IS 〜地中海の愚者〜   作:liris

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つかの間の平穏。
しかし、イレギュラー達のそれは足早に去っていく。

中華娘の登場です。


Pagina XVI  騒ぎの足音

 クラス代表が決まって一週間。四月も半ばとなり学園での生活にも少しずつではあるが慣れてきた。

 ……この一週間は代表を決める時ほどではないがそれなりに忙しかった。情報部門統括(義父さん)と更識会長の交渉に始まり、ルシフェリオンの交換のため日本支部に来てもらった本社の人への引き渡しと中々落ち着ける時がなかった。なので結局更識会長には簪さんとの事を訊けないでいる。(生徒会に行くと結構な量の書類が待っているのもあるが)

 が、それもようやく区切りがついた。公的な仕事が一段落したから個人的な事に手を付けられる。……余計なお世話になりかねない、と判ってはいるが。

 

「では、これからISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、カテドラール。実際に飛んでみろ」

 

 ――――――と、今は授業中。二人と一緒に織斑先生に指名されたので意識を切り替えて『ストレガ』を展開する。

 オレとオルコットさんは即展開したが織斑さんは上手くいかないようだった。

 

「早くしろ。熟練したIS操縦者なら展開(オープン)まで一秒とかからんぞ」

 

 ……いや、織斑先生、素人に近い彼にそれは無理でしょう。展開する為のイメージすらまだ掴めていないでしょうし。

 そこから数秒して織斑さんもISを展開する。オレもオルコットさんも織斑さんが展開したので即飛べるよう態勢を整える。

 

「よし、飛べ」

 

 そうしてオレ達は空へと飛翔する。上がる速度はオレ、オルコットさん、遅れて織斑さんの順だ。ストレガは突出した速度なので加減をしたのだがそれでも速かったみたいだ。

 

「遅いぞ織斑。白式のスペック上の出力はブルー・ティアーズよりは上だぞ」

 

 ふらつきながら飛ぶ織斑さんに織斑先生の注意が飛ぶ。……おかしいな、試合の時の方がよっぽど動きがよかったが……。

 

「授業じゃ『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』って言われたけど全然イメージ沸かねぇ……」

「一夏さん、イメージは所詮イメージなのですから自分がやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ?」

「そう言われてもなぁ……そもそもこうやって飛ぶ感覚自体まだあやふやなんだよ。なんで浮いてんだ、これ」

 

 一足先に予定高度に着いたオレは、開放回線(オープンチャンネル)で話している二人の会話を聞きながら待っていた。

 

「はぁー、やっと着いた。リーヤもセシリアみたいにちょっとぐらい待っててくれてもよくないか?」

「……これでも出力は絞りましたし、わざわざ三人一緒に上がる必要はないでしょう?」

 

 というか急上昇は急下降と一緒に昨日の授業でやった内容なのに、放課後アリーナで練習しなかったんだろうか? 折角専用機を与えられて、アリーナの使用申請だけで練習出来るのに勿体ない。

 

「そうかもしれねぇけど……そうだ、さっきセシリアとも話してたんだけど、お前はISで飛ぶのってどんなイメージでやってるんだ?」

 

 相変わらず織斑さんはフレンドリーに話しかけてくるけど……まぁ、実害は(今のところ)ないからいいか。変に避けると余計に話しかけてきそうだし。

 

「自分はドラーネ……(ドラゴン)が飛ぶイメージですね。一番イメージとして掴みやすいので」

「……実在のものではなくどうして架空の生物であるドラゴンを?」

 

 オルコットさんの質問はもっともだ。イメージの容易さでいえば鳥等の翼を持つ生物の方がしやすい。

 なのだが――――――

 

「空想の生物ならどんな動きをするのか自分のイメージで固められますから。――――――だからどんな動きをするのかを自分の好きなようにイメージ出来ます」

「あ、それいいじゃねぇか」

 

 簡単に言う織斑さんだがこれはそう簡単じゃない。なぜなら――――――

 

