IS 〜地中海の愚者〜   作:liris

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些細な事でもきっかけは起こり得る
重要なのはそれが何のきっかけか、という事


……それはそうと、FGOのフリクエの全クエストで戦利品を全コンプしたら友人一同から『ばか』だの『あたまおかしい』だの散々言われました
何故だ



Pagina XXIV 疑念実習

「では本日から実際にISを用いての訓練を行う。内容としては主に格闘と射撃の基本だ」

「「「「はいっ!」」」」

 

 合同での実習だけあって人数が多い分返事も大きい。これまで授業では座学のみだったから本格的にISと使うという事も関係してるんだろう。何人かは気合の入った目をしている。

 

「まずはISでの戦闘がどんなものか実際に見てもらう。――――――凰! オルコット!」

「「は、はい!」」

「代表候補生として他の生徒への見本を見せろ」

 

 織斑先生に指名された二人が一歩前に出て、それぞれの専用機を展開する。やはりというか代表候補生となると手本を示すような事もしないといけないのか。

 

「織斑先生、お相手は凰さんとの一対一でよろしいのですか? わたくしとしてもちょうどいい相手ではありますが」

「言うじゃない。その言葉、そのまま返してやるわ」

「逸るな、バカども。お前達の相手は――――――」

「――――――お待たせしました、織斑先生」

 

 織斑先生の言葉に重ねるカタチでラファールを纏った山田先生が降り立つ。スラスターをむやみに吹かしたりせず、最小限の出力で下降時の慣性を相殺し、ふわりとした軽い動きでの着地。これは地味だが難しい技術で、地面に降りる前に時間にして一秒程度だけ慣性力を少しだけ上回る程度の出力制御をしないと出来ない。

 オレだけでなくオルコットさんと凰さんも山田先生の技量に驚いたのか目を見開いている。

 

「見ての通りだ。お前達の相手は山田先生にしてもらう」

 

 無論二対一でな、と織斑先生が付け加えるが二人の目に油断等はない。ここに来るときにさらりと見せた高等技術で山田先生の実力の高さにあの二人は気付いたんだろう。

 

「……準備はよさそうだな。でははじめ!」

 

 織斑先生の号令と同時にオルコットさんと凰さんが空に上がり、それを確認して山田先生も飛翔する。

 オルコットさんが先制攻撃を放つもそれを山田先生はあっさりと避け、二人に肉薄する。

 

「さて……このまま見ているだけというのもあれだな。――――――デュノア、山田先生が使っているISの説明をしてみせろ」

「あ、はい」

 

 三人の戦いを見ながら織斑先生はデュノアさんにラファールについて説明しろと促す。デュノアさんも自信があるのかしっかりとした説明を始める。

 

「山田先生が使っているISは『ラファール・リヴァイブ』といって第二世代機の中でも最後期に開発された機体です。最後期に開発されたこともあってスペックでは第三世代の初期型機にも劣らず、安定した性能と高い汎用性、そして後付けの装備のバリエーションが豊富なのが特徴です。それを活かすために操縦の簡易性が高く、操縦者を選ばないのと多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立しています。簡単に言うと操縦にクセがなく、格闘・射撃・防御とどんな戦い方にも対応できる機体です。なので十二ヵ国で正式採用されていてその国にあったチューンをされています。それもあって世界三位のシェアでここIS学園でも訓練機として使われています」

「そこまででいい。説明としては完璧だ。では次にカテドラール。お前はこの勝負どちらが勝つと思う。遠慮せずに言ってみろ」

 

 デュノアさんの次はこっちか。期待されてると見ていいのか、それとも単に目に入った目立つ生徒だからなのか迷うところ。

 ……と、出席簿が頭に落とされる前に答えるとしよう。

 

「では言わせて頂きますが……山田先生が勝ちますね」

 

 全く躊躇わずに断言したからか、周りの人達がどよめく。時に織斑さんから非難めいたモノを感じるけど気にする程のものじゃない。故に彼からの視線は無視する。

 

