全てがそうであるわけではないが、準備を重ねるか否かは大きな差になって現れる。
二つに分ける予定のものをくっ付けたので少し長くなってしまいました……
「失礼します。織斑先生と山田先生はおられますか?」
授業が全て終わった放課後、オレは三日後の試合について詳しく確認したい事があるため職員室を訪れていた。
「あ、カテドラール君。入ってもらっていいですよ」
「失礼します」
許可を貰ったので中に入る。同じクラスの担任と副担任のためか、織斑先生と山田先生の席は近かったため相談しやすそうだった。
「それで、どうしたんですか? 授業の内容でわからないところがあったんですか?」
「いえ、三日後の試合について訊きたい事があったのでそれで来たんです」
そう来た理由を伝えると織斑先生と山田先生は表情を変えた。
「……山田先生、カテドラールを連れて進路指導室に行ってもらえますか? 私は織斑に部屋のことを伝えてくるので」
「はい、わかりました。それじゃあカテドラール君、試合の事は進路指導室で聞きますのでついてきてください」
そう促されて来たばかりの職員室を後にする。もし織斑さんとオルコットさんが来たら面倒な事になりそう(特に織斑さん)なので場所を変えてくれるのはありがたかった。
「ここが進路指導室です。先に入って待っててくださいね」
「判りました」
そう言って山田先生は来た道を戻っていった。おそらく何か取りにでも行ったんだろう。
―――――――そうして数分後、ブリーフケースを持った山田先生が戻ってきた。
「カテドラール君、お待たせしました。それで訊きたいことというのはなんですか?」
「はい、訊いておきたいのは試合の順番とその組み合わせ、それと試合に備えてアリーナで訓練をしたいのですが今から使用申請を出して間に合うのか、という事ですね」
アリーナの使用に関しては正確には試合の事ではないが、一応関係はしているから訊いても大丈夫だろう。
「えっと、まず一つ目の試合の順番と組み合わせですが……これはカテドラール君が決めてもらって大丈夫です。特に希望がなければ私と織斑先生で決めることになりますが……どうしますか?」
順番と組み合わせをオレが決めていい、というのは予想外だったが嬉しい誤算だ。……しかし、なぜこっちで決めて大丈夫なんだろうか。疑問に思ったのでそのまま訊いてみた。
「どうして自分が決めても大丈夫なんですか? 先生たちが決めたならともかく、自分が決めたら後で公平じゃないとか色々言われると思うのですが」
「組み合わせと順番に関しては織斑先生と相談して、このことを訊きに来た人に決める権利をあげることにしていました。わざわざ訊きに来てくれる、ということはそれだけ真剣に取り組もうとしてくれるわけですから私と織斑先生からの評価に対する報酬です」
成程、それなら遠慮なくその権利を使わせてもらいますか。
「では一戦目に織斑さんとオルコットさん、二戦目に自分とオルコットさん、最後に自分と織斑さんの組み合わせでお願いします」
オルコットさんに関しては後で
「わかりました。ではこの組み合わせと順番で織斑先生に伝えておきますね。次にアリーナの使用についてなんですが……先に申請を出している2・3年生の人達が優先なので、申し訳ないんですけど今からはもう一般アリーナでの練習は出来ないと思います」
やはりアリーナの使用は難しいか。予想してはいたが残念だ。
「ただ、カテドラール君は企業所属ですから機体や装備の稼働試験という名目なら第6アリーナの使用許可が下りるかもしれません。ただその場合は稼働試験の名目で使用許可が出るので出来る内容は最低限の練習内容になると思います」
「判りました。それで構いませんので使用申請を出したいのですがどこに行けば手続きが出来るのでしょうか?」
「それなら今回は私が申請を出しておきますね。今日はもう難しいですが明日は使えるように申請しておきますね」
「ありがとうございます」
よし、取り敢えずこれで準備運動程度には動かせる。手配してくれる山田先生には感謝だ。
「すいません、山田先生。色々とありがとうございます」
「いえ、私は先生ですからこれぐらい任せてください。あ、それとカテドラール君にいくつか連絡事項があります」
? なんだろう、連絡事項って??
