バカと千恋万花   作:京勇樹

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剣豪

翌日、登校した明久は

 

「廉太郎」

 

と椅子に座っていた廉太郎に、声をかけた

 

「なんだ?」

 

「これ、お爺ちゃんに渡してくれる?」

 

振り向いた廉太郎に、明久は便箋を手渡した

すると、廉太郎は

 

「爺ちゃんに?」

 

と首を傾げた

その問い掛けに、明久は頷き

 

「うん。大切だから、絶対に渡してね」

 

と言った

そして、時は経ち放課後

 

「あ、芳乃さん、常陸さん。僕は少し残るから」

 

と明久は、帰り支度をしていた二人に言った

すると、二人は

 

「大丈夫なんですか?」

 

「分かってるとは思いますが……」

 

と言った

すると明久は

 

「大丈夫……夜までには戻るさ」

 

と答えた

それを聞いた二人は、先に帰宅

明久は、鞄を持って学院前で待っていた

そして、数十分後

 

「来たぞ、明久」

 

と玄十郎が現れた

その手には、竹刀袋が二つある

 

「待ってたよ、お爺ちゃん」

 

明久がそう言うと、玄十郎は

 

「明久よ、本気か? お前はアレから、刀処か竹刀すら……」

 

と言いかけた

だが、それを遮るように明久が

 

「この間、刀を抜いて、技を放ったよ……鈍ってたし、最後は吐くのを必死に耐えてたよ」

 

と言った

それを聞いた玄十郎が、固まっていると

 

「それに、女の子が頑張ってるんだ……男の僕が……戦える術がある僕が頑張らなくて、どうするのさ」

 

と明久は言った

それを聞いた玄十郎は、思わず頷いた

明久らしいと

だから玄十郎は、それ以上問わずに

 

「体力はどうじゃ?」

 

と明久に問い掛けた

すると明久は

 

「最近はドタバタしてたから出来てないけど、一応毎日走ってる」

 

と答えた

そして、明久は

 

「そう言えば、宿屋の経営は大丈夫なの?」

 

と問い掛けた

すると玄十郎は

 

「ワシは事実上、陰遁しておる。経営は、素子さんに任せた」

 

と言った

 

「素子さん?」

 

「お前も会っている筈じゃぞ。志那都荘の女将を任せている」

 

明久が首を傾げると、玄十郎はそう言った

それを聞いた明久は、朝武家に泊まることになった翌日、志那都荘で会った女性を思い出した

その女性は、大体30代前半で、左目の下に泣き黒子があり、非常に落ち着いた印象の女性だった

 

「いつの間に、女将なんて決めてたの? お爺ちゃん、中々決めなかったじゃない」

 

「なに、三年程前にな知り合いから紹介されたんじゃ。素子さんはいいぞ。言葉使いだけでなく、器量、教え方も上手じゃ」

 

明久が再び問い掛けると、玄十郎はそう言って、女将

猪俣素子(いのまたもとこ)を賞賛した

それを聞いた明久は、驚いた

鞍馬玄十郎という老人は、自分にだけでなく他人にも厳しい性格の人物である

その玄十郎が、手放しで素子を褒めちぎった

それは要するに、素子という女性がそれほどの人物だということを示している

 

「さて……明久、受け取れ」

 

玄十郎はそう言って、右手に持っていた竹刀袋を明久に投げ渡した

明久は受け取ると、封を解き、中から木刀の柄を出した

それを見た明久は、一度大きく深呼吸

そして、柄を掴んで取り出した

その後、竹刀袋を近くの花壇の縁に置いてから、木刀を構えて

 

「行くよ、剣豪……手抜きはしないでね」

 

と言った

それを聞いた玄十郎は

 

「その称号は、お前に譲ったんじゃがな」

 

と言って、上着を脱いで置いた

そして

 

「では、往くぞ!!」

 

と気合いの声を張り上げたのだった

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