「兄さん……大丈夫?」
「あー、うん……けほっ、平気……」
心配そうに俺を見下ろすツナが、顔を覗き込んでくる。俺はぼんやりする意識を無理やり正して笑顔を作った。
____案の定風邪を引いて熱を出した。生まれ変わって、ボスにならないで済むのはいいと思うけど、
少し雨に打たれたくらいで倒れるこの虚弱体質、そこだけはどうにかしてほしいところだ。
神様は贔屓屋だ。一物も与えないやつがいると思えば、二物も三物も与えるやつもいる。
俺は気に入られてるんだろうか、それとも疎まれているんだろうか。いったいどっちなんだろう?
「もう、雨の中出かけたりするからよ……。発作が出なかっただけよかったけど、もう無茶しちゃダメよ、いっ君」
「早く治さねーと、ツナの修行も進まねーだろ」
「ごめん、母さん、リボーン」
「……ランボ君も……」
母さんが眉を寄せて黙りこみ、目を伏せる。
何も聞かないで欲しいと頼み込んだから何も言わないでくれているけど、本当は何が起こったのかかなり気になってるんだろうな。当然だ。
母さんはまさに良妻賢母だと思う。普通は気になるし、何がなんでも事情を聞き出そうとするだろう。
でも母さんは何も聞いてはこなかった。父さんの言葉を、ツナと俺の意志を尊重して。
「ツナ、仕方ねぇから今日はミツと合同で修行だぞ。お前よりミツの方が進度が速いから、あいつからいろいろ見て学べよ」
「あ、うん。わかった」
「家綱、お前が動けないのはかなり痛い。体調を崩したのは仕方ねぇ、今日はゆっくり休め。そしておっとと治せ」
「げほっ、げほっ。……うん、ごめん、リボーン」
ああ、頭が痛い。意識が朦朧とする。……相当高いなこの熱。
現世ではしょっちゅうだけど、前世ではほとんど風邪なんか引かなかったから、幼い頃は大分苦労したっけ。
俺の精神年齢が子供ではなかったからよかったけど……俺の年が年齢通りだったら、遊びたいざかりにベッドに篭ってばかりで、きっとひねくれた子供になってたんだろうな。
……そこはほんと、精神がそのままでよかったよ。
「じゃあ、行ってくるね兄さん。……母さん、兄さんをよろしく」
「ええ、行ってらっしゃい、ツっ君」
「げほっ、行ってらっしゃい」
「こら、いっ君はあんまり喋らないの」
窘める声とともに、額に氷嚢が置かれる。
……その心地よい冷たさに目を閉じると。
今まで蓄積されていたらしい疲労がどっと体を襲い、俺はそのまま、深い眠りに引きずり込まれていった。