「ほう。その理由は?」

「一見すると山田先生が押されているように見えますが、山田先生はあの二人に効果的な攻撃をさせていません。具体的に言うと位置取りと攻撃のタイミングが巧みで二人を連携させないように立ち回っています。今は二人とも自分が倒す事に意識が向いていて連携する事を重要視していませんが、長引けば連携する事のメリットに気付きます。なのでそうなる前に山田先生が決着をつけると思います」

 

 もっとも、即席の連携で勝てる程山田先生は弱くないだろう。普段は優しく、親しみやすいという印象を持たれている山田先生だけど、山田先生は織斑先生が現役だった頃の代表候補生。同じ代表候補生でも今とは基準が厳しかった筈だからその実力は相当だろう。

 

「……ふん。どうやらカテドラールの読み通りになったようだな」

 

 上では山田先生の弾幕に誘導されたオルコットさんが凰さんと衝突し、お互い文句を言っているところに山田先生が両手に構えたライフルで追撃。

 これ以上続けるとISのエネルギーが尽きてしまうのでここで終了となったが、地上に降りた二人はお互いに文句を言い始める。

 

「アンタねぇ……なんであんな簡単に動きを読まれてんのよ! 肝心なところで援護もないし!」

「り、鈴さんこそ! あなたが何も考えずに突っ込むからわたくしが撃とうと思ってもあなたが邪魔で撃てなかったのです! もう少し考えて動いてはどうなのです!?」

 

 今にももう一戦――――――今度は二人で始めそうな雰囲気になるもそれはこの場における絶対権力者によってあっさりと終わりを告げる。

 

「貴様ら……まだずいぶんと元気そうだな? そんなに元気があるなら今度は私とやるか?」

 

 背後に効果音が聞こえてきそうな気配を纏って二人を圧倒する織斑先生。

 ……言い争いを止める為とはいえ教師が生徒を威圧するのはどうかと思うのですが。

 

「さて諸君。これで山田先生がどれ程の実力者なのかよくわかっただろう。今後は敬意を持って接するように」

 

 どうやら織斑先生の本当の狙いは模擬戦を見せる事じゃなく、山田先生が生徒に気安く……悪く言えばあまり教師らしく見られていない事を改善する為だったらしい。

 

「では班を分ける。専用機持ちは各班のリーダーとして散らばり八人一班で分かれて実習を行う。いいな? では分かれろ」

 

 ……織斑先生。それだけだと間違いなく問題になる気がするのですが。

 

「リーヤくん、よろしくね!」

「リーヤさん、ご指導お願いします」

「織斑君、一緒にやろ!」

「デュノア君手取り足取り教えて~」

 

 予想した通りというかなんというか。オレと織斑さん、そしてデュノアさんの三人に人が集中する。

 そして静寐さんと神楽さん。こうなると判ってこっちに来ましたね。二人とも織斑先生から見えないようオレを見て笑いを堪えてるし。

 

「この馬鹿どもが……専用機持ちは織斑、オルコット、カテドラール、デュノア、凰、ボーデヴィッヒの順に並べ! そこから出席番号順に分かれろ! それでももたつくようならISを背負ってグラウンド百周だ、いいな!」

 

 怒声に近い織斑先生の指示であっという間にグループ分けが完了する。自分が指示を出すとあっさりと済んだ事に織斑先生は頭が痛いと言わんばかりに額に手を当てる。

 

(織斑先生、心中お察しします)

 

 オレとしても男だからという理由で集中されてもむしろやる気が削がれる。

 うち二人は揶揄い目的があったようだが。

 

「ふっふーん。改めてよろしくね、リーヤくん♪」

 

 静寐さんをはじめ上手く男子がいる班に振り分けられた(なお、今ので判る通り静寐さんはオレの班になった)人達は割と気分がよさそうだ。オルコットさんと凰さんの班に振り分けられた人達もなんだかんだで楽しげだ。

 それに対して――――――

 

「…………」

 