「一夏さん、それはやめておいた方がいいですわ。リーヤさんは簡単そうに言っていますが、それをするなら動き方の全てを()()()()()イメージしておかなければなりません。それは簡単にできることではありませんわ」

 

 オルコットさんの言う通りこの方法はどんな動きをするのか、それを一から十まで全て自分のイメージで固めなければならない。そんな事をするより自分が飛ぶイメージをつかんだ方が早い。

 ……オレの場合は急機動をするのに上手くいかず、このやり方を勧められ自分に合っていたからしているのだが。

 

「げ、そうなのか。ならセシリア、今度また放課後に――――――」

「一夏っ! いつまでそんなところにいる! 早く降りてこいっ‼」

 

 いきなり通信で篠ノ之さんの声が入る。見てみると山田先生のインカムを奪い取っていた。

 ……いや何をやってるのか、篠ノ之さんは……。

 

「三人とも、次は急降下からの完全停止をやってみせろ。停止位置は地表から10センチだ」

 

 10センチか……。少し攻め気味で降りるか。

 

「ではお先に行かせてもらいます」

「あ、おい」

 

 織斑さんが何か言おうとしたようだが無視して降下する。風を切りながら降下していき、目標の高さの辺りで身体を反転、停止させる。

 結果は――――――

 

「……地表から8センチか。悪くはないがもう少し安全圏を取れ」

「判りました」

 

 目標を少しオーバーしての停止。少し攻め過ぎたか。

 オルコットさんも降下してきたが彼女はぴったり10センチの位置で停止。……流石だ。

 残る織斑さんは――――――オレやオルコットさんより遥かに速いスピードで降下してきている。……アレ、間違いなく墜落コースだ。

 そして――――――

 

 ―――ドゴォォォンッ!―――

 

 豪快な音と共に彼が墜落。大量の砂塵が舞ったのでスラスターで風を生み、織斑さん(爆心地)へ押し戻す。彼には悪いが、自分の失敗は文字通り自分で被ってもらおう。

 

「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」

「……すみません」

 

 いや、本当にそうだ。減速せず地面に墜ちてきたからあれじゃ急降下ではなく爆撃(爆弾は彼本人だが)だ。

 

「情けないぞ、一夏。昨日私が教えてやっただろう」

 

 一応、練習はしてたのか。……モノにはなっていないみたいだが。

 

 ――――――リーヤは知らないが、箒の教え方というのは『上がる時はこう、ずばーっといき降りる時はぐんっといって、くいっという感じだ』という擬音のみで形だけの教えだったりする。

 

「まぁいい。織斑、そのまま武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」

「は、はぁ」

「返事は『はい』、だ」

「は、はいっ!」

「よし、ではやれ」

 

 織斑先生に言われ、突き出した右腕を左手で握りしめて織斑さんが武装を展開する。……展開まで約4秒といったところか。

 

「遅い。0.5秒で出せるようになれ」

 

 容赦ないダメ出し。確実に出せるだけ上出来のような気もするが。

 

「オルコット、武装を展開しろ」

「はい」

 

 左手を肩の高さまで上げ、真横に突き出す。――――――瞬間、圧倒的な光量と共にオルコットさんの左手には狙撃用エネルギーライフルが握られていた。

 ……やっぱり早い。しかもオルコットさんが視線を送るだけでセーフティも解除。ここまでで1秒もかかっていない。

 

「さすが代表候補生だな。――――――だが、そのポーズは直せ。横ではなく正面に銃身を展開できるようにしろ」

「で。ですがこれはわたくしのイメージをまとめるのに必要な――――――」

「直せ。――――――いいな?」

「……はい」

 

 ……オルコットさんにもか。これは、オレもなんらかの指摘がありそうだな。

 

「オルコット、次は近接用の武装を展開しろ」

「は、はい」

 

