イギリスのお嬢様のご登場です。
「頼む、リーヤっ! 俺に勉強を教えてくれっ!」
自分の考えを盛大に披露した授業が終わり、自分の席にやって来た織斑さんは手を合わせてそう言ってきた。
「……あの、何故自分に? さっきの授業で山田先生が判らないところは放課後に教えてあげます、って言っていたじゃないですか」
そう、オレが持論を言った後に山田先生が織斑君に授業についていけるよう放課後に教えてあげます、と助け船を出してくれていた。……のだが『ほ、放課後……放課後にふたりっきりの教師と生徒……』と顔を赤らめながら言っていたから不安に思わなくもない。
が、
「そもそも自分が教えるのは出来ません」
出来ないものは出来ないのではっきりと本人に言う事にした。
「な、なんでだよっ!? 男同士友達なんだから助けてくれてもいいだろっ!?」
……前の休憩時間でも思ったが、彼は何故こうもフレンドリーなんだろうか? 個人的には男同士だからとかそんな理由で親しみを持たれても困るのだが。
「……はっきり言います。オレはエルトリア社に所属していてIS学園に入学した今でも仕事があります。書類仕事だけでなく武装の運用テスト等色々です。そもそも自分の知識も自分が理解するには問題ないですが人に教えられる程じゃありません。オレなんかより山田先生の提案を受けた方がいいと思いますよ」
嘘は言っていない。教えるならオレより教師である山田先生の方が上手いだろう。オレはあくまでも必要だから覚えただけであり、人に教えられる程じゃない。仕事があるのも本当の事だ。
……彼の生体サンプルを入手するなら親しくしておいた方が楽に出来るのだろう。が、今のところ彼とは考えが合わないから距離を取っておきたい、というのもある。血液等の生体サンプルは別に親しくならなくても入手は可能だし。
「そ、そうだけどよ。男同士の方が気が楽だし……仕事ってそんなにあるわけじゃないんだろ? 少しぐらい手伝ってくれてもいいじゃねえか」
……呆れてものが言えないとはこの事か。オレは仕事がある、と言っているのに『自分の気が楽だから』という理由でまだ言ってくるのか。自分本位なのかそれとも周りが見えていないのか、どちらにせよ今のところ彼に肩入れする理由はないな。
「……織斑さん。オレはこれでも企業から報酬を貰っています。なのでオレにとって優先すべきは仕事の方です。貴方に勉強を教える、という個人の事情で仕事をしない、または疎かにするわけにはいかないんですよ」
ここまで言って(不満はありそうだが)ようやく織斑さんは引き下がってくれた。
……問題があるとすればそれは――――――
「貴方達、少しよろしくて?」
別方面から次の厄介そうな人が来た事か。
「ん?」
「なんでしょうか?」
「まあ! なんですの貴方達のその返事は!? わたくしがわざわざ話しかけているのですから、相応の態度というものがあるのではないかしら?」
ふむ、今の返事ではお気に召さなかったらしい。相応の態度というと……こんな感じか?
「失礼しました、オルコットさん。来ているのが貴女と判らなかったものですから礼を失してしまいました」
「あら、貴方の方はきちんとわきまえていらっしゃるようですね」
どうやら今のでよかったようだ。これであとは織斑さんが何も問題を起こさなければいいのだが――――――
「なあ、リーヤ。誰なんだ? 彼女」
……そんな事はなかった。オレの希望は空しく潰れてしまった。
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを?」
「いや、だって俺君のこと知らないし」
……まぁ、自己紹介が自分で切られたから彼が知らないのは仕方ないと言えば仕方ない。ただ、言い方というものがあるだろう。せめて『自己紹介がリーヤで切られたから判らなかった』という旨の事を言えばいいだろうに。
「彼女はセシリア・オルコットさんですよ、織斑さん。更に言うならイギリスの代表候補生です」
「ええ、その通りですわ。……その口ぶりですと、わたくしのことを以前から知っているみたいですわね?」
「ええ、ヨーロッパでオルコット家は有名ですから」
オレの言葉で機嫌を持ち直してくれたオルコットさん。内心これで大丈夫だと思ったのだが――――――
「代表候補生ってなんなんだ?」
本当に、比喩ではなく頭痛がしてくる。どうして彼はわざわざ人が消そうとしている火種を炎上させようとするのかっ。
同じ事を考えているのは自分だけではないようで、オルコットさんや聞き耳を立てていた他のクラスメイトも信じられない、と言いたそうな
「あ、あ、貴方、本気でおっしゃってますのっ!?」
「おう、知らん」
……まさか織斑さんは『正直は美徳』等と考えているのだろうか。確かに正直なのは悪い事ではないが、少しは場というものを考えるべきだ。
「信じられない、信じられませんわ。極東の島国というのはここまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビが無いのかしら……」
オルコットさんはオルコットさんでぶつぶつと日本を罵倒してクールダウンを図っている。……一国の代表候補生が言うには少し不味い内容だが。
「代表候補生というのは文字通り、IS競技の国家代表操縦者の候補生として選出される人達の事です。いわば選抜されたエリートです。単語からでもどういう人達なのかは想像出来るでしょう?」
「そう言われればそうだ」
出来れば説明せずとも察してほしかったが。
「そう! エリートなのですわ!」
オレの説明を聞いてオルコットさんも持ち直した。流石は代表候補生。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのです。その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか。それはラッキーだ」
織斑さん、いい加減その言動が彼女を煽っている事に気付いて下さい。貴方が原因でオレの方にも飛び火するんですから。
「大体、貴方ISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。もう一人の彼はともかく貴方の方は期待外れですわ」
「俺に何か期待されても困るんだが」
「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなた方のような人間にも優しくしてあげますわ。ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれれば教えて差し上げてもよろしくてよ。わたくしは入試で唯一教官を倒したエリートなのですから」
流石は代表候補生。入試での実技試験で試験官を倒したか。
「あれ? 俺も倒したぞ、教官」
「は(え)……?」
織斑さんの言葉にオレもオルコットさんも言葉を失う。ISの基本知識はおろか、代表候補生の事を知らなかった程ISに疎い人が実技で試験官に勝った……?
「つまり、教官を倒したのはわたくしだけではないと……?」
……後から知った事だが織斑さんが試験官に勝った、というのは試験官だった山田先生が緊張のあまり目測を誤って壁に突っ込みそのまま動かなくなった為一応形として勝った、という事だった。
不戦勝に近いのに『倒した』、なんてよく言えたものである。
「貴方! 貴方はどうなのですっ! 貴方も教官を倒したのですかっ!?」
オルコットさんがこちらに顔を向けて訊いてくる。
「残念ですが自分は倒していません。結果だけ言うなら引き分けでしたし」
「では、教官を倒したのはわたくしと貴方ということですわね!?」
「うん、まあ。たぶん」
「たぶん!? たぶんってどういう意味かしら!?」
「えーと、落ち着けよ。な?」
「これが落ち着いていられ−−−」
キーンコーンカーンコーン。
話に割って入る三限目開始のチャイムが鳴り響く。ようやく解放される。
「っ……! またあとで来ますわ!逃げない事ね! よくって!?」
……オレとしては全くよくない。とばっちりもいいところだ。出来るなら、というより全力で遠慮したいのだが――――――
「なあリーヤ、なんで彼女あんなに怒ってたんだ?」
……はぁ、これならエルトリアでデスクワークをしている方が何倍も楽だったなぁ……
三人の会話は火種を残す。その火種はきっかけさえあれば燃え広がろうとしていた――――――
……あれ、なんかオリ主が苦労人っぽくなってしまった?