「……これが、三年前の事件だよ……それ以来、刀を握るのが辛いんだ……」
明久の話を聞いていた芳乃と茉子は、絶句していた
確かに、PTSDになるほどだから、よほどのことが起きたことは予想していた
しかし、予想を越えていた
すると、芳乃が
「その……その左目は……」
と明久の左目の眼帯に、視線を向けた
すると、明久は
「うん、まあ……その時に負った怪我だね……」
と言いながら、眼帯を優しく撫でた
すると、茉子が
「でしたら! もう戦うことはありません! 後は、私たちがなんとかしますから!」
と言った
だが、それを聞いた明久は首を振って
「それはダメだよ……僕ももう、当事者だ……途中で投げ出すなんて、到底出来ない」
と告げた
それを聞いた茉子と芳乃は、辛そうな表情を浮かべた
明久の決断は、確かに朝武家にとってはありがたい
しかし、明久にとっては辛い決断である
大事の為に、小事を切り捨てる
明久は、朝武家の呪いという大事の為に、自分のPTSDという小事を切り捨てた
「それになにより……形式だけかもしれないけど、僕は芳乃さんの婚約者なんだし……放置なんて、絶対に出来ない……女の子だけに、戦わせるなんて……僕の意地が許さない……戦う力と方法が有るのに……見てみぬ振りは、絶対にしたくない」
明久のその力強い言葉に、芳乃と茉子は悟った
こうなったら、明久は絶対に止まらないと
誰かの為に、自分が出来ることは全てやる
それは、今までの行動から証明されている
迷子の時、明久は知らなかったとは言えども、夜に山の中に入るというハイリスクな行動をしていた
家事も、自分に出来ることはしている
料理や洗濯、掃除を
この間の診療所の時、ハイリスクを侵してタタリと戦った
そして何より、刀にPTSDがあるのに、玄十郎と激しい訓練を繰り返し、タタリと戦った
それらは、自分に出来ることを全力で行っているのだ
それを察したからか、芳乃が
「わかりました……もう、止めません」
と言った
それを聞いた茉子が
「しかし、芳乃様……」
と芳乃に、苦言を呈しようとした
しかし、芳乃は
「茉子も、分かってる筈よ……吉井さんは、決して譲らないと」
と言った
すると、茉子も分かっていたようで、苦い表情を浮かべた
だからか、芳乃は
「しかし、約束してください……これ以上、怪我を負わないと」
と明久に向き合った
その約束が、芳乃が出した妥協点のようだ
それを聞いた明久は、頷きながら
「分かった……約束する」
と返答した
結局この日は、刀を握って調子の確認に留めた
その確認に、茉子が立ち会っていた
明久がPTSDの症状が発症したら、即座に止めるためにらしい
まあこれは、今まで隠していたから仕方ないだろう
こうして、再出発を果たしたのだった