――――――それはきっと、当人達も判らない。
……遅くなりました。
それでは、どうぞ。
義父さんとの話が終わったオレは、エルトリア社から送られてきているハズの装備品を確認する為整備室に向かっていた。
部屋の方は一度戻って荷物の確認を行ったが、不足品はなかったので取り敢えずそのまま放置してきた。と、いうのも部屋に誰もいなかったので荷物を開けられなかったのだ。(ルームメイトになる人がどれぐらいの荷物を持ち込むか判らないため)自分がいない間にルームメイトになる人が来ても大丈夫なよう、スペースを使ってもらって大丈夫です、と書いたメモを残してきたから大丈夫だろう。
「さて、山田先生に教わった通りなら整備室はこの辺りのハズなんだけど……」
今日の内に準備を済ませてしまえば、明日は放課後に即訓練に入る事が出来る。たとえ内容が限られていたとしても、時間に余裕を作っておくのは悪い事ではないからだ。
「と、ここか」
思いのほか早く見つかったか。入室すると部屋の隅にそれらしいコンテナが置いてある。荷札を確認するとやはりエルトリア社からの装備品だ。
「……よし、きちんと社外用の装備で一式揃ってる。」
そうしてコンテナの中身を確認していると、先にここにいた水色髪の生徒がオレ、というより正確にはエルトリア社からの荷物に目を向けていた。
「……何か、自分に用事でしょうか……?」
「……エルトリア社の装備品は珍しいから気になっただけ……気に障ったのなら……ごめん……」
あー、確かにエルトリア社の武装は割と珍しい部類に入る。実弾系の武装はともかく、エネルギー系の武装は基本設定は共通だが、本来の機能をオミットしている為に性能がピーキーなものが多いからだ。(当然、機能制限の事は公表していない)これは技術漏洩の防止の他にもう一つ、重要な理由があるのだが……まぁ、今はいいだろう。
それはともかく、
「……よかったら近くで見られますか? 自分としても自社製品に興味を持ってもらえるのは嬉しいですし」
「……いいの?」
そうは言うものの彼女の目が期待に満ちているのがありありと判る。オレが来る前から何か作業をしていたようだし技術系を志望している生徒なんだろうか?
「では、どうぞ」
「あ、ありがとう。……その……名前、聞いてもいい……?」
「リーヤ・カテドラールです」
「え……、あなたが、二人目……?」
なんと言うか、静かに驚かれるというのは新鮮な反応だ。ある意味器用と言えなくもない。
「その、ごめん……。ニュースでは名前しか発表されてないからわからなかった……」
「貴女が謝る事じゃないですよ。オレ自身も、そしてエルトリア社も発表するのは名前だけで詳しい事は伏せていましたから」
そう。メディアに発表したのはオレの名前だけで、顔はおろか経歴等も全て伏せている。公表してしまうと色々と煩い事になるからだ。それはオレも、そしてエルトリア社も望むところではない。
「……そう、なんだ」
「ええ、だから貴女が気にする事はありませんよ。……その、慣れてますから」
「……大変、だね……」
「…………」
その、そう言われると結構クるものがあるのですが。
「それで、どうです? 間近で見てみたエルトリアの装備は?」
このままだと気不味い空気になりそうだったので少し強引だがこのまま流す。多少苦しい感はあるが。
「……パッと見ただけだとかなり独特……。……これって、射撃装備……? 槍みたいなデザインだけど……」
「ええ、射撃装備ですよ。ただ白兵戦にも対応出来るように槍のような形状になっているんです。銃剣のような後付けではなく、設計段階から白兵戦での使用も用途に入れた射撃装備、ってのはあまりないですよ?」
というか普通はそんな設計をしない。オリジナルならその設計思想を生かせるのだが、社外用ではほとんど意味がなく単純に槍の形状を模してるだけとなっている。
なので本社仕様にする為には改修キットを運んでもらわないといけなかったりする。
「……噂には聞いていたけど……本当に独特な設計思想……」
「そうですね。
「……でも、技術的にはすごい……。射撃武器として必要な機構をこんなにコンパクトにまとめてる……」
へぇ、しっかり見てるな。
この装備を見て大抵の人は槍のような外観に注目するだけで、彼女みたいにそれを実現する技術までは注目しない。開発部や技術部の人達にとって一番の褒め言葉だろう。
「凄いですね。そこまで考えて見る人はそういないですよ?」
「……私も、自分でISを組んでからそれがどれだけすごい技術なのかは、わかる……」
…………ん?
