ソードアート・オンライン ~幻影の騎士~   作:ELS@花園メルン

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イルファング・ザ・コボルトロード戦

ディアベルを先頭に俺たちはボス部屋へと続く巨大な扉を勢いよく開け放つ。

 

 

「皆、行くぞっ!!」

 

 

ディアベルの号令にボス攻撃隊がキバオウとディアベルを筆頭に盛大な鬨の声を上げてボス部屋へ突入した。俺たちサポート部隊もその後に続きボス部屋へと進入する。ボス部屋へ最後尾のプレイヤーが入ると部屋がライトアップされた。奥にのびる長方形の巨大な空間がボス部屋の特徴だった。そして、その最奥に大きな玉座の様なものがあり、そこに俺たちプレイヤーなんかよりも一回り二回りほど大きなコボルドが座っていた。あれが俺たちが倒すべきフロアボス≪イルファング・ザ・コボルトロード≫だ。コボルトロードは俺たちの姿を確認すると、その巨体からは信じられない速さでこっちへ突進し、武器の骨斧を大きく振り上げ、先頭で盾を構えているディアベルへ振り下ろした。盾と斧がぶつかり合い、轟音が響き、その音を皮切りにボス部屋の左右の穴から取り巻きの≪ルイン・コボルド・センチネル≫が這い出てきて、武器の長柄斧を片手に俺たちへと向かってきた。ボス攻撃隊の邪魔をさせないように、俺たちは立ち回り、コボルトロードからセンチネルたちを引き離し、それぞれ戦闘を開始した。

 

 

数の有利を活かし、俺たちはセンチネルへ代わる代わる攻撃を加えていく。

キリトが敵のソードスキルを弾くタイミングで俺がキリトとスイッチを行い、ソードスキル≪アーマーピアース≫を放つ。当然と言えば当然だが、ボスの取り巻きというだけあって、防御力、ヒットポイントが高く、流石に仕留め切れなかった。俺がスキルを放ったセンチネルが俺に攻撃をしようとするが、そこへ更にアスナが追撃を仕掛け、センチネルの喉元にレイピアを突き刺す。

 

 

「ナイス、アスナ」

「ええ。キリト君、今くらいのHPならスイッチしなくても、そのまま止めを刺しても大丈夫でしょ?」

「ああ。事前に打ち合わせをしたって言っても、本番で予想外なことが起こるかもしれないからな。自分の考えで動いてくれ」

「なら、次行くぞ!」

「ええ!」「おしっ!」

 

 

俺たちは次のセンチネルを相手にすべく、歩みを進めた。途中、ボスの方を見たが、エギルが両手斧でコボルトロードの一撃を防ぎ、弾いていたのが見えた。……すげぇな。流石はタンク隊のリーダーを任されるだけはある。エギルが攻撃を弾き、身体を仰け反らせたコボルトロードへディアベルが片手剣単発ソードスキル≪バーチカル≫を放ち、胴体へお見舞いしていた。それによって、ボスのHPバーの四本のうち、一本が全損し二本目のバーへと突入した。

 

 

「二本目!サポート隊!センチネルの増援が出て来るぞ!」

 

 

ディアベルはすぐにそう指示し、再びコボルトロードへ向き直り、攻撃隊へ指示を出し始める。コボルトロードが雄たけびを上げると、更に穴からセンチネルたちが現れた。しかも、先ほどの数より1体多く。が、しかし、センチネルを相手にしていた他の隊の連中はそれを見るや否や、喜び始めた。

 

 

「うほっ!さっきよりも数が多いぜ!」「今度のアイテムは俺がいただきだ!」

 

 

と、浮かれた状態でセンチネルに向かっていった。

 

 

「…彼ら、少し浮かれすぎなんじゃないの?」

「ああ、警戒が緩んでる。キリト、俺たちはどうする?」

「一旦、下がって様子を見よう。幸い、センチネルは全部他の隊が相手にしてるから俺たちの出番はなさそうだしな」

「良いのかしら…。とても、嫌な予感しかしないのだけれど」

「――ああ、俺もだよ」

 

 

俺たちは下がって一度、全体を見回した。センチネル4体をD、E、Fの三つの隊が抑えるというか、俺たちへ回さない様に独占していた。まるで、経験値やアイテムを得るのに必死になってるかのように。コボルトロードの方は、A、B、C隊が押していた。この戦いはこっちの優勢で進んでいるだろう。でも、少し順調過ぎやしないか、と俺は思う。

