今日も風が吹いているー。
この風に包まれると自身が狩人である事を改めて痛感させられる。狩場に流れる独特の緊張感、仲間との一体感、数多の生き物が巣食う狩場ならではの空気感を全て乗せて私達に運んでくる。
さながら旅立ちの風…とでも言ったところか。
ただ旅立ちの風がいつも追い風とは限らない。
向かい風どころか時には我々狩人を襲う荒れ狂った暴風となることもあるのだ。
「ランサーさん!そっち行ったっス!」
「む…?フンッ!」
大盾を構え、しっかりあいての動きを見極める。
動くのはそれからで十分だ。
「デェヤァ!」
突進してきたクシャルダオラにカウンターが刺さる。
その瞬間大きく怯んだ。
かの古龍と言えど戦闘街で十分な傷を負わせ、その後も何度も交戦してきた相手だ。古龍に疲労はないと言うが、足を引きずり明らかに疲弊しきっている。
タァンタァァン…!銃声が響く。麻痺弾だ。
「ふふ…今日は逃がしてあげないわよ…?」
「さっすが♪ガンナーさん最高ッス!」
これでコイツとの長い戦いも終わる…!槍を握る手にも力がこもる。
「えぇッ⁉︎麻痺解けちゃったッス!」
「逃がさないッスよ!こうなりゃゴリ押しッス!」
また彼の悪いところがでた…。彼はリーダーの弟子であり、優秀なハンターではあるがすぐに調子づくところがある。
「ルーキー止まれ!」
「イケるッス!このまま…ってうわわっ⁉︎」
案の定暴風に足をすくわれルーキーは尻餅をついてしまった。
「怒り移行…!マズイわ!もう毒弾もないし…」
私も立ち位置が悪かった。今私はクシャルダオラの後ろ足側に居る。
ここからでは間に合わないだろう。
と、その時だ。
「ルーキー!そのまましゃがんでいろ!」
「リーダー⁉︎わ、わかったッス!」
瞬間、リーダーは地面を蹴り上げ、空中で円を描きながらクシャルダオラの頭部に突撃する。
クシャルダオラは大きく仰け反り、断末魔をあげて倒れた。
「大丈夫かルーキー?」
「た、助かったッス…今のは…?」
「ラセンザンと言う狩技だ。学んでおいてよかった…。」
「…それより…相手はかの古龍だ。いくら弱っていようと深追いは危険すぎる!無理な戦い方は私が絶対に許さん!…以上だ!」
「も、申し訳ないッス…」
彼は我々筆頭チームのリーダー。私の同期の弟子であり後輩にあたる。確かな実力と愚直と言っていいほどの真面目さでギルド内から強い信頼を置かれている。ドンドルマ防衛戦の時は周りに笑顔を見せるなど打ち解けたようにも見えたが相変わらず…。
「…それにだ!君にもしもの事があれば私はどうしたらいい?私はこのチームの誰か1人でも欠けたら泣いてしまうかもしれない…」
…そうでもないかもしれない。彼が親友と呼ぶキャラバンのハンターとの出会いはリーダーを…いや、我々を大きく変えた。彼は元気にしているだろうか…。
「さ!剥ぎ取り剥ぎ取り♪古龍の大宝玉はもらいっスよ〜♪」
「…!何か来るわ!」
ガンナーが何かを察知した。彼女はこう第6感のような優れた感覚がある。
…!空を大きな影が覆う。
「ティガレックスか!上から来る!みんな避けろ!」
剥ぎ取り中だったルーキーが出遅れる。
私はルーキーを押し退け盾で防ぐことにした。
「ランサーさん!?」
「大丈夫だ…!ん…?うぉわああッ!」
ティガレックスの急襲は防いだつもりだったが、割れた大地から爆風が立ち昇り私は吹き飛ばされてしまった。
「先輩⁉︎なんだこのティガレックスは…⁉︎」
「ランサーさん!今助けるっス!」
「…リーダーどうするの?あの翼腕…どう見ても通常の個体ではないわ。それに弾だって少ない…」
「……1度退却する!目的は達した!」
「そんな!?でもランサーさんが!」
私は手で撤退しろと合図する。さっきの一撃でうまく声が出せない。
「行くぞルーキー!退却するなら今しかない!」
「…クソ!…ランサーさん!絶対に助けに戻りますから!絶対にッス!」
…無事退却してくれたようだ。
さて、こちらはどうしたものか…クシャルダオラとの戦いでポーチの中も心許ない。
…覚悟を決める必要があるかもしれないな…。