翌日、朝は何時も通りに玄十郎との訓練を終わらせた
その後明久は、昼食を茉子と共に作りながら
「そういえば、常陸さん」
「はい、なんですか?」
茉子に問い掛けた
その茉子は、見事な手つきで大根の桂剥きをやっている
「お昼食べた後、時間ある?」
「おやぁ? デートのお誘いですか?」
明久の言葉に、茉子はニヤリと笑みを浮かべながらそう言った
すると、明久は
「んー……まあ、ある意味そうかなぁ?」
と首を傾げた
それを聞いた茉子は、顔を赤くして
「え……」
と固まった
すると、明久は
「僕、穂織のこと大分朧気になっちゃってるからね。少し案内してほしいんだよね」
と言った
それを聞いた茉子は
「な、なるほど。そういうことですか」
と少し慌てた様子で言った
「それに、新しく来る子の案内にもなるしね」
「新しく来る子?」
明久の言葉を聞いて、茉子は首を傾げた
すると明久は、胸ポケットから写真を取り出して
「この子なんだけどね。新しく志那都荘に住み込みで働きに来るんだって」
と説明した
すると、茉子は
「住み込みですか……見たところ、私達とそう年は変わらなそうですね」
と言った
それを聞いた明久は
「あ、同い年だって。だから、学院に通いながらになるってさ」
と言った
それを聞いて、茉子は
「学院に通いながら、住み込みですか……相当厳しいでしょうね……なぜ、そこまでして……」
と唸り始めた
確かに、学院に通いながら住み込みで働くとなると、かなり厳しいだろう
「確か、昔から穂織に来るのが夢だったんだってさ」
「昔から、ですか?」
明久の言葉を聞いて、茉子は首を傾げた
なぜ、昔からなのか
「流石に、理由までは分からないなぁ……でもまあ、昔に親が来て、話したとかじゃないかな?」
「ありえますね」
明久と茉子はそこで会話を終わらせ、昼食の準備に意識を傾けた
そして、昼食後
「これから、行くんですよね?」
「うん」
芳乃と安晴がそれぞれ用件を済ませに行った後、二人は会話短く玄関に向かった
「先に言っておきますが、買い物があるので、それほど遅くまではご一緒出来ませんよ?」
「うん、分かってるよ」
茉子の言葉に、明久は頷いた
そして、茉子の案内で穂織を軽く歩き始めた
「さて、私のお勧めですが……まず最初は、ここです」
最初にそう案内されたのは、鮎の塩焼き屋だった
「ここの鮎の塩焼きは、塩加減が見事なんですよ」
「ほお」
茉子の言葉に、明久の料理人としての心が動いた
明久は和洋中どの分野も、かなりのクオリティで料理を作る
しかし、まだまだ満足していない
飽くなき探求心が、大事だと思っているからだ
昼食を食べた後だが、鮎の塩焼き一本位ならば食べられる
だから二人は、鮎の塩焼きを購入
食べ始めた
「む……これは、確かに見事……」
「でしょう?」
茉子の前評判通りの塩加減に、明久は思わず唸った
茉子も同意し、鮎の塩焼きを食べた
この時明久は気付いていなかったが、今の状況は茉子の夢の一つだった
茉子は幼い頃から忍者としての教育を受けつつ、芳乃の身の回りの世話をしてきていた
芳乃を優先してきたのだ
そんな彼女にも、年相応の夢があった
それは、異性とデートをすること
少し変な形式かもしれないが、今まさにそれをしている
(……ごめんなさい、芳乃様……)
心中で芳乃に謝罪しながら、茉子は明久を観察した
少し垢抜けた顔をしているが、明久は全体的にかなりの好青年である
更には、かなりのお人好し
会って少ししか経ってない時に、自ら戦闘に介入してきた
自分とて、辛い筈なのに
(何が……明久さんをそこまでさせるのでしょうか?)
と茉子は、明久を見ながら心中で首を傾げた
すると、明久が
「ん? どうしたの?」
と茉子に視線を向けた
どうやら、茉子が見ていたことに気付いたようだ
すると、茉子は
「いえ、何でもないですよ」
と言って、食べ終った串をゴミ箱に捨てた
そして
「それで、どうでした?」
と問い掛けた
すると、明久は
「うん。確かに、見事な塩加減だったね。素材の味を殺さずに活かす塩加減……僕も修得しないとね」
と頷いた
その後二人は、茉子の案内で街中を歩いた
そして、ある坂道の下に来た
「これで、私のお勧めは粗方回りました」
「うん、ありがとう。勉強になったよ」
茉子の言葉に、明久がそう返した
その時
「ひぁぁぁぁぁぁぁ!」
と叫び声が聞こえた
それを聞いた二人は、周囲を見回した
すると坂道の上の方から、一人の美少女が走ってくる
「止まりませぇぇぇん!?」
よく見れば、かなり大きいキャリーバッグに引っ張られている
どうやら、坂道に来た拍子に暴走してしまったようだ
「つっ!?」
それを見た明久は、茉子を退かすと身構えた
その直後
「ぐっ!?」
「わひゃあぁぁぁぁぁ!?」
二人は激突
明久と少女は、ゴロゴロと転がった
そして、止まると
「お二人共、大丈夫ですか!?」
と茉子が駆け寄ってきた
すると、少女は
「は、はい……大丈夫です……」
と答えた
だが明久は、答えられなかった
何故ならば、その少女の豊満な胸に顔が完全に覆われていたからだ
今の体勢は、少女が明久を押し倒すような形になっている
それに気付いた少女は、慌てた様子で
「あわわっ!? ごめんなさいですよ!?」
と言って、明久の上から退いた
すると、茉子が
「明久さん、大丈夫ですか!?」
と問い掛けた
すると明久は、後頭部を押さえながら
「な、なんとか……」
と答えた
そして、少女を見て
「あれ……もしかして……レナ・リヒテナウアーさん?」
と首を傾げた
すると、少女
レナ・リヒテナウアーは
「あ、はい。そうでありますが?」
と首を傾げた
これが、異国から来た少女との出会いだった