ソードアート・オンライン ~幻影の騎士~   作:ELS@花園メルン

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ビーターの誕生

俺はウィンドダガーを抜き、コボルトロードを見据えた。

エギル達がいつまで持たせてくれるか分からない。センチネルも最後の増援が出て来る。急いで立て直しをしないといけない。

 

 

「キバオウ、5分は持たせるからその間に隊を再編しろ。戦うのが怖いって奴らがいたら、後ろへ下げるかボス部屋から逃がすんだ。タンク隊がいつまで持つのか分からない今、少しでも早くレイドを立て直す必要がある」

「ぐっ!!言われんでも分かっとるわ!!リンドはん!HPがイエロー以下のプレイヤーを全員下げて回復させぇ!D、E隊はセンチネルの時間稼ぎや!」

 

 

キバオウはそうやって素早く指示を出す。そういう所を見る限り、リーダーとしての資質は十分にあるだろうと俺は思う。HP回復ポーションを口にしながらキバオウは俺に叫んでくる。

 

 

「すぐ済ます!だから、お前さんも死ぬなや!!」

「分かってるよ!!キリト、アスナ!エギル達と交代して回復させるぞ!」

「ああ!その後の手順はさっきと同じだ!スキルを知ってるのは俺だけだから、俺が防ぐからその後、二人で攻撃してくれ!!」

「ええ!」

 

 

キリトを先頭に俺、アスナは走り出す。キリトが吼えながらスキルを発動させるために構える。すると、タンク隊へ向いていたヘイトがキリトへ向き、コボルトロードは刀を構え、ソードスキルを発動させながら突進してくる。

 

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 

キリトは勢いを込めて振り下ろしてくるコボルトロードのソードスキルを同じくソードスキルで弾き、コボルトロードを仰け反らせる。そこへ俺とアスナが同時に飛び込む。

 

 

「シキ、アスナ!!」

「ええ!はぁぁぁぁ!!」「任せろ、せぁぁぁぁ!!」

 

 

アスナはこれまで俺とキリトが何度も見た、一筋の流星の様な突きのスキル≪リニアー≫を放つ。その時に彼女が今まで外さなかったフードが取れたが、そんなことを気にせず俺は飛び、コボルトロードの顎めがけてスキル≪アーマーピアース≫を放つ。

コボルトロードは顎と腹部へ同時にソードスキルを叩き込まれ軽く後退する。

 

 

「タンク隊!一旦、回復を!出口へ向けて下がれ!囲まなければボスは範囲技を使ってこない!」

「分かったぜ!」「一旦、任せた!」

 

 

コボルトロードを警戒しながら、タンク隊は一度後退し、後ろでポーションによる回復を開始した。ボスは再びスキルを発動させ、スキル硬直で動けない俺とアスナをめがけて切りかかって来る。しかし、それをキリトが勢いよく発動したソードスキル≪ホリゾンタル≫によって、刀は横へ弾かれ、硬直が解除された俺とアスナによって、またソードスキルを叩き込まれる。

にしても、やっぱりキリトはすげぇ!タイミングを見計らってソードスキル同士を相殺させるのすら難しいのに、図体がデカい相手に力で負けない様に全体重を乗せた一撃で対応している。本来、ソードスキルは特定のモーションで発動されるが、キリトはソードスキルの威力を上げるために、身体を意図的に動かしてそのスキル一発一発に力を込めている。

以前、キリトに聞いたことがあったな。

 

 

 

『なあ、何でそんな風に体を動かしてソードスキルを当てに行ってるんだ?』

『これか?ソードスキルは、本来特定のモーションで発動するだろ?』

 

 

そう言って、キリトは小石を拾い、ダーツを投げるような構えをとる。すると小石がライトエフェクトを纏い、それを投げると一直線に綺麗に飛んでいく。

 

 

『例えば、今のでもダーツ投げの動きをすればスキルは発動する。でも、こうすればっ!!』

 

 

キリトはまたダーツの様なポーズをとるが、小石を投げる際、野球選手のようにしっかり足を踏ん張って小石を投げる。そうするとさっきよりも小石の飛ぶスピードは速く、ライトエフェクトも少しばかり強く光っていた。

 

 

『こんな風に体重を乗せたり、力を加えると速度や威力にブーストがかかるんだよ。でも、欠点としては威力を上げようと下手なモーションを起こしてしまうとスキルが発動しなかったり、途中で途切れてしまうんだ』

『凄いな、キリトはこれを普通にできるんだろ?』

『ま、練習を重ねたからな。これを活かすことができればボス戦や大型のMob相手でも押し切ったりパリィを行えるんだ』

『て、ことは今後の攻略にも役立つってことか!』

 