 ボーデヴィッヒさんの班は話し声等は一切聞こえず、重苦しい沈黙が支配している。班のリーダーであるにも関わらず、全く口を開かず、周りを見下したような冷徹な視線と協力する気は欠片もなさそうな雰囲気だ。

 

(あそこの様子も見ながらやるか。神楽さんもいるし)

「ではみなさーん。用意した訓練機を一班一台で取りに来てください。数は『打鉄』が三機、『ラファール』が二機です。好きな方を選んでもらっていいですが早い者勝ちなので希望がある班は急いでくださいねー」

 

 さてどっちにするか。個人的にはトラブルが起きても勝手の判るラファールの方がいいが。

 

「皆さんは希望はありますか?」

「わたしはないかな」

「私もー」

 

 希望はなさそうだからラファールにさせてもらおう。デュノアさんのところもラファールにする可能性が大きいから早く選ぶに越した事はない。

 

「それじゃ始めるけど……一番手は?」

「「「「はいっ!」」」」

 

 一斉に手を挙げる班員五名。

 順番で揉められても困るから出席番号順でやってもらおう。

 

「では皆さん出席順に並んでください。一人ずつ装着、起動、そして歩行と解除までをやっていきましょう」

 

 ちなみ訓練機は授業での使用上、フィッティングとパーソナライズは切ってある。そうしないと一人終わる毎にその都度設定をしないといけなくなるからだ。

 

「それじゃ始めましょうか。時間内に終わらない、となると補習になるかもしれませんし……ああなりたくはないでしょう?」

 

 ちらりと自分が視線をデュノアさんの班に向けると、何かやらかしていたのかデュノアさん以外のメンバーが織斑先生にはたかれていた。

 それを見た皆は素直に指示に従ってくれた。

 

「……そうだね。アレ絶対痛いと思うし」

「補習も嫌だしねー」

「自分も補習に駆り出されるのは遠慮したいのでそうしてください。あ、それとISを解除する際は必ずしゃがんでください。そうしないと次の人が困るので」

 

 そうして一人、二人と順調に進んでいく。が三人目の人が解除する時に問題が起きた。

 

「あ、待ってください! そのままだと――――――」

「え?」

 

 慌てて止めようとするも時すでに遅し。

 歩行までは問題なかったのだが装着を解除する際にしゃがまず、立ったままの状態で解除してしまったのだ。

 

「ご、ごめん! 忘れてた!」

「やってしまった事は仕方ありません。次に乗る時は注意してくださいね?」

「う、うん。ホント、ゴメンね……?」

 

 さて問題はこれをどうするか、だが……。

 

「ねぇリーヤくん。これ、どうやって乗ればいいの?」

 

 次は静寐さんか。

 ……静寐さんなら大丈夫か。ストレガを展開して静寐さんを抱きかかえる。

 

「自分が抱えていくのでそこから乗ってください」

「え? きゃあっ!?」

 

 返事を聞くよりも先に静寐さんを抱きかかえて。……下から羨ましいとかズルいとか色々聞こえてくるけどそれは無視。

 そのままコクピット近くまで運ぶ……と言っても少し浮遊する程度だが。

 

「それじゃここから入って。いける?」

「うん、大丈夫」

 

 そのまま静寐さんはラファールのコクピットに乗り込み起動。そのまま問題なく歩行に入る。歩くじゃなく、少しだけだが走ったりして動きに緩急つけて限られた時間を有効に使い、ISを解除しようとする。

 

「……静寐さん。一応言っておきますがわざと立ったまま解除しないでくださいね?」

 

 周りの視線が気になったので静寐さんに一応釘を刺しておく。なんというか自分が抱きかかえたせいだと思うが静寐さんに圧の籠った視線を向けてたからだ。

 

「えぇーっ!?」

「鷹月さんだけズルいよー」

「私達もしてほしーい」

 

 静寐さん以外の班員からブーイングが来るけど今回のコレは不可抗力。文句を言われてもこま――――――待てよ? オレが抱きかかえるのが目当てなら今じゃなくてもいい、のか?