すると、俺たちの、正確にはキリトの元へキバオウが下がって来る。キリトへ何を話すつもりなのか、それが気になり少し近寄って話を盗み聞きした。

 

 

「当てが外れたやろ?エエ気味やな」

「……何の話だ」

「下手な芝居はヤメェや!ワイは知っとんやぞ、ジブンがこの攻略に潜り込んだ理由を!」

「何を言ってるんだ?ボスを攻略する以外に理由なんて無いだろ?」

 

 

そうだ。キバオウは何を言いたいんだ?そんなことを言ったら、ここにいる全員にも同じことが言えるじゃないか。

 

 

「ワイはちゃんと聞いとんやぞ?ジブンが昔、汚い立ち回りでボスのLAボーナスを取りまくってたことをな!」

「な……」

 

 

LAボーナス。それってキリトが言ってたな。ボス戦で最後に攻撃を行ってボスのHPを削り切ったプレイヤーに贈られるボーナスアイテム。フロアボスなんかは一体しか存在しないから、そのボーナスアイテムはつまり、このゲームに一つしか無いものの可能性がある。まあ、上層で普通に取れるのかもしれないけど。

 

 

「なあ、キバオウ。その情報、一体誰から聞いたんだ?」

「ああ?そんなもん≪鼠≫に大金渡して聞いたに決まってるやないか!アイツもベータテスターなんやから、その情報を知ってるんは当然やしな!」

 

 

嘘だ。前に、キリトに初めてアルゴと会わせてもらった時に言っていた。彼女はベータテストの情報は売っても、ベータテスターの情報は売らないって。つまり、キバオウはアルゴ以外のベータテスターからキリトの情報を貰ったんだ。

……待てよ、もしかしてその元ベータテスターって【アイツ】なんじゃないか…?ボス戦の際の立ち回り方、そのレイド全体への指揮のスムーズさ。どれも一カ月で身につけるには不可能だ。何度もボス戦を行って、そこで指揮を執りでもしない限り、そうそう身に付かないはずだ。

キリトの元からキバオウは離れ、先頭へ戻っていく。

 

 

「何を言われたのよ?」

「いや、―――そろそろ戦闘へ戻ろう」

「……ええ」

 

 

アスナはそれ以上は聞くまいとし、近くに新たに湧いたセンチネルへ向かう。俺とキリトもその後ろを走って追いかける。

 

 

「キリト、お前がLAを取りまくってるのを知ってるって奴はもしかして、アイツか?」

「ああ、多分、シキの想像通りだと思う。俺がLAを取っていることを彼は知っていたんだ。恐らく、今回のボス戦でも俺がLAを取りに行くだろうと予想して、それで俺たちの配置を取り巻きの方へ配置したんだ。それに連日行ってきた武器取引もそうだ。大金を積み上げてでも俺から武器を買いとって、俺の攻撃力を減らすつもりだったんだ。少しでもLAを取ろうとする確率を減らすために。で、俺が相手の情報を買っても自分の正体がバレないようにキバオウという代人を立てた。―――――俺の武器を本当に欲しがっていたのは、そして、俺以外にいる元ベータテスターは【ディアベル】だ」

 

 

俺はディアベルの方を向いた。ディアベルは賢明に指示を出し、ボスのHPを少しずつ削って行っている。今、コボルトロードのHPは3本目の残り二割ほどだ。もう少しすれば、ゲージが最後の一本になり、武器を持ち替え、戦闘スタイルが変わるんだろう。けど、俺たちの出番はないはずだ。この話を一度、中断し俺たちはセンチネル狩りへ意識を向けた。

 

 

「せぁぁぁ!!」

 

 

アスナのリニア―が突き刺さり、センチネルは大きく吹き飛ぶ。それに追撃を掛け、キリトの剣がセンチネルを切り裂き、HPを削り切った。

 

 

「センチネルの湧きが止まったわ。次のゲージまでは何もなさそうね。――――ねえ、キリト君、一つ聞きたいんだけど」

「ん?何だよ」

 

 

アスナはディアベルたちが引き付けているコボルトロードの後ろ姿を見ながら、キリトへ尋ねた。

 

 

「私、リアルの方で何で読んだのか忘れたのだけど、湾刀の写真を見たことがあるの」

 