 ライフルを収め、近接用の装備を展開しようとするオルコットさんだが……何故か出てこない。

 ――――――正確には粒子がカタチを結ばず、空中で彷徨っている。

 まさか……。

 

「くっ……」

「……まだか?」

「す、すぐです。――――――ああ、もうっ! 『インターセプター』!」

 

 中々展開しない事に焦れたのか、オルコットさんは名前を呼び出(コール)して展開する。

 ……得意ではない間合い(レンジ)の装備とはいえ差が極端過ぎやしないだろうか。

 

「……何秒かけている。実戦の相手は待ってはくれんぞ」

「じ、実戦ではそこまで近づけさせません! ですから大丈夫ですわ!」

「ほう、初心者の織斑にそこまで踏み込まれ、カテドラールには距離を取ろうとするのを利用されたように見えたが?」

「そ、それは……」

「近接でも勝てるレベル、とまでは言わん。だが代表候補生なら最低限戦えるレベルにまでは鍛えておけ。……いいな?」

「はい……」

 

 アレを見ると両方使えるようになっていてよかったと心底思う。

 ……個人的にはどちらにせよ手早く出来るならイメージ展開に拘る必要はないと思う。そもそも実戦なら初見の相手が殆どだから武装の名を呼んだところで相手にはどんな装備が展開されるのか不明だし。

(ラファールや打鉄のように装備が広く知られているなら別だが)

 

「では最後にカテドラール。お前も展開しろ」

「……自分が使っている武装は今二つありますがどちらを?」

「メインに使っている方を展開しろ」

「判りました」

 

 右腕を下げ、槍を握るイメージで右手を軽く握り、粒子がルシフェリオンのカタチに沿って集まり展開する。

 ……時間的には0.8秒ぐらいか。

 

「ふむ……もう一つの方も展開してみろ。両手にだ」

「はい」

 

 ルシフェリオンを収納し、新たにヒラリオンを両手に展開する。両手、という違いはあるが展開の仕方とかかる時間はルシフェリオンとさほど違いは出ない。

 

「お前は展開する際に粒子が武装の形に集まって展開するな。オルコットのように一瞬で展開出来るようにするのと展開にかかる時間をもう少し縮めろ、いいな?」

「判りました」

 

 ……意外だ。織斑先生の事だからもっとキツい指摘が来るかと――――――

 ―――あイタッ⁉

 

「貴様、今余計な事を考えていただろう」

 

 ……なぜ判ったのか。アレ、対織斑さん用じゃなかったのか……。

 

「もう一度受けたいならしてやるぞ」

「いえ、大丈夫ですっ!」

 

 織斑さんじゃあるまいし好き好んで受けたくはない。織斑先生の前では余計な事は考えないようにしよう……。

 

「時間だな、授業はここまでだ。織斑、グラウンドはきちんと片付けておけ」

 

 これで今日の授業は全て終わり。やはり授業が全部終わったら開放感がある。

 

「なぁリーヤ。この穴埋めるの手伝ってくれよ」

 

 ……来たよ、折角の気分をぶち壊してくれるのが。

 

「お断りします。グラウンドに穴を開けたのは織斑さんの失敗でしょう。自分の失敗の後始末は自分でするべきと思いますが?」

「そんなつれないこと言うなよ。男同士なんだから手伝ってくれてもいいだろ?」

 

 ……まだそんな事を言うのか。友達になるのに女も男も関係ないと思うし、気兼ねなくいられるかはその人を信頼出来るかどうかだろう。

 

「……何度言われても返事は変わりません。後始末を手伝う気はありませんよ」

「あ、おい待てよリーヤ!」

 

 織斑さんの言葉を無視して更衣室に向け歩きだす。……これで少しは話しかけてくるのを控えてくれるといいのだが。

 

 

 

† † †

 

 

 

 放課後、更識会長に簪さんとの事を訊こうと思い生徒会室に行ったのだが――――――

 

「お嬢様なら今日はいません。……用事という名のサボりなので今日は仕事をする必要はありませんよ」

 

 ――――――と布仏先輩に言われ、時間が空いてしまった。……会長が堂々とサボるとかいいのだろうか。

 

「ねぇちょっとっ! あなたここの生徒よねっ!」

「はい?」

 

 渡り廊下を歩いていると唐突に呼ばれ、一応周りを見るもここにはオレしかいない。……面倒ごとじゃないよな?