今さらっと凄い事を言っていたような?
「あの、今ISを組んでいる、って言いました? そこのISを? ……オーバーホールをしているのかと思っていました」
勿論オーバーホールを一人で行うのも十分凄いのだが、彼女がやっている事は学生のレベルを超えている。 いや、社の技術者でもそういないだろう。
「……凄いですね、ISを一人で組むなんて。自分なんてメンテナンスが精々、といったところですから」
「……数週間前に動かして……もうメンテナンスが出来るなら充分だと思う……」
彼女はそう言うが難易度としては天と地ほどの差がある。同列に扱うのはどうかと思う。
「いや、貴女が行なっている事の方が何倍も凄いですよ。そんなに自分のしている事を卑下しなくてもいいと思いますよ?」
それぐらい彼女のしている事は凄いのだ。オレどころか代表候補生でも出来る人は少ないだろう。
「あ、ありが、とう…… 」
小さく、聞き逃しそうなほどだが、確かに彼女の言葉が聞こえた。が、オレとしてはそれどころじゃなかったりする。
なにせ彼女、顔を赤らめて、少し顔を背けて言っているのだ。見ていてすごく小動物っぽい可愛さというか、静寐さんや神楽さんとは別ベクトルの魅力が――――――って、なに考えているんだオレは――――――っ⁉
「そ、そうだ。良ければ名前を教えてもらっていいですっ⁉ その、話していていつまでも名前を飛ばして話す、というのは貴女に失礼なような気がして」
内心の動揺を隠すために話題を変えようとしたが、言ってから気付いた。これ、なんかますます深い穴に落ちた気がする。隠すどころか表に思いっきり出ているし。
「……更識、簪。……名字で呼ばれるの好きじゃないから……簪でいい……」
彼女――――――簪さんは自分の事に気付いていないのか、それとも元々気にしていないのか判らないがそのまま名前を教えてくれた。
「では改めて、―――――――よろしく、簪さん。自分の方は好きなように呼んでもらって大丈夫です」
「……うん。……よろしく、カテドラールくん」
……それにしても、更識、か。日本人でその家名となると心当たりがあるが、身内だろうか? ……まあ、その辺りはおいおい知ればいいか。
「簪さんは基本、ここでそのISを組んでいるんですか?」
「……そうだけど……どうして?」
「いえ、邪魔になるようなら社から荷が届いた時は違う場所に運んでもらおうと思ったので。……邪魔になったら悪いですし」
簪さんが何かをする時は静かな方がいい、という人だったらオレがいると邪魔になるしプラスにはならないだろう。
「……大丈夫。……むしろ新しい物が送られた時は見てみたい」
どうやら自分の心配は杞憂だったようだ。
さて、ならあともう一つさっきから気になっている事を片付けるとしますか。
「自分は今日はもうこれで戻りますけど……簪さんはどうします?」
「……私は……まだここにいる……」
よかった。簪さんはまだいるようだから一人で済ませられる。
「それじゃあ簪さん。また明日」
「…………うん」
簪さんに一言告げて整備室を後にし、少し歩いて周囲に人がいない事を確認する。
――――――よし、問題ないな。
「……さて、わざわざ察して一人になってあげたんです。いい加減出てきたらどうですか?」
そうして、オレの後ろにいるであろう誰かに呼びかける。流石にこれ以上放置しておくのは落ち着かない。
「……驚いたわ。いつから気付いていたのかしら?」
そうして柱の陰から出てきたのは、IS学園の生徒会長にして、現ロシアの国家代表。……そして更識家の現当主、更識楯無だった――――――。
きっかけは偶然だったが、彼はクラス以外の生徒と関わり始める。
――――――果たしてそれがどんな未来を呼ぶのか。
……ヤバい。更識姉妹と関わらせたらセシリアとの試合が十話以降になる気がしてきた……。