 

「アレぐらいでよければ休み時間にしてあげますから、それで引き下がってください」

「「「ホントにっ!?」」」

「こんな事で嘘は言いませんよ。それで皆さんのやる気がでるなら安いものです」

 

 抱き上げる程度で言う事を聞いてもらえ、しかもスムーズに進むなら休憩時間が少し減る程度問題ない。

 ……後で来るであろう神楽さんの追及は少しばかり怖いが。

 

「というわけなのでちゃんとしゃがんで解除してくださいね?」

「うん、りょうかーい」

 

 向けられていた圧がなくなったからか、静寐さんは手順通りしゃがんで解除してくれた。次に乗り込んだ二組の人も危なっかしい所はなく順調そうだ。

 まだやってないのは四人だけどこのペースなら全員終わるだろう。

 

(で、気になるのはボーデヴィッヒさんの班だけど……)

 

 少しだけ見てみると相変わらず重苦しい雰囲気が漂っていて、班長であるボーデヴィッヒさんよりも神楽さんが積極的にサポートに回っている。

 ……昼食の時神楽さんに何か奢ろう。本来ならボーデヴィッヒさんがやるべき事を代わりをしてるんだし。

 そうしてボーデヴィッヒさんの班を見ていたけどISの歩行音が徐々に大きくなってきたから意識をそっちに戻す。

 

「カテドラールくん。このまましゃがんで解除すればいいんだよね?」

「ええ。それじゃ次の人――――――」

 

 そうしてオレ達の班は順調に進み、片付けもみんなが協力してくれたから時間に余裕を持って終わる事が出来た。

 協力してくれた報酬は放課後に、という事で落ち着いたから少し時間を作っておきますか。

 

 

 

† † †

 

 

 

 ――――――昼休み、授業で同じ班だった人達を約束通り抱き上げた後(少しトラブルもあったが)、いつもの面子で食堂のもう自分達の指定席ともなったテーブルで昼食にしていた。

 ……織斑さんからデュノアさんと一緒に、と誘われたけどオレとしては余計な交流をする気はないから食堂にいつもの面子で食べている。凰さんが一緒に行ったようだから機会があれば彼女に訊けばいいだろう。

 

「ねぇリーヤくん。転入生のデュノアくんのことなんだけど……彼、本当に男の子?」

 

 食べ始めると、静寐さんがトンデモナイ爆弾を投下してきた。

 

「一応訊きますけど……なんでそう思ったんです?」

「なんていうか……『女子から見た男子』っていう感じがするんだよね。それで逆に女装が似合いそうなリーヤくんはどう思ったのかなって」

「静寐もそう思ったんですね。私もデュノア君には違和感を感じましたけど」

「……そうなの?」

 

 オレに訊いてきた理由はかなり不本意だけど静寐さんの直感は正しい。

 織斑さんを含めてクラスの大半の人達は()()が男だと信じてるみたいだけど、疑いを持つ例外もいたみたいだ。

 ……改めて思うが、内情を知っているオレどころか一般生徒である二人に怪しまれる時点でデュノアさんの変装は穴だらけだろう。

 

「それでリーヤさん。どうなのですか?」

「……今のところはノーコメント。それで察してほしいというところかな」

 

 ほとんど肯定したのと同じだけど大っぴらにはまだ言えない。とはいえ三人ともそれでこっちの事情を察してくれるからそれ以上の追及はしないでくれた。

 

「分かりました。しかしリーヤさんはデュノアさんのことより学年別トーナメントもことを気にした方がいいのではありませんか?」

 

 神楽さんからこの話はここまで、という口調で学年別トーナメントが挙げられる。

 いやオレとしては何故に学年別のトーナメントを気にする必要があるのか判らないのだが。

 

「蔑ろにする気はないですけど……なぜです?」

「あー、やっぱり知らなかったんだね。仕方ないと言えばそうなんだけど」

「……? トーナメントでなにかあるの?」

 

 静寐さんだけじゃなく神楽さんからも気の毒そうな顔をされる。

 どうやらこの面子で知らないのはオレと簪さんだけらしい。

 

「……驚かないでね? 学年別トーナメントに優勝したらリーヤくん達男子三人の誰かと付き合えるって噂が流れてるんだよ」

「……は(え)?」

 

 予想外の言葉にオレと簪さんから我ながら間抜けな声が出たとは思うけど仕方ないと思う。いや、何がどうなったらそんな噂が流れるんだ?

