昼食も終わり、明久は境内で掃除していた
それ以外に、やることが無かったからだ
芳乃に聞こうともしたが、つっけんどんな対応しかされなかった
それを見た安晴曰く
『この頑固さ……誰に似たかなぁ』
とのことだった
故に明久は、自分から境内の掃除を始めていた
しかし、早朝に安晴が掃除しているためかゴミは基本的に無い
その時
「なんか、やつれてないか? ご主人」
とムラサメが現れた
「あ、ムラサメちゃん……いやね、芳乃さんの態度が……」
「ああ……芳乃は悪い奴ではない……ただ、真面目過ぎるというかな……」
明久の言葉の意味を察して、ムラサメはそう言った
それは、明久も感じていた
芳乃は、非常に真面目な性格だと
その時
「あの、すいません……」
と一人の女性に話し掛けられた
「はい、なんでしょうか?」
「今、誰と話してたんですか?」
その言葉を聞いて、明久は思い出した
ムラサメが見えるのは、極限られた人物のみなのだと
その時明久は、左耳に携帯と無線で繋がってるイヤホンが有ることを思い出した
明久はそれを指差し
「ああ、携帯で友人と話してたんです。ごめん、後で掛け直す」
明久はそう言って、そのイヤホンを外した
それを見たムラサメは
「上手いな、ご主人」
と誉めた
そして明久は、その女性に視線を向けて
「それで、どうかしましたか?」
と問い掛けた
すると女性は、焦燥した様子で
「それが、息子が居ないんです……こっちで見てませんか?」
と明久に問い掛けた
それを聞いた明久は
「僕は一時間程居ましたが……見てないですね……本当にこっちに来たんですか?」
「間違いないんです! ここに向かう途中で、繋いでた手を払って走り出してしまって……」
その女性はそう言った
そして、小さな声で
「やっぱり、イヌツキの土地になんて、来なければ良かった……」
と呟いた
それを聞いた明久は
「とりあえず、落ち着いてください。そのお子さんの情報を教えてくれませんか? 僕も探しますから」
と言った
それを聞いた女性は
「いいんですか?」
と首を傾げた
すると明久は
「困っている人を放っておけませんから……」
と言った
そして明久は、女性からその息子の情報を聞いて
「やはり、この近くでは見てませんね……」
と言った
そして、少し考えてから
「警察には、相談しましたか?」
と問い掛けた
すると女性は
「すぐに見つかると思って、相談してませんでした」
と俯いた
それを聞いた明久は
「僕も探しますから、貴女は警察に相談してください」
と言った
それを聞いた女性は、警察に向かった
それを見送った明久は
「ムラサメちゃん?」
「我輩は見ておらんの……探すか?」
明久の言葉の意図を察して、ムラサメはそう言った
すると、明久は頷いて
「お願い……僕の場所は分かるんだよね?」
「うむ……使い手の場所は分かる……見付けたら、教えに行けばいいのだな?」
ムラサメの言葉を聞いて、明久は俯いた
そして
「お願い」
と言った
それを聞いたムラサメは、姿を消した
それを見送った明久は、女性から聞いたルートに向かった
そして、探し始めて数十分後
「中々見つからない……何処に行ったんだ?」
と明久は、山の麓に来ていた
そして明久は、山の方に視線を向けて
「まさか……山に?」
と呟いた
その後明久は、その考えを信じて山に入った
そして明久は、腕時計を見て
「後少しで、日没だ……その前に見付けたいけど……」
と言って、走り出した
久しぶりの帰郷とは言っても、小さい頃から走り回っていた場所だ
足場の不安定さは理解している
そして走り回ったが、探していた男の子は見つからなかった
そうしている間に、陽は暮れてしまった
山の木の高さは高く、山の中は暗い
下手に動けば、足を踏み外して落ちるかもしれない
しかし明久は
「龍成くん! 居たら、返事して!」
と声を上げながら、探していた
その時、明久の背後でガサガサと草が擦れる音が聞こえた
それを聞いた明久は、振り向いて
「龍成くん?」
と呼び掛けた
しかし返事は無く、ガサガサという音は近づいてくる
それを聞いた明久は、僅かに腰を落とした
直感が囁く
「何か、来る」
明久がそう呟いた直後、それは姿を現した
まるで、小さな子供が粘土で作ったかのような見た目の存在だった
それを見た明久は、反射的に後ろに跳んだ
その直後、それから伸びた尻尾が風切り音と共に明久の眼前を通り抜けた
「なんだ、アレ!?」
明久が驚いた声を上げた直後、今度はソレ自体が動いた
ソレはまるで、突風のように明久に迫りながら右前足を振り下ろした
明久は間一髪で回避したが、その一撃は容易く明久の後ろにあった竹を切り裂いた
「当たったらヤバそう!?」
そう言って離れようとしたが、ソレは動物のような俊敏さで反転
再び飛び掛かってきた
それもなんとか回避したが、明久は
「なんとかしないと」
と呟いてから、先の一撃で切られた竹を掴んだ
その間に、ソレはまるで動物のように唸りながら明久を睨んでいた
明久は
(大丈夫だ……落ち着け……こんなの、三年前に比べれば、怖くない)
と自身に言い聞かせた
そして明久は、左手でその竹を持ち、右手を沿えるように構えた
そうしている間に、明久の呼吸は自然と荒くなっていく
そして、鼓動も早くなる
この時明久の脳裏に過るのは、三年前の事件
その時以来明久は、木刀や竹刀を持てなくなった
その時の光景を思い出すから
しかしその時、ソレが
「ガアアァァァァァ!!」
と雄叫びを上げながら、明久に飛びかかった
その直後、明久は
「アァァァァァァ!!」
と雄叫びを上げながら、左手に持った竹を突き出した
その一撃は、ソレの攻撃より早くソレに直撃した
しかしその直後、伸びてきた尻尾が明久の右肩に直撃
切り裂いた
しかもソレの体当たりを受けて、明久は背後の薮を突き抜けて崖を転がり落ちた
そして明久は、川に落ちた
落ちた衝撃で、明久は意識を喪失
少しの間、川を流れた
そして、街近くの川岸に流れついた時
「ご主人! 起きろ、ご主人!!」
とムラサメが、明久に声を掛けた
すると、ほんの僅かに明久の意識が戻り
「ムラサメ……ちゃん?」
「しっかりしろ、ご主人!」
明久が名前を呼ぶと、ムラサメは顔を蒼白にしながらそう言った
すると明久は
「ムラサメちゃん……あの、男の子は……?」
と問い掛けた
するとムラサメは
「少しは自分を気に掛けろ! あの男の子は見つかった! 既に、母親と一緒に居る!」
と言った
それを聞いた明久は
「良かった……」
と安堵して、目を閉じた
それを見たムラサメは
「安心するのは構わんが、意識をしっかり持て! 今こっちに、芳乃達が来ている! それまで保たせろ!」
と言った
だが明久は、完全に意識を手放した