IS 〜地中海の愚者〜   作:liris

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一日は平等に過ぎていく。異なるのはその使い方だ。

多少詰め気味ですが試合までの日常です。


Pagina IX 猶予期間(モラトリアム)

 色々とあった初日を終えた翌日、オレは簪さんと神楽さん、そして静寐さんの三人と紹介を兼ねて朝食を摂っていた。

 その時に簪さんがやっている事を話したら静寐さんと神楽さんはかなり驚いていた。

 

「それじゃあ簪は一人でISを組んでるの?」

「……うん。ちょっと理由があって」

 

 昨日のように色々話しながらの食事だと簪さんはどうかな?、と思っていたけど食堂に行くまでに話していたせいか時折話すが基本的には静かな食事だ。昨日のように話しながらの食事もいいが今のように落ち着いた食事も悪くない、そう思っていたのだが――――――

 

「リーヤ、一緒に食べようぜっ!」

 

 ……どうやらそれはここまでか。というか後ろの篠ノ之さんからかなり敵意の籠もった視線を感じるけど……オレ、彼女に何かしたか? 身に覚えが全くないが……と、今は織斑さんか。

 

「……すいません織斑さん。自分は彼女達と一緒にしてるんです。なのでお断りさせてもらいます」

 

 ……これで退いてくれるといいんだけど。そもそも昨日の事があるのに何故オレを誘うのかっ。

 

「いいじゃん、それなら一緒に食べようぜっ! みんなで食べた方が楽しいしなっ!」

「む……」

 

 やっぱり駄目だったか。……どうするかな、そう言われたらオレの考えだけじゃ断れないし。三人がどうするかだけど――――――

 

「……私、彼と食べるの、嫌……」

「「「え……??」」」

 

 ……意外だ。まさか簪さんがそう言うとは。しかもかなり強い拒絶だ。……何かあったのか……? ともあれ、利用するようで悪いが好都合だ。

 

「……そういうわけです、織斑さん。貴方と同席するのを嫌がっている娘がいますから遠慮してもらえますか?」

 

 これが実質的な最後通告だ。これ以上食い下がってくるならオレとしても強く出ざるを得ないのだが――――――

 

「……わかったよ。行こうぜ、箒。」

「あ、ああ。そうだな」

 

 ……行ったか。簪さんのおかげで助かったな。理由がは気になるところだけど……こっちから訊いていい事じゃないかもしれないな。

 

「……意外だね。簪があんなに強く言うなんて思わなかった。まだホントにちょっとしか話してないけどあんな強く出るなんて思わなかったな」

「……私にも嫌いな人は……いる……」

「そうなんだ。……うん、でも理由は訊かないでおくね。神楽もリーヤくんもそのつもりなんでしょ?」

「……まあね」

「ですわね」

 

 どうやら二人もオレと同じ考えらしい。

 

「……いいの?」

 

 簪さんの疑問はもっともだろう。……気にならないと言ったら嘘になるが、踏み込むとしたらそれは簪さんから言ってくれた時だろう。

 

「何か理由があるんでしょう? なら今は深くは訊きません。簪さんが教えてくれる気になったら、でいいですよ」

「……ありがとう。少し、考えさせて……」

「えぇ、どうぞ」

 

 さて、これでようやく重い空気が去ってくれたからゆっくりと――――――

 

「……三人とも? 折角の雰囲気を壊すようで申し訳ありませんが……あまり時間は残っていませんわよ?」

「「「………え……???」」」

 

 神楽さんに言われて時計を見ると、間に合わない訳ではないが急がないといけない時間だった。

 

「うわ、ホントだっ⁉︎……って神楽っ! どうして言ってくれなかったのよっ!?」

「それはまぁ、いい雰囲気なので言いにくかったといいますか」

 

 神楽さん、それ絶対嘘でしょう。……口元笑ってますし。ホント、イイ性格してるなぁ……。

 

「……ねぇ、リーヤ。神楽ってこういう性格だったの……?」

「……自分も昨日知り合ったばかりですけど……多分」

 

 

 ――――――もしかしたら気を遣ってくれたのかもしれないけど、今それを言うのは癪だから心の内に留めておこう。

 

 

 

† † †

 

 

 

 さて、午前中の授業が終わり(特にコレという事はなかった。強いて言うなら織斑さんがまたも知識不足を露わにしたのと篠ノ之さんの事で一悶着あったぐらいか)、昼休みとなった。

簪さんは用事があって昼食は一緒に出来ないと言われたので三人で授業について話しながら昼食を摂っていた。

 

「――――――午前の授業にあった生体機能の補助って……どれぐらい身体を安定させてくれるの?」

「んー、個人的な実感になりますが、激しく動いてもすぐにクールダウンして動ける、と言うのが感覚としては近いですね」

「……では、操縦者が負傷した場合だとやはり傷の治療等は行われないのですね?」

「えぇ、痛覚を一時的に鈍くしたりする程度が限度です。負傷の他だとブラックアウト(視野喪失)レッドアウト(眼球への血液集中)のように急激なG変化にも対応はしますが反応は鈍いですね」