「まず一つ目ですが部屋のことです。今日から学園の寮で過ごしてもらいますが……その、なにか聞いていますか?」
「はい、それなら聞いていたので日本支部の方達にホテルのチェックアウト等の手続きをお願いしていました。自分の荷物も多分日本支部から送られてきていると思います」
「は、はい、そうです。それで届いた荷物なんですがもう部屋のほうに運んであります」
そうして山田先生は部屋番号の書かれたメモと鍵をケースから取り出した。
「これが部屋の鍵になります。なくすと罰則があるので注意してくださいね」
そうして先生から鍵を受け取る。……1037室か。
「それと、今回は元々の部屋割りに無理やり割り込みをかけた形になってしまったので相部屋になります。来月には個室が用意できますから、それまでは我慢してください」
「自分の方は構いませんが……」
むしろオレと相部屋にされた人が我慢しなければならない気がするが。
「それと、エルトリア社からカテドラール君宛てにISの装備品が届いています。こちらは整備室の方に運んであるので後で確認しておいてください」
装備も届いたのか。とはいっても試合で使うだろうから報告ついでに一緒に補充申請しておこう。
「連絡事項は以上ですが、まだ訊いておきたい事はありますか?」
「いえ、大丈夫です。ただ今回の事を社に連絡しないといけないので、もう数分ほどここを使わせて頂きたいのですが大丈夫ですか?」
部屋に戻ってからでもいいが、この部屋は防音になっているので連絡出来るならそれに越した事はない。
「ええ、だいじょうぶですよ。それでは鍵をここに置いておくので後で職員室まで返しに来てくださいね」
そうして山田先生は職員室へと戻っていった。ここの使用許可を快く出してくれたで盗み聞きされる心配なく(元々聞かれて困る話をするつもりはないが)社に連絡出来る。
そうして連絡用の端末を取り出し、コールする。イタリアとの時差は約8時間だが、義父さんなら今かけても大丈夫だろう。
「……私だが、初日からなにか動きがあったのか、カテドラール」
「はい、統括。実は……」
義父さんに三日後の試合について説明する。事後報告なので出来るだけ主観を交えず、簡潔に説明する。
……余談だが、オレと義父さんは普段からこんな形で会話をしているわけではない。今はエルトリアの社員として報告をしているのであって、プライベートではここまで固い会話ではない。(それでも固めの会話であるのは確かだが)公私の区別をつけるのは当然の事だからだ。
「……以上が、三日後に行われる試合とそれを行う事になった経緯です。ご不明な点等はありますか?」
「いや、お前の説明に不備はない。疑問なのはその内容だ。……イギリスの代表候補生の立場にある者が本当にそんな短慮な事をしたのか? 俄かには信じがたいが」
やはり義父さんから見てもオルコットさんの言動は問題のようだ。なにせ下手をすれば外交問題に発展しかねない内容だ。代表候補生としてあの言動は余りにも軽率だったと言えるだろう。
「残念ながら事実です。……もっとも、彼女があそこまでの暴言を放ったのは彼女だけの問題ではないと個人的には思いますが」
「そうだな、それには私も同感だ。……日本政府も彼に必要な知識を教えておけばここまでの事にはならなかっただろうに」
義父さんの言う通り、日本側も彼にIS関係の勉強をしっかりやってくれていれば、と思わずにはいられない。今更な事ではあるが。
「それで、統括。オルコットさんのデータ等があれば閲覧したいのですが……手に入りますか?」
「……彼女自身の情報なら問題ないだろう。が、戦闘データに関しては難しい。時間がない上に此方では今デュノア社の調査に多くの人員を割いている。悪いが戦闘データの方は期待するな」
デュノア社の調査、ね。以前から何度か調査をしてきたがそこまで人員を割く程ではなかった。……なにか仕掛けるつもりか?
「……デュノア社の動きは
「現時点ではまだ判らん。元々デュノア社は
「判りました]
どのみちデュノア社に関して自分に出来る事はない。義父さんの言う通り頭に入れておく程度でいいだろう。
「さて、上司ではなく親として訊くが……どうだ? IS学園に入学した感想は。上手くやっていけそうか?」
「え……」
驚いた。何に驚いたかって義父さんが仕事の話の直後にプライベートの話を事にだ。義父さんは公私混同をしない人だから今みたいにこういった話をしてくるのはかなり珍しい。というか初だ。
「……一応言っておくが、私も報告の直後にこういった事を訊くのはらしくないという自覚はある。だがやはり親としては我が子の事は気になるものだ。……お前は
「義父さん……」
我が親ながらこれはズルいと思う。というか嬉しくてニヤけそうになるしっ!
……うん、これは濁さずストレートに言おう。ここまで言ってくれてるのに嘘を吐くなんて義父さんに悪い。(どうせ吐いても義父さんにはすぐバレるというのもあるが)
「……一番感じたのはISを扱うというのにその意識が低い、という事ですね。勿論、一年という事もあるのでしょうけど……なんと言うか、知識としては知っているが実感が伴ってない、という感じですね。それと、
残念だけどこれは本当の事だ。入学直後だから浮かれている、というのも勿論あるのだろうが。
ただ――――――
「……それでも全員がそうという訳ではありませんでした。中にはオレ個人としても、エルトリア社の人間としても気兼ねなく話せる人もいました。だから、
言うまでもなく静寐さんと神楽さんの事だ。それに今日オレが接したのは同じ一組の人達だけ。それで学園全体の人達を同じように断ずるのは早過ぎる。
……もっとも、友好的な人よりそうでない人の方が多くなりそうだが。
「……そうか、少し安心した。信を置ける者がいるのといないのでは大分違うだろうからな。……悪いが、そろそろ時間だ。次の連絡は試合が終わった後か?」
「そうですね。吉報を届けられるよう尽力しますよ」
「そうか。……リーヤ」
「はい?」
「いい知らせを期待しているぞ」
「……! はいっ!」
そうして義父さんへの報告(という名の話)は終わった。……三日後の試合負けられない理由がもう一つ出来てしまった。
万全を期して挑む為にも明日のアリーナでどれだけの事が出来るかが前準備の鍵だろう。……明日の時間を有効に使う為にも準備は今日の内にしておいた方がいいか。夕食までは時間があるし、今のうちに整備室に届いている装備品の確認もやってしまおう。
彼は尽くせる手は打つ。自分に向けられた期待に応える為に。
……今後もこういった堅苦しい話は出てきますがご容赦を……