IS 〜地中海の愚者〜   作:liris

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――――――自身の立ち位置を見据えた者とそうでない者。

二人の違いは突き詰めればソコなのかもしれない。





Pagina XIII 魔女の(アギト)

――――Side リーヤ―――― 

 

 アリーナで対峙する二人の男性操縦者。しかし、両者に対する観客の印象は大きく異なっている。

一夏に対してはやはりというか『織斑千冬の弟』というのが強く、先の試合の結果からか肩透かしを受けた観客も多い。

 そしてリーヤに対しては代表候補生のセシリアに肉薄したからか、好奇の目を向ける者、実力に注目する者、そして僅かながら疑問の目を向ける者と様々だ。が、向けられている本人はそれらの視線に動じる事なく自然体だ。そういった視線は慣れていると言わんばかりである。

 

「さっきの試合見てたぜ、リーヤ。お前、あんなに強かったんだな」

「……結局は負けました。どんなに善戦しても記録には『敗北』として残ります。なら、その内容に意味はありません」

 

 ……そう、どんなにいい勝負をしても記録にされるのは敗北という言葉だけ。試合に負けて勝負に勝った、なんて言葉もあるが判るのが当事者だけなら意味はないとオレは思う。

 

「なっ⁉︎ お互い全力でやったんなら意味がないなんてことないだろっ! 結果しか見ないなんてそんなの――――――」

「そういう考えの人がいる事は判りますし、考えそのものを否定するつもりもありません。……ただオレは過程より結果を重視します。内容を重視しても伝わるのは個人レベルまでです。より大きな集団・組織から見られるのはやはり結果ですから」

 

 少なくとも企業に属する以上は結果を出す事が求められる。勿論全てを成功させる、なんて事はオレには出来ない。が、()()()()()()()()()()()成功させなければならない局面は確かに存在する。

 

「……リーヤ、俺はそんなの認めねぇ。結果だけ見てそいつの努力を見ないなんて、俺は絶対認めねぇっ‼」

「……えぇ、構いませんよ。オレは自分の考えを肯定出来ない人もいる、と判っていますから。以前にも言ったでしょう。『人はそれぞれ価値観や思想が違う』、と。オレは織斑さんの考えも否定はしませんが肯定もしません」

 

 両手にブレードライフル『ヒラリオン』を握りつつ、我ながら性質(タチ)が悪いと思う。そういう考えの人もいると判った上で否定してるのだから。

 

「……ならお前のその考え、俺が叩き直してやるっ!」

「相手の考えが気に入らないから力ずく、ですか……」

 

 力ずくより悪どい事をしてきたオレが言える事ではないが正直勝手だと思う。どうやら織斑さんは自分が気に入らない考えを許容する気はないようだ。

 

「……するのは構いませんが、織斑さんの実力でオレを降せるとでも?」

 

 ――――――なら、それを利用させてもらう。

 

「なっ⁉ てめえっ‼」

「断言しますよ。――――――貴方ではオレには勝てないと」

「リーヤぁぁぁぁぁぁっ‼」

 

 

 

 ――――――――――――そうして、学園の多くの人間が注目していた男性操縦者(イレギュラー)同士の試合が今、始まった――――――

 

 

――――Side Out――――

 

 

 ぶつかり合う鋼と鋼。打ち合う剣戟に銃撃が混じる近接戦。雪片を握り攻め立てる一夏とヒラリオンを構え迎撃に徹するリーヤ。一見すると一夏が優勢に見えるが実際は逆だった。

 

「くそっ!」

 

 試合が始まってから何度もリーヤに踏み込むも、その全てが防がれ一夏は後退を余儀なくされる。――――――否、それだけではない。リーヤは片方のヒラリオンで一夏の剣撃を防ぎ、もう片方で切り返しながら銃撃による追い打ちをかけ一夏のシールドエネルギーを着実に削っていく。

 

(あと一歩踏み込めれば届くのにその一歩が届かねぇっ!)

