ソードアート・オンライン ~幻影の騎士~   作:ELS@花園メルン

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第一層攻略

2022年12月6日。

この日は俺たちSAOプレイヤーにとって忘れられない日だと俺は思う。この日、俺たちは100層もある浮遊城へ初めて攻勢に出た。≪フロアボス≫と呼ばれる浮遊城の上層と下層を繋ぐ迷宮区の番人。それを討伐すべく、第一層ボス攻略レイドが迷宮区に一番近い街≪トールバーナ≫へ集結した。フルレイド48人には満たない人数だが、それでも攻略を決意したメンバーが40人近く集まったのだ。

 

三人という少数パーティーだが、俺とキリトとキリトが連れてきた三人目【アスナ】の三人で俺たちはボス戦へ挑むレイドへ参加した。俺たちが集合場所に来た時、トールバーナ入り口の広場には武装をしたプレイヤーたちが何人も集まっていた。その中で特に目立っていたのが今回のボス攻略レイドのリーダー【ディアベル】と昨日の騒動の中心人物だったという【キバオウ】だった。どちらもキリトから特徴を聞いておいたから、一目でわかった。特にキバオウはキリトが

 

 

「足つぼのとげとげみたいな頭」

 

 

と言っていたので、一発で分かり、しかもマジでそんな風な印象だったから吹き出しそうになった。一応、俺は昨日のボス攻略会議に参加していなかったので、形式だけでもと思い、ディアベル、キバオウへ参加するという声掛けをした。

 

 

「こんにちは、ディアベルでいいのか?」

「そうだよ!俺はディアベルだ!君は、昨日の会議にはいなかったね?」

「ああ。ボス攻略の人数がまだ余ってるみたいだから参加させてもらって構わないか?ボスと取り巻きの情報は昨日の会議に参加してた奴から聞いてるから心配しないでくれ」

「大歓迎だよ!人数が多ければその分、皆の負担も減るからね!君、名前は?」

「俺はシキだ。パーティーはキリトが所属しているG隊へ入るけどいいか?」

「なんや、自分、アイツと知り合いかいな?」

 

 

と、ディアベルと話していたらキバオウが乱入してきた。

 

 

「ああ、そうだけど?アンタ、その髪型…足つぼのとげとげみたいだな!」

「だ、誰が足つぼや!?」

「おお!確かに言われてみればそうだね!」

「ちょ、ディアベルはん!?何言うてんや!?―――ッ!兎も角!アイツのとこのパーティーに入るんやから、ワイらのサポートやからな!!余計な真似すなよ!」

 

 

そう、言いたいことだけ言って、キバオウは離れていった。というよりも、俺が髪形について弄ったから、恥ずかしくなって逃げたのかもしれないが…、それならしてやったりだな。俺はキリトたちの元へと戻った。

 

 

「どうだった?」

「足つぼみたいだなって揶揄ったら、怒らせたみたいだ」

「あなた、攻略前にレイドの和を乱してどうするのよ…」

「大丈夫だろ。キバオウにとって俺たちなんてオマケみたいなもんだし、元からあって無いような信頼が無くなっただけさ」

「……」

「ん?どうしたキリト」

「…あ、いや、何でもない」

 

 

キリトが何か考えているようだったが、その内容は分からなかった。すると、ディアベルが声を張り上げた。

 

 

「みんな、いきなりだけど―――――集まってくれてありがとう!!たった今、レイド参加者全員が、誰一人欠けずに集まった!」

 

 

そう言うと、皆がうおおって歓声、拍手を行った。俺もこういうムードは嫌いでは無いので同じように拍手を行った。

 

 

「今だから言うけれど、もし誰か一人でも欠けてたら今日の作戦は延期にしようと思ってた!だけど、誰も欠けないどころか、新しく志願してくれる人まで現れるほどだった!フルレイドには満たない人数だけど、俺、すげー嬉しいよ!」

 

 

少々、騒ぎすぎな気がするな…。いや、俺も混じってたから人の事は言えないけど…。もう少し気を引き締めた方が良いんじゃないか?―――とは、流石にこのムードじゃ言えないな。集団の後ろの方でいる俺たちは後方からプレイヤーたちの顔が見える位置にいた。皆が盛り上がっている中、斧を背負った背の高い屈強な黒人男性とその周りが厳しい表情で腕を組んでるのが見えた。

 

 

「なあ、キリト、あの黒人は誰だ?」

「ん?ああ、彼は【エギル】。B隊つまりタンク隊のリーダーだ」

「そうか。折角だし、彼とも少し話してくるよ」

「ああ、わかったよ」

 

 

再び俺はキリトたちの元を離れ、黒人の斧使いの所へ向かった。近くまで来るとデカいのが良く分かる。そして、俺はエギルというガチムチ黒人プレイヤーへ話しかけた。

 

 

「エギル…さん、でいいのか?」

「ん?そうだ、俺の名前は【エギル】だ。お前さんは——昨日の会議にはいなかったな?」

「ああ。俺はシキ。昨日は少しはじまりの街まで戻ってたから、仲間に代わりに会議に出てもらってたんだ」

 

 

