「それはどこだぁ!?」
「こちらです」
ご案内します、と言ったチェルベッロが、誘導するためにかその場を離脱する。
するとスクアーロはニヤリと笑ってから、こちらに向かって一言「待ってるぞぉ!」と叫んだ。
「……ひー、やっぱり怖いよ、あいつ。最初見た時よりずっとこえーって」
「んー、でも思ったよりはいい奴そーじゃね? わかりやすく煽ってきたから、なんかさっきのも励ましてくれてるっぽかったしな」
あれ? 気づいてたんだ、と俺は目を丸くする。
そうだよな、こういうとこ山本、結構鋭かったりするもんな……剣士同士、通じるものがあるのかもしれない。
ツナも超直感故に何となく理解はしていたようだが、やはり恐怖は拭えなかったのか「や、山本は人が好すぎるよ」と震える。
そしてやはり、ミツ君は少し苦い顔をした。
「あまり油断はするなよ、山本。あくまでもあいつは敵で、俺達を狙う暗殺部隊の隊長格なんだぞ」
「ははっ、わかってるって!」
にかっと笑顔で答え、山本は顎を引く。……気合十分。負ける気はさらさらないようだ。
____それから、ロマーリオさんに手当されたためにファラオみたいになった獄寺君と、それから彼を連れてきた了平と合流し、B棟へ辿り着いた。
見る影もなく破壊されたB棟には、階から階へと水が流れ落ちていて、障害物だらけで足の踏み場もない。
雨の守護者の戦闘フィールド、アクアリオン。
俺にとっては一応見た事のある光景だったが、今までと比べても遥かに改造された戦闘フィールドに、ツナたちは俺の予想を裏切らずに、唖然としているようだった。
「なお、溜まった水は特殊装置により海水と同じ成分にされ、規定の水位に達した時点で獰猛な海洋生物が放たれます」
「獰猛な海洋生物……まさか、鮫か?」
その水位に達している時点で、傷一つでも負っていたらまずい事態になるな、とミツ君が呟く。
確かにその通りだ。今のスクアーロは“あの時”以上に力が入っているようだし、なんだか嫌な予感がするんだよな。
「面白そーじゃん」
「ベルフェゴール!」
突如声が聞こえてきて、思わず声を上げると、ベルフェゴールは気安そうに「よー家綱」と口角を上げる。
「朝起きたらリングゲットしてやがんの。王子すげー」
「くそっ、あんにゃろ」
獄寺君が顔を歪めて一歩前に出ようとしたのを、ミツ君が肩を掴んで止める。
驚いたように目を丸くした彼は、慌ててミツ君の方を振り向いた。
「やめろ獄寺。安い挑発に乗るな」
「じゅ、10代目」
「気持ちはわかるが、今は我慢しろ」
時間の無駄だ、と告げるミツ君に、獄寺君は短く「はい」と首肯して引き下がる。それでも殺気の篭った視線をベルフェゴールに向けるのは忘れない。
……だが、当のベルフェゴールは対戦相手だった獄寺君ではなく、ミツ君と、それからツナに視線を注いでいるようだった。
もちろん見られているミツ君もツナも気づいたようで、警戒するように眉を寄せている。
(XANXUSの対戦相手になるミツ君のこと、気になってるのかな。……でもなんでツナまで)
この世界のヴァリアーの考えることは、やっぱり全っ然わからないや。……超直感も使いたい時に役に立たないよな。全く困った力だ。
……いや、そういや、XANXUS?
ハッとして顔を上げ、俺はモスカの後ろに待機しているXANXUSの姿を認めて、思わず「うわっ」と軽く声を上げてしまった。
それに気がついたミツ君も俺の視線を追い、剣呑な表情で「XANXUS」と彼の名前を呟く。
「……ドカスどもが」
赤い瞳が瞬いて、ミツ君ではなく俺を、そしてツナを射抜く。
ひっと悲鳴を上げたツナが、手にしたランボの尻尾を強く握りしめたようだった。
「……沢田家綱」
「!」
「このオレへの『侮辱』は思い出したか」
突然声を掛けられて驚き、目を見開く。
XANXUSが俺を見る目の中には、やはり憎悪みたいな感情は感じられなくて。
戸惑う。どうして? 俺がした『侮辱』って、本当になんなんだよ?
……ただ、忘れているだけなのか? 俺が?
「……悪いけど、心当たりがないよXANXUS。まったく身に覚えがない」
正直に答えると、XANXUSは「ハッ」と愉快気に笑声を漏らした。そして、怪しく口角を上げるとニヤリと笑う。
「フン、そう言うだろうと思ったがな。じゃあお前はオレの『復讐』を、指をくわえて見てるといい。抜かるなよカス鮫。不手際を見せたらカッ消す」
「言われるまでもないぜぇ!」
来い、刀小僧。
そう言って、スクアーロは剣を掲げて笑む。