「おはようございます、家綱先輩」
「兄さん、ここにいたんだ」
「あ、おはよ、ミツ君。ツナも一緒だったんだな」
次いでモニタールームに入ってきたのは、ミツ君とツナの2人だった。
ミツ君は早朝から筋トレでもしていたのか、薄らと額に汗が浮いている。感心な子だ。
ツナはトイレから出たあと、そこでミツに会ったんだ、と説明した。どうやら彼は無人の廊下をランニングしていたらしい。
「朝イチのグッドニュースだぞ。外にミルフィオーレのブラックスペルがうじゃうじゃいる」
「それは、グッドなのか……?」
俺と同じようなことを尋ねたミツ君が、リボーンの返答を聞いて嫌そうに眉を寄せた。正常な反応だな。
そんなことを思って俺が苦笑していると、不意に彼からこちらに視線を向けられた。
なんだろうと首を傾げると、ミツ君はリボーンに視線を戻して言う。
「……家綱先輩のいる前で、ミルフィオーレの話をしてよかったのか? しかも彼は体が弱いんだ、これからあるかもしれない戦闘に参加するわけじゃない」
「俺も詳しいことは話さないつもりだと思ってた……だって、兄さんすぐ無茶しようとするし」
「ミツ君、ツナ」
……そっか、そうだよな。
さすがに俺が、メローネ基地に行くわけにはいかないか。
いやでも、戦える人間は使えるところで使うべきだ。俺だってそれなりに強い、白蘭の能力にも詳しいし、当然経験は誰よりもある。
俺は、メローネ基地に行ける。
「いいんだぞ。家綱は確かに脆弱な体をしてるが、強いことにゃ強いだろ。何しろダメツナの師匠をして、ハイパー化までさせたほどの有能さだ。
万一のこともあるかもしれねぇ、いろいろ教えておいて損はねぇ。
……それにヒバリと一番親しいのは、ボンゴレん中では保健委員長である家綱のはずだ。
あのめんどくせー風紀委員長とコンタクトを取るのに、こいつの存在は何かと役に立つ」
そーだろ、家綱? と矛先を向けられ、俺は曖昧に笑った。
確かにその通りだ。少なくとも雲雀さんと最も親密な関係にあるのは俺だろう。風紀財団と関わる上で、俺の存在が必要だというのも自然だ。
____そして、獄寺君と山本もモニタールームに入ってきたところで。
味方からだと思われる、緊急信号が送られてきた。
緊急信号はやはり、ヒバードのものだった。
ボンゴレ関係者が異常事態を知らせるために飛ばすためのものだから、記憶を辿れば恐らく飛ばしたのは黒川だろう。
そしてその信号はしばらく続き、やはりあの時と同じように裏の森辺りで反応が変えた。
「雲雀先輩、か……」
ぼそりとミツ君が呟いた声が、耳に届く。
同時に感じた視線に、そういえばまだ、ミツ君には俺がどうして助かったのか、話していなかったということに気がついた。
(……でも、言った方がいいのかは微妙なところだよな。ミツ君は頭がいいからだいたいのことは気づいてるはずだ、わざわざ言う必要もない。
雲雀さんはあんまりミツ君のことをよく思ってなかったみたいだし、そもそもボンゴレ上層部自体を殺人犯の巣みたいに考えてたみたいだ)
彼の中に“恭弥さん”がいないと思われる以上、あまり雲雀さんは刺激しない方がいいだろう。
この10年で、一体何があったというんだろう。むしろ沢田家綱が生きているこの世界こそが、おかしいんだろうか?
「大変です!!」
と、そこまで考えた時、ハルがすごい勢いで中に飛び込んできた。
何事だ、と考えかけてハッとする。……そうだ、たしかこの時、京子ちゃんが。
「京子ちゃんと友香さんがいないんです!!」
「なんだって……?」
ミツ君が眉を上げるが、俺は硬直してしまう。
そんな、まさか友香が? ……いや、考えると自然なことだ。
彼女だって普通の女の子で、了平がいないこの状況で、家を見に行きたいと思うのは当然だろう。
でも……なんでだろう、俺の中で、友香は誰よりもこの状況の危険性について知ってると思ってた。
(友香が? なんでだ? 超直感がそう言ってる……?)
「あの二人か……無理するようには見えねーのに」
「あー、でも友香先輩は有り得そうなのな。笹川のこと心配して、姉ちゃんがついてたったんじゃねーの?」
「確かにな」
友香は妹思いだ。俺もそう思う。京子ちゃんのことを心配して、だから外に出たんだ。
でも、そうなんだけど、やっぱりおかしい。だって、
「……友香がついてるなら大丈夫だ。敵に捕捉されることはないよ」
「え?」
そういうふうに、思ってしまうからだ。
「どういうことですか? 友香先輩が……」
「……なんだかそんな気がするんだ」
どうして、なんて俺が聞きたい。
幼なじみ、だからじゃない。俺の中にある、彼女への絶対的な信頼はなんだろう?