ママが引越しをしようって言った日から三週間が経った。あの後、学校から帰ってきたのんにママが引越しの話をすると、特に反対するわけでもなく、すんなり受け入れてくれた。
引越しをするのはちょうど一週間後で、荷物の整理はもうだいたい終わっている。
「あと一週間でこの家ともさよならかー。なんかちょっと寂しいね」
私の部屋のベッドでごろごろしながらのんが言った。
「そういえば、何でのんは引っ越すって初めて聞いた時、あっさりOKしたの?」
私は、ずっと思っていた疑問をのんに聞いてみることにした。
「学校の友達と離れ離れになるのはちょっと嫌だけど、ここにいたらお姉ちゃん、ずっと苦しいままでしょ?だから私は引っ越しに賛成したの」
「そうなんだ。のん……ごめんね」
突然こみ上げてきた涙をこらえながら言ったせいで、少し声が震えた。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん泣かないでよ。私は別に気にしてないから!」
のんが慌ててベッドから飛び起きた。私はとうとう涙がこらえきれなくなり、泣きながらのんに抱きつく。
「もう、お姉ちゃん……私がいないとダメダメなんだから。」
のんが私の頭に手をぽんっと置きながら言う。その声はさっきまでの慌てていたような声では無く、とても優しい声だった。
*
更に五日が経った金曜日。いよいよ引っ越しは明後日。私は、何をするわけでもなくただ窓から外を眺めていた。
「らぁら!みれぃちゃん来てるわよ!」
一階からママの声が聞こえた。南委員長とは会いたくない。私は返事をせずに寝たふりをしようとした。
「真中さん。入るわよ」
「南委員長!?」
寝たふりをしようとベッドへ向かった直後、南委員長は扉を開けて入ってきた。
「何よ、起きてるじゃない」
南委員長は部屋に入ると、私の勉強机の椅子に座り、ベッドの上に座った私を少しの間無言で見つめてきた。
「真中さん。最近まったく学校に来てないわよね」
「……はい」
私は、心が少し苦しくなった。
「私のせいで負けたから、みんなから何か言われそうとか思ってるんでしょ」
「……はい」
私が答えると南委員長は、ため息をついた。
「やっぱりそうだと思ったわ。あれはあなたのせいじゃないわ。真中さんは頑張った。それでも届かなかった。それだけよ」
南委員長はそう言うともう一度「あなたのせいなんかじゃない」と言った。
「でも――」
あの時、私が火事場の馬鹿力を出せなかったせいだって言おうとしたけど、それを遮るように南委員長は首を左右に振った。
「真中さんって変な所で頑固よね。まぁそれはそれとして……引っ越すならちゃんと教えて欲しかったわ。お母さんから聞いてびっくりしたもの」
南委員長は頬を膨らませて、少し怒ったような顔をする。
「ご、ごめんなさい……」
私が謝ると今度は少し笑った。
「別にいいわ。今こうして話せてるわけだし。で、どこに引っ越すつもり?」
「隣町のパパラ宿です。」
「あぁ、確か大神田校長の従姉妹が校長をやってる学校がある所だったわね。でも、あそこにプリパラは無かったはずだけど」
「はい、それでいいんです」
私はもう、プリパラに行くつもりは無いんだから。
「……そう。じゃあ、私はもう帰るわね」
南委員長は椅子から立つと扉の方へ向かう。そして扉を開けた所で突然振り返った。
「真中さん。プリパラは好き?」
南委員長はそれだけ言うと、一階へ降りていく。
「お邪魔しましたー」
「あら、みれいちゃん帰るの?今まで本当にありがとうね」
一階から南委員長とママの話し声が聞こえてくる。
「……好きかどうかなんて分からないよ」
私は部屋の中で1人、誰に言うともなくそう言った。