夕食を終えたオレは簪さんと静寐さん、それに神楽さんに試合の話が詳しく聞きたいと言われて静寐さんと神楽さんの部屋に呼ばれていた。
織斑さんとの試合はともかく、オルコットさんとの試合で『
「「リーヤくん(さん)、試合おつかれさまーっ‼︎」」
「……お、お疲れ様……」
――――――等と考えていたオレの考えは思いっきり外れてるのかもしれない。静寐さんと神楽さんだけじゃなくて簪さんもなんか乗り気だし。
「……あれ? どうしたの、リーヤくん?」
「……いや、予想外過ぎる出迎えに少しね」
何というか、真面目な話になる事を考えていたけど肩透かしを受けた気分だ。
「それにしてもいいんですか? 自分を部屋に呼んでも。他の人達に見られたら――――――」
「……それなら、大丈夫……」
「えっ?」
「今の時間、ほとんどの娘は食堂にいるんじゃないかな。織斑くんがクラス代表になったパーティーをしてるから」
あぁ、だからあまり人がいなかったのか。……それなら気にする事はないか。
「そういうわけだから、入って入って」
「なら、お邪魔します」
三人に連れられて部屋に入るとお菓子や飲み物の他に小さいながらケーキまで用意してある。……凄いな、そこまで準備をしてたのか。
「飲み物はどれにします?」
「それじゃあコーヒーをお願いします」
神楽さんから飲み物を受け取って三人の方を見ると三人はもう自分のものを用意していた。
「それじゃ改めて…………せーの、「「「リーヤ(くん・さん)、クラスの代表決定戦お疲れさまーっ!」」」
「あはは……ありがとう」
何というか、反応に困る。こういう風に祝われるなんて久し振りだから嬉しさ半分、照れ半分だ。……本当、こんな風にしがらみ抜きで祝ってもらうのはいつ以来だろう。
「神楽と一緒に見てたけどすごかったよっ!」
「私も観客席で見てたけど……代表候補生をあそこまで追い詰めるのは簡単にできることじゃ、ない」
「……肝心の結果は負けでしたけどね」
ストレートに褒められてつい自嘲気味の言葉で返してしまう。……子供か、オレは。
「意外ですわね。リーヤさんは褒められてもあっさり受け流すと思っていましたが?」
「……あながち間違いでもないですね。どうとも思っていない人からなら神楽さんの言う通り流しますから」
そういう人達からの賞賛は社交辞令だと思うようにしている。……企業にいるとそういった社交辞令は頻繁に聞くというのもあるのだが。
「けど、友人からの言葉は流石に自分も照れますよ」
「「「意外……(だね、ですわね)」」」
三人揃ってそれはヒドくないだろうか。遠慮なく話せるから言えるんだろうけど。
――――――余談になるが、今回の事を考えたのは静寐さんで、それに神楽さんと簪さんも賛成したんだとか。ついでに言うと、部屋でする事にしたのは食堂では織斑さんがクラス代表になったパーティーをしていて、そこだとオレと簪さんが居づらいだろうという二人の配慮だ。
「……でもリーヤくん、身体は大丈夫なの? 『
「それは大丈夫。一応超えるとマズいラインは判ってるからね。クラス代表を決めるぐらいの試合で骨折とかは割に合わないし」
「……それって割に合うならやる、の……?」
「……まぁ、ね」
そんな事が早々起きるとは思えないが、骨折程度で収拾出来るなら安いものだし。一応無茶をするべき時か否かは弁えてるつもりだが。
「そのことについて一つ訊いてもよろしいですか?」
「……なんでしょうか?」
「オルコットさんとの試合で思ったことなのですが……、リーヤさんは怖くなかったのですか? 『
「そうですね……怖い、というのはありませんでした。あのやり方は義姉さんから仕込まれていましたから」
本当は別の理由があるのだが、彼女達といえど
「ねえ、リーヤくん。……お姉さんってもしかしてスパルタ?」
「…………察してください……」
身内相手だと加減をしないからな、義姉さんは。……一体何度ゼロ距離砲撃を撃ち込まれたか。
「ちなみにリーヤくんはお姉さんに勝った事ってあるの?」
「……あるわけないでしょう、あんな『人間やめました』みたいな機動が出来る人に。花を持たせてくれるような人じゃありませんしね」
むしろ伸び代のある相手には『上』の実力を見せ、花を持たすどころか茨の道を見せるような人なんだよな……。