 

俺もキリトと同じように使えるには使えるが、その成功率はまちまちで、しかも武器の重量からしてボスクラスの武器を止めるのは厳しい。それよりも俺としては回避の方が敏捷が高い分、躱しやすい。

キリトが何度も何度も集中力を研ぎ澄ませ、コボルトロードのソードスキルを全て弾いていく。それで仰け反ったコボルトロードへ俺とアスナがソードスキルを放つが、流石はフロアボスと言った所か、体力の減りが遅く、20回ほど攻防を繰り返しても、1ゲージを削るには至っていない。

そして、最悪なことにキリトの集中力が途切れてしまい、連撃ソードスキルをモロに受けてアスナの元へ吹き飛ばされてしまった。アスナは咄嗟の事でキリトを受け止めることができず、二人とも後ろへ倒れてしまった。

 

 

「キリト、アスナ!!―――チィ!!」

「痛って―――!?シキ、無茶だ!!お前の武器じゃ押し負ける!!」

「でも、やるしかねえだろ!俺が退けばお前らが死んでしまうんだぞ!!俺はそんなの御免だ!!」

 

 

俺はキリトたちの前に立ち、コボルトロードの攻撃を受け止めるべく、ウィンドダガーを構える。…やべぇな、足震えてるよ。でも、俺が逃げてこいつ等が死ぬなんてのは俺は嫌だ。HPだって俺はキリトたちより残ってる。それなら、俺が盾になって守った方が俺たち三人とも生き延びれるかもしれない。コボルトロードは刀を上段に構えてきた。そして、刀がライトエフェクトを帯び、俺に振り下ろされる。

その時だった。

 

 

「でぇあああああ!!」

 

 

太い雄たけびと共に俺の頭上を斧が通り抜けた。

―――何が…!?

俺が後ろを振り向くと、そこには先ほどまで回復に努めていたタンク隊リーダーのエギルの姿があった。

 

 

「エギル…!」

「ワリィな!これ以上、お前さんらに負担は掛けさせんさ!お前ら、行くぞぉぉぉ!!」

「おおお!!」「年下にばっかカッコつけさせるかよ!!」

 

 

タンク隊だけでなく、他にも回復に努めていた隊のメンバーが前線へと復帰していく。

 

 

「迷惑かけたな!こっからはワイが指示出すから、アンタらは回復しとけ!」

 

 

キバオウも前線へ向かう。俺はポーションを取り出し、急いで口に含んだ。この世界の回復アイテムは回復は一定の量ずつしか回復しないから、この時間が凄く待ち遠しい。キリトやアスナも同じく回復を行っていた。

ゲージの三分の一を切ると、コボルトロードは吼え、大ジャンプをした。しかも、その時周りにいたプレイヤーへスタンの状態異常を付与してだ。

 

 

「やべぇぞ!」

「危ない!!―――届けぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

キリトが走りだし、一気にジャンプする。コボルトロードの高さには届かなかったが、キリトは片手剣ソードスキル≪ソニックリープ≫を発動し、システムの補助で更に上へ、上昇しながらコボルトロードを切り付けた。それにより、コボルトロードのソードスキルは中断され、地面へ叩き落とされた。キリトはそのまま着地すると、ボスへ向けて走り出す。俺とアスナもキリトに続く。

 

 

「アスナ、シキ!最後、追撃一緒に頼む!!」

「ええ!!」「任せろ!!」

 

 

俺とアスナはソードスキルの発動準備を始めた。攻撃はキリトが捌いてくれる、と信じて。

コボルトロードも最後の抵抗と言わんばかりにソードスキルを発動するが、キリトがそれを弾き飛ばす。俺がアスナより先にスキルを放った。短剣8連続技≪ファッドエッジ≫を発動し、連撃でコボルトロードのHPを削っていく。

 

 

「悪いな、コボルトの王様ぁ。お前はこれで、終わりだ!!―――アスナ!!」

「ええ、任せて!!せぁぁぁぁ!!」

 

 

俺のソードスキルの8撃目が炸裂すると同時にアスナの≪リニアー≫もコボルトロードへとクリンヒットする。それにより、コボルトロードはノックバックで後ろへ下がる。HPは残りあと少しだった。―――けど、俺たちにはまだアイツがいる。アイツならきっと決めてくれる。

 

 

「行けっ!!キリトォォ!!」

「キリト君!!」

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

キリトが叫びながら、コボルトロードの右肩から腹へ、腹から左肩へV字に切り付けた。確か、あれは片手剣2連撃技≪バーチカル・アーク≫だったはずだ。その2連撃はコボルトロードの僅か数ドットだったHPを全て削り切り、ゼロへと至らせた。