「やはりもう動かされている方は違いますわね。その辺りの内容は教科書に載っていませんでしたし」

「ISの実技が本格的に入ってきたら習うと思いますよ? この辺りは経験談みたいなモノですから」

「……って事はリーヤくんはもうそれを経験として知ってるんだね……」

 

 授業が本格的に始まったのもあって話す内容も自然と授業の内容が中心となる。二人は実際に『動かしている側』としての意見も訊いてくるので内容には困らない。

(余談だが、この時リーヤに話しかけようとした生徒は割といたのだが話の内容で諦めている)

 ……というか、この二人の意欲はIS学園の中でもかなり高いんじゃないだろうか。少なくとも一組の中ではダントツだ。エルトリア社の訓練生でもここまでの人は中々いない。二人のこの意欲は入学しての一時的なものか、それともずっと続いていくものなのか。もし、後者なら――――――

 

 

「リーヤっ! 今度こそ一緒に食べようぜっ!」

 

 ……来たよ。矢鱈と一緒にいたがるのが。今回は簪さんがいないから断り辛い。静寐さんと神楽さんも諦めたような表情(かお)だ。

 

「はぁ……判りました、いいですよ。……篠ノ之さんもどうぞ」

「おう、サンキューなっ!」

「……その、すまないな……」

 

 何というか、朝と違って篠ノ之さんは申し訳なさそうだ。……もしかして話してる中に割って入った事を気にしているんだろうか?

 

「にしても三人とも飯の時も授業の話をしてるのか? もうちょっと楽しい話をしようぜ?」

 

 こっちはさっきまでそれで楽しく話していたんだから余計なお世話である。

 

「……話の内容、じゃなくて話そのものを楽しめるかが大事だと思うんだけどなぁ……」

「ん? 鷹月さん、何か言ったのか?」

「別に? ただの独り言」

 

 今の静寐さんの言葉にはオレも同意だ。……内心、あの内容で楽しんでくれていた事にホッとしたが。

 

「いやー、朝も思ったけどIS学園の飯ってうまいよなっ!」

 

 食べ始めるなり話し始める織斑さんだが、正直暢気過ぎるんじゃないかと思う。目を逸らしてるだけなのか、単に何も考えていないのか……この感じだと何となく後者の気がするが。

 

「織斑さん? 明後日の試合どうするつもりなんですか? あまり時間はないと思いますが」

「そうだけどよ、お前に聞こうと思ったらいつの間にかいないし。お前どこに行ってたんだよ?」

 

 ……どうやら織斑先生はオレが訊きに来た事を黙っていてくれたらしい。ならその辺りの事は適当にぼかすとしよう。

 

「エルトリア社から送られていた荷物の点検や社への報告をしていたんですよ。特に荷物は不備があれば送り返す必要もありますから」

「一緒に帰るぐらいしてくれてもいいじゃねぇか。男同士なんだしよ」

「……勘違いしてるようだから言っておきます。オレはこの学園の生徒である前にエルトリアの社員です。なので学園での事よりも職務を優先しなければいけません」

「……なんだよそれ。友達より仕事を取るのかよ」

「それで報酬を得ている以上は当然でしょう」

 

 勿論、人にもよるが。

 

「織斑さん? リーヤさんの言っていることは正論ですわ。学生と社会人の違いと言ってしまえばそれまでなのですけど」

 

 神楽さんの言葉に織斑さんは押し黙る。……静寐さんもだけど神楽さんも割って入って来た織斑さんに思うところがあるか、やっぱり。

 

「――――――ねぇ、君達が噂のコでしょ?」

 

 昨日、よく知った声が聞こえてきた。

 

「……どんな、噂でしょうか」

「ん? イギリスの代表候補生と試合をするって噂よ?」

 

 話しかけてきた更識会長は昨日会った事はないように装っている。オレとしても都合がいいのでそれに乗る事にした。

 

「それでしたら当たりですね。自分と彼が行います」

「でも君達……素人なんでしょ? IS稼働時間はどれくらい?」

「えーっと、20分くらい……」

「自分は彼よりは多いですね」

「ふーん?」

 

 濁したように言うオレに更識会長の目が僅かに険しくなる。が、静寐さんと神楽さんだけならともかく対戦する彼に情報を渡すつもりはない。

 

「どっちにしてもそのままじゃ負けるわよ? 代表候補生なら軽く300時間はやってるもの」

「は、はぁ……」

「………………」

 

 織斑さんはイマイチその重要性が判っていないようだ。午前の授業でも思ったが部屋で予習や復習の類いをしなかったのだろうか?