 

そんなものも読んでるのか…。とは言わないでおいた。何を言われるのか分かったもんじゃないから。

 

 

「それでなんだけど、湾刀ってあんなに刀身が細かったかしら?」

「!?」

 

 

キリトはボスの方を向き、ハッと驚く。俺は湾刀なんて見たこと無いからキリトが一体、何に気づいたのかが分からない。

そして、ついにその時が来た。コボルトロードのHPゲージが四本目に突入し、コボルトロードは持っていた斧と盾を放り捨てる。そして腰に差してあった湾刀を抜き、それを構える。

 

 

「だ、ダメだ…」

「?キリト?」

 

 

キリトはポツリとそうつぶやいた。そして、次の瞬間、ディアベルが盾を前に構えながらコボルトロードへ突進した。

 

 

「だめだ!ディアベル!そいつに!その武器に近づくな!!」

 

 

キリトがそう叫んだ。しかし、それはボスの咆哮にかき消され、ディアベルには届いていない。ボスは吼えながら高く飛び、身体をひねってディアベルへ向けて飛び掛かった。しかも、そのままソードスキルを発動させ、ディアベルを横一線に切り裂いた。

 

 

「ぐ、うわぁぁぁ!!」

 

 

ディアベルは吹き飛ばされ、空中に打ち上げられた。そして、コボルトロードが追撃を掛け、更にソードスキルを発動し、連撃でディアベルを切り裂いたのだ。

そのまま、他の隊を攻撃しようとコボルトロードは向かおうとしたが、エギルの斧によって、吹き飛ばされた。

 

 

「おい、キリト!なんだよあのスキルは!!」

「…刀スキルだ。最初のは範囲技の≪旋車≫、打ち上げたのが≪浮舟≫、そして三連撃のが≪緋扇≫だ。それより、ディアベルを助けるぞ!」

「あ、おい!!」

 

 

俺たちは吹き飛ばされたディアベルの元に駆け寄る。その際、回復用のポーションをオブジェクト化し、いつでも飲ませられるようにした。

 

 

「おい、ディアベル!しっかりしろ!!」

「口開けろ、飲め!」

 

 

キリトがディアベルを抱え、俺がその口にポーションをねじ込もうとしたが、ディアベルはそれを拒否した。

 

 

「良いんだ…。それに、俺の事よりも、ボスを倒してくれ」

「何言ってんだ!人が死ぬのを黙って見てろって言うの―――「今!!」!?」

「…今、俺に構っていたら、それこそ他の皆が危険になる、だから…ボスを倒してくれ。皆の為に」

 

 

その言葉を最後に、ディアベルはキリトの腕の中でポリゴン状になり爆散した。ボス戦において、最初の死者が出てしまった。しかも、その人物はこのレイドの柱となっていた人物。彼がやられたことにより、指揮が行き届かず、混乱したままの奴らが危険にさらされいていた。

 

 

「う、うわぁぁぁ!?」「デ、ディアベルさんが…死んだ…」「もうおしまいだ…」

 

 

そう、ディアベルの隊にいた連中はつぶやき、消沈していた。エギルの隊が防いでいるが、いつまで保てるのかも分からない。

 

 

「―――ディアベルはん、なんでアンタが…」

 

 

あのキバオウですら、ディアベルの死を信じられず、そのまま固まっていた。それを見て、俺の中でナニカがぷつんと切れた気がした。俺はキバオウの胸倉をつかみ上げた。

 

 

「いつまでそんなへこたれてるんだ、テメェは!?」

「な、なんや、急に…。それに、ディアベルはんが、死んだんや。もう、勝てるわけないやろ…」

「ふざけるなよ!お前がそうして腑抜けている間にも、お前の仲間は!他の隊の奴らは命の危険にさらされてるんだ!!戦闘もまだ終わってない!なら、やるべきことをやらないでどうすんだよ!!」

「―――なら、どないせいっちゅうんや!それにそう言うお前は何をするんや!!」

 

 

そんなのは決まっている。俺たちは何のために集まって、何の為にここにいるんだ?

―――そう

 

 

「決まってるだろ、ボスを倒してこの層を突破するんだよ。分かり切ったこと聞くんじゃねえ、足つぼ頭」

 




ようやく、主人公をちゃんと目立つようにできました。
次回、反撃とビーターの登場です
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