コボルトロードを形成していたポリゴンが爆散し、俺やキリト、アスナたち攻略レイド全員の前にシステムメッセージが浮かび上がった。それを見た俺たちはへなへなと座り込んだ。…勝ったんだ、俺たちは。果てしない100層という塔の内、まだ攻略されていなかった第1層という壁を突破したんだ。

 

 

「いよっしゃあぁぁぁぁ!!」

 

 

俺は仰向けに寝転んで両手を掲げ、そう叫んだ。それを皮切りに他のプレイヤーたちも叫ぶ。

 

 

「うぉぉぉぉ!!??」「勝った!勝ったのか!!」「やったぜぇぇぇ!!」

 

 

勝ったことが信じられず尋ねる者、隣にいた奴に抱き着く者、ガッツポーズをしている者、様々だった。アスナもほっとした顔をして、細剣を腰の鞘へしまった。俺は座り込むと肩を誰かに掴まれた。斧使いのエギルだった。

 

 

「お疲れさん、シキ。お前さんやあの嬢ちゃん、兄ちゃんのお陰で勝ったんだ。Congratulation!」

 

 

と、エギルが俺にそう言った。

 

 

「まあ、結局はみんなで掴み取った一勝だぜ?俺らだけじゃなくて他の奴らも称えろって」

「それはそうだが、お前さんの喝やあの兄ちゃんの指示出しのお陰で被害は抑えられたんだ。もっと、誇ってもいいほどだぜ?」

「…そっか。だってよ、キリト!MVPのお前はもっと喜べってよ!!」

「いや、俺は「何でだよ!?」―――?」

 

 

キリトの声をかき消すかのように、誰かが泣き叫んだような声を上げた。その一言で、喜びムードだった俺たちは静まり返った。俺も立ち上がり、その声がした方を見た。―――ディアベルがリーダーだった隊のメンバーが恨むような眼で俺やキリトを見ていた。

 

 

「何で、何で、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」

「見殺し?」

「ああ、そうだ!!そこの黒髪のお前っ!!お前が会議の時、ボスの使うスキルをちゃんと話してたら、ディアベルさんは死なないで済んだんだろうが!!」

 

 

そうキリトを指さし、叫んだ後、「そういえばそうだよな」「なんで知ってたんだ?」という、声が徐々に生まれ、キリトの方へと顔を向けていた。エギル、アスナも何も言えなかった。事実、そうだったから。でも、俺は、キリトだけが悪いわけじゃないって言おうとした。しかし、そんな状態の俺たちレイドメンバーへ更に追い打ちを掛けるように別の奴が叫んだ。

 

 

「俺、知ってる!!アイツは元ベータテスターなんだ!!だからボスの使う技、行動を知ってたんだ!!知ってて隠してたんだ!!」

「けど、昨日の攻略会議ん時にディアベルはんが話してた攻略本の内容には、ベータの情報で作られたって書いとったわ。なら、あの兄ちゃんも同じ情報しか知らんはずやろ?だから、一旦、落ち着けや」

 

 

と、キバオウが叫んだ奴をなだめるように肩をたたく。

 

 

「…キバさん……」

「じゃあ、あの攻略本が嘘だったんじゃないか?」

「おい、ジョー!お前も何を言うてんねん!!」

 

 

ジョーと呼ばれたシミター使いがそう、つぶやいた。

 

 

「だってそうでしょ、キバさん!そうでないと情報が食い違ってますから!きっと、あの情報屋が嘘の情報を攻略本に書いたに違いないんですよ!!所詮、情報屋なんて金を稼げたら良いって思ってる奴らなんですから!!!」

 

 

今度はアルゴに飛び火してしまった。これは不味い、と俺は感じた。仮に俺がここで仲裁しようとしても、俺も仲間と扱われて、結局、意味を成さない。アスナが言っても同じだ。

くそっ、どうすればいいんだよ…!!

様々な憶測が飛び交うこのフロアに、アイツがとうとう口を開いた。俺の、アスナの仲間であるキリトが。

でも、キリトの放った言葉は予想外の言葉だった。

 

 

「ふふ、ははははは!!―――元ベータテスター、情報屋、俺をあんな素人連中と一緒にしないでくれ」

「な、なんだと……?」

「そもそも、考えてみろよ。SAOのクローズドベータテストにおいて、まともに戦えるゲーマーが何人いたと思う?受かっていた1000人のうち、ほとんどがレベリングのやりかたも知らない初心者ばかりだったよ。まだ、アンタらの方がマシさ」

 

 

侮辱、差別などの言葉をキリトは淡々と吐き続けていた。…でも、俺には分かる。今、コイツは独りでこの状況を打開しようと戦ってるんだってことが。俺は何も言わずにキリトの次の言葉を待った。