 

「なんでしょうか?」

 

 振り返った先には、ツインテールの快活そうな女の子が立っていた。小柄な身体とどこか野性味を感じる雰囲気もあってヤマネコや小さな虎のような印象の娘だ。

 

「えっと……あたし、今日からこの学園に転入するんだけど……この本校舎一階総合事務受付ってどこなのかわかんなくて。どう行けばいいのか教えてほしいんだけど……」

 

 転入生? まだ一月も経っていないのに?

 ……所属している国の思惑が透けて見えるけど本社からも更識会長からも特になかった、という事は(今のところ)彼女は問題ないんだろう。

 ま、それを抜きにしても案内程度なら断る事もないか。

 

「いいですよ。総合事務受付でしたね?」

「ほんとっ!? いやー助かったわ。ここって案内板みたいなのもないし似たような建物ばっかで渡された地図見てもわかんなかったのよ」

 

 そう言って彼女はポケットから地図を取り出すもかなりグシャグシャになっていた。これだと地図自体も見にくいだろう。

 

「地図がそんなだと余計判りにくいと思うんですが?」

「う……それを言われるとなにも言えないわね……。まぁでも少し迷ったけどこうして案内してくれる人に会えたから結果オーライじゃない?」

 

 いや、迷ってる自覚あったんですか。

 

「と、そういや名前聞いてなかったわね。あたしは凰 鈴音。中国の代表候補生よ。そっちは?」

「リーヤ・カテドラールです。イタリアのエルトリア社に所属しています」

「えっ!? アンタが二人目っていう男のIS操縦者っ!?」

「ええ、そうです」

 

 織斑さん(一人目)と違って国と社の方針でオレは名前以外を公開していない。だから国外のIS関係者はおろか、国内でもオレの顔はあまり知られていない。わざわざ公表するメリットはないし、余計な面倒を呼びたくはない。

 

「……男でそんな美人なんてなんか負けた気がするわ……」

「…………」

 

 何度言われてもその手の言葉には慣れないな。……慣れたらそれはそれで問題だけど。

 

「ところで、さ。……アンタ織斑一夏って知って――――――」

 

 そう言いかけた凰さんの言葉が唐突にきれる。がその理由はすぐに判った。

 ――――――その本人が篠ノ之さんとオルコットさんと一緒にアリーナから出てくるのが見えたからだ。

 

「……ねぇ、リーヤ。アンタ一夏と一緒にいる二人って誰か知ってる?」

「ええ、自分と彼のクラスメイトですよ?」

「……そうなんだ」

 

 そう言って三人の方を見る凰さんの表情(かお)は険しい。さっきまでころころ変わっていた表情が抜け落ちたみたいだ。

 

「凰さん? 彼に用があるならここで待っていますよ?」

「……いいわ。明日自分から会いに行くから。受付ってここから近いの?」

「すぐそこです。あそこの校舎に入ってすぐ左ですね」

「そ、ならここでいいわ。案内してくれてありがと」

 

 そう言って早足で向かって行く凰さんとは対照的にオレの足は大変止まったままだ。

 

「面倒事……にならないければいいんだけど」

 

 困った事にこの手の望みは叶った試しがない。口ではそう言うものの、内心では面倒事になるな、という得たくもない確信があった。

 

 

 ――――――そして、その確信は当たる事になる。だがその面倒事に自分から首を突っ込む事になるとは、この時のリーヤは考えもしなかったのだが。

 




図らずも彼女は、一人目と二人目双方と知り合う。
そしてそれは、後に起こる事の種火となる。
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