自己紹介をしながら黒人らしい大きな手と握手を交わす。バリトンボイスが彼の屈強さを後押ししてる感じがするぜ。

そして、仲間が誰かをエギルへ教えるために、灰色のコートを着たキリトと赤いフードをかぶったアスナの方を指さす。

 

 

「そうか。まあ、俺の事はエギルでいい。で、何で俺に声を掛けたんだ?」

「まあ、単純にタンク隊のリーダーに挨拶っていうのと、今のこのムードの中でアンタとアンタの仲間たちは拍手なんかはしても、緊張感を漂わせてたからな。どう、思ってるのか聞いてみようと思ってな」

「なるほどな。…あまりデカい声では言えないが少々浮かれてるんじゃないかとは思うな。緊張を解すのは良いが、解し過ぎればそれは、リラックスでは無く唯の油断だ。今、俺たちが油断してボスへ挑めばそれは一人いや、下手すりゃレイド崩壊を招く恐れがあると俺は考えてる。……まぁ、こんな中でそれを言って、ムードをぶち壊したらそれこそ指揮に影響が出るがな」

 

 

エギルはやれやれと言わんばかりに手を振った。エギルも俺と同じような考えに至っていたらしい。

 

 

「なら、仮に…だ。もし、誰かがヘマをやらかした時、指揮系統に乱れが出た場合には、アンタが俺たちの隊に指示を出してくれないか?こっちが勝手に動くと変に文句を言ってくる輩がいるもんだからな」

「分かった。それくらいなら引き受けよう。まぁ、そんなことが起きないのが一番いいんだがな…」

「俺もそう思うよ」

 

 

それでエギルとの会話は終わり、キリトたちの元へ戻った。

 

 

「彼との会話はどうだったの?」

 

 

そう、アスナが俺に聞いてきた。

 

 

「エギルも少し危なっかしいと思ってた。だから、もし指揮系統が乱れたら俺たちへの指示を頼んでおいたんだ。勝手にこっちが動けばあの足つぼが文句を言い兼ねないからな」

「…それもそうね」

「キバオウの事だ。絶対、言ってくると思う」

 

 

俺たち三人は肩を落とした。

それから数分後、アイテムの補充の忘れが無いかの確認を取った後、迷宮区へと向かい始めた。第一層の迷宮区は全20階で構成されていて、その1フロアごとにも入り組んだ構造や、敵が大量に湧き出るモンスターハウス、隠し部屋のトレジャーボックスなど様々な特徴がある。また、何階層かごとに≪安全地帯≫という非戦闘空間が存在し、そこはMobは入り込めず、圏内と同じようにプレイヤーへダメージは通らない。今、俺たちは18階を上っている。このレイドの本隊であるディアベルの隊、キバオウの隊、エギルの隊、それともう一つの隊はボスとの戦いの為に温存しておくために後ろで控え、あぶれた俺たちを筆頭にボス戦時に取り巻きを相手にする部隊は前線へ出て戦わされている。俺はボス戦で使うために≪ウィンドダガー+3≫はストレージにしまい耐久値を温存し、代わりにブロンズダガーを装備し戦闘を行っていた。キリトもアスナも予備の武器を使って戦闘を行っている。

 

 

「ぜぁぁぁ!」

「ふっ!!」

 

 

キリトが≪ルイン・コボルト・トルーパー≫の攻撃を弾き、俺はそれに合わせて懐へ飛び込み、トルーパーに短剣2連撃ソードスキル≪サイド・バイト≫を発動させ、トルーパーの首を刎ねる。それでトルーパーはポリゴン状になり、爆散した。そのまま次の敵へ俺が向かい、俺は敵の攻撃を誘い、敵がソードスキルを発動して来たらそれをパリィし、アスナへ呼びかける。

 

 

「アスナ、スイッチ!」

「ええ!はぁぁぁ!」

 

 

俺が弾いたことで体ががら空きになったトルーパーの心臓部へアスナは細剣突進ソードスキル≪リニア―≫を発動させ、一気に突き刺す。……うわ、やっぱあのリニアーはぇぇな。まるで綺麗な一筋の流星のような突きがトルーパーへ突き刺さり、一撃で倒す。これにより、俺たちが受け持った雑魚Mobは全て狩り終え、俺たちは武器を納刀する。

 

 

「お疲れ、シキ、アスナ。アスナはスイッチのタイミングはつかめたか?」

「ええ。ボス戦の時もあんな感じでいいんでしょう?」

「ああ。だけど、センチネルたちは鎧で全身を覆ってて防御力が高いから何度かスイッチを行う必要があるけどな。その時は俺が主に敵の攻撃を受けに回るよ。攻撃は細剣や短剣の方が防具の間を突きやすいからな」

「了解」「分かったわ」

 

 

そうこうしてる間に他の隊が残りのMobを狩り終え、レイドパーティーは再び前進を始めた。すると後ろからエギルの隊のメンバーが俺に話しかけてきた。

 

 