 

「おねーさんが教えてあげよっか? ISについて」

 

 ……これは、オレに対しては昨日の返事だろう。確認を取る必要はあるがこれで『ただの素人』が勝つ、という風聞は避けられる。

 

「ではお願いしてもいいでしょうか」

 

 僅かに考えるそぶりを見せ、答えを返す。……元々持ちかけたのはオレだから断る事はないのだが。

 

「こっちの美人の彼はこう言ってるけど……君はどうするのかな?」

 

 余計な一言を言わないでほしい。……そして笑いを堪えてる静寐さんと神楽さんには後で一言言っておかなければなるまいっ。

 

「お、俺は……」

「結構です。彼は私が教える事になっていますので」

「ふーん? 彼と同じ一年生なのに?」

「……私は、篠ノ之 束の妹ですから」

「そう……」

 

 更識会長の目がはっきり判る程険しくなる。……いや、それは恐らくオレもなんだろうな。今の篠ノ之さんの言葉には道理がない。こういうのを確か東洋では虎の威を借る狐というのだったか?

 

「それじゃ、君の方に私の連絡先教えとくね。後でまた連絡ちょうだいね~」

 

 そう言って、ひらひらと手を振りながら更識会長は食堂から去って行った。こうして会うと何となくだが気さくな、というより自由な人という感じだ。

 

「……なぁ、箒。教えてくれるのか?」

「そう言っただろう。……今日の放課後、剣道場に来い。腕がなまってないか見てやる」

「いや、剣道じゃなくてISを――――――」

「いいから来い」

「……わかったよ」

 

 ……正直に言わせてもらおう。侮るつもりはないが、貰ったな、と。

 

 

 

† † †

 

 

 

 放課後、山田先生から第6アリーナの使用許可が下りたので更識会長にその旨を伝えてアリーナに向かう。許可を取ってくれた山田先生には感謝だ。

 

「いらっしゃ〜い。案外早かったわね?」

 

 ……おかしい、何故に更識会長がもう着いているのか。

 

「早いですね。連絡したのはついさっきでしたが」

「ふふふ、生徒会長だと色々とわかるのよ?」

 

 ……恐らく申請書類をチェックしたのだろう。山田先生の話でもこのアリーナはあまり開放していないとの事だったし。

 

「本来なら監督する先生もいるんだけど私が見るから、と言って外してもらったわ。その方がいいでしょ?」

「助かります。……それで、昨日の返事はOKと捉えていいんですね?」

「君を鍛える、ということに関してはね。提携についてはまだ保留よ」

「構いません。慎重になるのは判りますから」

 

 むしろ昨日の今日で結論を出されたら驚きだ。

 

「それで、どんな事を教えていただけるんですか? せっかくアリーナが使えるので実際に動いて試したいのですが」

「もちろんそうしてもらうわよ? ……その前に確認だけどISの機動は一通り出来るのよね?」

「そうでなければ代表候補生に勝てる等言いませんが」

「なるほどね……もう一つ訊くけど、あなたのお姉さんって代表次席のフィオーラ・カテドラール?」

 

 ま、イタリアの代表候補生を調べたら姉さんの事は判るか。

 

「ええ、そうです。やはり知っていましたか」

「そりゃあ彼女は有名だもの。部門優勝(ヴァルキリー)に最も近い代表候補生。彼女と現総合優勝(ブリュンヒルデ)のアリーシャ・ジョセフターフが別々の国で生まれていれば国家代表に選ばれていた、っていわれているぐらいだもの。」

 

 イタリア代表候補生の中でも姉さんは文字通り別格だから国家代表クラスなら知ってるか、やっぱり。

 

「ま、今はそれは置いときましょ。ここが使える時間は限られてるんだし、約束通り戦術を教えてあげる。……とは言っても代表候補生レベルのコに教えられる戦術なんて少ないけどねー」

 

 そう言う更識会長だがオレも教わった戦術が試合までに使えるとは考えていない。重要なのは『知らない戦術』を知る事にある。オレが知るISの戦術は姉さんから教わったもの。その為内容が偏っている。使えるかはともかく、知っていればその戦術を使った『狙い』に見当をつけられる。少なくとも、その場その場で考えるよりはマシだ。

 

「構いません。お願いします」

「それじゃあ、まずは――――――」

 

 

結局、更識会長との修練はアリーナの閉館ギリギリまで続いた。更識会長がどんな意図を持っていたかは判らないが、様々な戦術を教えてもらえた(教えても支障のない範囲だろうが)のは大きい。二日後の試合が終わったら使いものになるようにしたいところだ。知識だけに留めるのは勿体ない。

 

 

 そんな事を考えていた為だろう。楯無の疑惑の籠もった視線に、リーヤは気付いていなかった

 

 

 

† † †

 

 

 

 さて、この翌日に関しては特別変わった事は起きず、この日と同じように時間は流れた。

 

 そして、とうとう試合を行う当日を迎えた。試合を行うアリーナには多くの生徒が詰めかけるが、その多くは試合ではなく二人しかいない男性操縦者を見る為だ。試合そのものは代表候補生のセシリアが勝つと考えている者が殆どだ。

 

 ――――――だが、何事にも例外は存在する。それを証明するのは、果たして――――――

 

 

 




幕は上がる。舞台に上がる役者達はどう舞うのか。


……最後は詰めた感が拭えないですね。
ようやくセシリア戦……なんですがオリ主の策略の結果、まずは一夏対セシリアです。観戦なので短めにして出来るだけ早く対オリ主戦にしようと思います。
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