知られていないと信じ切っていた者
――――――相まみえる時、来たる
今回はかなりのシャルロットアンチです
批評は……あるか、間違いなく
放課後になって再び開廷した神楽さん主催の弾劾裁判は二人だけでなく、一部始終を見ていた人達も加わってちょっとした騒ぎになった。あんな事をした静寐さんもだけど、そもそもの原因はオレが横抱きした事にある。なので静寐さんには抜け駆けしない事、オレには不用意にああいう事しない事、という厳重注意で閉廷した。
――――――したの、だが
(イタリアにいた頃、姉さんや先輩達から『笑顔で怒っている女ほど怖いものはない』って言われた事があるけどアレってこういう事だったのか。出来れば知りたくなかったけど)
個人的にはずっと笑顔で圧をかけてくる神楽さんに一番参った。なんせ表面上は笑顔なのだが、その背には殺気や敵意とはまた違ったものを背負っていたからである。……どちらか言うとその圧はオレより静寐さんに向けられていたが。
そんな弾劾裁判が終わり、寮の部屋に戻って簪さんと彼女のISの方向性について話しているとドアが少々……いや、かなり乱暴にノックされた。
「……自分が出ますよ。簪さんにこんな訪ね方をしてくる心当たりはないでしょう?」
どう考えても厄介事の気配しかしないのでチェーンをかけてドアを開ける。すると案の定というか織斑さんが勢い良くドアを開けようとし、かけておいたチェーンに阻まれて廊下に鈍い音が響く。
「……ドアを壊す気ですか? 何の用です」
「リーヤ、話があるんだ! 頼む、一緒に来てくれ!!」
「行くかどうかはどんな話か聞いてから決めます。なのでここでどうぞ」
「大事な相談があるんだ! 男として!!」
はっきり言って気は乗らない。断りたいところだけど彼のこの様子だと騒ぎ続けるだろうし、それをされると周りにも迷惑がかかる。
……仕方ない。不本意だけど行くしかないか。
「判りました、行きますよ。……簪さん、少し出てきます」
「……うん、気をつけて」
部屋から出て案内された先はやはりというか織斑さん達の部屋で、中に入ると当然と言えば当然だがデュノアさんもいた。が、あからさまに沈痛な面持ちをしているのを見て呼ばれた内容にも察しがついた。
(とうとう気付いたか。それともバレるような事が起きたか?)
なお、流石のリーヤも彼女がシャワーを浴びているところで鉢合わせたとまでは考えていない。リーヤとしては『あり得ない』事なので精々彼女が胸を潰していないところを見られたか、程度の認識である。
「……それで自分に何の用です?」
呼ばれた理由は間違いなくデュノアさん絡みだろうけど、連れてこられた身として一応訊く。
「あ、ああ。その、力を貸して欲しいんだ!!」
「……何に、ですか? 内容を言わずに力を貸せ、なんて白紙の小切手を切るのはお断りしますが」
勿論そんなものを切る気はない。相手によってはするかもしれないが取り敢えずこの二人にそこまでするつもりはない。
「わ、悪い。シャルル、言っていいよな?」
「う、うん」
「じ、実はシャルルのことなんだが―――「彼じゃなくて彼女だったんでしょう。知っていますよ、それは」―――「「は?」」
織斑さんの言葉を遮ってもう知ってると言うと当事者二人は唖然としている。予想外過ぎて言葉もないというところか。
「し、知ってたっていつから知ってたんだよっ!?」
「彼女がIS学園に来る前から。社の方からフランスが性別を詐称して代表候補生を送り込んでくるから注意しておけと。……まぁ、自分から見れば粗末な変装だったので事前情報がなくても気付けるレベルでしたね」
現にクラスメイトの人達でも疑ってる人達はいますし、と加えると二人は信じられないと言いたげな表情だ。
……本気で気付かれてないと思ってたんだろうか、この二人は。
「そ、そうなんだ。……初めから気付かれてて、その上で見逃されてたんだ」
