バカと千恋万花   作:京勇樹

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接近

明久の意識が戻った日の夜

 

「大丈夫ですか?」

 

「ありがとう、芳乃さん」

 

明久は芳乃に支えられて、浴室に向かっていた

実は穂織の温泉は、呪いに対する治療効果があるのだ

それに連なるように、外傷に対する効能もある

だからか、穂織の民家は温泉を引いている家が多い

そしてそれは、朝武家も例外ではない

それどころか、朝武家の風呂はかなり広い

そのサイズは、旅館に匹敵する程だ

最初入った時は、かなりの広さに明久は驚いたのを覚えている

普段ならば、なんら問題はない

しかし、今の明久は怪我人である

浴室に向かうのも、一苦労だった

そんな明久を、芳乃が補佐していた

これは、芳乃が自ら進み出てきたのだ

最初は明久も断ろうとしたが、芳乃はその頑固さから譲らなかった

結果、明久が折れた形である

 

「で、では……脱がしますよ?」

 

「はい、お願いします」

 

浴室に到着すると、芳乃は緊張気味に明久に問い掛け、明久も少し緊張しながら頷いた

すると芳乃は、明久が着ていた浴衣の帯を緩めた

浴衣の帯は、かなり固く結ばれていて、片手では緩める事が出来なかった

帯を緩めると、明久は芳乃の言葉に従って体を動かして、浴衣を脱いだ

そこまで行くと、明久は

 

「えっと、パンツを脱ぐから……向こうを向いててくれるかな?」

 

と言い、芳乃は素直にそれに従った

その後、何とも言えない緊張感の中で、明久はパンツを脱いでから、なんとかタオルを巻いた

それを確認した明久は

 

「ん、大丈夫だよ」

 

と芳乃に告げた

すると芳乃は

 

「では、支えますね」

 

と顔を赤くしながら、明久を支えた

そして、中に入ると

 

「椅子に座って、待っていてください」

 

と戻っていった

そして芳乃は、着ていた浴衣の袖の中からある物を取り出して

 

「……よし」

 

と自分に、気合いを入れた

それから、数分後

 

「お、お待たせしました……」

 

芳乃は、水着を着て現れた

着ているのは、どうやら学校指定の水着らしい

芳乃は恥ずかしいのか、顔が真っ赤になっている

 

「で、では……洗いますね……」

 

「う、うん……」

 

明久が頷くと、芳乃はタオルに石鹸を付けて、明久を洗い始めた

 

「痒い所は、ありませんか?」

 

「うん、大丈夫……」

 

芳乃の問い掛けに、明久はそう返答した

明久の返答を聞いた芳乃は、そのまま続行

明久の体を、洗い続けた

そして、呪いに触れて黒くなった右腕を見た

 

「本当に……無茶し過ぎですよ……」

 

芳乃はそう呟くと、労るように右腕を洗った

それを聞いた明久は

 

「うん、ごめん……」

 

と謝り、身を任せ続けた

ふとその時、芳乃は明久の背中に手をそっと当てた

すると明久は、肩越しに

 

「芳乃さん?」

 

と芳乃に、視線を向けた

すると芳乃は、ポツリと

 

「吉井さんの背中……大きいですね……」

 

と呟いた

それを聞いた明久は

 

「そうかな? 身長は、真ん中辺りだったけど……」

 

と言いながら、首を傾げた

それを聞いた芳乃は

 

「大きいですよ……それに、鍛えられてるのが分かります……」

 

と言った

そして芳乃は、脇腹辺りの傷に触れて

 

「それに、この傷……普通の傷ではないですよね……その左目も……」

 

と呟いた

その時、明久は僅かに体を震わせた

その反応で芳乃は、その二つの傷が明久のトラウマに関わっていると気づいた

だから、芳乃は

 

「無理には聞きません……ですが、何時か話してくださいね」

 

と言うと、明久の体を洗うことに意識を向けたのだった

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