 

 

「俺はβテスト中に他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスが使う刀スキルを知ってたのは俺がβテストのときに刀を扱うMobと散々、戦っていたからだ。…他にも、誰も知らないような稼ぎ方、狩場、クエスト報酬、色々と知ってるぜ?情報屋、他のテスターなんて問題にならないくらいな!!」

「なんだよ、それ!?そんなの、ベータテスターどころじゃねぇだろ!?チーターじゃねぇか!!」

 

 

周囲から「ベーター」「ベータのチーター」「ビーター」なんて言葉が飛び交う。

 

 

「はは、ビーターか。良い呼び名だな、それ。これからは他の元テスター共と一緒にしないでくれ」

 

 

そう言って、キリトは黒いロングコートを装備した。今まで装備していなかった辺り、あれがコボルトロードのラストアタックボーナスってところか。

キリトが頑張ったお陰で、ベータテスターとビーターの二つに分けられ、その敵意は全てキリトへ【ビーター】へ向けられるだろう。―――なら、俺もアイツの後押しをしてやるか。

俺はわざと、悲痛な声を上げ、キリトへ叫んだ。

 

 

「なら、俺は何なんだよ!?お前は、はじまりの街で俺を助けてくれるって言ってたけど、それも嘘だったってのかよ!?」

 

 

まさかパーティーメンバーまで発言すると思ってなかったのか、他の奴ら、キリト、アスナも驚いていた。我ながら良い演技だな、これは。キリトは俺の顔を見ると察してくれたのか、俺に対しても侮蔑の言葉をぶつけてきた。

 

 

「ああ、そうだよ。体のいい壁役としてちょうどよくなるまで、鍛えてたんだけどな。バレたんなら、もう用済みだよ、お前」

 

 

うわー、俺から始めたことだけど結構、キツイなー。

俺に対してもそう言ったことで、キリトは更に非難の声を浴びせられた。

 

 

「次の層の転移門は俺がアクティベートしといてやるよ。付いてくるなら、初見のMobに殺される覚悟をしておくんだな」

 

 

そう言って、キリトは奥の扉へと歩いて行った。キリトがいなくなった途端、黙っていた奴らも口々にキリトへの侮蔑を言いまくっていた。

俺はメニューを開き、キリトへメッセージを作成し、飛ばしておいた。

 

 

『言っとくけど、あれは俺の本心じゃねぇからな?まあ、お前だけに背負わせてすまん。

俺はトールバーナに戻ってから転移門が開いたら二層へ上がるから、どこかで待ち合わせて、また攻略しようぜ。

あ、やっぱ、お前って黒が似合うな。ラスボス感出てたぞww』

 

 

という、内容を送信しておいた。で、俺は街へ帰ろうと歩くが、エギルに呼び止められた。

 

 

「お前さん、さっきの嘘だっただろ?」

「ん、まあな。アイツの芝居に乗っかってやっただけだよ。俺は一足先に帰って、二層への扉が開いたらまたアイツの攻略し始めるさ」

「そうか。なら、ここでお別れだな。今度は一緒のパーティーでボス戦やろうぜ」

「無理だって、俺は。タンク隊なんて堅い守りは持ち合わせてないからな」

 

 

俺はキリトとは反対の扉へ出ると、急いで迷宮区を駆け下りた。途中に何度もMobと遭遇したが、殆ど無視してトールバーナの広場まで戻ってきた。街へ戻ると転移門に項目が追加されており、二層の主街区≪ウルバス≫へ転移することができていた。

なので、俺はウルバスへ向かった。二層の街ウルバス。一層の街とはまた雰囲気が違っていた。NPCしか今はいないが、あと数十分もすればプレイヤーも上がって来るだろう。

 

俺はキリトからメッセージを受け取り、指定された宿部屋へ向かった。

 

 

「おう、お疲れ」

「ああ」

「なかなかな名演技だっただろ?」

「確かにな。ってか、誰がラスボスだよ!?俺はラスボスよりは孤高の剣士とかの方が好きなんだよ」

「じゃあ、充分、好きなキャラに成り切れたんじゃないか?」

「うるさいな…。…なあ、シキは今後も俺と組むつもりなのか?」

「あ?当然だろ。まあ、流石にずっと一緒て訳ではないけど、お前とはこの先も一緒に攻略したいと思ってる」

「そうか、ありがとな」

「それは、俺のセリフだよ。お前が俺を誘ってくれたから今の俺がいるんだぜ?これからもよろしく頼むよ、相棒」

「ああ、こっちこそ、相棒」

 

 

俺とキリトは握手を交わした。

 

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