「ええ。ついでに言うとデュノアさんの事情も全て知っています。家庭の事も、どういう理由で送り込まれたのかも、ね」
証拠としてデュノア社の内情やデュノアさんの家庭事情――――――彼女が愛人の子である事や二年前に母親が亡くなってから父親に引き取られた事についても話すと彼女の顔色が目に見えて悪くなる。
ついでに言うと見逃していた、というのは正しくない。彼女が尻尾を出すまで泳がせていた、というのが適当だろう。
「なんで……そこまで知ってるの?」
「エルトリア社の耳は貴女方が思っているよりいいという事ですよ」
流石に
「それならシャルルを助けてやろうぜ!」
「いえ、お断りします」
オレがあまりにも自然に断ったからか、織斑さんは何を言われたのか理解出来ないようだったがそれも一瞬。オレが何を言ったのか理解するとすぐに激昂した。
「な、なんでだよ!? 友達だろっ!?」
「さっき言ったでしょう。デュノアさんがどういう理由で送り込まれたかを知っていると。自分は産業スパイを助ける気はありません」
「なっ……!?」
オレとしてもデュノアさん個人に肩入れする気はない。そして織斑さんからも
「さ、産業スパイって……」
「事実そうでしょう。……デュノアさん、貴女は織斑さんの白式の雪片とストレガのカートリッジとクロスリンク、両システムのデータを得るよう言われてたんじゃないですか? ――――――特に、デュノア社としては汎用性の高いストレガのシステムを優先するよう言われていた筈です」
彼女からしてみれば今のオレはさぞ得体が知れない男だろう。なんせ家庭の事情どころか秘密である筈の命令すら把握されているのだ。
……まぁ元々デュノア社がストレガのシステムを入手出来たのは
「そういう訳で自分は社の不利益になる相手を助けるつもりはありません」
――――――が、それに納得しない男がここに一人。
「たかがデータだろ! そんなのよりシャルルを助ける方が大事だろっ!?」
「未遂だから許せと? それなら世の未遂と名の付く罪状は不要という事になりますね」
前々から思っていた事だけど、彼は考えの基準に自分の価値観以外が見えていない。見えていないのか…それともわざと見ないようにしているのかは知らないけど。
「そもそも織斑さん……貴方は自分が何を言ってるか判っているんですか?」
「リーヤこそなに言って――――――」
「自分は社の研究開発を行っている人達がどれ程研究を重ねてきたのかを見てきました。それは断じて『たかが』と片付けていいものじゃありません。そんな事も考えないでたかがデータだから渡せ? ……ふざけないでください。貴方の言っている事は自分達IS操縦者を支えてくれている技術陣の人達への侮辱です」
オレとて誰かを助ける事自体は否定しない。が、そうする事で自分や自分が属する社に不利益が出るというなら手を伸ばすつもりはない。
オレにとっての
「それに織斑さん。貴方、今回の一件でエルトリア社が何らかの不利益を被ったらその責任を取れるんですか?」
具体的には数億というレベルでの賠償責任ですが、と加えると織斑さんは黙り込む。
これぐらい考えれば少し考えれば判るだろうに。
「そもそもこれは一生徒の手に負える問題ではありません。織斑先生や山田先生をはじめとした先生方に相談するべきだと思いますが」
「いや、千冬姉には心配かけられない」
そう即答する織斑さんに、ただでさえ高くなかった株が音を立てて暴落する。
……本当に彼女の事を考えているなら相談するべきだろうし、事はIS学園とフランスの間での問題になりかねない。打つ手を間違えれば今後フランスの子達はIS学園に受験する事すら出来なくなる可能性だってある。
そもそもオレは事前に知っていたからいいが、彼は『男だから』という親近感だけで相談する相手を巻き込もうとした。その自覚があるんだろうか?