 

「……一応訊くけど織斑くん達はともかくリーヤくんはそんなことしないよね?」

「しません。そもそもそんな景品扱いに了承した覚えはないですし、そんなカタチで付き合えと言われても全力で遠慮します」

 

 全く、一体どんな話が元となってこんな噂が流れたんだか。オレとしてはいい迷惑としか言いようがない。

 

「しかしそんな噂が流れているとなるとトーナメントは負けるわけにはいきませんね」

「負けるわけにはいかないって……そんなに誰かと付き合うのがいやなの?」

「自分も男なので嫌というわけじゃないんですが……本人の意思を無視して景品扱いにされるのが気に食わないだけです。皆だってそうでしょう?」

「「「確かに」」」

 

 判ってもらえたようでなにより。

 ……そういえば学年別トーナメントといえば簪さんに訊いておかないといけない事があったな。

 

「トーナメントといえばエルトリア社から自分の上司が来るんですが良ければ会います? 進路にエルトリア社を考えているなら簡単な面接ぐらいはしてくれると思いますけど」

 

 元々ISを一人で作ってる簪さんには興味を持ってたし、静寐さんと神楽さんも二人が希望すれば簡単な面接ぐらいはしてくれるだろう。三人は女性権利団体が幅を利かせている日本のIS関連企業に渡すのは惜しいし、向上心も一年の中でもかなり高い。推薦するには十分過ぎる。

 

「リーヤさん。それは代表候補生である簪さんだけでなくわたくしと静寐もなのですか?」

「勿論。現状で推薦するとしたら三人ともです。……一応言っておきますが自分が三人を推したのは私情抜きで純粋にエルトリアの社員として、です」

 

 そもそも友人だからという理由で推薦しても間違いなく落とされるだろう。そんなコネで入社してやっていける程エルトリア社(ウチ)は甘くないし。

 

「エルトリア社かぁ……興味はあるけどどんな人が来るの? やっぱりIS関係の人?」

「ええ。エルトリア社のIS部門統括です」

「「「と、統括っ!?」」」

 

 やはり統括クラスとなるとこういう反応になるか。企業関係者でトーナメントに来るのは代理人(エージェント)が中心で、直接来る事はあっても重役クラスが来る事は少ない。

 今回統括が来るのは織斑一夏の血(血液サンプル)の引き渡しが一番の理由だけど折角来るから有望株を見つけておきたいというのもあるんだろう。

 

「とはいっても今すぐ決めるのは難しいと思うのでその気になったら教えてください。あ、受けるなら早めに教えてくださいね。その方が印象も良くなると思いますから」

 

 簡単とはいっても面接をするなら統括にもそれを前提とした予定を組んでもらう必要があるし、もしかしたら静寐さん達にも準備してもらうもの等があるかもしれない。それを考えると答えは出来るだけ早いうちにほしい。

 

「……リーヤ。返事はいつぐらいまでなら大丈夫?」

「そうですね……トーナメントが最終週なので遅くてもその前週までにはお願いしたいですね」

「なら……私は今週中に決める」

「なら私も」

「わたくしも今週中にに決めますわ」

 

 確かに速い方が助かるけど……大丈夫なんだろうか。

 非公式の面接になるだろうからこれで入社の合否を決めるような事はないと思うが……いや、彼女達が一週間でいいと言ったんだからオレはそれを信じよう。

 

「判りました。それじゃその時の返事を楽しみにしてますね」

 

 そのまま食器類を片付ける為に席を立つ…否、立とうとしたところを神楽さんに制服の裾を掴まれ止められた。

 

「……ところでリーヤさん? 先ほどのは大変楽しそうなことをしていらっしゃいましたね?」

「神楽さん……何故それを」

「わたくしの班は静かでしたから他の班の人達の話がよく聞こえましたの」

 

 そう言う神楽さんは表情こそ笑顔だけど目が全く笑ってない。

 ……見られていたのか、アレ。

 

「神楽……? なにかあったの?」

「ええ。実はですね……」

 

 話を聞いた簪さんの視線が絶対零度と思えるほど冷たくなる。ただどちらかと言えばオレより静寐さんの方に向いているような気がする……?