「……ねぇ、リーヤ。リーヤはお姉さんのこと……どう思ってるの……?」
「どうって……難しいな。自分と義姉さんの関係は少し複雑ですから」
「複雑って?」
「言っていませんでしたっけ? 自分は養子でカテドラール家の実子じゃありません。だから自分にとって義姉さんは仕える主でもあるんです」
義姉さんはいずれカテドラールの家督を継いで当主になる。そしてオレはその手足として動く身になるけど……ここまで言う必要はないだろう。
「……本当に複雑ですわね……」
「ええ、尊敬してるのは確かですけどね。……劣等感を抱いたり色々ありましたけど」
「……そうなの……?」
「傍から見たら優秀な姉と出来が並程度の弟でしたから。色々と思う事がありましたよ、子供の頃は」
義姉さんとは色々と比べられる事があったし、それが原因でぶつかる事もあった。
――――――が、
「けどそこから抜けるきっかけをくれたのも義姉さんです。義姉さんは『私とリーヤは違うわ。だから、私と同じ場所じゃなくてリーヤにしか行けない場所を目指しなさい』、と。そこからは変に意識する事はなくなりましたね」
おそらく、義父さんや義母さんから言われても納得はしなかったと思う。義姉さん自身の言葉だったから当時のオレは納得したんだろう。
「リーヤのお姉さんは……リーヤのことを受け止めたんだね……」
「えっ……?」
ぽつり、と簪さんから言葉が零れる。
……薄々感じてはいたが、簪さんと更識会長の仲はあまり良くないみたいだ。ただ何というかお互い嫌ってる、とは少し違う気がする。避けあってる、というのが近いだろうか?
時間があれば更識会長に訊いておこう。事情を知らないまま生徒会に入った(それも副会長として)なんて言ったら距離を取られるかもしれないし。
「ほらほら二人とも。せっかく集まってるんだから難しい顔してないで楽しも? 隣りのこととか気にせず騒げるなんてあまりないんだし」
……何というか、この空気でソレを言える静寐さんは凄いな。オレじゃそんな風に雰囲気を変えるような言葉は出てこないし。
――――――そんな風に感心しているリーヤだが、その静寐も内心では『うわぁ、失敗したらどうしようっ!?』と思っていたりする。
……言った時点で空気を変えているようなものなので、失敗したとしても静寐が涙目になるというおまけがつくぐらいなのだが。
「……驚きましたわ。まさか静寐の口からそんな言葉が出てくるなんて……」
「ちょっと神楽っ! それどうゆう意味っ⁉」
二人の言い合いに部屋の雰囲気が柔らかくなる。……うん、この二人って本当にかみ合ってる。実は学園に来る前から仲が良かったんじゃないか、と思うほどだ。
「……リーヤ、変なこと言って……ごめん、ね……?」
簪さんはそう言って謝ってくれるけどコレは簪さんのせいじゃない。むしろ不用意に言ったオレが悪いだろう。
「簪さんが謝る事じゃないですよ、コレは。――――――だから、そんな顔をしないでください」
そんな『悪い事をした』、みたいな顔をされると心苦しい。
「うん……ありがとう」
「いえいえ。……で、どうしてそこの二人はそんなに笑顔なんです?」
「え……?」
顔を向けるとそこには実に含みがありそうなイイ笑顔を浮かべた二人がこっちを見ていた。
「だって……ねぇ?」
「さっきまで重い空気でしたのにもう二人だけの世界に入っておられたので、お邪魔してはいけないと思いまして」
「……あぅ…………」
「……絶対それだけじゃないですよね、二人とも……」
まったく、神楽さんだけじゃなくて静寐さんまで……。
……勘弁してほしいな。
――――――リーヤは気付いていない。そう思ってはいるものの、
その事に気付かないまま、和気藹々と過ごすリーヤ。そこにいるのは『エルトリア社のカテドラール』ではなく、『リーヤ』という一人の学生だった。
大変長くなってしまいましたが、次回から鈴編に入ります。
更識姉妹とこの時点で関わったからなのかまさかここまで長くなろうとは……。
次話では鈴が転入してくるところまで時間を進め、装備の受け取りや楯無とエルトリア社の橋渡しはダイジェストにしようと思っています。
(要望次第では書くかもしれませんが)