「なあ、お前の隊、スゲェじゃんか!あんなスムーズなスイッチ見たことないぜ!」

「ホントだよ。特に黒髪のにーちゃんとお前のスイッチの時、掛け声無かったよな?良くそれで交代のタイミングとか掴めるな」

「アイツとははじまりの街からずっと組んでるからな。一月も一緒に戦ってたら分かるようになるさ」

「Congratulation!シキ、お前さんもそうだが、あの二人もレベルは高いんじゃないか?」

「他の隊の連中のレベルがどうかは分かんないけど、レイドの中でも上位にいるとは思ってる」

「はぁ…お前さんたちをボス攻撃に参加させれば、もうちょっと楽に勝てると思うんだがなぁ」

 

 

エギルは頭に手を置きながら、そう言った。

そうは言っても、飽くまでこのレイドのリーダーはディアベルだ。あいつがレベルを重視するか、連携を重視するかでもボス攻略の内容は変わる。今回、ディアベルは高レベルプレイヤーの少数人パーティーよりも、連携の取れたフルメンバーのパーティーで挑んだ、それだけだ。…まあ、ボスと戦えないってことはそれだけアイテムの獲得や経験値の量が減るわけなんだが。そこはしょうがないと割り切るほかない。

 

 

そして、19階、20階を踏破し、いよいよ20階最奥にある巨大な二つの扉の前に辿り着いた。この先にボスがいるんだというのは、もう雰囲気からして分かる。ここで、俺たちは一度、小休止を取ることになった。俺とキリトとアスナは安定のクリーム黒パンを食べながら、ボス戦前最後のおさらいをしていた。

 

 

「じゃあ、最後の確認をしよう。≪センチネル≫は壁の小穴から一定数湧き出て来る。最初、俺が突っ込んで敵のソードスキルの発動を誘うから、それを俺が弾いた後、最初はシキがスイッチで交代してソードスキルを叩き込んでくれ。そして倒せなかった場合、また俺がソードスキルを弾くから、次はアスナがスイッチで交代してソードスキルを発動してくれ」

「でも、やっぱりそれだとキリト君の負担が大きいんじゃない?パリィ役も交代にした方が良いと思うのだけれど」

「そうだぞ、キリト。お前に負担がかかりすぎてお前がやられたら意味ないんだからな?」

「…分かったよ。なら、こうしよう。最初はやっぱり俺がソードスキルを弾くから、そこにシキが攻撃、で、アスナがカバーに入って、アスナが≪センチネル≫のソードスキルをまた弾いたら今度は俺がソードスキルを叩き込む。こんな感じで後ろで待機してる奴が、パリィ役を引き継いで行こう。これなら負担は全員が同じくらいになるからさ」

 

 

攻撃方法はそれで決定した。そして、黒パンを食べるのを再開した時、このタイミングで来るかと言いたいほどに嫌なタイミングでキバオウがこっちに来た。

 

 

「おい」

「…なんだ?」

 

 

キリトが代表で受け答えをする。

 

 

「ええか?ボス戦の時はずっと脇に引っ込んどれよ。ジブンらは、わいのパーティーのサポ役なんやからな。大人しくわいらが狩り漏らしたコボルトでも狩っとれや」

 

 

それだけ言うと、キバオウは自分の隊へ戻っていく。そのキバオウを尻目にアスナが俺たちへ小声で話す。

 

 

「…何アレ。ここに来て言うことがそれなの?」

「ま、嫌われてるみたいだからな、俺たち」

「それに昨日の取引を中止されて怒ってんじゃねぇか?昨日もきっと、取引中止ってアルゴに言われて俺らに文句誑してたんだろうぜ。あんの真っ黒野郎め~って感じで」

「ふふ、何よそれ」

「キバオウの真似でもしてるのか?シキ。だとすると全然似てないからな?」

 

 

と、アスナはクスリと笑い、キリトは似てないと突っ込みを入れてくる。キバオウの隊との連携は上手くいきそうにないが、このパーティーのチームワークは高まった気がした。俺たちは武器をボス戦用に持ち替え、準備をする。その際、前の方にいたキバオウの背中に違和感を感じた。それを昨日、キバオウとの取引を中止したキリトに聞いてみた。

 

 

「なあ、キリト、キバオウの装備なんだけど――「やっぱり、シキも変だと思ったか?」ああ。4万コルも出せるんだったら、その金でもっといい装備を揃えられたんじゃないか?素材だってパーティーで潜ればすぐに集まるだろうし」

「なら別の意図があると俺は思ったんだ。だけど、それが何なのか…。俺の武器を買った所で俺の攻撃力が下がるだけだ。まあ、ボス戦前にそんなことしてたら満足に戦えない―――待てよ、もしかしたら」

「キリト?何か分かったのか?」

「ああ、実は―――「皆、聞いてくれ!」…この話は一旦中止だ」

 

 

ディアベルの号令に止められ、俺たちは会話を中断した。

ディアベルは最後の激励をレイド全体へと伝え、いよいよボスの待つ扉を開こうとする。

俺たちSAOプレイヤーにとって、このデスゲームへの最初の攻勢の幕開けだった。

 




今回、キリがいいので、ここで止めます。
次回はSAO最初のキリトの名シーンだと思う(自分にとって)のあのシーンがあります!

上手く表現できるか不安ですが・・・

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