 

 一夏に相手を見る余裕があればここまで一方的に削られる事はなかっただろう。だが、今の一夏にそんな考えは浮かばない。

 なぜなら――――――

 

「どうしました? 手応えがあるのは口だけですか、織斑さん?」

 

 ――――――一夏が冷静にならないよう、リーヤが煽り続けているからだ。

 

(……織斑さんは感情的に見えたから挑発してみたけど予想以上に効果があったな)

 

 リーヤ自身、ある程度の効果がある事は確信していた。今の状況はリーヤの狙い通りに進んでいる。

 

(冷静さを欠いた人は動きが単調になる。そうなれば動きを読むどころか誘い込むのも容易になる。このまま織斑さんを煽り、今の動きをさせ続ける―――っ!)

 

「どうしました? その程度ではオレを降すどころか一撃入れる事すら出来ませんよ?」

「てめぇぇえぇぇぇぇっ‼」

 

 一夏は気付かない。頭に血が昇り、リーヤの言葉が挑発である事が。そして……自身の動きが先ほどから同じパターンになっている事にも。

 

(ねぇ、なにかおかしくない? 攻めてる織斑くんがダメージを受けて防戦一方の彼の方が無傷なんだけど)

(そうだよね、普通は逆だよね)

(もしかしてさ、ペース握ってるのってあっちの押されてるように見える子のほうなんじゃない?)

 

 観客の中にも攻め立てている一夏だけが消耗している事に気付く人が出始めていた。……増え始めた、というべきか。

 先の試合でリーヤはセシリア相手に機動戦を仕掛け、その実力を見せている。が、この試合では開始位置からほとんど動いていない。二・三年の上級生の一部は早い段階でそれに気付き、また主導権を握っている事にも気付いている。

 

 

 

 ……試合の流れは、秒単位でリーヤへと傾いていた。 

 

 

 

 ギイィン―――

 

 幾度となく繰り返されたブレード同士がぶつかり合う音が響くが結果は変わらない。

 

 ヒュン、タタタタンッ―――

 

 ブレードを振り抜く音と数舜遅れて聞こえるライフルの銃声。既に一夏は踏み込むタイミングすらリーヤに読まれている。

 煽られて頭に血が昇っている上に、自分の攻撃が全て防がれるという現実。それは、一夏からまともな判断力を奪うには十分過ぎた。

 

(なんでだよっ⁉ 同じ男で俺は千冬姉と同じ力を持ってるのに、なんで一度もアイツに届かねぇんだよ⁉ 俺はアイツに負けるわけにはいかねぇのにっ!)

 

 一夏は自身の間違いを知らない。同じ男ではあるが技量、経験においてリーヤは一夏に勝っており、一夏にアドバンテージがあるのは一撃の威力しかない。

 ……この試合において、その前提の間違いはあまりに致命的だった。

 

(……よし、織斑さんが踏み込んでくるタイミングも掴めてきた。)

 

 対してリーヤは平静だ。既に一夏の攻撃を見切り、容易く防いでいる。その為本人もISも未だ万全に近い状態だ。

 ――――――故に

 

(そろそろ仕留めにいきますか)

 

 この状況を動かしにかかった――――――。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

 

 きっかけはやはり一夏の何も変わらない突撃。そしてそれをあしらうリーヤだが、今回はこれまでとは違う。

 返す刀で剣撃と銃撃によるカウンターはこれまでと変わらないが、そこから一気に距離を詰めて一夏に肉薄する――――――っ!

 

「なっ⁉」

 

 ……驚きの声は一夏のものだけではなかった。アリーナも観客席からも驚きの声が上がる。それはそうだろう。これまで守りに徹していたリーヤが突如攻めに転じたのだ。そしてリーヤの攻めの苛烈さは一夏の比ではない。

 

「ハッ‼」

「っ⁉ くそっ!」

 

 放たれる剣撃と銃撃。間断なく攻められる一夏だがダメージを負いながらも辛うじてそれを防ぐ。

 ――――――が、

 

「イヤァァァァァァッ!」

 

 リーヤはそれに構わず烈破怒涛と攻め立てる――――――っ!