 それが気になって静寐さんの方を見ると彼女はあはは、と困ったような笑顔だけど冷や汗をかいているのが判る。

 

「……リーヤ、静寐。詳しく説明してくれるよね?」

「ええ。特に抜け駆けのようなことをした静寐にも詳しく話をしてもらう必要がありますわね……?」

 

 対面に座った二人から立ち昇る明らかな不穏な気配。

 これは……逃げるのは無理だな。

 

「「詳しく説明して(ください)」」

 

 結局二人への説明(という名の尋問兼お説教)は昼休みが終わる時まで続いた。しかも終わりじゃなく一時休廷と言っていたから放課後にまたあるんだろう。

 ……取り合えずやる気を出してもらう為の飴はもう少し内容を考えよう、今度からは。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 授業でした約束を果たすため、一足先に着替えたオレは再びISの格納庫前に来ていた。

 抱き上げる、とは言ったものの教室でやれば間違いなく面倒な事になるから授業後――――――それも休憩が昼休みなら食事も摂らずにいきなり来る人はいないと踏んだからだ。

 事実彼女達にしてあげる間は誰も来ず、何事もなく終わると思ったのだが――――――。

 

「最後はわたしだね」

「いやなに当然のように混じってるんですか。静寐さんは授業でしてあげたでしょう」

 

 今してるのは皆が静寐さんだけズルいというからその埋め合わせだ。授業でしてあげた静寐さんにしたらまた揉めると思うのだが。

 

「だってわたしはIS越しだったのにみんなは直接だもん。ズルいっ!」

 

 それを言われるとオレとしては無碍に出来ない。ストレガは全身装甲型(フルスキン・タイプ)だから抱きかかえたと言っても今のようにオレが直接、ではなく装甲越しだったからという静寐さんの言い分も判る。

 

「……判りました。してあげますから力を抜いてください」

 

 我ながら甘いなと思いつつも静寐さんを抱き上げる。これで満足してくれたかな、と考えていると腕の中にいる静寐さんが驚きの行動に出た。 

 ――――――オレの首に手を回し、身体をより密着させてあろう事か胸元に頭を擦り付けてきたのである。

 

「「「「あぁ――――――っ!?」」」」

 

 静寐さんの行動に見ていた人達全員から非難めいた声と羨望の両方が混ざった声が挙がる。

 ……いや自分から爆弾を落とさないでほしいんですが。

 

「あの、静寐さん何やってるんですか?」

「え? 見ての通りだよ? せっかくなんだからちょっと甘えようかなって。それにリーヤくんもじっとしててとか言わなかったでしょ?」

 

 あー、確かにそれはオレの失敗だったかもしれない。最初の人からずっと皆が大人しくしていたから油断していたのは事実だ。

 

「ちょ、ちょっとしていいなら私だって!」

「もう一回! もう一回してくれたらわたし達だって!」

 

 静寐さん以外の娘から口々にもう一回と言われるけど流石にもうするつもりはない。キリがないしオレも含めて気付かなかった方の負けだろう。

 

「申し訳ありませんがしません。……彼女の作戦勝ちですね」

 

 そう言いながら静寐さんを降ろすと彼女は顔を赤く染めながらもご満悦そうだった。

 

 

 

 ――――――この事が原因で昼休みに窮地に立たされるとは思わなかったが。




疑惑を持つのは一人ではない
一つ一つは小さくとも、それらが集まれば大きくなる


段々と一般生徒から逸般生徒への道を行きつつある静寐と神楽
果たして二人はどこまで行くのか

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