よくある自己投影型転生チートに疑問をもって、気が付いたら書いていた。
反省はしていないが、後悔はしている。

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現実的には転生したとしてもこのような可能性も否定できないので、前向きに善処していきたいと今後の反省も踏まえて努力を惜しまないようにしたいと、柔軟で繊細に現実的な妥協点を模索しながら考えていることを否定しません。


なんか、あの…すみません。はい。

高校卒業を後少し先に控えた冬。周囲が部活を引退して、今まで遊んでいたリア充が急に勉強に専念していく姿に戸惑いながらも、

正直今の今になるまで本気で勉強にも打ち込めずに、スマホを弄ってばかりの生活を止められなかった俺。

 

何時もの様に学校が終わって、同じ帰宅部の友達と駄弁りながら帰っていると、

突如突っ込んできたバイクに乗って来た不良にぶつかってしまい、因縁を付けられて頭を殴られて死んでしまった。

 

そして気が付けば白くフワフワした空間の中で、球体の様な何かと対面していた。

 

それが『神』若しくは『世界の上位意思』の類である事は本能的に理解できた。

これは若しや所謂転生というヤツではないか?

よくネットで見かける展開に期待した俺を肯定する様に、音に寄らない声が直接響いてきた。

 

「如何にも。我は神。私は世界の意志。僕は上位存在。まあ、何でも良い。

汝を転生させよう。そして条件として今の知識と記憶と人格等をそのまま、ありのままに次の命に負荷してやろう」

 

中年男性の様にも少女の様にも老女の様にもあらぶった青年の様にも聞こえる声は、

常に声質やイントネーションを変えながら、そう説明してきた。

 

…それにしても、転生か。

 

それは願っても無い事だ。

高校生ならsinやcosで微分積分が出来てもおかしくないけど(俺にはさっぱりだ)、小さな子供が二次方程式を理解していたら天才と呼ばれるだろう。

それで、今度こそ他人に尊敬される人生を歩める。いじめられたり馬鹿にされる人生はもう懲り懲りだ。

 

だが、こうも思ってしまう。

 

「特典って、それだけ?」

 

なんかいろいろ他にも無いの?

所謂チート系の能力とか才能とかさ。

 

そう問いかけると、神は

 

 

「身の程を知れ。あなたの残りの寿命で世界に為せることは何もない。ブラック企業に入社して、精神を病んでニートになるだけだ」

 

そう告げて、次の瞬間俺は後ろに突如現れた門の内側から伸びる、無数の黒い奔流に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それで、気が付いたら俺は赤ちゃんになっていた。

母親らしき女性は若いがぶってりと太った不機嫌そうな女。髪の色は黒色で、目も黒いが、どうやら西洋人の様である事は解った。

父親は同じく小太りな頭の禿げた中年だった。

 

えっ、マジか?

こういう時って、美男美女の両親の血を引く約束されたスペックが待ってる天童になるんじゃないのか?

そういう絶望が最初に在った。

 

だが、そんな絶望などまだ甘い方だった。

両親が喋っている言葉が理解できない。日本語でも英語ですらも無い。

 

自慢じゃないが、英語の成績が悪かった俺だ。関係代名詞以降の例文なんてチンプンカンプンだし、

単語を覚えるのも、リスニングも苦手だった。

 

だから何を言っているのかわからなかった。

それでも、赤ちゃんだからこれからまだ時間がある。

そう思っていた俺は良くなかった。結局、周囲よりもこの国の言葉リーアジィ語を覚えるのは周囲の子供達よりずっと遅かった。

それに、歩くのは周囲並ではあったものの、

いずれ立ち上がるのに、目的も無く無駄にハイハイするのが面倒だったせいか、腕の力が鍛えられず、かなり力が弱くなってしまった。

 

 

幼少時のスポーツの苦手経験は、将来に響くものだとそれなりに頑張ろうとしたが、

木剣を振るうのも、結構重たいし直ぐに諦めた。

 

ならば学力チートを選ぼうと思ったが、言葉を覚えるのが遅かった俺は周囲に頭がよくない子だと思われていて、

俺の説教は周りにまともに聞いて貰えなかった。

それに、スマホもパソコンも無い世界ではwikipediaも開けない。

そうなってしまうと、授業にも80%も着いて行けなかった俺が、異世界で長いブランク有りで覚えている知識で、

その理由も説明できるモノなんてそんなになかった。

それにこの世界にはいくつか前世とは違う法則も幾つも存在する。その一つが魔法だ。

 

だが、以前の世界そのままのスペックで来た俺には魔法を扱う為の、世界に満ちるコードを掴む感覚が理解できなかった。

 

せめて数学なら世界の法則が変わろうとやっていけると思った。

教師たちも俺の学力には期待していなかったが、その予想を覆して数学に関しては年齢を遥かに超えたモノがあると証明できた。

それは9歳位の時のことだった。

珍しく周囲よりも優れた事があったと教師から告げられた両親は大喜びして、その日は食事が豪勢になった上に、良く褒めて貰えたのを覚えている。

 

だが、そこからの上昇が無かった。

以前の世界の漫画やアニメなどの無駄知識で頭が詰まってしまったのか、前世の年齢の頭の固さがそのまま引き継がれたのかは判らないが、

9歳並の知識の吸収速度は俺には無く、文明が発達した世界での確立された学識が丁寧に纏められた教科書も無い中、

俺が理解した知識の中にない、それ以上の部分を新たに自分自身で構築する能力は無く、

暫くすると、数学が少しできる程度のそれ以外はパッとしない(優しい表現)に戻ってしまった。

 

 

そうなると、両親も周囲よりも少し駄目な程度の、俺より総合的にはずっと見込みがある弟の方に愛情の大半を持って行ってしまった。

あの数学が年齢以上だと認められた時が人生のピークだった。

 

 

その結果、学力不足でもお金を出せば大学に行ける日本とは違うこの異世界で、能力が足りない為に進学は断念させられ、

親の知り合いの鍛冶屋の住み込み弟子となったが、ブラックなんてどころでは無い厳しい親方や兄弟子からの理不尽な、

 

「もっとテキパキしろっ」

「新入りの分際でわきまえろっ!!」

「見て覚えてねえのか、あっちのトーマスを見て見ろ。お前と同じ時期に入ってきてもうあの技量だ」

 

これらの罵声に恐くなって、家に逃げ出した。

頭を下げて親方に送り返そうとした両親だったが、親方に再度の受け入れを拒否された。

この時は正直ホッとした。もう地獄には戻らなくて済むと。

 

 

だが、現代日本と違う中世染みた世界で、大して裕福でも無い家でニートなんて許される筈も無かった。

直ぐに他の仕事を探せと言われて家を放り出されたが、現代日本の村社会よりも遥かに地元の結びつきが強いこの世界で、

以前の親方の所でボーっとして仕事もできないのに、反論だけは一丁前にするが、怒鳴られるとすぐに黙り込むクソザコという印象は周囲に広まり切っており、

そして、俺の住む世界はその狭い社会の中にしかない為、まともな扱いはされなかった。

 

 

是なら以前の社会の方が良かった。

ブラック企業なんてよっぽどホワイトだし、言葉がまだ理解できたし、暴力はそんなに多くないし、

ニートでも生きていけるし、馬鹿にされても生活保護という手段だってある。

そして奇しくもセンター試験と同じ日にちに連行される魔物退治という名の口減らしに送られる事も無かった。

これなら、これなら転生なんかしなくて、元の世界で生きていたかった――――――――




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