「……それで? 織斑さんはどうするつもりですか。自分は協力するつもりはありませんし先生方にも頼らない。それでどうやって彼女を助けると?」
もしこれで何も考えておらず、オレを引き込む事で大丈夫と考えていたなら笑うしかないが。
「……IS学園の特記事項第二十一。IS学園には在学中に外からの干渉は本人の同意なしには許可されないってのがあるだろ。それがあれば少なくとも三年間はシャルルは大丈夫なんだから、その間になんとかする方法を考える」
一応は考えていたのか。
とは言っても織斑先生達に相談しないなら一生徒に出来る事はないと思うが。
「なら、話はこれで終わりですね。一応オレの方から学園側に暴露する事はしないでおきます。ただし、他にデュノアさんを怪しんでいる人達が調べたとしてもそれを止める事もしません」
そもそも学園側でも生徒会メンバーはデュノアさんの事を知っているし、会長達を通して学園の上層部は知っている筈。それでも何もアクションを起こさないのはエルトリア社から『手を出すな』と言ってあるからに他ならない。
これで用件は済んだと思い部屋に帰ろうとすると、織斑さんに腕を掴まれ止められる。
「……まだ、何か?」
「お前……シャルルの話を聞いてなにも思わないのかよっ!?」
「ええ。自分は
「み、見慣れてる?」
……情報部門の人間として親を何らかの理由で亡くし、孤児院に入る子達は何度も見てきた。けど孤児院にいる子の中でその子達はマシな方。孤児院にいる子達の中には親に捨てられた子や売られた子もいたし、路地裏で襤褸切れのように死ぬしかなかった子達も見てきた。イタリアではエルトリア社をはじめとした企業の寄付等もあり、そういった子達はだいぶ少なくなったけどいなくなったわけじゃない。それに世界的にみればむしろ増加傾向にある。
不幸の比べ合いに意味なんてないけど、それでも彼等に比べればまだ自分で選ぶ事の出来る彼女はいい方だろう。
――――――もっとも、彼女が自分に選択肢がある、と気付いていればの話だが。
「敢えてキツい言い方をしますが……デュノアさんの境遇は今の世界ではありふれたものですし、彼女が拒めば避けられたものです。こうなったのはある意味彼女の自業自得でしょう?」
「――――――っ!」
トドメと言わんばかりにデュノアさんの境遇をバッサリ切り捨てる。織斑さんは絶句してるけど対照的にデュノアさんは諦めたような表情で何も言い返してこない。
……そんな風に受け入れてしまっているから手を伸ばす気になれないんですよ。
「そもそも自分は
実質的な最後通牒。オレ個人に彼女を助ける気は全くない。が、傍観するとはいえ露見した時にオレが密告したと思われるのは気に入らないので一言だけ助言をしておく。
……聞き入れるかどうかは怪しいところだが。
「一応忠告しておきますが、その方法では時間稼ぎしか出来ないので根本的な解決にはなりませんよ」
「……どういう意味だよ」
「そのままの意味です。そのやり方ではデュノアさんを助ける事は出来ないと断言しておきます」
織斑さんは学園の特記事項を盾にするようだけどはっきり言ってそれは
「では自分はこれで失礼します」
そう言って今度こそ二人の部屋を後にする。二人がこれからどう出るかはもうオレの知った事ではない。とはいえ動きがあったのは確かなので社の方には報告する。
オレが黙っていると言ったのはあくまで学園側に対してあって、エルトリア社へも黙っているとは一言も言っていない。むしろ社員として報告を挙げるのは当然の義務でもある。
――――――一瞬。ほんの一瞬だが相手が神楽さん達であっても同じ事が出来るのか、という考えが頭をよぎるが出来る筈だと自身に言い聞かせる。
(……いつの間にか彼女達は随分とオレの中で大きくなっていたんだな)
自分の中で予想以上に彼女達の存在が大きくなっていた事に苦笑する。入学すること前は特定の誰かと親しくなる事はあまり考えていなかったからオレとしても意外ではある。
(とはいえこれは問題だ。
オレとしてはそうならない事を祈るしかないのだが……こればかりはオレ自身はともかく、彼女達がどんな
――――――たとえ、その時に会うのが『敵』というカタチだったとしても。
立場や思想。様々な違いがあるが故の衝突
それによって起きた衝突は互いの『違い』を更に深く、明確にしていく