメンである彼らにあいさつをするグリムロックに対して、ヨルコさんはなぜ?と疑問を浮かべた表情でグリムロックにそう尋ねていた。

それに対してキリトが答える。

 

 

「俺の推測になるけど、ヨルコさんたちが今回の件を起こすために、グリムロックに計画について話したんじゃないか?」

 

「え、ええ、グリムロックはあまり乗り気では無かったんですが、必死に頼んだら、三本の武器を製作して送ってくれたんです」

 

 

と、カインズ氏が過去に行ったグリムロックとのやりとりについて話す。

 

 

「グリムロックがあまり乗り気じゃなかった理由は、恐れたからなんだよ。自分が過去に犯した罪が明るみになってしまうことを、さ。今回の事件をきっかけに≪指輪事件≫が明るみになれば、誰かが気づいてしまうって思ったんだろう。結婚しているプレイヤーたちの共通化されたストレージが、離婚ではなく、死別だとどうなるか(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 




ちょっと待って!
長くなりすぎてまさかの三部構成になっちゃった!!

次回でちゃんと終わらせますので…
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