芳乃が明久の部屋に来た翌日
みづはが、明久の診察に来た
「ふむ……」
「みづはさん、どうですか?」
芳乃がそう問い掛けると、みづはは笑みを浮かべて
「大丈夫ですね。もう、包帯も取れますよ」
と答えた
それを聞いた三人は、嬉しそうに顔を見合わせた
すると、みづはが
「では、私はこれで」
と言って、立ち上がった
それを見た三人は
「ありがとうございました!」
とみづはを見送った
その後、明久は確認を兼ねて、庭に出て木刀を握った
「一週間振りか……」
明久はそう呟くと、木刀を構えた
「やっぱり、鈍るか……」
明久はそう呟くと、軽く振った
その直後、激しい動悸が明久を襲った
「あ……かはっ!?」
それにより視界が揺らぎ、明久は膝を突いた
(たった一週間握らなかっただけで……!?)
と明久は、困惑した
そこに
「吉井さん!?」
と芳乃が出てきた
どうやら、部屋に居なかったから探しにきたようだ
そして、膝を突いていた明久に駆け寄り
「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
と声を掛けた
そこに、僅かに遅れて茉子も出てきた
そして、茉子の手伝いもあって、明久を家に入れた
その後、明久は出されたお茶を飲んで
「はあ……たった一週間で、あそこまでなるなんて……」
と溜め息を吐いた
すると、芳乃が
「吉井さん……あまり踏み込むべきではないとは、分かってます……しかし、話していただけませんか? 何があったのかを」
と明久に問い掛けた
それを聞いた明久は、口をつぐんだ
すると、茉子が
「玄十郎さんから聞きました……三年前に、明久さんはある事件に巻き込まれて、刀を握れなくなったと……」
と言った
その瞬間、明久の体が震えた
やはり、聞くべきではないのかもしれない
震えた明久を見て、二人は僅かにそう思った
だが、同時に知るべきだとも思った
今のままでは、いけないと
「吉井さん……私達は、吉井さんのことを知りたいんです……」
「ですから、教えてください……」
二人がそう言うと、明久は暫くの間黙った
そして、どれほど経ったか
「三年前……僕と母さんは……ある銀行に行ってたんだ……」
と語りだした
それは、今から三年前の話だ
その銀行は、中規模の銀行だが貸し金庫もやっていた
その貸し金庫から、明久は母親と一緒に家宝の刀を出して、鑑定してもらう予定だった
家宝の刀は年代物だが、銘等は資料に残っていなかった
だから詳細を知るために、鑑定士だという人物を連れて、その銀行に向かった
『ほぉ……この刀は……』
家宝の刀を見た男は、鞘から抜いた刀の波紋に見魅っていた
黒い刀身に、銀色の波紋
明らかに、名刀と呼べる業物だった
『まさか、黒刀とは……世界に数本しかないと言われる、幻の刀……』
その刀に、鑑定士は最初は素直に感嘆し、鑑定していた
だが途中から、目付きが怪しくなっていく
明久と母親が異変に気付いた時には、遅かった
鑑定士は、一緒に居た銀行の係員を切り裂いていた
『つっ!?』
『妖刀の類いだったか!?』
と二人が声を上げた直後、鑑定士は奇声を上げながら、二人に切りかかった
二人は回避したが、鑑定士は完全に正気を失っていることは明らかだった
『このままじゃあ、まずいね……』
『ここで、こいつをどうにかしないと……』
そう決意すると、二人は鑑定士をどうにかしようと行動を開始した
そんな二人に、鑑定士は執拗に刀を振るってくる
その最中に、タイミングが訪れた
やはり乱雑に振るっていたからか、鑑定士の動きが鈍り始めた
その隙を突いて、明久は刀取りを行った
鵜茅流剣術柔技、刀取り
それは、相手の振るった刀を素手で奪い取る技である
しかもそこから、カウンターを叩き込むのが流れである
明久は若くして、鵜茅流剣術を極めた使い手だ
その技の動きは、体に叩き込まれている
だから明久は、気付いた時には、奪還した家宝の刀で鑑定士の胸部を深々と突き刺していた
そんなつもりは、毛頭無かった
せめて、家宝の刀を奪還して、無力化に留める気だった
だが、明久の体に叩き込まれていた技が、相手を殺してしまった
その後、遅れてやってきた警官達により、鑑定士だった男は病院に運ばれたものの、死亡が確認された
そして明久は、正当防衛が認められて無罪となった
だがこれを期に、明久は刀が握れなくなっていたのだった