 

「……っ!」

(くそっ! 『零落白夜』を使おうにもこのままじゃ展開する間にやられっちまうっ!)

 

 リーヤの激しい攻撃に防戦一方に追い込まれる一夏だが、押し込まれているのにも理由がある。

 勿論、二人の技量の差というのもあるがそれだけではない。技量と同等に両者の武装に差があった。

 一夏の『雪片弐型』は確かに強力だがその本領は光刃を展開しての『零落白夜』にある。今のように展開していない状態では一般的なブレードとさほど変わらない。

 それに対し、リーヤの『ヒラリオン』はブレードライフルという一風変わった装備ではあるが性能として突出している訳ではない。が、今のような状況でブレードライフルは剣撃で跳び退いた相手をライフル部で間髪入れずに追撃出来る為、相手に立て直す間を与えずに攻め立てる事が出来る。加えてリーヤは両手にヒラリオンを握り攻撃が途切れない。弾倉の再装填(リロード)も『拡張領域(バススロット)』から直接行っている為に間が空かない。

 ……それが、この状況を生み出した両者の武装の特性差。性能ではなく武器としての特性そのものの差だった。

 

「ハァァァァァァッ!」

(攻めの流れは取ったっ! このまま一気に押し切るっ‼)

 

 リーヤはブレード・ライフルの双方で確実にダメージを与えられる距離を保ちながら攻め続ける。苛烈に、しかし確実に一夏のシールドエネルギーを削っていく。

 ……このままの状態では一夏は最後まで削り切られるのは明白だった。

 

 ――――――故に、

 

「……っ! おぉぉぉぉぉぉっ‼」

 

 一夏はダメージを負う事を覚悟し、ライフルによる追撃を受けながらも全力で後退する事でようやくリーヤの連撃から抜ける事に成功する。

 

(ここで決めねぇとまたやられるっ! 一か八か『零落白夜』で一気に決めるっ‼)

「リィィヤァァァァァーーーッ!」

 

 距離を離した一夏は即座に光刃を展開し、リーヤへ向けて吶喊する――――――っ!

 

(来るか―――っ!)

 

 それでもなお、リーヤは冷静だった。吶喊してくる一夏を焦る事なく見据え、ヒラリオンを握る手に力を籠めてリーヤ自身も吶喊し――――――

 

「うおおぉぉぉぉっ‼」

「ハァァァァァァッ‼」

 

 両者は互いに咆哮しながら距離を詰め、相手に必殺の一撃を叩き込むべく肉薄する。

 

 

 

 

 

 

 

 轟、という剣を振り抜く風斬り音が聞こえるもよりも先に、ガァン、という銃声が響く。

 

 

 

 

 振り抜かれた筈の雪片弐型が宙を舞い、地面に向けて墜ちてゆく。

 

 

「なっ⁉︎ てめえっ‼︎」

 

 

 

 ――――――そう、リーヤは一夏が振り抜くタイミングを見切って雪片弐型を狙撃し、一夏の手から弾き飛ばしたのだ――――――っ!

 

 

 

 加えて、リーヤの手には既にヒラリオンではなくルシフェリオンが握られ――――――

 

 

 

詰みです(Scacco matto)

 

 

 ――――――放たれたルシフェリオンの赤黒の奔流が一夏を飲み込んだ――――――

 

 

 




――――――試合は終わった。
……しかし、これは一つの大きな舞台の序章に過ぎない。



ようやくセシリア編の山場ともいえるクラス代表決定戦が終わりました。
打ち上げや授業を幾つか挟んで中華娘の登場です。

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